推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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評価がやはり別れてきましたね。
まぁ、人には好き嫌いの好みがあるので当然ですけど。

今回は32話の続きのお話。


第三十三話

 奏から都合のいい日はないかと聞かれてスケジュール調整を行った。

ちょうど仕事も入ってないオフの日に料亭に予約を入れ、現地にて集合するように手配する。私が会合などで使っている場所へと向かった。

 

「それで私に直接お願いしたいことがあるって言うのは何かな?」

 

「…………」

 

「言葉にしてくれないとわからないよ、壱護君」

 

 畳の上で私に向かって膝をついて頭を畳に擦り付ける様に下げる男性。

苺プロダクションの社長の斎藤壱護君、私が襖を開けて入ると既にその体勢で待ち構えていた。何も言わず、ずっと同じ姿勢でいる。

 

「妻を、ミヤコを助けてください」

 

「どうして私が助けるのかな。私が助ける必要があるの?」

 

 私に直接会いたいというから用件はそうだと思っていた。

深層心理まで届いている暗示を解いてくれというお願いだろうね。でも、私が行ったのは奏が良いと言うまで秘密を胸にしまっておくこと。

 

ただそれだけを守り続けるように言っただけ。

 

「妻のやろうとしたことは許されることじゃない。それはわかっていますが、それでも俺は日に日に弱っていく妻をこれ以上見たくない」

 

「罪には罰が必要だと思わない? 戒めは必ず必要だと思うの。そうすることで同じ過ちを繰り返さなくなる。そう、これは動物で言う躾と同じだね」

 

「もう十分でしょう! ミヤコはずっと苦しんでる! あの日からずっと罪悪感に囚われて何かに怯えるように過ごしています。だからお願いします、妻を解放してください!!」

 

 私には昔から少しだけ人とは違った能力があった。

まず、奏も持つ同心円状の瞳は世界中を探してもおそらく私たち以外には存在しないんじゃないかな。それくらい珍しい形状の瞳をしている。

 人の本質を見抜き、嘘を暴く。

だから私は幼少期のアイちゃんがずっと嘘を付いている事にも気付いたし、愛に飢えている事もすぐにわかった。

 

「その言葉に嘘はないんだね」

 

「これは紛れもない本心です」

 

「ふぅん、確かに嘘はついていないね」

 

 サングラスを外して私の瞳をしっかりと見て話す壱護君の言葉に嘘はない。

これだけ奥さんの事を大切に思えるならその気持ちをもっと表に出して彼女に伝えれば夫婦の仲ももっと深まっていくのにね。

 

「いいよ。そこまで言うなら彼女に掛けた暗示は解いてあげる」

 

「本当で……‼」

 

「ただし、私がするのは暗示を解くだけ。心のケアとかは専門外、だからしっかりと寄り添ってあげなよ、壱護君」

 

 暗示は一種の催眠状態に近いから解くことは容易。

でも、制限を掛けただけだから心の中で何を思っているかは当人にしかわからないよ。私や奏のような例外を除けば――。

 

「はい、わかってます」

 

「それと彼女にも前には言ったんだけど……二度目はないからね」

 

「っ!! もちろん、わかってます」

 

 どうしてそんなに怯えた表情をしているのかな。

私は何も怒っていないし、約束をしっかりと守ってくれる人には優しいつもりだよ。約束を守らなかった悪い子はどうなったのかな?

 

「ねぇ、壱護君。私はね、奏君の事を愛してるの。たった一人の息子であり、私の理解者でもある。アイちゃんとの出会いがあの子をより強くしてくれた。欠けていたピースの一つが嵌り、より高みへと歩むことが出来る」

 

「は、はぁ」

 

「アイちゃんと奏君の映画はどうだった? アイドルがキスシーンを撮影するということの意味はわかっているよね」

 

「炎上すると思ってました。でも結果は一部の人間を除いて全員が称賛していた。常識で考えれば、多くのファンを持つアイドルのそういうシーンが取られると一斉に叩く。でも、あの二人の場合は違った」

 

「人を魅了できるカリスマ性を持った二人だもの。そういう方向へと流れるのは自然だよ。だって演技とは言え、本当に愛し合う二人。演技であってあれは演技じゃない。アイちゃんと奏君の秘密を知る人からすれば、完全な自然体。だからぴったりの配役だったのかもしれないね」

 

 アイドルのキスシーンはファンに叩かれてしまう場合が多い。

それは自分達がずっと推している偶像を穢されてしまうから。だったら彼らに納得できるように動けばいいんだ。

 自分勝手な理由や思い込みでアイドルの理想の姿を思い描くファンは多い。

だから二人がキスをする光景を正しいと思わせればいい。つまり、アイちゃんの相手になるのは奏しかいないと思わせたら炎上する理由もなくなっていく。

 

「壱護君、私を失望させないでね?」

 

「も、もちろんです!!」

 

