「ううぅ…ヒュ〜ズ〜…!」
「あぁお嬢、また転ばれたのですね。よしよし」
彼が若く、主人であるテキサスがまだ幼き頃のことである。
よく走っては転んでわざわざヒューストンの下へ行って彼を呼んでは泣いてを繰り返すことが多かった。
父親とはなかなか触れ合えず、母親は物心がついた時にはもういない。
そんな家庭環境に生まれた彼女に少しでも寂しい想いをさせないためにヒューストンはできる限り尽くして身の周りの世話をしていた。
一部の人間からは過保護すぎる、ご令嬢になんと不遜ななどと言われているが気に求めず今に至る。我組織から信頼を得ている幹部候補ぞ。
「うぅ〜…」
「ほらお嬢様、もうすぐおやつの時間です。それまでに泣き止んでクッキーをいただきましょう?」
「…うんっ」
幼きテキサスを抱っこしたまま食堂へと向かい午後のおやつタイムを迎えていた。
数十年後
「ただいま…」
二人はペンギン急便の一員として龍門に居を移した。
シラクーザでの一連の騒動は辛いものがあったが彼女も彼も退屈しない仲間たちに囲まれた幸せな生活を送っていた。
「チェニー、お帰り」
マフィアだった頃を思い出すのが嫌だという彼女の強い要望でフランクな口調で接する関係になっていた。
ヒューストンはひと足先に上がり帰宅して食事と入浴の準備を済ませ彼女の帰りを待っていた。
何も言わずにずんずんと彼に近寄り体当たりとも言えるほど強い勢いで迫る。
「来たか」と察し抱擁の体制を若干踏ん張りながら構えるとそこに収まるように突っ込んできた。
変わらない。幼き日より嫌なことやショックなことがあるとこうして突っ込んでくるのだ。
その衝撃により胸部にやってきた勢いは彼の肺の空気を勢いよく吐き出させた。
「お゛ふっ…いつも良い勢いだ、何があったんだい?」
「うぅぅ〜…!」
「ほらほら、ご飯にするかい?それともお風呂?」
「よしよしがいい…」
「あぁ重症だ。これは結構やべえことあったな」
涙声で彼の筋肉質で大きな胸に頭をぐりぐりと押し付けてくる様子を見て彼女を横抱きにしてソファーに腰掛けテキサスはそのまま横になりヒューストンの腹に顔を埋めて泣き始めていた。
「…えくしあとけんかしちゃった…!」
「あー…カッとしちゃった?」
「…うん」
「売り言葉に買い言葉やっちゃった…?」
「うん」
「もういいとか言っちゃった?」
「…いわれちゃった」
「そうかー…チェニーも何かしちゃった?」
「…口喧嘩で勝てないから広辞苑で殴った」
「なにしてんこの人」
「語彙で殴ってるからギリギリ口喧嘩だと思って…」
「それはギリギリでもないし、口喧嘩ではないよ」
かつて若き頃の自分が「語彙で殴ってるから口喧嘩!」などとやったことがこんなところで影響してしまうとは思わなかった。
とりあえず落ち着かせてから謝る様に説得をしてもらう他ない様だ。
「チェニー。それは普通に殴ってるから、良くないことなんだ。それと俺の悪いところばかり真似するのはやめような」
「…ヒューズにわるいところなんかない」
「あーっ、えーと…エクシアと仲直りしたい?」
「…うん」
「じゃあ、謝れるかい?」
「…がんばる」
「よし、じゃあご飯でも食べて、お風呂にはいって寝よう?」
「…ヒューズがわたしの身体を洗って食事も食べさせて…」
「あぁダメだ、結構深めのバッド入ってますねコレ」
普段のクールな佇まいでは想像もできない程ダメダメになり抱きついて離れないテキサスを運んだ。
一連の事を終えなんだかゴネて眠ってくれないテキサスに幼い頃より多用してきた子守唄を歌ってようやく寝静まったところでソラからの連絡が来た。
