三下とテラの日常   作:45口径

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シラクザーノ編を書きつつ、サボりながら初投稿です


【あったかもしれない日常】テキサスと三下

ペンギン急便の面々はとある病室へ向かっていた。

仲間であるヒューストンの様子を見にここへやってきたのだ。

病室にはおらず、診察室を覗くと彼は10代後半に差し掛かった頃の容姿で片腕には手錠をかけられていた。

 

大人しく診察を受ける様子は一見すると安全そうに見えるが昨日の一件でテキサスの名前を出すとどうなるかわからない以上言うべきではなかった。

 

診察が終わりロドスのオペレーターであるノイルホーンに連れられ彼は部屋から出てきた。

 

「ん?おう、アンタらか。今の所、異常はないぜ」

 

テキサスは彼をじっと見つめていた。

無とも取れる表情は掴みどころがなく、どう声をかければいいのかわからなかった。

 

「…なにか?」

 

「い、いや、なんでもない。すまない、心配だったから顔を見にきたんだ」

 

「…失礼ですが、テキサスファミリーの関係者の方でしょうか?」

 

何処か余所余所しい態度のヒューストンの言葉に迷いを抱いた。

テキサスと素直に答えるべきなのか、それとも誤魔化してやり過ごすべきなのか。

 

「黒髪にオレンジ色の瞳をお持ちのループスなので、血族の方とお見受けしました」

 

どうやら誤魔化すことはできないらしい。

素直に答えることにした。

 

「…そうだ。私は、チェリーニア・テキサスだ」

 

「お初にお目にかかります。私、トニリシア・ドナルドの配下、ヒューストンと申します…以後、何かあれば何なりとお申し付けください」

 

一瞬、悪寒のようなものを感じる。

彼女はそれをよく知っている、明確な殺意だ。

言葉や声の抑揚からは感じ取れないが、それははっきりと感じ取ることができた。

殺気に当てられることなど日常茶飯事だが、彼から殺気を当てられるなどと考えたくなかった。

ノイルホーンに連れられ病室へと戻る姿を、ただ見送ることしかできなかった。

 

「テキサス」

 

「大丈夫だ、大丈夫…」

 

一つの可能性が思い浮かぶ。

もしかすると彼は、私が憎かったのだろうかと。

テキサス家に生まれた血族を恨み、呪い、不幸になって欲しかったのではないかと。

 

本当は私など心底嫌っており、うんざりしていたのだろうか。

不安がそんな妄想を生みだし恐怖を湧き立てる。

根拠のない妄想が肥大化し始め崩れそうになる。

 

「…テキサス!」

 

「…っ! な、なんだ…」

 

ふと、自分の目から涙が零れ落ちるのがわかった

 

「テキサスはん…」

 

「テキサスさん、今日は休みましょう」

 

返事をすることもままならず連れられるまま宿舎へと向かった

 

 

 

 

 

 

 

翌日、目が覚めると気分は重いままだった。

あまり眠れず昨日のことが尾を引きずり続けていた。

 

「…テキサス」

 

「…ん、どうした…?」

 

「…今日は、やめておこうか」

 

「…うん」

 

テキサスは再び寝込み頭まで覆うように布団を被る。

まるで現実から逃れるように、殻に籠るようだった。

 

「…しょーがない、私たちが見に行こう。ソラ、一緒にいてあげて」

 

「うん…わかった」

 

エクシアとクロワッサンは部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「テキサス、起きて」

 

返事はない、布団に包まったまま出てくる様子もない。

 

「ヒューズに会いに行こう、思ったよりあいつは━━━」

 

「…いや、だ」

 

布団越しにか細く、くぐもった声が聞こえてくる。

 

「テキサス、いいから出てきて!」

 

「嫌だっ!また彼にあんな感情を向けられるくらいなら、もう会いたくないっ!!」

 

「ちょっと、テキサス!!」

 

いくら引っ張っても出てこようとしない。

3人がかりで布団を引き剥がすととてもやつれた様子で、ずっと泣いていたのか目が腫れていた。

痛々しい、数日で変わり果ててしまった仲間に驚愕すると彼女は再び布団を奪い返し、籠ってしまった。

 

布団の中からはぐずぐずと泣き声が聞こえてくるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に、チェリーニアお嬢様がいるんですか?」

 

「うん…キミが倒れて、ショックで寝込んでるよ」

 

エクシアたちはヒューストンを連れてテキサスのいる部屋へと向かっていた。

彼は20代前半の時期だろう。

子供の頃に比べ健康的で大きな巨躯は今よりも若々しくしたような容姿だった。

 

暴れることもなく、テキサスの名前を出しても取り乱すことなくしている。

目を覚ました彼にテキサスのことを話すと「すぐに向かいます、所在は?」と即答した。

 

「しかし…自分は通してもらえるでしょうか?」

 

「ん?どういうこと?」

 

「実は、先日お嬢と大喧嘩してしまってですね…反抗期って奴ですか、出て行けとも言われましてね…」

 

「…なるほどなぁ、そんな時期やったんやな」

 

「とにかく、テキサスさんに会って欲しいの」

 

