三下とテラの日常   作:45口径

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まだまだ続くので初投稿です
誤字修正報告等ありがとうございます、とてもありがたい…これからもよろしくお願いします…


三下と喧騒の掟の外側 その2

 

マフィアに囲まれ逃げ道がない中、連中のボスであるガンビーノが現れた

 

「ケッ、しぶとい連中だな」

 

部下たちを掻き分け大柄な男、ボスであるガンビーノが現れる

 

「エンペラーがいねえが…まぁいい、テキサスをまずぶっ潰してから始末してやろうじゃねえか」

 

ガンビーノはテキサスが気に入らなかった

かつての彼女のシラクーザでの行いが彼は気に入らなかった、ただのマフィアの人間としての因縁だった

 

テキサスとしてはそんなものはどうでもよかったしそもそも彼のことなど知りもしなかった

 

「お前のような知り合いなどいない。だがお前はこれからこの龍門からも逃げていくだろう」

 

「ハッ、龍門に逃げてきた負け犬がどちらか、テメェが1番よくわかってるじゃねえか」

 

テキサスの顔が険しくなり始めた

ただでさえ面倒ごとは嫌なのにどんどん舞い込んでくる。

ガンビーノがさらに煽るように続ける

 

「そういやあ、あの三下はどうした? どうせ死んじゃあいねえだろうだから愛想尽かされて家出でもされたか? ロクでもねぇクソ雑巾みてえなクズ野郎だったがてめえにぴったりな━━━」

 

一瞬だ、その一瞬をガンビーノは戦慄した

目にも留まらない速さで首を目掛けて切り付けて来た。

テキサス自身素早い機動を主とした戦い方だったが今のは明らかに常軌を逸脱した動きだった。

 

龍門での掟、殺しをしないこと。

 

それを確かに彼女は守っていた、先ほどまでの戦闘だってそうだ。

しかし今の一瞬でそれはどうでも良くなった。ただこの汚らしいへらず口の獣の首を刎ねる以外に目的は無くなった。

 

ガンビーノは奇跡を起こしていた。

一瞬の動きを見て後ろに避けようと地面を蹴ろうとした時、彼の靴は偶然濡れていて少し滑ってより多く後ろに重心が崩れた

 

その一瞬とテキサスの斬撃が偶然重なっただけだがそれがガンビーノをまだこの世に繋ぎ止めていた。

 

長きにわたる経験で危険を察知し距離をとって首が繋がっているかを触って確かめると僅かに血が出ていた

 

「…クソ雑巾、と言ったな」

 

「ハッ、ハハハッ、フ抜けたかと思っていたがそうじゃねえらしいな! 楽しみ甲斐ってもんが━━━」

 

「好きなだけ喚けばいい。さっきお前に龍門からも逃げ出すと言ったな…訂正してやる、あいつを侮辱した貴様はここで殺す」

 

奇跡を起こしたのも束の間、ガンビーノの手首から先が切り落とされ剣の柄で鳩尾を殴り跪かせると全体重で頭を踏みつけ地面へと沈ませた

頭を踏みつけたまま刀身を首に当てる

 

「ぐあぁ…! てっ、テメェ!!」

 

「来世は虫にでも産まれてくるんだな」

 

勢いをつけるため一度大きく降り下そうとした瞬間数発の銃撃が源石剣に命中し刀身を折った。

テキサスがぐるりと首を向けた先にはエクシアの構えているラテラーノ銃の銃口から僅かな硝煙をあげ、薬莢が床に転がっていた。

 

「やりすぎだよテキサス。そんなことしたら━━━」

 

「邪魔を、するのか」

 

折れた剣を捨てゆらりと、向かっていく

予備の剣を取り出し歩みを止めない。

 

明らかに様子がおかしいテキサスを見てクロワッサンとバイソンが盾を構え立ち塞がった

 

「何してんねん! 早よその人連れてどっか行きやッ!!」

 

「あ、あぁ?」

 

「早よ失せや!!!」

 

間抜けな声を上げるシチリア人に発破をかけるクロワッサンは必死だった。

 

「テキサスさん、一体どうしたんですかっ!?」

 

「やめて! 落ち着いて、エクシアはテキサスさんのことを想って止めたんだよ!」

 

「テキサスはん止めぇや!こんなことしてもなんもならへん!」

 

