推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
マルチで活躍する若手歌手の奏との秘密のレッスンはやっぱり凄かった。
ファンに魅せるための心得はきっと世界で一つだけの本なんだと思うんだ。私だってアイドルとしてスカウトされて、社長に嘘でも言い続ければ本当になるって言葉を信じてやってきた。
社長達に勧められた本を読んで勉強したけど、いまいちピンとこなかったんだぁ。
それ通りに踊ったり、声の発声練習をしたよ? でも逆に変な癖がついて普段よりも変になることだってあった。
目指すべき見本がどんなものかを想像することが出来なかったの。
ひとえにアイドルって言っても色んな人がいるから。苺プロダクションにはユニットを結成したB小町以外にグループもないし、誰にもアドバイスを求める事ができない状態だったし。
そんな時に声を掛けてくれたのが既に歌手でもあり俳優でもあるマルチタレントとして活躍してる奏だった。
ジャンルは違うけど、同じ歌手としてどうすればいいかってアドバイスをくれた。
「アイ、聞いてるのか?」
「え、佐藤社長何か言った?」
「しっかり聞いとけよ!それと俺は斎藤だ」
「ごめん、なんだったっけ?」
「今日のライブは芸能界の大手のプロデューサーも見に来てるって話だ。なんでこんな小さなライブ会場に来てるかは知らんが、これはチャンスだぞ。何としてもその手に掴むんだ!」
少し昔の事を考えてたらぼーっとしちゃってた。ダメダメ、しっかり気合を入れないと。
センターの私がしっかりしなきゃ! 気の抜けた表情じゃ、みんなに迷惑をかけちゃう!それで社長の話は要約すると何が何でも成功させろって事で良いのかな?
「まかせて! みんな頑張ろうね!」
私の掛け声で拳を突き上げるとメンバーのみんなもオーっと拳を突き上げてくれた。
う~ん、最近はみんなと仲良くできてるって自覚はあるんだけど、顔と名前が一致しないよー。ギスギスした空気で一緒にするって辛いもんね?
「お前達って存在を知らしめてやれ!」
「スタンバイお願いしまーす!」
ライブ会場のスタッフさんからスタンバイの合図が来た。
私達は各々の踊りだしの位置について曲がスタートするのを静かに待った。小さなステージだけど、正面には私達のファンの人達が期待して待ってくれてる。
まだ本物にはなれない、でも嘘で固めた私なら彼らの理想とするアイドルになれる。
意識の切り替えっていうやつかな? 自分を絶対だと疑わない事が動きにも現れてくるはずだよって言葉は嘘じゃない。
「5秒前、4、3、2……」
カウントが0になるって私達の曲がライブ会場に流れる。
両サイドからスポットライトが当たって中央に来た。それに合わせてステップを踏んで振り返る!
「あなたのアイドル!」
私達の代表曲の一つを皆で熱唱する。
目線、動き、表情の角度、奏からのレッスンで教え込まれた成果をここで見せる。ファンの皆が曲に合わせていつもみたいにサイリウムを振ってくれるけど、戸惑いが見える?
「な、なぁ、アイっていつもこんなキラキラしてたか?」
「お前も思った? 俺もなんだよ。今日のアイはいつも以上に……!」
歌と踊りに集中してるからすべてを聞き取ることはできなかったけど、それと目の前の反応で十分だった。
これが魅せ方で変わるっていう意味だったんだ!
5分っていう短い間だったけど、皆には夢を見せることはできたのかな?
