突如暗くなった部屋に灯った小さな火。
灯りのなくなった瞬間だけ訪れた恐怖と不安を溶かすようにケーキに立てられた8本の蝋燭が灯っていた。
陽気な声で、ただ一人の男がうるさいぐらい大きな声でハッピーバースデーを歌いながら自分の前にあるテーブルに近づき目の前に差し出した。
そして歌が歌い終わり待ちに待った火を消すために大きく息を吸い込んで、吐くと蝋燭の炎が揺られながら消え、再び闇に包まれた。
「お誕生日おめでとうございます、お嬢」
最愛の家族の声と喜びが溢れ出た少女の無邪気なはしゃぎ声が暗闇の中を巡った。
「……帰ったぞ、ヒューストン」
彼女はチェリーニア•テキサス、過去に滅んだテキサスファミリーの名を背負った者。
ファミリー亡き後は彼女の従者だった男ヒューストンにより事なきを経て龍門に辿り着き日々を迷いとやり場のない怒りに苛まれていた。テキサスは長い間、生きた屍のような生活を送っていた。
彼は生きているのだろうか。
私を探し出してくれるだろうか。
それとも全てを捨てて消えてしまっているのだろうか。
早く、ここに来てバカみたいに大きな声と下手くそなバースデーソングでも歌って出て来て欲しい。
刹那と巡る止まらない思考と妄想と時間。
ただただ孤独だった、仕事をしては帰るを繰り返す、毎日その繰り返し。
歳を重ね、一生続くかと思われたその生活は一変する。
ちょっとした不注意で、鉱石病に患ってしまったのだ。
職を失い、住まいも追われ、何も残らなかった。
寒い夜の公園でベンチに座り茫然としていた。
冷たい風と侮蔑の視線を身に浴びながら遠くを見た。
街中は騒がしく、ふと視界に映ったのはマフィアに追われているペンギン急便だった。
あらゆる人々から羨望を得ている彼らは本当に輝いて見えた。
ループスの女を先頭にサンクタやフォルテの仲間たちと騒ぎながら駆けていく。
私は何をしているのだろう。
もはや彼女は生きる気力がなかった。
彼女には友人も家族も、恋人も居たりしない。
むしろそういった関係を作るのが苦手であり、周りとは距離が大きすぎたのだ。
シラクーザにいたときは彼がいた、しかしもうそれは過去の話。
いつまでも自身待たせる彼に怒りを抱き、本当に長い時を経てふと彼女は現実を見た。
彼はもう消えてしまったんだと。
それを確かめるためにシラクーザへと赴き、行方知らずの家族でもあった彼の顛末を探しにやってきたのだ。
この土地へやって来てからは厄介ごとが常に彼女を取り巻いていた。
黒髪にオレンジの瞳のループス。
それだけでテキサス家の血筋と疑われ騒がれを繰り返され辟易としていた。
しばらくの期間調査を続けて遂に彼の痕跡を掴んだ。
売られていない空き家の物件だった。
内装は何もなく管理人が埃をはらう程度の、一見物件自体に変わったところがないように見える。
しかしこの物件の持ち主の名前はかつて彼が使っていた偽名の一つであることを思い出し家探しを決行した。
結果はあたりだ、巧妙に隠された地下室を見つけたのだ。
どうやらここはセーフハウスか何かだったのだろう。
地下へと進み、長い間放置されていたランタンに火を灯すと埃まみれのテーブルの上に古ぼけて形が崩れた数十本の蝋燭と硬く閉ざされた源石動力の保管庫があった。
簡単な暗証番号4桁で開くそれを数回彼がしそうな数字を入れ最後の0601とボタンを押すと待っていたと言わんばかりにゆっくりと扉が開いた。
中から出て来たのは2本の装飾が施された剣と衣装、そしてバースデーカードだった。
バースデーカードを手に取り内容を見た。
『チェニーへ、これを読んでいる頃にはきっと長い時が経ったんだろう。
俺はきっと既に死んでいてそれを確かめるために来てくれたのかもしれない。
そんなことはどうでもいいんだ、大事なのは今この手紙を読んでいる瞬間まで、生きていてくれているということだ。
