アンケートではR18でしたがこっちは確認時点で投票が並んでしまったので梅雨終わる前にこれ書こうということでご容赦ください…
「おうっ…と…」
ある日の暮れ方のことである。配達の終わりの間の悪さで肌に苔が生えそうなほど梅雨寒午後、予期せぬ悪天候に見舞われてしまった1組の男女は辟易とした様子で車内から窓の外を見回した。
天気予報のラジオでは今日は珍しく1日晴れ予報の予定だったが予定変更らしい。
日中は雨の晴れ間特有の脂っこい陽射しに晒されていたがこれはこれで迷惑だった。
外を歩く往来は豪雨とも言えるほど激しい雨によってずぶ濡れにされてしまい瞬く間に影へと消えて行く。
幸いなことに男女は濡れ鼠になる前に車内でラジオと劣化したファンベルトの耳障りな音と、雨音から来る退屈と一種のセンチメンタルな気分に浸りながら時間をかけて帰ることを享受していた。
雨は嫌いだ。
かつてのシラクーザを彷彿とさせることと、尻尾が湿気を帯びて不快になる等嫌いになる要素が多かった。
帰宅ラッシュで渋滞を抜けるのにしばらくかかりそうな節を通信機で伝え恨めしく、フロントガラスに滴る雨を睨んだ。
ワイパーで雨を弾くことを繰り返す動作を眺めながら脳裏にチラつく衝動を抑えていた。
あぁ、煙草が吸いたい。
ヒューストンは切れかけてきたニコチンの補充をしたくてたまらなかった。
運転席に座るテキサスはそれに理解ある人物だがその他のメンバーに気を遣ってのことだった。
煙草の匂いは吸ってない者からすれば不快だということを理解している。
喫煙する時はいつも離れた場所で吸ったり、車内で吸ったのならくどいほど消臭を行うなど吸わないメンバーは女性でもあることを考え配慮は徹底していた。
車内で吸うなら窓を全開にし風を通してなるべく残らないようにするのだが雨であるが故に窓を開けて吸えない、もう一つの特筆した雨嫌いの理由である。
ようやく少し進んだかと思えば止まって待つことを繰り返している。
そのもどかしい現状に少し苛立ちに近いものを感じ始めていた。
「……ん」
テキサスが小さく唸るように合図を出した。
彼女との間で使っている煙草を要求する合図である。
いつもなら即座に出すが今回ばかりは躊躇した。
「いいんですか、流石に強めに匂いが残ると思いますが…?」
「…構わない、口寂しくてしょうがない」
どうやらいつも携帯しているチョコレート菓子を切らしてしまったようだった。
菓子の空箱をゴミ袋に見立てた袋に突っ込むと紙の空箱は音を立てながら形を崩して収まった。
「エクシアの姉御やソラ先輩にぶーぶー言われても知りませんよ…」
「…その時はヒューズも巻き込む」
「おっと、その上で罪をなすり付ける気で?」
「そんな事はない。連帯責任というんだ」
「嫌な制度ですよ、それ……どうぞ」
翌日この車を使うのが件の2人でないことを祈りながら煙草を差し出し、受け取り咥えた。
タイミング悪く進み始めたがヒューズが煙草に火をつけてくれるおかげで目を離さず前に進めた。
ほんの少し開けた扉の窓から僅かな湿り気のある風と雨が入り込んでくる。
少し開けた程度では煙は逃げ切らず車内を漂い、濃い匂いを残して消えてゆく。
2人で同時には吸わず、彼女が吸い終わってから吸うことにした。
でなければ車内が煙たくなり過ぎて流石の喫煙者でも不快な空間が出来かねなかった。
「にしても、運が良かったですね」
「……あぁ、まったくだ。エクシアとクロワッサンはともかく、ソラは平気じゃないだろうな」
「あー……今日は屋外で撮影する最後のチャンスとかなんとか…まぁでも終わって濡れずに済んでるかもしれません」
「かもな……んっ…!?」
テキサスが操作するハンドルがファンベルトの不快な音が消えたと同時に今までの操作が嘘だったように重くなった。
「どうしました?」
「…ハンドルが重くなった…!」
「お嬢、そこのスペースへ」
彼が指差す先におそらくタクシー用のスペースか、1台分停めれるスペースがありそこへと侵入しハザードランプをつけてエンジンを切った。
雨のせいか少し鬱陶しく感じるランプが等間隔で点滅している。
「ハンドルが重くなったって事は…多分ファンベルトが切れたんでしょうよ」
「そうだな…さっきからうるさい音が無くなった」
「見てきます」と勇ましく外へと出ると先ほどよりマシになったがそこそこの勢いで振り続ける雨に晒され不快な表情を浮かべた。
テキサスがボンネットを開けるレバーを操作してロックを解除するとボンネットが開かれエンジンルームから熱が放出される。
