「ヒューズ、入るぞ」
ロドス艦隊、病室にて
ここは現在入室している人物が奇病を患い特別病棟として管理されている部屋だ
現在は彼1人しか居ないため事実上個室だった
部屋に入ると殺風景な共有の殺風景な病室があり一角だけがごちゃごちゃと物が置いあり、それに囲まれその男は眠っていた。
体を少し揺するが目を覚ます気配はない。
ここへ入院する当初はまだ意識があったが碌なコミュニケーションが取れず、しまいには自分で呼吸すらできなくなり今に至る。
植物状態とも取れるがこれには彼のアーツが大きく関わっていることが判明したのだ。
アーツと鉱石病は切っても離せない物がある。
鉱石病を患うと必ず死ぬ結末を迎えることになるがその反面アーツをより一層強力なものへと変化させれるのだ。
彼においてこのアーツが厄介なのだ。
認識阻害の能力で自分に自己暗示のようなものを重ねがけし過ぎた結果、自分でアーツを解除できなくなっていたのだ。
アーツが不幸にも、過去を認識できなくさせ自分自身の存在が認識できなくなり、遂には生きていると言うことすら認識できなくなってしまったのだろう。
どうにか本人から聞き出せた情報と過去にあったテキサスの話を参考に立てた仮説ではあるが1番有力な仮説だった。
タチが悪いのは鉱石病を患った状態で常にアーツが発動しているため進行が早く、ロドスに来ていなければ瞬く間にこの世からまた1人消え去っていただろう。
それでも目を離すことができない状態には変わりなく、治療法も見つからない、彼自身がアーツを解いてこの現実に戻ってくる他ないだろう。
「ヒューズ、起きろ…」
どんなに揺すっても起きる気配はない
彼女はペンギン急便に籍を置いているが龍門での活動はほぼ無くなり今ではロドスに居を構え間を作ってはここへ足を運んでいた。
かつて彼は鍛え抜かれた巨躯を用いてペンギン急便の仲間達との活躍に寄与したが今は痩せ細り見る影もない
点滴による栄養補給が唯一の食事だろう。
「この前、エクシアが美味い店を見つけらしいが悲しいことに、そこでドンパチが始まってしばらく休業だそうだ…勿体無いヤツだな」
こうして何かを言い聞かせている、届かぬと分かっていても何かを伝えに来ている
でないと、彼女の心もきっと壊れてしまうからだろう。
「いつか一緒に行こう…と言っても、当分は無理そうだな」
彼の頬を優しく撫でる
ふと、自分の頬伝い一粒の涙が落ちた。
いつもこうだ。ふと無意識に涙を流すようになってしまい気を抜くと声を上げて泣いてしまいそうになる。
涙を拭い感情を抑える、そんな姿を彼には見せたくなどないのだから。
「いつもすまないな…つい、出てきてしまうんだ」
ふと思い出す、子供の頃はすぐに泣いては彼に慰めてもらった事を。
怖い思いをした時でも、なんでもない時も、困難にに阻まれた苦悩の時も、彼はそばにいて支えてくれていた。
「懐かしいな…覚えているか…?」
怖くて眠れない時は御伽話を、読んだ本で知ったおやすみのキスをねだった時のこと、疲れて居眠りをした時ベッドに運んでくれたこと、大喧嘩して出て行けと怒鳴ってしまったこと、父が死んでから全てが変わってしまったこと。
彼女にとって過去、彼との思い出だけは忘れないでずっと大切に生きていた。
その彼と共に再び生きることが出来た時はどんなに歓喜をしたことか。
彼はもう十分過ぎるほど尽くしてくれたが今も休んでいるどころか未だに闘っているのだろう。
一刻も早く解放してやりたかった、そして私に示してきたように、起きている時に教えきれなかった『自分のために生きる』と言う事を今度こそ、伝えたい。
ふと彼女の端末が着信を知らせる
相手はエクシアだった。
『テキサスー! 仕事仕事、ドクターが探してるよ!』
「あぁ、わかった。すぐに行く」
通話を切り再び彼に向き直った
額にキスをし子供を寝かしつけるように髪を優しく撫でた。
「また来る。起きたら…煙草を巻いてくれ」
彼女が立ち去ると部屋には心拍数を刻む音だけが流れる。
彼の側の窓際には、数本の出来の悪い煙草とそれに隠れるように1本の吸い殻が転がっている。
部屋を出たテキサスは一本の煙草を取り出した
自分で巻いた出来の悪い煙草を見つめる。
いつかまたあの時、彼に巻いてもらい吸わせてもらった煙草が吸えると願いながら。
ちょっとこれを挟ませてくれ…と言うことで初投稿です
次こそ喧騒の掟を出しますので何卒お待ちを…