きっとここまでの道のりは長く苦しいものだったはずだ。
君のことだ、人付き合いが苦手な君は友達が多くないだろうから相談する相手も、イタズラする相手を見つけるのも難しいだろう。
でもきっと、その友人たちは君のことを大切にしてくれる。
生き続けて、幸せを掴み取ってほしい。
どうかこの手紙が私の愛するチェリーニア•テキサスの元へと届くことを願う。
君に、これからの旅路に、多くの幸在らんことを願う。
俺に生きる意味を与えてくれてありがとう、今この瞬間まで生きていてくれてありがとう。
幸せになってくれ、最後の俺の願いだ。
今まで誕生日を祝えなくてすまない、君を愛している。
君の家族、オルブライト•ヒューストンより』
当時から置き去りにされていた時間が、動き出した。
震えるてでぐしゃぐしゃになった手紙に、溢れた涙が染み付いた。
そして抑えきれない、今まで失っていた感情の激流によって彼女の心を飲み込んだ。
燃やし尽くしてやる、私から大事なものを奪ったこの地に、この大地の全てを。
そう決意し剣をに手を伸ばした。
そしてその未来を、その心を映し出すかのように、彼女の眼前のシラクーザは燃えていた。
炎の中、彼女は空を見上げた。
この地の雨は止まない、彼女の代わりに悲しみを代弁するかのように振り続ける。
炎はより一層強くなる、その怒りを燃料に。
これが望んだことなのだろうか?
彼はなんといってくれるだろうか
結局は何も変われない、望んだものはもうないのだから。
「チェニー」
彼女の耳に、透き通るよう声がに届いた。
そんな馬鹿な、あり得ない。
恐れながら振り返るとそこには彼がいた、紛れもない彼女が探し求めていた彼がそこにいた。
炎に囲まれながらも
「そんな、どうして…」
「チェニー」
「ひゅ、ヒューズ…ヒューストン、なのか…!?」
「チェリーニア」
「なんでっ…なんで今まで、一体何処でなにを━━━」
「起きろってんだこの!!!!」
彼が腋にに手を差し込んできた瞬間目の前が光に包まれた。
働かない頭を無理矢理働かせられ延々と身体が揺らされ続けているとすぐに気がついた。
昔からの起こし方、ヒューストンが腋に指を突っ込んできて振動をさせてくる。
一瞬何事かとおもったが、どうやら疲れて眠っていたそうだった。
「おい、よせ!もう起きた!」
「そういってまた舌の根も乾かねえうちに寝るだろ!起きろ!」
テキサスは彼の手を振り払い起き上がった。
いつものアジトで、仕事から帰って来て、うたた寝をしては起こされてを繰り返していた。
今日は特に疲れた日だった、マフィアにも近衛局にも絡まれ配達先も罠といういらないことが重なった週末だった。
ようやく終えて戻ったかと思えばヒューストンに起こされ続ける災難が続いていた。
「歯磨いて風呂入ってから寝ろっていってるじゃないですか毎回!」
「……うるさいな。1回2回しなかったぐらいじゃ死なない」
「それを許したらどこまでも堕ちるでしょうが」
暖かいココアの入ったカップを手渡されそれを一口飲む。
少し寒いなか寝てしまい冷えた体が暖かくなり始めた。
なんの夢を見ていたのだろう。
どうでもいいことだ、きっとありもしないことだったんだろう。
ふと、朧げながら夢の一部を思い出した。
「ヒューズ」
「はい。なんでしょう?」
「……シラクーザを出るとき、何か残していたか?」
「また突然…お嬢連れ出すのに必死だったんで何も残ってないですよ」
「遺書とか用意してそうだと思ったんだ」
「……死ぬ予定は無かった、必要ないさ。結果的にもな」
「そうか…ヒューストン」
「あぁ」
「……生きていてくれて、ありがとう」
「……誕生日おめでとう、チェニー」
テキテキ誕生日おめでとう!!!!!!(時期尚早)