シラクザーノ、お待ちください…
「どうかしましたか?」
宿舎の休憩スペースで突っ伏しているヒューストンに声をかけたのは最近気の合うオペレーターの一人シュヴァルツだった
「ん、どうも。まぁ、そんなもんです」
「良ければお話を聞きますよ?」
「ん?あれ、なんか珍しい組み合わせだね」
「何か悩みか?」
「おや、どうかなさいましたか?」
宿舎に入って来たのはエリジウムとソーンズの2人、さらに続けて酒蔵同盟として親交のあるマウンテンだ
なんだかんだと皆話を聞いてくれるというより話せと言わんばかりに来たためとりあえず椅子を動かし机を囲む形で話すことになった
「実は…最近お嬢が傍若無人なお方なのかと心配で…」
「そりゃまたどうして?」
「先日なんですが…」
ある時、テキサスはあまりにもだらしがない時があった。
それはもう従者であったヒューストンからすれば流石に見逃せないものがありそれを正すのも教育係を担って来た者の勤めと思い正していた。
「あぁ…わかります。セイロンお嬢様も研究に熱が入ると似たようなことがあるのです…」
「えー、そうかな…?ブラザーに比べれば全然パリッとキリッとしてるから気にしたこともないよ」
「俺は効率を考えて直してないだけだ」
「まぁまぁ皆さん。ヒューストン殿、続きを」
「なんというか、マジでなんでもやらせようとするんですよ」
最近起きている出来事、正直これが一番過激だったことだ。
あまりのだらしなさにブチギレたがエクシアの余計な一言、「一緒に暮らしてお世話すればいいじゃん」がきっかけでまさか本当に新居を借りて一緒に暮らすことになるとは思わないだろう。
しかもワンルーム。
「お嬢、いつも言ってるじゃないですか! ちゃんと体拭いて、髪を乾かして服を着て…あああああもうツッコミどころ多いなもう!」
「気にするな」
「ああああああ!! 服着るだけなのになんでそんな散らかるんですか!!!今触ってたのでいいでしょ、着ないからって投げないでっ、つか髪乾かしてから…あ゛ーーーーーーーーーークソッ、テキテキ!!!!!!」
「うるさいぞ」
「はいもう、タオルっ、タオルどこ!?」
「ん」
「持ってんのかい!はい、拭いて!」
「ん」
「自分で拭きなさい!私はお母さんではありませんよ!」
「実質そうだ。早く、寒い」
「節操ってものを━━━」
「おい」
「はい」
威圧的な声色でテキサスが言うと彼は即答で返事をし身体を拭き上げる。
長年やって来た癖が完全に裏目に出て来た瞬間だった。
擦らないように、肌を傷つけないように水滴をタオルに吸い取らせる。
髪を拭き上げ衣服を着させるべく散らばった服の中から適切なものを選び手渡そうとするが「ん」と両手を広げるばかりで動かない。
着させろと要求していた。
もう仕方ないと下着をまるで子供に着せるように上の下着をつけ下は片足ずつ通して穿かせる。
部屋着も着させた頃にはすこぶる不満そうなお嬢がおられた
「それは…なんとも…心中お察しします」
「えぇ…女の子の全裸を目の前にしながら服を着させられるって、よく耐えれたね…」
「なぜそんな効率の悪い事を?理解できないな」
「なんというか、意外にもとても甘えん坊なお方ですな」
「その後のセリフがマジで、おっかなかったっすね…」
ドライヤーをかけて髪を乾かし尻尾を乾かしている時尻尾を向けていたが突如振り向き「こうしたほうがいい」と抱きついてきた
出来なくはないが正直普通に尻尾を向けて欲しかった。
その時密着し、耳元で囁いて来たのだ。
「こうしてお前と抱き合うと、匂いが混ざり一つになっているようだ…ヒューストン、私の群れ、私の従者、私の最後の家族…私はお前がいないとダメなんだ…どうか、どこにも行かないで」
耳元でそう囁き続ける。
何度も何度も言い聞かせるように、刷り込みでもしてるように言い続けていた。
「おかげでずっと頭の中で響いてるっすよ…」
全員が戦慄し始めていた、最近起きたこれが一番過激というがおそらく他にもあるのだろうというわけだが他はどうなのだろうか。
好奇心かエリジウムが聞いた。
「そ、そうなんだ、随分と…大切に思われてるね…ほ、他の話はあるかい?」