「…皆さんがどなたかは存じかねますが…お嬢のためなら、このオルブライト・ヒューストン…ひと肌脱ぎましょう」

 

部屋に着くが扉は開かない、呼び出しを試みるが彼女は応じなかった。

エクシアがカードを使い扉を開ける。

 

「あとはお任せを。お嬢、ヒューストンが来ましたよ〜!」

 

場の空気が読めないような陽気な声で暗い部屋の中、布団が一瞬動いたのを見てヒューストンはズカズカと入り込んで行く。

「来るな!」という声も無視してベッドにどかりと勢いよく座った。

一向に出てこないテキサスを布団越しに優しく手を置いて優しく摩り続けた。

ハンドサインで部屋から出るように促しエクシアたちは部屋の外で待っていることにした。

しばらく続けていると布団からテキサスが恐る恐る顔を出してきた。

 

「ヒュー…ズ…?」

 

「さぁ、おいで」

 

震える声で、恐怖に支配されたテキサスを見てヒューストンは優し声色で声をかけた。

 

手を差し出すと震える手でゆっくりと手を掴み布団から出てきた。

身体が固まっていたのかうまく体を動かせず倒れ込むように彼の膝へと着地した。

 

「あぁ、チェニー…可哀想に…何があったか話してくれるかい?」

 

かつてのように、子供に語りかけるように優しい声を出し撫で続けるとみるみる涙を流し始め声を上げて泣いた。

 

「ヒューストン、ひゅーず、ヒューズ…!」

 

「はい、此処に…お嬢、ご立派なお姿になられても…泣き虫なのは変わりませんね」

 

出てきたテキサスが大人になっていることに正直驚いていた。

記憶の中では10代の後半に差し掛かっていたが自分の膝の上で彼女が成人女性として、ヒューストンとして見るに耐えない、情けない姿をした主人がいるのだ。

自分にできることは心ゆくまで泣いてもらうだけだった。

 

散々泣き続けて漸く治ったように見えるが未だにぐずぐずと嗚咽を漏らしながら涙を流していた。

 

「ヒューズっ…」

 

「はい、此処に。お嬢、何か怖いことでもあったのですか?それとも煙草を盗み吸おうとしたことをお気にされているのでしょうか?」

 

「…うん」

 

「なるほど、煙草のことならもういいんですよ…お嬢、よければ話していただけませんか?」

 

「…でもっ、わたしっ…!」

 

「チェニー…話してくれるかい?」

 

自慢の力で起き上がらせ、優しく抱きしめて背中をさする。

荒い息をだんだんと落ち着かせて涙声ながら話し始めた。

 

「お前はっ、ほんとうはっ…私のことが嫌いで、うんざりしてるんじゃないかって…」

 

「誰がそのような事を?あとで私が折檻しておきます。それと、このヒューストンはそのようなことなど露とも思っていません」

 

「でもっ、わたしっ、わたしの家族のせいで!」

 

「あぁ、可哀想なチェニー…私の大事なチェリーニア。どうか、信じておくれ…私はどんな時でも、あなたを愛しているよ」

 

「うんっ…うん…」

 

胸の中で段々と消えゆくような声を上げながら眠りに落ちた。

ベッドにしっかりと寝かせて布団をかけた。

部屋に出てエクシアたちと会った時ヒューストンは怒りに満ちた形相だった。

 

「それで、お嬢をあんなふうにしたクソったれは何処に?殺してやるから言ったほうがいいぞ、殺すぞ」

 

「キミだよ」

 

「…はぇ?」

 

間抜けな声を出したヒューストンは事の仔細を聞いた。

眉唾な話だったがとにかく明日も会うために病室に戻って時を待つよう指示すると大人しく病室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中、突如としてテキサスが彼の名前を叫び起き上がると一緒の部屋のエクシアも釣られるように起き上がり諌めるが呼吸は荒くひどく動揺していた。

おそらく悪い夢を見て起き上がってしまったのだろう。

現実と夢の区別がつかなくなっておりうわごとのようにヒューストンの名前を呼び続けた。

 

すると夜中なのにも関わらず廊下から走る音が響き扉を開けようとする音が聞こえた。

 

「お嬢、どうかされましたか!?…チェニー、返事しろ!!」

 

ドンドンと大声で呼びかけられ慌ててエクシアが扉を開くと飛び込むようにテキサスの元へ近寄り抱きしめた。

泣きながらヒューストンの名前を呼び続けそれにずっと応えて続けていると再び彼女が眠りへ落ちた。

 

「…すみません、ご迷惑をおかけしました。失礼を承知でお伺いしますが、今夜は此処にいても?」

 

「…うん、此処にいてあげて」

 

「ありがとうございます」

 

眠るテキサスの手をずっと握り続けていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキサスは朝日に当てられ目を覚ます。

握られている手を見て、不安よりも安堵が大きかった。

すこしだけ、身体を動かすとヒューストンはバッと顔を上げた。

 

「…おはようございます。ドン・テキサス」

 

「…おはよ。ヒューズ」

 

「失礼を承知でお伺いしますが、私はなぜこのような…?」

 

