推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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第二十八話

 芸能界での繁忙期も終わり、今はオフシーズン。

僕、アイ、アクア、ルビーの四人で小旅行へと向かっている。もちろん、僕らが家族という事は極秘なので僕とアイは変装して絶対にバレない格好で来ていた。

 

「奏、私達はどこへ向かってるの?」

 

「空気が澄んで夜空が綺麗な場所とだけ言っておきましょう」

 

「まだ秘密ってこと? いいよ、今は騙されてあげる」

 

 後からミヤコさんが一応、保護者として合流する予定になっている。

アイ達には行き先を伝えていないが、彼女にだけは既に伝えてある。別に僕らだけでも問題ないけれど、もしものために引率する役目をになってもらうつもりだ。

 

「(俺達にも行き先を教えず、いったいどこに父さんは行くつもりなんだ?)」

 

「私にも教えてくれないの?」

 

 アクアは賢い子だから僕が向かう場所の答えを考え込んでいる。

ルビーは素直に教えてよと甘えて来るが僕は頭を撫でて誤魔化した。それでも頭を撫でられたことで満足したのか、ニコニコとしている。

 

「今はお休み、きっと目が覚める事には到着しているからね」

 

「はーい」

 

「はーい」

 

 ルビーにだけ言ったつもりだったんだけど、アイも一緒に返事をした。

アイに抱きしめられる形で目を瞑ったルビーはゆっくりと瞼を閉じる。しばらくすると寝息が聞こえ始め、それに呼応するようにアイもまた瞼を落とす。

 アクアは眠らずに携帯を弄って何かを調べている。

チラッと携帯の画面を見ると今までに通過した経路から目的地を絞ろうとしているようだ。うん、やっぱりアクアは賢いね。

 

「目的地はどこなの?」

 

「……そんなに知りたい?」

 

「うん」

 

「アクアはどこだと思う?」

 

「今までの経路から考えると西日本方面、四国、中国、九州地方の何処かだと思ってる。たぶん、今のルートで行くと中国地方、もしくは九州地方」

 

 相変わらずの推理力だな。

まだ2歳にも至らない子供の思考力じゃない。これが生まれ持った才能なのか、もしくはもう一つの仮説を確定させる要因となるのかな。

 でも、素直にその考えには拍手を送ろう。

たとえ、アクアがどんな存在だろうと僕とアイは愛そう。僕らの子供である事には変わりないんだから。

 

 

僕はアクアに顔を近づけて耳元で小さく目的地を呟いた。

 

「宮崎県の空気が美味しくて星空が綺麗なところだよ」

 

「!」

 

 僕がそう言った瞬間にアクアは目を大きく見開いた。

どうして宮崎県と言ったときにそのような反応を示したかはわからない。けれど少なくともこの子にとってその場所は何かがある様子だ。

 

「アクア、どうしてそんなに驚いているんだい? 初めて行く場所に興奮したのかな」

 

「は、初めての場所だから少しビックリしちゃったんだ。自分にとっての未知ってワクワクするから」

 

「それなら良かった。見知らぬ土地って不安を覚える人とアクアみたいに楽しみを覚える人の2種類居るからね。後者で良かったよ」

 

 この反応の仕方は嘘を言っているな。

瞳孔の開き、視線の泳ぎ方、声色の変化、アイと違って嘘を本当だと演じ切れていない。アクアは嘘を付くことは得意じゃないみたいだ。

 別に嘘を付く必要もないし、暴こうとも思わないけど。

それだとわかる人には何か隠し事をしているとバレてしまうよ?

 

「楽しみだなぁ(なんで宮崎に行く必要があるんだ? もしかして俺達に自分達はここで生まれたんだと教えるためにわざわざ?)」

 

「アクア、君も眠っていていいよ。到着したら全員起こしてあげるから」

 

「わかった(父さんの目的がわからない。その地で何をするつもりなんだ?)」

 

 僕の言葉に従ってアクアもまた瞼を閉じた。

あと数時間もすれば目的地である宮崎県へと到着する。リフレッシュするにはぴったりの場所だし、東京よりも自然が多くて空気も美味しい。

 都会では見れない夜空の星々を皆で見るのも良いものだ。

僕は到着してからの予定を見直しておくか、美味しいものも食べて心身ともにやすらぎを覚えてもらうために。

 

 

 

 電車を降りて目的地へとタクシーを調達して向かう。

この年代の運転手さんはあまり僕らのことを知らないみたいで一安心だ。もう少し若かったら僕達の事にも敏感だったかもしれない。 

 

「私達を連れていきたいところって宮崎だったんだね」

 

「はい。ここも僕達の思い出の場所には違いありませんから」

 

「うん!」

 