「今度会う日はアイちゃんがB小町としてドームでライブをする時かな。でも、その夢だってまずアイちゃんと他の子達が仲直りしないことには潰えてしまう。B小町内に生じた亀裂を修復するのは壱護君とミヤコちゃん達がやらなきゃいけない仕事だからね」

 

「そこまでご存知でしたか。必ず実現させます。ミヤコの事はよろしくお願いします」

 

「うん、約束は守るよ」

 

 彼は私に頭を下げて失礼しますと出て行った。

せっかく用意したけど、彼にとって料理を食べる余裕もなかったみたい。ここの料理人は一流の腕前だからとっても美味しいのに損してるね。

 

「失礼します」

 

「亜紀ちゃん、お疲れ様。奏君はどう?」

 

 入れ替わるようにして入ってきたのは亜紀ちゃん。

私が奏のマネージャーとして紹介した女性で、奏達に子供が居ることを知る数少ない人物。彼女も訳ありだから私の保護下に居た方が色々と都合がいい。

 もし、アイちゃんとの出会いが無ければ私は奏に亜紀ちゃんを薦めていたかもね。

容姿端麗だし、仕事もできて料理も出来るし、私から見てもとってもいい子だと思うから。

 

「はい、奏さんは何も問題なく仕事もプライベートも過ごせています」

 

「そう。いつもありがとうね、亜紀ちゃん。君が居てくれるおかげで奏君は不自由なく過ごすことが出来てるから感謝してるよ」

 

「真莉愛さんにそう言われると悪い気はしませんね」

 

「照れてるのかな? 可愛いね、亜紀ちゃんは」

 

「や、やめてください」

 

 奏のために色々と動いてくれているのは知ってるから素直に感謝を伝えた。

すると亜紀ちゃんは頬を赤くして少し俯きながら私に返事を返してくる。やっぱり、この子は全然変わらない。

 恥ずかしそうに目を逸らす彼女の顎を軽く掴んで私の方を向かせる。

奏とは違うけど、この子も人の心の動きを察知する精度は高い。彼女は独学で読心術を身に着けた秀才でもあるし、その才能は多彩。

 

「ま、真莉愛さん、恥ずかしいです」

 

「ふふっ、君のそういうところは好きだよ」

 

 ボンっという音が聞こえそうなほど一気に顔が赤くなった。

亜紀ちゃんは恋愛面では奏と同じで疎いところがあるから私にこういう事を言われると赤面してしまうことも多い。

 でも、それは身内に対してであり、見知らぬ人に言われても顔色一つ変える事はない。

私と接していた時間もそれなりに長いから感性も私に近いものを持っているし、非常になれる冷酷さも兼ね備えている。

 

「こ、これ、頼まれていた資料です。ふぁぁ……っ」

 

 指で亜紀ちゃんの首筋を撫でると普段では絶対に出て来いない嬌声が漏れる。

私は彼女を可愛がりながら渡された資料を手に取った。足を組み替えて並べられた資料を捲っていく。ここに書かれているのはアイちゃんの親の事や今までに関わった事のある芸能関係者に至るまでの情報が書き連ねられている。

 

                    雨宮吾郎――死亡。

 

 死因は高所から突き落とされたことによる頭蓋骨陥没、脊椎損傷、全身打撲、何者かに突き落とされた可能性あり。出産時の星野アイの担当医を任されており、当日に行方不明になる。

 奏さんと斎藤壱護により後日遺体で発見される。

警察は未だに犯人の特定が出来ず、捜査打ち切りの可能性あり。出産日当日にフードを被った人物の目撃情報があったが特定できず。

 

誰かが星野アイ入院したという情報提供を行った可能性大。

 

「ふぅん、日本警察の捜査の網を潜り抜けていることを考えると警察関係者も関わっている可能性が高いのかな」

 

「ざ、残念ながらこれ以上は調べることが出来ませんでした。私の情報網でも犯人の特定は難しく、データベースにも有力な情報はありません」

 

「亜紀ちゃんでも無理ならこれ以上の進展は現状では望めそうにないね。せめて唯一、犯人の顔を見たであろう雨宮先生が生きていれば対策も出来るけど、死んでしまっては喋ることもできないし……」

 

「あ、あの、真莉愛さん……もう許し……て――」

 

 まさに死人に口なしというやつだ。

相手の名前も顔もわからないとさすがに手の施しようがないか。もし、当時病院に現れた目的がアイちゃんだったなら再び現れる可能性が高いし、熱狂的なファンを使った可能性もありそうだね。

 これ以上、考えても進展は望めなさそう。

私は壱護君との約束を守るために彼女に掛けた暗示を解きに行こうかな。

 

 

 その前にもう少しだけ亜紀ちゃんを愛でておこう。

あんまり甘えてくれることもないし、遠慮してリラックスする姿も見せない子だからね。

 

 

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