推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
もう私の気持ちを抑えることが出来なかった。
こうして逢瀬を重ねて、日に日に奏に対する思いは大きくなってた。それは嘘じゃない私を見てくれる人、嘘で作ったアイドルじゃなくて本当の私で居させてくれるから。
「奏、大好き」
奏の隣に座って腕を抱え込んで肩に頭を預けた。
戸惑いながらも私の方に手を回して、私を自分の方へ抱きしめるように動いてくれる。温かい、この温もりを手放したくない。
やっと言葉に出来た私の気持ち。
奏が無意識の内に私の事を意識しているのはわかってた。時々、熱に浮かされたみたいにボーっとして私のことを見てたのも知ってる。
目線を胸元に向けると光に反射して銀色に輝いているネックレスがある。
少し前に奏からお揃いのプレゼントを用意しましたって言われて渡されたネックレス。海外の有名なデザイナーがプロデュースした世界に数点しか存在しない貴重なものだって知って驚いたのを覚えてる。
「アイ、本当に僕でよかったの?」
「ううん、奏じゃないと駄目だよ。もし、奏に会ってなかったら私はこんなにも早く愛を知ることが出来なかった」
耳元で囁かれる言葉にいつも以上の優しさを感じた。
あぁ、駄目だ。奏に対する思いがとめどなく溢れ出してくる。きっと今の私を見たらファンの皆は幻滅する事になっちゃうな。
俺達のアイドルはそんな顔をしないって。
鏡には頬がほんのり赤く上気して瞳が潤んで、幸せそうな顔をしている私がそこに居た。
私ってこんな顔もできたんだ。
「アイ」
「なに、奏……んっ」
名前を呼ばれて顔を上に向けるとすぐ目の前に奏の顔があった。
顎に手を添えられると唇に温かくて柔らかい感触が訪れたの。驚いて目を見開くけど、すぐに瞳から涙が溢れだした。
悲しみの涙じゃない、嬉しかった。
奏がキスしてくれた、自分から。私の初めてのキスを彼に貰ってもらえた。
優しいキス、私と同じように自分の気持ちを自覚した奏。
一瞬のはずなのに時間が永遠にも感じられた。もっと私を求めてほしい、高鳴る心臓の鼓動に衝動を抑えることが出来そうになかった。
「っ……!?」
触れるだけのキスから大人の深いキスへ。
目を見開いて硬直する奏をよそに舌同士が触れ合って、いやらしい音が静かな個室に響いた。
「……」
私はゆっくりと唇を離すと私達の唾液で出来た銀色の橋が伸びる。
顔を真っ赤にする奏はとても可愛くて、それでいてとても愛おしく感じた。人を好きになる気持ちがわからなかったのは奏も同じだもんね?
だからこういった行為は俳優業でも基本的にはやったところを見たことなかった。
見えないはずだけど、頭から湯気が出て目がぐるぐる回っているに見えた。
「ふふっ……愛おしいな、奏」
力なく私に体を預けるように意識が朦朧としている奏の頭を膝の上に乗せた。
あの時と状況は違うけど、私が膝枕をするのはこれが初めてだね。一定の間隔で呼吸する奏の頭を撫でると触り心地の良い髪が手に触れる。
奏のお母さまと同じ触り心地。
内緒にしてたけど、本当は真莉愛さんから聞かされてたんだ。初めて会った時から奏はあなたを意識してたわよって。
「その気持ちが何なのか、二人とも理解するのに随分と時間が掛かっちゃったね?」
「……」
「聞こえてないだろうけど、言うね。"この出会いには意味がある"、その答えが今ここにあるのかなってさ」
もしかしたらあの時から真莉愛さんは私達がこうなることをわかってたのかもしれないね。
奏と同じ瞳を持った、違った。あの人からの遺伝で奏が同じ瞳を授かったっていうのが正しいのかな。なんだか悔しいなぁ、全部お見通しだったみたいでさ。
「なんだか、妬けちゃうなぁ。奏のことを一番知ってるのは私だって言われたみたいで」
「聞こえてるよ」
5分くらいで元の状態に戻った奏が起き上がった。
まだ顔は少し赤いけど、しっかりと私の瞳を見つめている。私もその瞳をしっかりと見つめ返す。少し恥ずかしそうにするけど、それでも奏は目を逸らさなかった。
「この出会いには意味がある。確かに母さんはそう言った。その時にほんの一瞬だけ僕とアイへと視線を向けてた。だから初めて君と僕があった時に僕らは互いが惹かれていた事に気付いていたんだと思うよ」
「やっぱり、そうだったんだ」
奏だけじゃなくて私の事もお見通しだったんだ。
あの時は他人も信用できなくて、好きってなんなのか、愛情って何なのかをわかっていない時だったのに。私が奏を無意識に意識してるって見抜いてたのか、なんでもお見通しなんだ。
「もし、あの時にアイと出会わなかったら今の僕はないんだろうね。芸能界には進んでただろうけど、君という存在が傍にはいなかったかもしれない。僕はまだ人を好きになるってことがわからなかったかもしれない」
「それを言うなら私もだよ。奏と出会わなかったら今の私はきっと……なかったと思う。スカウトされてアイドルにはなってたかもしれなけど、嘘の愛しか知ることが出来なかったかもしれない」
そう、きっと施設で奏達との出会いがなかった今の私はなかった。
本当の母の愛情っていうのがどんなものを知ることもできなかっただろうし、ずっと嘘で塗り固めた私を演じ続けなければならなかったかもしれない。
今に思うとこの出会いこそが運命の出会いってやつだったのかな?
「小さい頃からずっとわからない事があった。人を好きになるってどういうことなんだろうって。周りの友達が好きだって告白していたり、僕に好きだと告白したり」
「うん」
「どれだけ綺麗な人、可愛い人に告白されても心は動かなかった。でも、アイと出会ってから自分の中に何かが生まれた気がしたんだ。月日が経過するごとに大きくなっていく何か……」
「……」
奏の話を私は黙って聞いた。
その言葉には理解できない感情に対する苦悩を感じる。それはまるで愛を知らない時の私と重なって見えた。
「僕はわかったんだ。あの時に生まれた何かは……人を好きになるっていう気持ち」
あぁ、奏もずっと悩んでたんだ。
私達は意識せずも似た者同士、だからあの時からずっと惹かれてた。
「改めて言うよ」
「うん」
「僕、牧野奏は星野アイを愛してる」
「うん、うん。私も愛してる」
今度は私からじゃなくて奏の口から愛してるって告白してくれた。
嬉しい、愛おしい、ずっとそばに居たい。そんな感情がまた心から溢れ出してくる。ずっと手にしたかった幸せが私の目の前にあった。
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