推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
芸能界は楽じゃない、それはわかっていたことだけど少しハードスケジュール過ぎないか?
確かに僕は大手のプロダクションに所属しているし、それも理解できるけど若手にどれだけ仕事を振って来るんだと言いたくなる。
「奏さん、お疲れですね」
「ありがとうございます」
事務所の休憩室で体を伸ばしていると後ろから声をかけられる。
振り返るとお盆にお茶を入れて持ってきてくれた僕専属のマネージャーの姿があった。この人は母さんが直々に紹介してくれた人で小早川亜紀っていう名前だ。
すごく気配りが出来て僕よりは2,3歳くらい年上らしい。
その年で大手プロダクションで専属のマネージャーを出来るって凄いって思う。口も堅くて今まで僕の口から話した事が他には漏れたことがない。
ふと思ったけどなんでマネージャーをしているんだろう?
モデルでも女優でも普通にできる雰囲気はある。母さんと同じでこの人も時折、ミステリアスな雰囲気を醸し出す時がある。
「私の詮索をしても何も出ませんよ」
考えていることがバレているし。
表情にも言動とかにも出てないはずなんだけど、やっぱり母さんと繋がりのある人は何かが違っている気がするのはきっと気のせいじゃない。
「奏さん、彼女はあなたの期待に応えることが出来ましたか?」
「答えるまでもないですよ」
その答えは僕が語るまでもないだろう。
先ほどまで読んでいた週刊雑誌を目の前に広げて大きく一面に書かれた記事を亜紀さんにも見えるようにテーブルに置いた。
"B小町センター星野アイ 若手女性アイドル部門堂々1位!"
"伝説の始まりか、ファンが見た本物のアイドル!"
などなど色んな週刊誌や雑誌にこのような記事が一面で書かれている。
あのレッスンはしっかりと生きているようで安心したよ。
「これは本当に一番星になる日も近いのかな?」
「それはどうでしょうか。私が思うに、奏さんの方もすごいと思います」
そう言って彼女は事務所にあった別の週刊誌と雑誌などをテーブルへと広げる。
そこにはアイの記事ではなく、僕の記事が一面に書かれて特集が組まれているものが幾つもあった。
"牧野奏 若手男性アイドル部門堂々1位!"
"牧野奏、新曲3週連続1位!"
"歌うだけじゃない! 牧野奏の演技力!"
などなどアイのものに負けないインパクトでこちらも色々と記事が書かれていた。
あんまり目立つのは嫌なんだけど、こればっかりはこちらでどうこうできる問題でもないし、諦めるしかないか。
「今では若手歌手の人気投票では星野アイさんと奏さんで票が真っ二つに分かれている状態ですよ?」
「その判断基準はどこなんだろうね」
「それはやはり一番は容姿でしょう。お二人とも非常に整った容姿をされていますし、握手会なども長蛇の列が出来るほどですから。歌唱力と演技力では間違いなく奏さんに天秤は傾きますね。奏さんのアドバイスもあって彼女もとても魅せ方が上手くなりました。しかし、素のベースを基準に見るとやはりこちらに部があるかと」
「そういうものなのかな」
やっぱりファンが一番最初に見るのは容姿か。
一目で判断が出来るところだし、仕方ないことなのかもしれないな。同じ歌唱力同士だったらそれは容姿が優れた方へと行くのも理解できる。
「スケジュールの方は調整可能ですが、いかがいたしましょうか」
「……どれくらい調整できる?」
「私の把握しているあちらのスケジュールと合わせると2,3日ほど」
「その方向で調整をかけてくれますか」
「ではその様に致します」
これは確信をもって聞いてきてるな。
それにどうやって苺プロの方のスケジュールを把握しているんだろう。聞いても禁足事項ですって言って教えてくれないし。
彼女の方にも連絡を入れておこうか。
この日程なら問題ないよっと、送信。
「え、もう返信が来た……」
「ずっと待っていたのでは?」
クスリと揶揄うように笑った亜紀さんに僕は苦笑いするしかなかった。
◆
その場所は芸能人が内緒で隠れて食事をしたりする複数ある場所の一つ。
どちらのスケジュールも調整して、仕事のないフリーの日を2,3日作って時々、こうやって二人きりで食事をすることが最近は多くなった気がする。
「お待たせ、奏!」
「全然、待ってませんよ」
帽子にサングラス、黒いマスク。
僕らがファンにバレないように変装する時に使う必需品だ。奥の個室に入るとそれらをすべて外し、軽く息を吐いた。
最近はますます綺麗になったんじゃないかと素直に思った。
以前に会った時よりも瞳の星の輝きが僅かに増している気がする。彼女の方も僕の瞳をジッと見つめて嬉しそうに笑っていた。
同じことを考えていたのかな?
