三下とテラの日常   作:45口径

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それはおまえの根幹、それは靄へと消えおまえは沈んでゆく


三下とお嬢と子供のころの話

 

「ねぇ、ヒューズ」

 

「はい、なんでしょう?」

 

アジトで掃除をしている昼下がり、ソラが思い立ったように話題を振った

 

「テキサスさんが小さい時ってどんな感じだった?」

 

「お嬢の小さい頃…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オルブライト・ヒューストン

彼は代々マフィア、テキサスファミリーに仕えてきた家系の末代の男である

父はおらず、母は物心着く頃には死んでいた

組織の幹部だった母は彼を大層愛してやまなく、惜しみなく愛情を注いでいた

共にいた時間は決して長くはないが幼い子供ながらその親心を理解していた

 

しかし納得をしていたわけではないが母に迷惑はかけまいと我儘を言わず、寂しいながらも帰ってくる母との交流を楽しみに日々を過ごしていた

 

しかしある日のこと、母が死んだ知らせが来た

突然のことに頭が理解できず気がつけば葬儀は終わり一人ただ残されていた

 

死因は成長する中で考察をしていた

幹部であったが故に敵からも身内からも恨みを買うことが多かったのだろう

ならば自らもマフィアになり原因を究明し、母への手向けとして殺してやると誓った

 

成長しマフィアになるまでの道のりは険しかった

これもテラにおけるありふれた話だ

物乞いから始まり、飲食店で皿洗い、スリ、車を盗む、強盗、薬物を売り捌く、なんでもやったのだ

 

そしてついに組織へと入りその際に名を変え本来の名前はいつしか忘れてしまった

 

マフィアになってからも険しき道だった

周りと仕事の取り合い、騙し合い、殺し合ったりもした

そうして一人生き残り、組織からの仕事もこなし利益を上げ続けた

 

そうして今、重要な仕事を任せると呼び出されたのだ

評価がよければ幹部の候補として名を上げ幹部になれる、若くしてかつての母に並べるのだ

 

「ヒューストン、貴様に重大な任務を与える。これをこなせれば幹部候補を経て幹部として襲名できる」

 

直属の幹部に連れられ目的地へと向かう

大きな屋敷、テキサス家が保有する土地だ

 

「貴様にはドン・テキサスの御息女の護衛と世話係を兼任してもらう」

 

彼は数十年近くかけて組織に貢献をして来た

しかし部を弁え、直属の幹部を立て目立ちすぎる事をせず立ち回って来た

幹部の期待にも応え続け信頼のおけるファミリーの一員として抜擢されたのだ

 

「ドン・テキサス並びに、チェリーニア・テキサスお嬢様のお目通りだ。心してかかれ」

 

扉をノックし「入れ」と許しをもらい中へと入る

 

威厳ある男性、現当主レオーネ・テキサスと護衛たち

そして明らかに場違いな、齢を10も超えていない幼い少女がいた

 

「トニー並びにヒューストン、ここに」

 

「待っていたぞトニー、そして貴様がヒューストンだな」

 

「オルブライト・ヒューストンです。本件は必ずご期待にお応えするべく参上しました」

 

「うむ、トニーの信用できる部下と聞いている。必ずやり切れ」

 

これが、彼女との関係ができたきっかけであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係 1日目

付きっきりで屋敷の中や外を着いて回るのだが歳の時期としてはもっと遊んで騒がしい時期であるはずだがチェリーニアは随分とおとなしい御息女のようだ

 

しかし一護衛として変なことは言わず危険から身を守る為に目を光らせている

 

声をかけられることもなく、お嬢様は大人しくおもちゃで遊んでいる

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係 1週間目

今日もお嬢様は独りで遊んでいる

彼女の生まれの事情である故こんな箱庭に押し込められたような生活をしている

 

その寂しそうな姿がなんだかかつての自分を見ているようだった

深く同情をしてしまう

何を言っているんだ、馬鹿馬鹿しい

 

纏わりつく邪念を振り払うとお嬢様と目が合ったがすぐに目を離した

 

今日もお嬢様は大人しい

 

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係 1ヵ月目

外出中において怪しい人物たちに尾行をされる

運良く天から賜った、認識阻害のアーツを使いお嬢様を無事屋敷へと連れ帰った、やはり気が抜けない

 

その知らせを聞いたドン・テキサスから礼を言われこれからも頼むと労りの言葉を頂いた

 

ドン・テキサスは多忙につき屋敷に帰ってくることはほぼなかった

チェリーニア様とお会いしたのを見たのは最初と、今日だけだった

 

娘との交流を見守り去ってしまった父を見つめる姿を、またかつての自分と重ねてしまう

どうにも、まだ大人になり切れていない所があるのだろう

 

ふと、「ねぇ」とか細く、弱々しい声をかけられる

チェリーニアお嬢様がもじもじとしている

「どうしましたか」と返事をし数秒の沈黙の後「あそぼ…」と呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係 1年目

初めてまともな交流をしてから1年が経過した

相変わらずドン・テキサスとお嬢様との交流は少ない

 

しかし代わりにヒューストンと遊ぶようになり今では護衛兼世話係兼遊び相手となっていた

子供の遊びなどよくわからなかったがなんだかんだでお嬢様は楽しんでくれているようだ

笑顔が眩しい、しかし厄介なことになった

 

