三下とテラの日常   作:45口径

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連続投稿ということで初投稿です

まだ話は進まぬ


三下と出勤前の一服

陽が昇り始め、龍門の街並みを照らし始める

大地の果てにも光が差し込み始め地獄絵図と化した

ペンギン急便の面々が呻き声をあげ起きようとするが起きれない、そんな中ヒューストンは妙に酔ってない、その違和感と頭痛で起き上がった

 

「昨日は飲み過ぎたか…頭痛え…」

 

「それは昨日かけた技のせいだと思うぞ」

 

先に起きていたテキサスが指差す先には異常なものがあった

 

頭から木製の床に刺さった無礼者どもを一瞥し大地の果ての床を汚さぬように、何が楽しくてそんな状態になっている恥知らずのひとりに唾を吐き捨て昨夜のことを思い出す

 

昨夜、先輩たちから飲まされ続けて瞬く間に情けなくベロベロに酔っていた

騒ぎまくる彼らの元に招かれざる客が訪れる

先ほど手打ちを済ませたマフィアに属するチンピラどもだった

 

この馬鹿騒ぎを聞きつけておそらくやってきたのだろう

下層の階級に属する故に情報の伝達も間に合わずここまできてしまったのだろう

 

ベロベロに酔った彼女たちを見てニタニタと下衆な笑みを浮かべるチンピラたちを見たエンペラーが最初に言葉を発した

 

「営業時間外だぜ、審判の日に来るんだな」

 

「いーや、営業してもらうぜぇ? 枕営業って奴だ」

 

「ギャハハハハ!」と品もない、己の欲望を隠そうともしない獣たちは何かを喚いていた

 

真面目に聞いたところで下品なことを鳴いているだけだ

いつものようにぶっ飛ばしてお引き取り願うところだったがある一人の台詞が、状況を変えた

 

「テキサス、覚悟しろよぉ? テメェは特に━━━」

 

「何が【テキサス】だ馬鹿野郎」

 

一瞬、獣たちの鳴き声が途絶えた

泥酔して気絶直前のヒューストンが威圧する冷えた声を発しながらむくりと起き上がった

 

そのまま固まったチンピラたちに向かって歩き出し彼らが我に帰った頃には遅かった

 

1番手前にいた男の顔面を一瞬小突くように殴りつける

大きく開いた体格差に重い体重と鍛え抜かれた筋肉は男の顔面の鼻はまるで卵が潰れるように、骨を砕いた

 

「あがっ」

 

情け無い呻きを上げた瞬間身体が持ち上がる

 

「【ドン・テキサス様】だろ田舎モンがァーーーー!!!!!」

 

両腕を回して腰をクラッチし、そのまま相手を後方へと反り投げ地面に向かって弧を描き、頭が床に突き刺さる

 

ジャーマン・スープレックスである

 

「あ、あぁ━━━」

 

「て、てめっ」

 

「ぶん殴るぞ木偶の坊ども! 赦しを乞えアホがあああああああ!!!」

 

当然のように起き上がり奇声をあげ再び近くの男たちに向かう

抵抗しようにもこの訳のわからない男が恐ろしい、一人が抵抗しようとナイフを振るが虫でも払うようにいなされ武器を張り飛ばし今度は二人同時に同じ技をかけられる

 

地面に向かって2つの頭が弧を描き突き刺さる

当然のように床に穴を開けて突き刺さる

彼は平等を好み相手に平等に暴力を振るうようだ

 

話ができないなら殴って解決、俺たちは幸せ!

 

「ひっ」

 

「毎日がエブリデイ! 暴力サイコー!!」

 

最後の一人も、赦された

 

 

 

 

 

 

「えぇ、ンなことしたんですか自分…」

 

「あぁ…みんな笑ってた。 出だしは完璧だったんじゃ無いか?」

 

「勘弁してくださいよ…恥ずかしい…あれ、吸いきっちまったか」

 

カウンターに置いていたタバコケースの中は僅かに溢れた葉が残っているばかり

仕方なくポーチから巻きタバコ一式を取り出して作り始める

 

紙に葉を適量とフィルターを乗せ巻き固め唾で予め乾いた状態で塗ってある糊を濡らし貼り付け仕上げる

 

こうして作り上げたタバコを咥えて火をつける

タバコに火をつけるために一息吸い吐き出すと手に持っていたタバコを取られる

どうやらテキサスも一服したかったようだ

 

「あぁ、お嬢。 わざわざ俺の吸わなくても作りましたよ…」

 

「いい。水をくれ」

 

近くに置いていた水のピッチャーでコップに注ぎ差し出した

コップを受け取り水と交換といった様子でタバコを差し出してきた

タバコを受け取り再び吸い込み紫煙を吐き出す

ふとテキサスと目が合った

 

「…ドン・テキサス、か」

 

少しもの鬱げな顔で呟く

かつてシラクーザで名を馳せたマフィア組織はもうすでに過去の物だった

敵組織による工作や覇権争いにより内部抗争が起き、滅んだ

その中を生き残り今に至るのは一重に運が良かったとも取れるが彼女が生きながらえている理由は間違いなくヒューストンのおかげであった

 

「…お前には返しきれない恩があるな」

 

「それには及びません、役割をやりきった上で生きてる。 ここに来てもそれは変わらないですよ」

 

「いや、ここ龍門は自分で考えて自分で生きる場所だ。 私に仕えるなんてしないでお前なりに生きて答えを見つけろ」

 

ヒューストンはすぐには答えなかった、命ある限り彼女に使えることは己の生き様であり答えだった

各地を転々として彼女から離れて生きていた時期もあったがそれは答えとは程遠い、まるで別人の人生を無理に歩んでいるようだった

 

「龍門に踏み込んで死にかけてるトコで、お嬢にまた命拾ってもらったんです。 変わらないですよ俺は」

 

「変わるさ。 そうさせてくれる仲間たちがいる」

 

ふと未だ目覚めない彼女たちを見る

彼女たちは自分を変えてくれるだろうか、自分は変われるのかと頭をよぎるがそれはすぐに消え去る

そんなことを考えても始まらない、目の前を生きていればいい

自由な生活と騒がしい仲間たち、面倒なことはその時考えろ

 

一本巻き終えたところでテキサスが立ち上がった

テキサスのために巻いたものだが彼女は拒んだ

 

「それはお前が吸え…行ってくる」

 

「…御入用ならいつでも、ボス」

 

かつていつも行っていたやり取りだった

懐かしい気持ち、変わらない関係に彼女は笑みが思わず笑みが溢れた

 

今の相棒であるエクシアを起こして肩を貸してふらつきながらも先に配達に出発した

 

 

 

当然仲間たちが起きた時、あまりにも常軌を逸脱した光景に面々は驚いた

 

「え、何コレどないなってん?」

 

「死んでないよね…?」

 

「生きてるぜ、多分な」

 

エンペラーが脚で小突くとピクピクと動いた

 

「生きてるのか…アーメン。 じゃあ2、3発蹴っておきます」

 

「やめてあげて!?」

 

まだ自由な日々は始まったばかり

 


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