「あっち!」と悲痛な声が雨音の隙間を抜けて彼女の耳へと届くとしばらく静かになり運転席側のドアをノックされ窓を少し開けた。
「やっぱファンベルトが切れてました!確か予備があったはずですが!」
「……無いぞ」
「……マジか」
車内をくまなく探すが見つからない。
ダッシュボードやシートの後ろを確認するが日頃整理しているヒューストンのおかげで手間をかけて探すこともなく無いことが判明した。
「なにか代わりになりそうなモンありそうですか!?」
レッカーサービスを使うことも選択肢としてはあるがここ龍門ではそのまま盗まれたり、ぼったくられる可能性がある上余計に帰る時間がかかってしまう。
できれば自分たちでさっさと治して帰りたいのだ。
「硬めの紐とかゴムの輪っかみてえな……」
「……あぁ、あるぞ。待っててくれ」
ふと、テキサスがこういった時何が代わりになるか思いついていた。
彼女もある程度知識があるがわざわざやろうなどとは思っていなかった。
しかし彼に対して少し悪戯心が働き実行することにした。
運転席でゴソゴソと動く彼女を少し怪訝な顔で見ていると窓が開かれ黒い肌触りが良い布を手渡されると顔を顰めた。
雨の中でも手に取ると少し生暖かい、伸縮の効く黒いデニール地の物体をわざわざ改めて見ることなどせず察した。
彼女の履いていたタイツである。
見上げると運転席で彼女がニヤニヤと見下ろしていたのを見て大きくため息を吐いた。
「どうした、代わりの物だぞ?」
「……ったく、この小娘め」
「フフッ……さあ、早く治して帰るぞ」
「覚えてろよ、全く」
「あぁ、忘れない。お前のその顔は」
「言ってろ」
ハンドルに身を預けるようにもたれ掛かり再びエンジンルーム側に戻る様子を見ていた。
やはり揶揄い甲斐がある。昔から変わらない。
しばらくしてボンネットが閉められ彼が人差し指を立てて円を描くクルクルと回し合図を出す。エンジンを掛けてハンドルを軽く回してみると軽くなっておりどうやら成功したらしい。
親指を立ててサインを出すとまた運転席側へとやって来た。
「ここからは運転します。あれじゃ多分すぐ切れると思うんで、力技なら俺の十八番です」
「……頼む」
先ほどの余韻で少し笑顔をこぼしたままのテキサスが車内で助手席へと移動し空いた席に彼が乗り込んだ。
「寒かっただろう?シートに残った私の温もりでも感じると良い」
「……調子に乗るな」
「ヘソ曲げたか?」
「うるせえ、帰ったら説教してやる」
「遠慮しておく」
くつくつと笑う彼女を横目で流して帰路へと再び着いた。
結局すぐにまたハンドルは重くなり彼が力技でハンドルを操作して近くのアジトへと帰った。
運転席のシート下にある収納スペースに予備の部品一式があったことを知るのは翌日の朝のことだった。
アジトの車庫に停める頃には外は闇と雨音を街灯りが龍門を彩っていた。
意外にも集合予定だったアジトに一番乗りをしたのはヒューストンの組だった。
「……ヒューズ、先にシャワーに入って来るといい」
「お嬢こそ、タイツ脱いで生足で寒そうでしたがよろしいので?」
「お前にセクハラされるなんて、驚いたな」
「俺が1日3、4回お嬢にセクハラされるのに比べたら些事でしょうよ」
「構わないから、早く入って来い」
「では、お言葉に甘えて」
出来るだけ水滴を落としてバスルームに入り濡れた衣服をランドリーカーゴへと入れた。
冷えた身体と倦怠感を感じる身に湯を浴びると段々と思考が惚けてくる。
しかし悠長に浴びている余裕はない。
さほど濡れてないとはいえテキサスも身体は冷えている筈だし、いつ他のメンバーが帰って来るかもわからない。
十分に湯を被り髪と身体を洗い、少し手間だが尻尾も専用シャンプーで手早く洗い泡を落とした。
『ヒューズ、着替えを置いておくぞ』
「えっ……あぁ、ありがとうございます」
バスルームを隔てる扉一枚の向こうからテキサスの声が響く。
そういえば着替えを用意する前に入浴してしまった。危うくタオル一枚で出るところであった。
どうやら少し疲れているようだ、今日は早めに休むべきだろう。
脱衣所に出る前に誰もいないことを確認してから出るとしっかりと部屋着一式が用意されていた。
仮にも男の服を用意して恥じらいはないのかと思ったが今更だ。別にそういう関係ではないし彼女は善意で用意してくれたのだ。
それをやれなんだと邪推するのも失礼だと考えず服を着た。
用意された服を全て着ると彼女の着替えが下から現れた。
やはり今後のために少しで良いから恥じらいは持って欲しかった。
「……マジでダセぇシャツだな」
テキサスが用意したTシャツは数時間前彼女がいつも買っているお菓子の交換券で貰ったものだ。