「テキサス、これ以上続けるならあたしも容赦しない…!」

 

必死の説得も彼女には届かない

ゆらゆらと淀んだ双眸を向けて近寄ってくる。

エクシアは躊躇う、それは此処にいる全員が同じだった。

身内同士殺し合うなど、ましてや強い絆で結ばれた彼女たちからすれば誰がやりたがりだろう。

 

「残念だ。皆、わかってくれると信じていた」

 

立ち止まりその場で脚を止め地面を蹴り一瞬で決めようと力んだ

テキサスが飛び出そうとしたのとエクシアが引き金を引こうとしたのは同時だったがお互いにそれは阻まれた。

 

「お嬢、それだけは絶対に駄目だ」

 

テキサスの手首を掴まれた、その手は力強く握り込んでくる

その正体は、消えたはずのヒューストンだった。

事情をよくわかってないバイソン以外の人物たちは驚きのあまり声が出なかった。

 

ヒューストンこの渦中にアーツを使って割って入ったようだ

おかげで誰も来たことに認識されず、暴走していたテキサスを止めることができたのだ

 

テキサスは目を見開き今まで姿を見せなかった、会いたくてたまらなかった男が現れ感情が激動していた

 

「仲間に剣を向けるだなんて、そんな馬鹿なことするような人でもないでしょうに」

 

「ヒューズ…っ!?」

 

「言いたいことはあるでしょうが、先にこいつら片付けてからでお願いします」

 

辺りを囲むマフィアたちを見渡すとどうやらやる気のようだ

 

「…ここは一つ、お嬢。お力添えをお願いします」

 

「あぁ、任せろ」

 

彼との共闘は本当に久しぶりだった、かつて共に死線を潜り抜けた経験は何よりも頼りになる

 

「お嬢、いつもの技を、当てないよう軽く」

 

「了解した」

 

テキサスが剣を構え自身のアーツを発動させ剣を雨のように降らせる。

剣雨、自身の剣を周辺に分離させ雨のように降らせた。

しかしその規模は異常だった、数本が現れたかと思えば尋常ではない量、降り注げば間違いなくこの周辺にいるものはただでは済まない、まさに死の雨となるだろう。

 

剣を地面に突き刺すとそれを合図に死の雨が降り注いだ。

 

しかし実際にはこれはヒューストンの生み出した認識阻害が幻影でありこのマフィアたちは幻を見ていた。

幻影の剣に突き刺され悲鳴を上げながらのたうち周り悲鳴を上げ、ショックからか気絶をした者も少なくない。

彼らはありもしない痛みに苦しんでいたのだ。

 

ペンギン急便のメンバーからすれば何かが起こった程度のことだがこの機を逃すわけがない。

その場を駆け抜けて全員一斉に大地の果てへと向かい始めた。

 

「1時間後に大地の果てで合流だよ、テキサス!」

 

先にバイクを奪いメンバーたちは各々に向かい始まる

 

相当な負担だったのかヒューストンは膝から崩れ、テキサスが上体を受け止め倒れ込まずに済むと注射器を取り出して腕に刺し込み薬剤を投入した

 

「ヒューズ、それは…!」

 

「すみません、ちょいと負担が大きくてですね…」

 

「…今はいい、動けるか?」

 

「…動けます」

 

彼女がバイクを奪いテキサスに捕まりその場を後にした。

テキサスの運転するバイクにタンデムで乗り込み追跡を逃れた

 

 

 

 

 

 

 

「それで、一体どういうことなんだ」

 

「…今回の騒ぎについてでしょうか、それともフェンツ運輸の彼のことでしょうか?」

 

「そんなことじゃない。 今まで一体どこにいて、なぜそんな物を打っている?」

 

「…どこから、何を話せばいいのやら…」

 

「お前の、全部だ。話してもらう」

 

一先ず彼の案内のもと独自に確保していたセーフハウスに入り入った途端注射器を打ち始めたヒューストン。

顔色は悪く、かつての面影に影が差し込まれて居るようだった。

 

テキサスとしては彼の居ない日常は何年にも渡っていたかのように長く苦しみを伴うような感覚だった

やっと再会できたと思えば薬に頼っているような現状で問いたださずには居られなかった

 

「私のことは置いといて…今は非常事態なんです」

 