首からはお揃いのモデルのネックレスが見えていた。
「嬉しそうですね」
「うん、奏と私。2人が揃って一緒に芸能界の若手のホープって言われているのが嬉しいんだぁ。芸能界に入るきっかけをくれた社長には感謝してる」
「初めは僕の所にも来たくらいですからね、あの人」
「私をスカウトする時にも言ってた。でもその時の言葉が背中を押してくれたのも事実なんだ。嘘を本当にしてみせろって」
嘘を本当にしてみせろってそんなこと言ったのか、あの人。
それがどれだけ難しいことか、わかって言っていたなら相当な自信家だと思う。まぁ、関係ない話は考えないでおこう。
「今の私があるのは奏のおかげなんだ。アイドルとして伸び悩んでいた時、真っ先にどうすればいいかってアドバイスをくれたでしょ?」
「はい」
「この業界は生き残るのが簡単じゃないのに、どうしてアドバイスをくれたの?」
「……付き合いのある人が悩んでいれば、助言の一つでもするよ」
「それは本当に奏の本心? 私は嘘を付く。アイドルとして皆に夢を見せるための嘘、でも今から言う言葉は。ううん、奏の前で言う言葉に嘘はないの」
僕がアドバイスを上げたのは伸び悩んで悲しい顔をしたアイを見たくないから?
そうじゃない、そうじゃないはずだ。
「ずっと考えてた。あの時からどうして奏の事が気になるんだろうって。それでやっと私は自分の気持ちがわかったんだ。君が傍に居ると胸が温かくて、鼓動が大きく感じられるんだ。ほら、わかるでしょ?」
「な、なにをして……っ!」
いきなり僕の手を取ったアイは心臓のある左胸に僕の手を抱きしめるように抱えた。
女性に、それも自分が気になっているかもしれない女性にそんな事をされてしまって顔が急に熱くなっていく。
「私、星野アイは牧野奏を愛してる」
「なっ……」
「やっと……自分の気持ちに素直になれた。嘘じゃない、これは紛れもない私の本当の言葉……。奏ならわかるよね?」
嘘じゃない……。彼女は本心から心の底から本当にそう思ってる。
じゃあ、僕はどうなんだ? 僕はアイの事が好きなのか、それともこの気持ちは……。
「相手の本質を見抜けても自分の気持ちには疎いんだね、奏。それにね、私がこの気持ちに気付いたのは奏からもらったこのプレゼントのおかげでもあるんだよ?」
「プレゼント?」
そう言って彼女が見せてくれたのは僕とお揃いのネックレスだった。
どうしてかわからないけど、無意識の内にこれを手に取って購入していたのを今でも覚えている。何も考えずに買ったのはそれが初めてだったから。
「このネックレスはね、こういう意味が込められてるんだって。――永遠の愛」
「あ、そうだったんだ」
その言葉を聞いて僕の心にストンっと何かが収まった気がした。
僕は意識していなかったけど、アイの事が好きだったんだ。それじゃあ、今までの行動もすべて?
「僕もアイのことが好きだったんだ」
それは自然と僕の口から出た言葉だった。
それを受けてか、彼女は瞳から涙を流して微笑んでいた。そして僕の体を抱きしめて互いの心臓の鼓動を感じられた。
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