「んじゃ、またのご利用お待ちしてますよ…よし、なにすっかなあ…」
ヒューストンは配送が無事終わり暇を持て余していた
なんだかんだとペンギン急便というだけで絡んでくる者をぶん殴って黙らせる無駄な工程があったため時間はかかったが帰ってのんびりするには時間がありすぎた
最初こそアジトの清掃やテキサスのお付きをしていたがそんなことしなくて良いと指示を受けた以上それでも行うのは失礼に当たる、というより彼女の気遣いを無碍にしたくないという心情だ
幸いにも龍門には暇を潰せる物がごまんとある
財布の中には十分すぎるぐらいの現金があるのを確認して中心部に向かって歩き始める
街中を歩いていると、視界の端に何か違和感がある
歩行者天国のなか一人立ち尽くした女がいる
フォーマルな着こなしにとも取れるその服装はかつてマフィアにいた頃の幹部を彷彿とさせる
よく見れば傍には剣を携えているので幹部が自ら持っているのは珍しいと感じた
そもそもなぜこの往来の中立ち尽くしているのか、あまりにも場違いすぎる人物をなぜ周りは誰も気にも留めていないのだろう、そして何故こんなにもその人物は見覚えがあるのだ
脚はその女に向かって歩き出していた
声が届く位置まで近づいて確信した、やはりテキサスであった
「お嬢!」
声を掛けるとその人物は振り返った
端正な顔立ち、長年仕えてきた者の顔、いつもなら特に変化の乏しい表情はやけに驚いた顔をしていた
「…ヒューストン?」
「はい、ヒューストンで御座います。お嬢、それより何故このような━━━」
「ヒューズ、私が、わかるのか…?」
ヒューズの言葉を遮り肩を強く掴み震えた声で迫ってくる姿に気圧された
何かがおかしい、そう思いゆっくりと手をナイフに近づけて質問をした
「お嬢、私の名前はお判りになられるでしょうか?」
「ヒューストン、オルブライト・ヒューストン。私が子供の頃から仕え、あの時の命の恩人で、ペンギン急便の仲間だった男だ…!」
感極まったと言わんばかりに涙ぐんだ声を出して抱きしめられる
あまりの事態に混乱してしまう
子供の頃というワードは彼に取って思い出せない違和感を抱えているが今はそんなことを気にしている場合ではない
とにかく言ってるいことは合っているし、顔も声も本人そのものだが何かがおかしい
引き剥がそうにもどうしたものだろうか
「お、お嬢、とりあえず此処から離れてアジトに向かいましょう。とりあえずは話はそこで…」
「っ…! あぁ、そうだな。 移動しよう」
アジトに行けばもしかしたら誰かしらがいるかもしれない
そこでの反応などを見て判断をすることにした
腕を引っ張られ最寄のアジトの行き方を熟知しているようだが道中道を間違えていたためまた質問をすることにした
「お嬢、こっちの道です」
「ん? …あぁ、なるほど。そうだな」
「…お嬢、つかぬことをお聞きしますが最近あった仕事でラーズって覚えていますか?」
「…マダム・フラワーの護衛で裏切った元仲間だろう?」
覚えているか微妙な話題だったが合っている
しかしどうしても違和感が拭えない
テキサスの態度と言動といい、やはりおかしい
しかし本人であることは間違いないのだ
子供の頃の話をされやはり靄がかかったように思い出せないため答えられなかったがその時の顔は、とてもショックを受けた表情だった
アジトに到着し扉の鍵を開け中に入った
「━━━もう、始まっていたんだな」
その声は誰にも届かない
アジトに入ると埃っぽく散らかっているがある程度整頓されている様子を見て「懐かしいな…」と呟いていた
1番綺麗な椅子を見繕い座らせ端にある小さいキッチンに入りコーヒーを用意し始める
最近手渡されようやく扱えるようになったメッセージ機能で「お嬢の様子がおかしい、空の彼方まで誰か来てくれ」とぎこちないながらも打ち込み送信した
「お嬢、何かお食事は━━━」
「必要ない。それより早くこっちに来てくれ」
「畏まりました、しかしコーヒーをご用意しておりますので少々お待ちを」
急かすように手招きをする彼女を少し宥めコーヒーを手に彼女の元へ戻りそっとコーヒーを置いた時だった
「ん」
「はい。少々お待ちを」
少し彼女が小さく唸った程度の声、煙草の合図だ
道具を取り出し煙草を巻き始める
その様子を食い入るように、どこか楽しそうに眺めて来ていた
「…何か?」
「気にするな、続けてくれ」
「…はい」
煙草を巻く様子など見ていて面白いのだろうか
しかももう見慣れていたものだと思っていたがそれを少し微笑んだ様子でずっと見ている
すると一瞬だけ鮮明に思い浮かんだ光景を無意識に口にした
「まるでお嬢が幼き時に、初めて煙草を作ってるのを見られたようです」
「っ! そうだったな、アレのせいで興味津々だったさ」
「…本当にお嬢に教えてはならなかったと後悔しておりますよ」