デザインが正直好みではない上、控えめに言っても普段使いがとてもいいとは言えないシャツを受け取る時、彼女はとても大きなサイズを選んでいた。
手渡す店員とヒューストンが怪訝な顔をし彼女がそれを受け取り半笑いでヒューストンへと差し出した。
『ほらっ……日頃の感謝っ、フフッ…受け取れっ、ククッ……!」
『なにわろてんねん、いらん』
思わず脊髄反射で返し、それを押し付けあう攻防をしばらく繰り返していた。
脱衣所を出るとテキサスがちょうど上着を脱いでチョコ菓子を頬張ったところだった。
細身の身体はシャツからでも一目でわかるほど実っている。
駄目だ、こんなことを考えるなどやはり疲れている。
目を強く瞑り額を指で押して意識を保つ。
彼に気づいたテキサスは例のシャツを見て小声で「本当に着るとはっ」と顔を逸らし声を殺して笑っていた。
「……もう上がったのか。別にゆっくり入っても良かったんだぞ?」
「そうしたいのは山々ですが、長く入ってたら寝そうでしてね」
「……珍しいな。そんなに疲れているなんて」
「たぶん、疲れが溜まってるのかも知れません」
「明日は休みだから、ゆっくり休め」
「それと、シャツ似合ってる」と労うように肩を軽く叩きそのまま脱衣所に入るところを見送った。
ソファーに腰掛けると乾かしてない湿った特有の獣耳から衣擦れの音が一瞬聞こえた。
まもなくシャワーを浴びる水音が響く。
そんな思考を誤魔化すようにリモコンでモニターの電源を入れるとバラエティ番組が放送されている。
内容は頭切れしていて内容はよくわからない上に普段から何かを見ていた訳でもない以上見続けていても興味を引く事はなかった。
段々と意識が遠のき始め視界は重い瞼が閉じて暗くなった。
テキサスがシャワーから上がると効果音や笑い声のような音声が聞こえテレビがついているのだと気づいた。
エクシアたちが帰って来たのならシャワーの順番を回すためにリビングに出たが誰も帰ってきてはおらず、ソファーに座り込んで動かないヒューストンが居るだけだ。
ドライヤーを手に彼の元へと行くとどうやら寝息を立てて静かに寝ていた。
特に興味のないことを喋る番組が少し煩く感じテレビの電源を切った。
こうして油断し切った彼を見るのはなんだか新鮮だった。
マフィアの頃から寝ている姿を見たことがない気がしてまじまじと覗き込んでいた。
規則的な呼吸を繰り返し眠る彼を眺めると濡れている髪とほとんど見たことがない寝顔をみてなんだか少し変な気分になっていた。
誰よりも長くいる、誰よりも彼のことを知っている家族だが、まだ知らないことがあるのかも知れない気がした。
しかし同時に、久々に彼の耳を触るチャンスが訪れていたことに気づいた。
彼女は彼の耳に触ることが好きだった。
子供の頃は彼が抱っこをしてくれたおかげで触れていたが成長を重ね触れることも少なくなり、成長した今でも彼の背に届くことはできず機会はなくなっていた。
彼女の手は無意識的に少し湿っている耳へと伸ばされていた。
なにかぞわぞわする感覚と髪を触られる感触が彼の耳を刺激する。
目を開けると眼前にテキサスがいた。正確には彼女の胸元が触れそうなほど近かった。
きっと少し動いて襟首から覗き込めば中を見れてしまうだろう。
シャワーから上がってきたのかまだ少しも熱気と湿り気とシャンプーなのかボディソープか彼女の特有の匂いなのか、ループスと言う種族柄で普通より強く感じる鼻腔を柔らかく刺激する。
しかし相手はテキサスだ、劣情を抱くなんてどうかしてる。
しかし今一度油断しているとどうなるのか知らしめてやろうと決めた。
少し倒れ込むように彼女の首元へと近づいた。
案の定、中は丸見えで男にとっては絶景とも言える光景がその衣服の中という狭い空間ながらも、広がっていた。
「……んっ…?」
「………………お嬢」
「なっ、どうした……というか、起きたのか」
平静を装おうとしているが動揺しているのが丸わかりだ。
伊達に長年使えてない、そして何より彼女の心臓の鼓動が少し強く、早く動いているのを感じた。
「……ご立派に育ちましたね」
「………………ふんっ!」
彼の脳天に目掛けて振り下ろされた拳は見事に炸裂した。
夜の闇からは静かな雨音と悲痛な叫びが聞こえる。
いつも読んでいただきありがとうございます…
テーマはあるけどなんだかんだ手間がかかってしまいお待たせして申し訳ないです…
気分屋なのが災いしシラクーザ編も終わり方というか終わりに持っていく方法を右往左往してしまっております故今しばらくお待ちください…
あとR18の方もぜひ読んでいただければ幸いです