推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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第二十五話

 最近、アクア達に対するミヤコさんの態度が少し変わった気がする。

例の件があってから今まで以上に子供達の世話を十二分に行ってくれている彼女だけど、アクア達をB小町の抽選を通り抜けた人達しか参加できない限定イベントに連れて行ったりすることがあった。

 世間的には斎藤夫妻の子供という事になっているから問題はない。

でも、なんだろう。アクア達を見る目が神聖なものを見ているような時があるのも事実。

 

 しかし、サイリウムを持ったアクア達がTwitterでバズっているのを発見してびっくりした。

赤ん坊がヲタ芸を凄まじいキレで行ってるから驚くしかないよね。それにますますある可能性が脳裏に浮かび上がって来る。

 普通に考えれば、鼻で笑われてしまう一つの推測。

でも、今までの行動を考えれば一つの結論として導くことは十分に出来る。

 

「ま、あくまで可能性に過ぎないけどね」

 

「ん? なんの可能性?」

 

「いえ、まだ仮説段階の話ですよ」

 

「? そうなんだ。また確信を持てたら教えてほしいな!」

 

 どうやら僕の独り言をアイに聞かれてしまったようだ。

今は若手芸能人に迫るって番組の撮影が休憩中だ。出演者は各分野の有望な若手が集められ、司会者から振られた質問に答えていく形式が取られている。

 だから僕とアイの関係は表向き、互いに切磋琢磨して競い合うライバルということになっている。

グラビアやモデル、本当にいろいろな分野の人達が居た。僕の知り合いも何人も居るからあまり物珍しさは感じない。

 

女優ではドラマ撮影を一緒にした二宮瑞樹。

役者ではアイも面識のあるカミキヒカルも居たりする。

 

「牧野さん、ドラマの共演して以来ですね! お久しぶりです!」

 

「二宮さん、お久しぶりです。活躍しているようで何よりです」

 

「そんなことないですよ~。あ、貴女はB小町の!?」

 

「B小町のアイです。私も二宮さんのドラマいつも見てます」

 

 すると僕の姿を見つけた二宮さんが小走りで近づいて来た。

笑いながら久しぶりだと挨拶を交わすと彼女も僕の隣に居るアイを見て驚いている。アイも違和感なく挨拶を交わすが、一瞬だけ僕の方へと気付かれないように視線を送ってきた。

 そう言えば、アイには二宮さんの話はしたことがなかったな。

この女の人とはいったいどういう関係なんだという意図が含まれている視線。彼女自身も二宮さんの出ているドラマはよく見ていたのでどういう人物かは知っている。

 

今度、アイにもいろいろと説明しておこうか。

 

「それにしても本当に凄いです! 牧野さんが言っていたことは本当でした!」

 

「どういうこと?」

 

「私が牧野さんとドラマを共演した時、尋ねたんです。これから伸びてきそうな人は誰かと。そしたら

B小町のアイだと断言しました。私も名前だけは知ってましたけど、本当にここまで有名になられたのでさすがだと思ってたんです!」

 

「そ、そんなことがあったんだね」

 

 純粋に感心する二宮さんに対してアイは表情には出ていないけど、僅かに動揺している。

その変化はほとんどの人には気付かれないほどだけど、アイと親しい人間なら僅かな違和感には気付くだろうね。 

 もちろん、僕は気付けたよ。

どれだけアイと一緒に過ごしたと思っているのかな? これでわからないって言ってしまったらそれこそ旦那失格だよ。

 

「人を惹きつける何かを感じたから。こういう直感力っていうのは大切だと思うし、磨いておいて損はなかった」

 

「私も今ならわかりますよ! 今や国民的スターにもなりつつあるアイさんを見抜いたその力はスカウトにも向いていると思うのです!」

 

「スカウトはあまり考えたことはありませんでしたね」

 

「いずれはご自身で芸能プロダクションを立ち上げるのも夢じゃないんではないでしょうか!?」

 