「あンのお嬢様、どこ行きやがった」

 

イタズラをされるようになった

今までの分とでも言わんばかりに毎日3回か4回ほどイタズラをされ現在追いかけている

 

陰からちらりと可愛らしいお顔と耳を覗かせて見事イタズラが成功したのを見てきゃっきゃと笑い始めた

 

「お嬢様ぁあああ!! いけませんぞ!!」

 

「きゃあー!」

 

真面目に追いかけず、ある程度の時間付かず離れずの距離を保ってから捕まえていた

 

捕まった後もきゃあきゃあとヒューストンの顔や耳を掴んではしゃいでいた

 

今日のお嬢は特に騒がしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係兼遊び相手兼おもちゃ兼教育係兼サンドバッグ兼相談相手兼幹部候補

 

5年目

 

気がつけばお嬢は立派な淑女として育ちつつあった

ドン・テキサスは少ないながらも必ず交流を図る

 

しかし現在は絶賛反抗期を迎えていた

口数は減りドン・テキサスのように多くを語らない人へと育っていた

 

必要なことはもちろんお嬢が興味を示したものを与え、学び、自身の成長へ繋げていた

 

しかし最近ドン・テキサスとお嬢は口論にというより父親に対して不満、この組織の後継という話題から発展してしまった

 

こう言ったことはどうしたものかと頭を悩ませる

 

 

 

 

失敗した、お嬢に煙草を巻いている姿を見られてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙草を盗み吸おうとしたお嬢と大喧嘩をした

今度は俺が反抗期の矛先になってしまった

 

 

今日のお嬢は特に不機嫌だった

 

 

 

 

 

 

 

 

護衛兼世話係兼幹部候補10年目

ドン・テキサス、レオーネ様が亡くなった

原因は暗殺だった

敵組織の襲撃を受け車両での移動中襲われてしまったと情報が来た

 

友として接していただいたドン・テキサスの訃報を受け、ショックのあまり電話機を落としてしまう

 

それを見られ心配そうに声をかけられる

隠そうとしたがお嬢の剣幕に耐え切れず話してしまった

 

普段、表情を変えなくなったお嬢は泣き崩れていた

大喧嘩をしなんだかんだとギクシャクし始めてから合わなくなってしまい数年経て、父親と仲直りがしたいと相談を受けレオーネ様に直談判をした

 

彼は涙ぐみ「何かあったら、取り持ってもらうかもしれん」と電話口で話していた

 

彼女は一晩中泣き続けた、私の胸の中で泣き続けた、転んで泣いていた幼き日よりも、襲撃を受け恐怖に泣いた夜よりも、初めてアーツを使いこなし感動を得た時よりも、声を上げて泣いていた

 

いずれ泣き疲れてしまい眠りに落ちる

 

ベッドへと運び毛布を掛け、彼は屋敷を出た

 

 

 

 

 

 

元護衛兼世話係兼幹部 数年後現在、被告人

 

「なんてことをしでかしたのだ、貴様はッ!!」

 

 

幹部が怒りを露わにしていた

ドン・テキサスの殺害をした組織のあるチームを壊滅させたことがことの発端だった

レオーネ様亡き今は幹部たちはあの手この手で買収と脅迫のネタを集め組織の傘下として取り組むことが決定しこれからも利益を上げ続けると胸を撫で下ろしていた矢先であった

 

実行犯の関係者を全員殺害し現在は判決を言い渡す前の尋問というより腹いせの暴力だ

 

彼は口を開かない

長い長い身内からの拷問を耐え最後の判決を決める幹部直々の判決待ちと言った所だ

 

数年間消息を消し、職務を放棄して、追い詰め、一人ずつ殺して回ったのだ

 

「もういい、期待していたが貴様には失望した。自らの行いを悔いて死ぬがいい」

 

見せしめとして死刑を言い渡される

どうせ変わらない判決だろう、ここまで殺すのを伸ばしたのは勝手なことをした腹いせに拷問をしてから殺すことだったのだろう

 

ふと思い浮かんだことは、母親の顔とあの日泣き崩れたお嬢の姿だった

 

独房に収監され死刑を待つばかりだ

 

幾日が経った時だろうか、誰かがやって来た

 

冷徹な顔つきになった、長年仕えて来たチェリーニアお嬢様が彼を見下ろしていた

 

「これからは私がこの組織を支配する。組織の意向でお前を幹部としては扱えないが、私に付き従えヒューストン」

 

テキサスは数年で幹部になり、ドン・テキサスとしてこの組織の長に上り詰めていた

もう、あの頃のお嬢はいなかった

 

歯は全て抜かれて、殴られ続け血まみれになった顔、肋を折られ上手くできない呼吸

それでも彼は応えた

 

━━━命ある限り貴女に付き従います、私の偉大なる君、ドン・テキサス

 

言葉になっていない誓いを結ぶ

 

「…酷い有様だな。ここから出してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…思い出せない」

 

「えっ?」

 

「なんで俺はお嬢に仕えていたんだ…?」

 

「ヒューズ…?」

 

「思い出せない、なんで、どうして…?」

 

長く考え込んでいたヒューズは手に片づける為に持っていた持っていたコップを手から溢し、地面へと落下させた

 

こぼれ落ちてゆく、あの日の記憶は戻らない

 




おまえを待ち受けるのは、緩慢な己の死
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