今の彼は、テキサスがファミリーの長として君臨していた時の彼だった。

テキサスは昨日のことは朧げだが此処数日のことを事細かに話す。

ヒューストンはそれを黙って聞いていた。

 

「…ヒューストン」

 

「はい」

 

「…シンシア・ローグライト」

 

「…お嬢。なぜ、その名を…?」

 

少し動揺を見せるが大きな動揺というほどではなかった。

 

「…お前は…私が憎いか?」

 

「何を、あるはずがございません」

 

「…私はお前の、母親を…」

 

「なるほど。お嬢、その話はまたいずれ…」

 

「頼む…答えて…お願いだ…!」

 

「…私の母は確かに、テキサスファミリーに籍を置き、散った場所。しかしテキサス家が必ずしも関与しているとは限りませんし、ましてやお嬢が生まれる前の事。お嬢が関わっているなどありえません」

 

「それでも、お前はテキサスが…」

 

「いずれにせよ、真相はもう闇の中。私はただの、あなたに仕える者に在ります」

 

「…そうか…ありがとう」

 

「…お嬢、もうしばらくお休みになられてはいかがでしょうか?」

 

「そうだな…手を、握っていてくれるか…?」

 

彼は黙って手を優しく握る。

安堵からか段々と意識が落ち始め再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、おそらく過去の彼に触れ合う最後の日だろう。

テキサスは意を決して皆より先に一人で彼の病室へと向かっていた。

おそらく検査はすでに終わり病室にいるはずだ、病室の扉に手をかけて深呼吸をし、扉を開いた。

 

ヒューストンは突然の来訪に驚いたが、相手を見て更に驚いていた。

 

「え、お嬢!?」

 

「ヒューズ…!」

 

ゆっくりと近づき抱きしめると痛みに喘ぎ始めた

 

「い゛だだだだだ!! お、お嬢、今俺修羅場から生きて帰った状態で怪我がぁああ!!」

 

「あっ、すまない…」

 

「おぉ〜、いちち…」と痛がっている。

どうやらおそらくあの日以降の彼は傭兵家業か何かをやっていて命からがら助かったというらしい。

 

「それよりも、お嬢が無事で良かったですよ。今は、何をされてるんです?」

 

「あぁ、私は…」

 

あの荒野を生き残りトランスポーターとして龍門で働いている事を話した。

騒がしく、面倒なことあれど龍門での日常を話すとヒューストンは安心したように笑顔になっていた。

 

「よかった…本当にお元気そうで何よりです」

 

「あぁ…ヒューズ」

 

「はい」

 

「私を愛しているか…?」

 

「お嬢…そういうの恥ずかしいんですがね…」

 

「頼む…」

 

「もちろん、お慕いしております」

 

「…なら、私を………抱いてくれるか?」

 

「……………はい?」

 

突然の発言に処理落ちしてしまい間抜けな声をあげてしまう。

残念なことに聞き間違いでは無さそうだ。

 

「…チェニー?それは、ハグってやつで…」

 

「違うっ…私を女としてだ」

 

彼女は不安だった。

彼に愛されているということ、憎しみなどないとわかっている。

しかし、何かが満たされなかった。

一種の不安が招いた、勢いの言葉だった。

彼女は無意識に彼を側に留まらせようと必死でそんな事を言ったのだ

 

「私を…愛してくれ…!」

 

彼は大きく息を吸って、吐いて、目を見開き、デコピンをした。

 

「…きゅっん!」と可愛らしい声をあげてデコピンを喰らった額に手を当てた。

 

「…お嬢。ご自身に子供ができてそんなこと言われたらどうします?本当に抱くつもりですか?」

 

「そ、それは…」

 

「ちょっと会わない内におバカになられたのでしょうか?私ヒューストンは悲しく思います…怪我が治ったらたっぷり説教してやるからなチェリーニアお嬢様、聞いてます!?」

 

「ふっ、ふふふっ、あっはははははははは!」

 

「お嬢! 笑って誤魔化さない!」

 

何を考えていたのだろう、彼は家族で、そんなふうに縛る必要なんかないんだと気付き大笑いをし始めた。

 

「ふふふふっ、すまない。どうかしていた」

 

「まったくですよ。いずれ出会う奴のために大事にしなさいホントに」

 

「わかった、そうするよ」

 

その日はずっと、思い出話に花を咲かせていた。

エクシアやクロワッサン、ソラも訪れ事の経緯を話すと「お嬢…イタズラは程々でお願いしますよ」と呆れた顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと見慣れた天井、ロドスの病室だった。

確か、治療の一環でワルファリン先生の薬品を服用して、そこから意識を失ったはずだ。

 

「ヒューズ」

 

聞き慣れた声に顔を向けると、これまで仕えてきた、テキサスがいた。

いつものような無表情でなく、微笑みを浮かべながら手を顔に当ててきた。

少し冷たい手が意識を覚醒させる。

 

「おはよ」

 

「おはようございます、お嬢」

 

いつもとは少しだけ違う挨拶を、彼らは交わした




ショタ編、完!!!!!!!

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