「私が聴きたいのはお前のことなんだ。 マフィアだ非常事態なんかどうでもいい、なぜ勝手に消えるような真似をしたんだ」

 

「いいですか、確かにあのガンビーノファミリーなんぞどうでもいいんです。問題は、あの大元なんです」

 

とにかく自分のことをひた隠しにしことの事情を話し始めた

 

ミズ・シチリアの参下、かつてテキサスの参謀だった女が殺し屋を仕向けて来たのだ。

当然狙いはテキサスとヒューストン、情報によればあの参謀もここ龍門に来ているという情報を掴んでいた。

 

「今日の安魂夜に紛れて俺たちを殺しに来たって訳です。迫り来る刺客をぶん殴って追い出す、それが現在の状況、私の役割です。お嬢は皆に合流を」

 

「嫌だ」

 

「…お嬢…良いですか? 私と居るより━━━」

 

「駄目だ、聞かない。私と共にいろ」

 

有無を言わさず肩を掴む

その手は力強くあり、同時に震えていた

 

「私の言うことを聞け。ヒューズ」

 

「申し訳ございません。聞こえません」

 

「聞こえるまで何度でも言ってやる。私と、共に来い」

 

おそらく「はい」というまで続けるつもりだろう、彼女は本気だ

 

「…お嬢、わかっているでしょう」

 

「何を」

 

「私はもう、長くはないんです…こんな薬を使わないと自分が保てないんです」

 

取り出したペン型の注射器に目を落とした。

いくら安全性が高く、副作用が出にくく効果があるロドスの抑制剤でも方法、容量を間違えれば間違いなく体に毒だろう。

 

ヒューストンはそんな超えてはならぬ線はとうに踏み越えていた。

最後の一本を打ち効果が切れればもう正気を保てる時間は長くないことはわかっていた

 

生物学的に生きていても全てを忘れて、白痴で生きることは、果たして生きていると言えるのだろうか

 

今度こそ、最後の務めを果たして死ぬ

それが彼の役割だと

 

「ドン・テキサス、私は━━━」

 

「何がドンだ、いい加減にしろ!!私はもう、ドン・テキサスはなんかじゃない、本当にこんな時まで聞き分けがないバカな奴め!!」

 

胸ぐらを掴み力いっぱい押すと壁に叩きつける

彼は抵抗することなく壁に押し付けられる、その時の表情は、少し悲しそうにしていた

 

「私はただ、まだ自分でいられるうちに、勤めを果たし、狂った私が貴女を傷つける前に消えたいだけなんです」

 

「それがなんだ!狂って私を傷つけることがそんなに嫌なのか、死んだ方が幸せだとでもいうのか!!」

 

「…えぇ、その通りですよ!」

 

彼女の両肩を掴んで、彼は叫ぶ

 

「私の使命は貴女を守り、命ある限り尽くし続けることです! ペンギン急便の皆だってそうだ、貴女や仲間達を傷つけるくらいなら勝手に消えて独りで死にますよ、貴女と皆のためにね!!」

 

「なにが私や皆のためだ、ふざけるな!」

 

ヒューストンもテキサスも譲るつもりはない、己が決めた生き方と願いは交わらない

だんだんと掴んでいた手の力が抜けて初めて、彼女の双眸から涙が溢れ始めた

 

「なにが、私のために死ぬだ…生きろ、かつて私に言ってくれたように、お前も…生きてくれ…私と一緒に…!」

 

崩れ落ちるように2人は沈んでゆく

胸ぐらから力を抜き、首に手を回して抱きしめてた

 

「お前がいなきゃ、私は駄目なんだ…!」

 

彼女の頭に手を置き、

 

「…終わったら…何がなんでも煙草の巻きから思い出して、美味いの巻いてやりますよ。そしたら、みんなで酒飲んでバカやって暴れて寝て、明日を迎えましょう。そしたら、また好きなだけいうこと叶えますよ」

 

「…まったく、お前は…本当に、強情だな」

 

「長年の癖というかなんというか、そう易々と抜けねえですよ」

 

2人は立ち上がり顔を合わせる

お互い、覚悟は決まったようだ

 

「死ぬなよ」

 

「もちろん」

 

できもしないような単純な嘘を、彼は初めて彼女に言った

何かの可能性を、奇跡を信じて、彼は進む 


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