推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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The-Key様、アンチメシア様、誤字報告ありがとうございます。
お気に入りが1000件突破してました!


少し時系列が飛びます。
ドーム公演前日のお話。

アンケートは明日で終了します。


第三十五話

 時間が経つのは本当に早いなって最近思っちゃうな。

アクアとルビーも大きくなって幼稚園に入ってお遊戯会とかもしちゃってさ。本当なら堂々とお母さんだよって言ってみたかったけど、アイドルとしての立場が邪魔して変装して見る事しかできなかった。

 ダンスに苦手意識を持っていたルビーは私と奏でレッスンを組んで今ではキレキレのダンスを踊ることが出来るようになったし、将来は私と同じアイドルに成れそうだね。

 

「明日はB小町としての初ドームかぁ。やっとここまで来たって感じかな?」

 

「おめでとうございます。ドームは他とは違いますから楽しいですよ」

 

「奏は何回もドームで歌ってるから慣れてるんだよね」

 

 そう、明日は社長がずっと夢に見ていたドームでのライブ。

自分がプロデュースしたB小町がそこで歌うんだからさっきまでお酒を飲んで楽しそうに笑っていた。ミヤコさんも憑き物が落ちたように優しくその光景を見守ってた。

 それはまるでずっと悩まされていた何かから解放されたようだった。

きっとその表情が本来のミヤコさんなんだと私は思った。少し前までと違って本当に笑えていたと思うから。

 

「ドームでのライブに関しては僕の方が先輩ですよ?」

 

「芸能界に関しても奏は私の先生だよ。でも明日の主役は私達がなるんだ。特等席で奏には見ていてほしいんだ」

 

「もちろん、僕もそのつもりです」

 

 それにこのドームでのライブを終えたらアイドルとしては一つの終着点を迎える事が出来る。

アイドルを卒業するには最高の機会だと思ってる自分も居るんだ。始まりは愛が何かを知るためだったけど、奏と相思相愛になって愛も知れて、アクアとルビーの二人の子供を産むことが出来た。

 もちろん、アイドルをしていて楽しい。

ファンの理想像であり続けなければ、いけないこともあるし、色々と縛りも多いんだ。もちろん、バレないように隠して行くこともできる。

 

でも親としてアクア達の授業参観とか、そういった行事にも参加したい気持ちも当然ある。

 

だから――。

 

「ねぇ、奏。私ね……」

 

「アイドルを卒業したいんでしょ?」

 

「! 知ってたの?」

 

「知ってますよ。ずっとアイを見て来ましたし、前のお遊戯会の時に他の親御さんを羨ましそうに見ていたでしょう? 僕達も親だから堂々と見に行きたいという気持ちはわかります」

 

 そっか、やっぱり奏にはお見通しだったんだ。

アイドルを卒業して奏みたいにマルチで活躍できる俳優みたいな立ち位置になることが出来たら理想かな。そしたら堂々と奏と結婚するって宣言する事も出来るはずだから。

 

もちろん、世間からの批判とかもあるだろうけどさ。

 

「前々から社長には相談してたんだ。社長の夢を叶えることが出来たら卒業しても良いかって」

 

「でも反対とかされなかったんですか?」

 

「それが意外と反対されなかったんだ。別に佐藤社長の芸能事務所から抜けるわけじゃないし、所属自体はそのままだから良いって。B小町の皆も私が卒業しても輝き続けるって気合を入れてたよ」

 

「斎藤社長ね。それは意外でしたね、僕はてっきりアイが抜けることは渋ると思ってましたよ」

 

 本心はアイドルとして続けてほしいっていう部分もあったと思う。

でも、自分の夢を叶えてもらうから頑張ったご褒美っていうのかな? それで許可をくれたんじゃないかと思ってる。

 他に理由があるとすれば、奏の存在が大きいんじゃないかな。

アイドルとして芸能界で生き残るための何たるかを教えてくれたのは他でもない奏だし、これからも奏と一緒に芸能界で輝き続けるだろうという確信があるとかね。

 

「やっぱり名前を覚えるのは苦手だよー。最近はB小町としての仕事よりもモデル、ドラマ、映画、バラエティー番組の仕事も増えたでしょ?」

 

「そうですね。以前にも増してアイドル活動よりもそちらへの依頼が増えていると聞いています」

 

「ミヤコさんにお金の帳簿を見せてもらったら結構な金額が入ってた。だから事務所的にはそっちで活躍を続けてくれた方が金銭的には助かるのかなって」

 