大きな歓声と共に巻き起こるアンコール、私達はスタッフさんに目配せすると頷いてくれたからもう一度、マイクを強く握った。
◆
「……マジか」
開いた口が塞がらないっていうのはこの事だな。
ライブ前にボーっとするアイを見て心配だったが、今日のアイは今までと全然違った。多くのファンに夢を与え、強すぎる光で皆を照らすアイドル。まさにそれだった。
アイのおかげで俺が作ったユニットのB小町は持っている状態だったっていうのは否定できん。
他のメンバーに比べてあいつを贔屓していなかったと言えば、嘘になるがアイが居なかったらB小町は解散していてもおかしくなかった。
「やっぱり、あいつの影響か?」
ここまで劇的な変化をみせた原因は一つしか思い当たる節はなかった。
牧野奏、若手歌手でNo.1と言われ俳優業もこなすマルチタレント。アイをスカウトする時にあいつ自身の口から語られたことは今でも覚えている。
『私をアイドルにスカウト?』
『そうだ。B小町って名前でユニットを組むつもりなんだ。君ならセンターを狙える逸材だ』
『あまり興味ないかな? アイドルって皆に夢を与える人達でしょ。母親からの愛も知らず、人を愛した事もない私はアイドルなんて慣れないよ』
諦めるわけにはいかなかった。
星野アイ、彼女がアイドルユニットのセンターを飾れば、必ず大成してくれるはずだという予感があったんだ。
俺の勘が絶対にこいつだけは逃がしては駄目だと訴えかけてくる。
『愛してる、愛を知らない私が簡単に言っていい言葉じゃないよ。私が言ったら嘘になるし、アイドルってキラキラしたものでしょ? 皆を笑顔にできる才能は私にはないと思うよ』
『嘘でもいいんだよ。嘘も言い続ければ、いつかきっと本当になるかもしれないぜ』
『そんなに簡単に言わないで!!』
愛を知らない、それもまた個性だと俺は思った。
こいつの持つアイドル像は芸能界を知らない奴らが抱くそれだ。まだ中学生の子供だからそう思い描くのは間違いじゃねぇ。
でも現実はもっと過酷だ。
何千、何万というアイドルがライバルを蹴落として蹴落とした屍の上に立っているのが現実だ。
だから俺は嘘でもいいと気軽に口にしてしまったんだ。
『嘘はバレなければ、嘘じゃない。そう言いたいんでしょ?』
『そうだ。嘘は嘘だとわからなければ、それは本当になるはずだ』
『そんなの無理だよ。嘘をわかる人にはわかるんだよ。私の嘘は彼にはすぐに見抜かれた。嘘だけじゃない、私の内面もきっと見透かされてた』
『彼って誰だ?』
『少し前に私の居る施設に来た男の子。牧野奏君』
『牧野奏!? そいつはどんな特徴のやつだ!』
『すごく珍しい瞳の形をしてたよ』
牧野奏、断られたが俺もスカウトをしに行ったやつだ。
ただ名前が同じだけかと思ったがアイがこんな瞳をしてたと書かれたのは同心円状の瞳。これは間違いなく牧野本人だと確信した。
嘘がすぐに見抜かれた。
それはそうだろうさ、俺だってスカウトの時に嘘を織り交ぜた話をしたが的確に嘘の部分だけを指摘してきやがった。
それどころか、アイも言っていたように内面を見透かされたって表現は間違ってない。
芸能界に身を置いてる俺でそうなんだ。幾ら嘘が上手くても中学生、見抜かれない方がおかしい。
『それなら仕方ない。あいつには嘘が通じない』
『おじさんも知ってるの?』
『あぁ、知ってるさ。俺の芸能事務所に来てほしくてスカウトしに行ったからな。お前、あいつの母親にもあったんだろ? あいつが1人で施設に行っているはずないからな』
『そうだったんだ。奏君のお母さんも一緒に居たよ。母親の愛情ってさ、温かいんだね。奏君のお母さんに抱きしめられて……っ』
施設であった時の事を思い出したのか、アイは泣いていた。
聞いていたなんだか俺も目じりが熱くなった。いかん、感情移入し過ぎたか。こいつの話を聞いてるとこっちまで悲しみが伝わってくるぜ。
『だったら嘘を本当にしてみろよ』
『……え?』
『愛を知らない、でもお前は愛の一端を学んだ。その出会いには意味がある』
『その言葉……』
『俺がお前を本当のアイドルにしてやる!』
その俺の言葉がアイの何かに響いたのかはわからない。
だが、あいつは俺の手を取ってアイドルになることを決意した。それは決して楽な道のりじゃないが、それでもきっとこいつなら本当のアイドルってやつにな。
俺もスカウトとして人を見てきたからわかるぜ。
こいつも本当は愛したい、愛されたいと望んでいるんだってな。
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