「他…例えば、俺の腕時計とかの所持品勝手につけてるとか、ペンギン急便でマッチングアプリ流行ってたときの話とか?」
「前後半で情報量が多いな」
「え、そうなのかい!?」
「意外ですね。てっきりそう言うものには縁がないかと」
「時に流行り廃りですよシュヴァルツさん。そん時はみんなでやろーぜみたいになって…」
ふとエクシアが興味本位で「やろー!」と言う事で全員がその場で登録しプロフィールを作成している時だった。
順調に作成していく中テキサスが「うーん」と悩んでいた。
「どうかしましたか?」
「このアプリ、操作がしにくくてな。代わりにやってくれるか?」
「はぁ、まぁ良ければ…」
指示された通り打ち込みを始めた。
この時はまだよかった、お嬢も出会いというものに興味があるのだと、これで幸せにしてくれる男を見つけて安心できると。
好みに関するプロフィールに入り打ち込み続ける。
「仕事は配達業」
「はい」
「種族はループス」
「はい」
「身長は180ほどで」
「ええ」
「元マフィアで」
「はい、えっ?」
「体が筋肉質で」
「はあ」
「三下で」
「おい」
「命をかけて私に仕えて来た」
「それ」
「私の最後の家族、と打ち込んでくれ」
「俺じゃねえか」
「気のせいだろう」
「俺しかいねえだろそんな奇特なやつ」
スッと奪い取るように端末を取り途中から打っていなかった項目を自分でポチポチと打ち込むとヒューストンの端末が震えた。
自分の端末を見るとアプリの通知、いいねが来ましたというものだ。
通常なら結ばれる可能性があるもので喜ぶべきなのだろうが相手を見ると当然のように相手はテキサスだった。
「なんで目の前の本人にいいねしてるのこの人!?」
「お前も早くいいねを押せ」
「やらせマッチングさせるんじゃない!さては出会うつもりがないなお嬢!」
果てに端末を奪われかけるがなんとか死守をしマッチングは避けられた
「あー、うん。なんていうか、うん…」
「エリジウム、言葉が詰まってるぞ」
「ヒューストン殿…なんとお言葉をかけるべきか…」
シュヴァルツは端末を弄り始めていたが終わったのか端末をしまった
するとヒューストンの端末が通知を知らせる。
「通知が届いておりますが」
「えっ、通知ぐらいまた後で…」
「見なさい」
「は、はい」
強い圧に負けて端末を見ると放置していた例のマッチングアプリにいいねの通知、「テキサスさんとシュヴァルツさんからいいねが届きました」と記されていた。
「え、なんで?」
「そういうことです。どうですか、これから食事でも」
「えーと、お誘いは嬉しく…」
「嬉しい、そうか嬉しいのか」
後ろからとても低い低い聞き慣れた声が聞こえた。
反応する間も無く後ろから抱きついてきたかと思えばそのまま後ろからループス特有の耳、左耳に自前の犬歯を突き立てた。
ループスは個体にもよるが少し犬歯が長いものがおりテキサスはそれに当てはまり、ヒューストンは後ろからどこからそんな力があるのかと聞きたくなるほど力強く抱きしめられる中、彼の左耳は歪な穴を開けられた
「いっ、なんでだよ!?」
突然の奇行にその場で少し跳ねる程度しか対抗策がなかった。
テキサスは意に返さず自分のつけているイヤリングの一つを彼の耳に取り付けた。
「絶対に渡さない。私のものだ」
「残念ですがそうはいきません。安心してください、それは残してあげますよ。私は寛大なので…気が変わらなければ、ですが」
シュヴァルツに向け威嚇するように睨むが同じく彼女も睨み返した。
「テキサスー、仕事行くよー!」
外からエクシアの声が聞こえて「決着をつけてやる」と言い残し去っていった。
シュヴァルツはその背に向けて「その必要はありませんよ」と冷笑するようにいい放つ。
「私は失礼します。それと…ご存知かもしれませんが私はしつこいですよ」
そう言い残し「ご機嫌よう」と言い残し立ち去っていった
とんでもない現場に同席したものたちは、哀れなこの男に同情の念を送る他できることはなかった。
当の本人は滅茶苦茶痛そうであるためそれどころではなかった。
着けられたイヤリングは彼の血で妖しく光を放っていた