「まぁ、アイドル業はグッズとかが売れないと出費の方が大きくなりますし、間違ってはいないと思いますよ?」

 

 色々な方面の仕事に呼ばれるようになってからはお給料も前よりもだいぶ増えた。

アイドルグッズが好調の時はお給料も良かったけど、安定した収入とは言えなかった。でもアイドルとしての活動は楽しいし、ファンの人達から直接面と向かって応援してると言われた時は嫌な気持ちはしなかった

 ただファンにも色んな人達が居るのも事実。

熱狂的な人は毎回握手会に来て、握手以外の事もしようとした人が居たなぁ。警備の人に取り押さえられて連れていかれたのはびっくりしたけど。

 

"幾ら使ったと思ってんだ‼ 抱きしめるくらいさせろよっ‼"って叫んでたのはさすがに気持ち悪かった。

 

 私達のためにグッズを買ってイベントに来てくれる人達は大切にしたい。

でも、そういうのは違うと思うんだ。アイドルだって一人の人間だし、私は奏以外からはそういった事をあまりしてほしくないもん。

 

「アイドルとしてやりたいことはできたと思うんだ。"愛してる"って言葉は嘘では言いたくない。社長にスカウトされた時に言われたけど、ファンは綺麗な嘘を望んでる。だから私はアイドルとして愛してると皆に嘘を付き続けた。でも、それは本当の愛じゃない」

 

「そうですね。ファンが望むアイは彼らが理想とする完璧なアイドル。嘘で塗り固めた偶像であり、偽りの姿です」

 

「もちろん、本当の私を見たいって人も居ると思う。でも多くはアイドルとしての私を望んでる。この業界では嘘は武器になるって言葉は今となってはよくわかるんだ。もともと自分を守るために嘘を付き続けてきた私だからこそ」

 

「バレない嘘は嘘じゃない。それは虚もまた真実となるってやつですね」

 

 息をするように嘘を付けるのは一つの才能。

どういう言葉を言えば、周りが嫌な顔をしないか、どうすれば周りに馴染むことが出来るのか、無意識に口から言葉が出ていた。

 きっと奏と出会わず、アイドルをしていたらこういう言葉を言っていたんだと思うんだ。

 

"嘘は愛"

 

 もしもの可能性でしかないけどね?

 

「奏、私を強く抱きしめて?」

 

「わかりました」

 

 IFの可能性について考えていたら少し怖くなっちゃった。

奏達に出会えなかったら、この温もりも感じることが出来ないだろうし、心も冷たいままだった。隣で抱きしめてくれる奏に強く抱き着く。

 私はここに居ても良いんだと証明するように強く、強く――。

 

「考え込みすぎるのも良くありませんよ?」

 

 私の不安が伝わったのか、奏が覗き込むように私を見る。

必然的に私と見つめ合う状態になって彼の特徴的な瞳をジッと見つめていた。昔の私だったら心の内を見抜かされてしまうような恐怖を感じている。

 でも、今は安心感を覚えてるんだ。

だって施設での出来事が無ければ、今の星野アイはここに居ないんだから。

 

「今日はこのままベッドで一緒に寝てほしい」

 

「? いつもそんなことは言わなくても一緒に寝ていますよ?」

 

「ううん、言葉にして伝えたかったんだ。明日の事もあるし、私も少し弱気になってたのかな?」

 

 なぜか、わからないけど今日は言葉にして伝えたかったんだ。

私からのお願いを奏は基本的には嫌とは言わない。もちろん、本当に嫌ならきっと拒絶するだろうけど、私も奏からのお願いは嫌だと言わないし。

 私の膝下に手を入れてお姫様抱っこでベッドの方まで移動していく。

私も奏の首に手を回して落ちないようにしっかりと抱き着いている。既にアクアとルビーも眠っていた。ドームでのライブがあることを知らせているから早めに眠ったんだね。

 

「おやすみ、アイ」

 

「うん、奏もおやすみ」

 

 奏にぴったりと体を密着するようにして私も瞼を閉じる。

彼の体温を感じたまま、明日に備えて眠りについていく。徐々に眠りに誘われるように意識もボーっとし始める。

 絶対に明日は成功させるんだ。

でも、この言いようのない不安は何なのかな? 今までに感じたことのない不安、重大な発表を控えるから緊張してる?

 

いや、そんな感じじゃない。これは虫の知らせってやつに近いのかも……。

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