「二宮さん、近いです」

 

「はっ! す、すいません。私ったら興奮しちゃって――」

 

 自分で芸能プロダクションを立ち上げるか。

それはあまり考えたことがなかったな。だって僕はまだ17歳になったばかりだし、まだまだそっち方面の知識は乏しくて勉強中だ。

 もし、立ち上げるとしたらもっと芸能界での繋がりを多く確保しておかないと駄目だろう。

そういう意味では小さいけど芸能事務所を立ち上げた斎藤社長はすごいと思う。自分の夢を叶えるために使えるものを全部使って事務所を作ったんだから。

 

 興奮して僕との距離がかなり近くなった二宮さんに笑って注意した。

自身の顔の近くに僕の顔があることに気付いたのか、彼女は顔を赤くして後ろに一歩下がる。二宮さんの行動は後ろめたさがない。

 ここまで素直に生きて、芸能界で生き残れているのは彼女の人柄がそうさせていると思う。

会話に嘘が混ざらない純粋な性格と人柄、それこそが二宮さんの魅力でもある。ある意味では昔のアイと正反対の立ち位置に居た人間だ。

 

嘘でファンを魅了するアイドル。

本心で周りを惹きつける女優。

 

こうして考えるとほんとに正反対の立ち位置だったのかもしれない。

 

「二宮さんは……」

 

「瑞樹でいいですよ?」

 

「そう? 瑞樹さんは牧野君が好きなのかな?」

 

「え、私が牧野さんをですか? うーん、好きですよ」

 

 雲行きが怪しくないか、これ?

今の反応を見て面白くなかったアイが探りを入れてるな。アイから見ても二宮さんが嘘を付いてないことはわかってるはずだから本心を知りたくなったのかな。

 彼女の瞳をしっかりと見据えてアイはその答えを待っている。

少し考え込んだ末に紡がれた言葉は好きだというワード。

 

その刹那、アイの視線が鋭さを増したけど――。

 

「弟が居たらこんな感じなのかなって」

 

「え、弟?」

 

「そうです! 私って一人っ子だから弟が居たら牧野さんみたいな感じになるのかなって。人として好きですけど、これは恋愛感情じゃないです。どちらかというと友愛みたいな感じです!」

 

「そ、そうなんだ」

 

 続けて二宮さんの口から紡がれた言葉に目を丸くしていた。

そう、彼女は僕に恋愛感情は抱いていない。人として好きだけど、それは友愛。だからアイが心配するようなことにはならない。

 しかし、今の質問と反応を見て二宮さんが微かに笑う。

そしてアイに近づいて耳元で何かを呟いている。

 

「……可愛いですね、アイさん。私は牧野さんに恋心はありませんよ?

 

「っ……」

 

「……こんな揺さぶりで動揺しちゃ駄目ですよ? こう見えても私、人を見る目はあるんですから

 

 チラッと僕を見ながら二宮さんが何かを言っている。

距離的に僕には聞こえないけど、アイの反応の仕方や視線からして僕の事を言われているのかな? 聞いても教えてくれないだろうな。

 女性同士の秘密ってやつか。

すると二人がなぜか、握手を交わして頷いていた。何か賛同する内容でもあったのかな? それとも二宮さんとは仲良くしていた方が良いと思ったのか。

 

「瑞樹さん、私達はずっと友達だよ!」

 

「私もアイさんとはずっと友達です!!」

 

 今度は目の前で抱きしめあってる。

男にとって女心を完全に理解することは難しいのかなと僕は思った。あの短い間にいったい何があったんだろうか?

 

「やぁ、久しぶりだね……奏君」

 

「うん、久しぶり――ヒカル君」

 

 そしてもう一人、僕の元へと近づいて来た人物。

僕とアイにも数年前に関わりがあり、かつて劇団ララライに所属していた役者―カミキヒカル。

 

 

 

その瞳に今日も黒い星を宿しながら笑っていた。

 

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