 後部座席に座った僕達は僕がアクアを、アイがルビーを膝に乗せるように座っている。

落とさないように抱きしめる一方でアイが僕の手を指と指を絡めるように握っていた。簡単にいうと恋人つなぎをしてる。

 ルビーとアクアは互いに顔を見合わせていた。

その表情は一方は呆れているような、もう一方は眼福だというような感じの顔だ。そうしているうちに目的地へと到着する。

 

「ここは……」

 

「ここがアクア達が生まれた病院なんだよ」

 

「私達が生まれた病院? 宮崎総合病院……!」

 

 病院の前に到着するとアイが振り返ってアクア達に手を広げながらそう告げる。

しかし、二人の反応は彼女が想定していたものと違っていたようだ。アクアはどこか苦しむような、ルビーは病院の名前を見て今まで以上に反応を示している。

 

「あれ? 思っていた反応と違うなぁ。2人とも、この病院の事を知ってる? いや、そんなことないよね。だって私も奏も初めてアクア達が生まれた病院の事を話したわけだし――」

 

「マ、ママ! 誰がママを担当してくれたの!?」

 

「え、え? 私を担当してくれたのは私のファンだった雨宮吾郎って先生だよ?」

 

 アイに抱き着くように詰め寄るルビーに驚いているようだけど、当時の担当医の名を告げた。

するとルビーは目を見開いてかなり驚いている様子が伺えた。雨宮先生の名前に反応を示している? その名はアクア達の前では一度も言った覚えはない。

 当然、アイも二人の前では話していないと言っていた。

 

「じゃあ、私とお兄ちゃんを取り上げてくれたのも?」

 

「ううん、それは違う先生なんだ。本当なら吾郎先生がルビー達を取り上げてくれるはずだったんだ。でもね、私が産気づいたとき何度も連絡したんだけど電話は繋がらなかったの」

 

「え……?」

 

「あれからずっと行方が分からないんだって」

 

 ルビーは雨宮先生を知っている? 

この喜怒哀楽の現れ方はどう考えてもその人物を知っていないとできないような反応をしてるし、アクアに関してはその名前が出た瞬間に表情が暗くなった。

 うーん、これはますます僕が考えていた仮説が現実性を増してきたのかな?

幼子とは思えないような動き、知識とか言い出したらキリが無いけど、二人にある事象が発生していた場合は全ての行動にも説明がつく。

 

「奏。奏は知ってるんでしょ?」

 

「え? パパ、パパは何か知ってるの? その人について何か知ってるの!?」

 

「アクア達が生まれて、すぐに奏と佐藤社長は吾郎先生の事について嘘をついてた事には気付いてたよ。でも、それは私の状態を考えてわざとだったんでしょ?」

 

「さすがにお見通しだったんですね、アイ」

 

「奏が意味のない嘘はつかないのは一番よく知ってるつもりだよ」

 

 やれやれと僕は大きく息を吐いた。

やはり、あの時から僕と社長が嘘をついていたことにアイは気付いていたか。いや、気づかない方がおかしいのかな。 

 あの時の真実を話す時がやってきたのか。

それにアクアとルビーにも聞かせるのも忍びないけど、もしかするかもしれないしね。

 

「僕は出産時に夜なのに鳥が羽ばたく音と鳴き声を耳にしたんだ。その時は気にならなかったけど、数日してある可能性を考えた」

 

「ある可能性?」

 

「そう。あの日、先生の身に何かが起こったんじゃないかって。だから社長に頼んで先生の携帯へと連絡してもらった。一種の賭けだったけど、その僅かな可能性に僕は勝った。電話は一瞬だけ繋がり再び森の鳥達が羽ばたいたよ」

 

「奏、それってまさか……」

 

「アイの思っている通りだよ。僕と社長はその場所へと向かい、そこで見つけたんだよ…………先生の遺体を」

 

 僕がそう言った瞬間、吹いていた風は止み静寂が場を支配する。

アイに嘘を付いてでも秘密にしていたのは雨宮先生が既に亡くなっているという情報だ。不安定な状態のアイにこの話をするわけにもいかなかったしね。

 少しの間だけ隠していた秘密を暴露したけど、アイはなんとなく気付いていた感じか。

その場に膝をついて目から涙を流していた。僕が居なかった間に色々とお世話をしてくれた先生だからそうなって当然か。

 

「嘘だ、嘘だよ。そんなわけないよ、ゴロー先生は約束したもん」

 

「ルビー?」

 

「約束? いったい何を言っているの?」

 

「だって、だって……さりなはゴロー先生のこと」

 

「(さりなだって!? まさか、ルビーの前世はさりなちゃんなのか!?)」

 

 不意に出た"さりな"という名前は僕の仮説を確定させるには十分すぎる材料だった。

そしてその名前に大きく目を見開いて反応を示しているアクアの姿を僕は見逃さない。どうやらどちらもそういうことなのかな。

 

全てのピースが嵌った。

仮説は仮説ではなくなり、僕の考えは間違いじゃなかったことが証明された。

 

 

 

アクアとルビーは前世の記憶を持っている。

 

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