「そう言うな、私はお前が巻いたタバコが好きなんだ」
「…どうぞ」
「ありがとう」
今一瞬思い出した光景はすぐに靄がかかったように思い出せなくなる
煙草を手渡しいつも通りの作法で火を付け、紫煙を吸い込み吐き出すと煙が少し辺りを漂い始める
最近非常にこのようなことが多い
大事なことを全て忘れてしまっているような気がしてならない
しかしお嬢は嬉しそうに話している
子供の頃、好奇心で煙草を盗んで怒られた時の話、成人を迎えドン・テキサスになった時に巻かせた時はすごく微妙な表情をしていたと饒舌に話し始めた
しかし、覚えていないと言うより靄がかかって思い出せない
言葉や記憶の情景を辿って思い出すことがどうしてもできなかった
まるで身に覚えのない事を話されているようだった
ひとしきり話し終える頃にはとても楽しそうな、今まで見たことがないくらい郎らかな表情に目を奪われた
「どうしたんだ?」
「い、いえ。申し訳ございません」
どうしたと言うのだ、今日のお嬢も自分も
最初は疑っていた癖に飲まれ気味ではないかと考え「すみません、失礼します」と画面を確認すると一瞬時が止まったような感覚に陥る
先ほどまでの楽しげに話すテキサスを見て少し嬉しかったという気持ちが一瞬で恐怖に染められた
画面に表示されていた内容は送った内容にエクシアが最初に反応していた
『え? テキサスならアタシ一緒にいるよ?』
『ヒューストンはん遂に変なモン見始めたんか』
『えっ、え?』
『ほれ見たか、ソラはんが混乱してるやん』
『ヒューズも遂に冗談いうようになっt』
『テキサスが凄い勢いで出ていったんだけど』
『おーい、ヒューズ無事?』
メッセージは此処で途切れている
気付かぬうちに来ていた不在通知を見ると一件だけエクシアがかけて来ているが数件はテキサスから来ているようだ
「どうしたんだ?」
「いっ、いえっ、社長のレコードと葉巻をお釈迦にしたと連絡が来て…」
「そうか、ボスは今頃とんでもなく怒っているだろうな」
ふと声を掛けられ彼女を誤魔化した
先ほどまで話に夢中になっていたが彼女が端末を弄っていないしましてやエクシアが一緒にいるなんてこともなかったしあらゆることが破綻していた
しかし本物であろう人物は此処にいる、なぜ?
彼女が吸っている煙草の先端から灰が落ちる
けたたましい音が扉から発せられ思考と混乱の海底から現実へと戻された
何かが一直線にお嬢の元へと駆け、黄色の刀身を頭に目掛けて振り下ろした
目の前の人物はどうであれテキサスに違いないと認識していたのだろう
考えるよりも先に彼女の頭に迫る刀身を彼は持ち前のナイフで防いだ
襲撃者の正体を確かめると、怒気を孕んだ表情のテキサスだった
「え!? お、お嬢!?」
「ヒューズ、そこを退けッ!!」
思わずその場を離れると自分の目を疑った
そこにはテキサスが2人、同じ顔をした人間が2人いたのだ
タチが悪いことに立ち振る舞いが酷似しているどころか同じだというこということにヒューストンにはより混乱を招いた
再び切り掛かると装飾の施された剣を使い弾き空いている片手に持った煙草をひと吸いした
「…何者だ」
「私は…お前だよ」
「ふざけるな、ヒューズに何をした!」
「…我ながら無粋だな。まだまともに話せる彼と話ぐらいもう少しさせろ」
再び刃を交え鍔迫り合いになり睨み合いになる
突然の出来事に思考が止まっていたが銃を取り出し天井に発砲した
乾いた銃声を合図にお互い距離を取ってこちらに目を向けた
「動くな!」
「ヒューズ、落ち着け。 お前は混乱しているだろうが私は━━━」
「動くなと言った! アンタは誰だ、何が目的だったんだ!」
先ほどまで話していたテキサスに銃口を向けると彼女は少し悲しそうな表情をした
「お前はいずれ…いや、時間のようだ」
「何を…」
「ヒューズ、楽しかった。また話せてよかった…さようなら」
目の前が眩い光に包まれ、彼女は消え去っていた
去り際に「煙草、美味しかった」と聞こえた気がした
「ヒューズ、無事か?」
「…えぇ、なんとも」
そこには2人と静寂と煙草の紫煙だけが漂っていた
先ほどの光景は夢だったのだろうか
いや、間違いなく現実の出来事だ
ここテラの大地には、人間では理解しきれないことが山ほどあると思い知らされたのかもしれない
「…お嬢、本当にお嬢ですよね…?」
「あぁ…奴も、私だったのか?」
「…アーツを使った変装だとか、瓜二つなどというものではありませんでした、あれは確かに…お嬢でした」
「そうか…」
残された2人には理解などできなかった
しかし近い未来に、彼女は思い知ることになる
「ヒューズ…」
彼の名前を呟いた、まだ持っていた煙草の吸い殻が先ほどの出来事は現実であったことを確かに証明していた
え、遂に異格と通常オペレーター同時配置できるんですかぁ!?