静かに部屋を出て電話に出ると心配そうなソラの声がスピーカーから聞こえてきた。
『あ、遅くにごめんねっ。テキサスさんと会った?』
「あぁ、もう寝てる」
『そっか…帰る時、凄く怒ってるっていうか…そんな感じだったし、エクシアも今…』
「あー、事情は一応聞いたからな…エクシアはいるか?」
『うん…代わる?』
「頼む」
エクシアを呼ぶ声が聞こえ交代した声はむすっとして不機嫌を隠しきれていない様子だった。
『…なに?』
「あー、まずは広辞苑で殴った事を俺から謝らせてほしい。アレは俺の影響があってやっちまった事だから俺からも謝りたい」
『…ヒューズは悪くないよ』
「ありがとう。できればキミからの話を聞きたい」
『…私も言い過ぎたと思う。でも…』
そこから何が原因でどう発展したのかを話し始めていた。
なんだかんだ悪い事をしたと思っていて広がるテキサスの良いところ話、彼は「よくわかってる」と心の中で激しく共感した。
先ほど入浴中に聞いた「…すまないと思ってる。エクシアは…」とベタ褒めしてた事を伝えると照れ始め「ストップストップ!」と止められる一瞬沈黙が流れる。
「仲直りできそう?」と聞くと「…うん」と返事が返ってきた。
そうと決まっては翌日早速その場を設けて仲直りをし、いつもの彼女たちへと戻っていった。
喧嘩の理由はクソほどしょうもなかったので二度とやるなと心の声で済ませた。
「「何か酷い事考えた(だろ)?」」
「言ってないからセーフです」
「ヒューズ!!」
「うわっ、もうなんだい今度は」
「ラップランドに絡まれた…」
「日常茶飯事だろそれ」
「もう嫌だ、耐えられない!あの顔が無駄に良い戦闘狂で頭のイカれたヒトリオオカミをどうにか地獄に送ってくれ!!」
「口悪っ、誰せいだよコレ」
「キミだよ」
「あんさんやろ」
「ヒューズのせい」
「僕もそう思いますよ」
「どう考えてもオメェだろ」
「今帰ってきたけどキミのせいだと思うよ」
「ログを確認したところ、ヒューストンさんの影響である可能性が非常に高いですね」
「なんだよ、みんな寄ってたかって…」
「ぐすっ…ヒューズ、どうにかしてくれ…」
「何されたんですか本当に」
「セクハラされた…私の身体をやらしく見ながら舌なめずりして…ひぃぃ…」
「あぁついに野郎自分の性癖に素直になり始めたな」
「ヒューズ…慰めて…」
「お嬢。皆さんが居られますし、もうそんな慰めるなどと言う事をしなくてもあなたは━━━」
「おい」
「はい。よしよし、怖かったねー?」
「うん…」
「コイツらもしかして結構手遅れなんじゃねえのか…?」
「まぁ、そんな感じだよね」
「あぁ…私の中のテキサスさんが…」
「テキサス〜!!!!キミの(聞くに耐えないセクハラ攻撃による精神破壊)」
「ひぃっ!?」
「広辞苑を喰らえッ!!」
「ヒュ〜ズ〜!!」
「いつか絶対来ると思いました。ドクターと喧嘩でもしましたか?それとも…」
「…ドクターとけんかした」
「えぇ、もう…結婚したのに安心できない人だなぁ…とりあえずココアでも飲んで、落ち着いて」
「うん…」
「ドクター、何があったんですか?あんたの嫁さん泣き過ぎて話ができない感じですけど…」
『やっぱりキミの下に行ったか…あー、うーん。実は…ちょっとね…』
「…あぁ、よかった、地獄に送ってやるような内容じゃなくて」
『えぇ!?』
「いや本当に…お願いしますよ…」
『善処する…』
「わぁああああああん、ヒューズおじちゃあああああん!!!!!お父さんもお母さんもひどいよぉーっ!!!!!」
「ふぇええええええええ、おじちゃん、抱っこぉ〜〜〜!!!!!!」
「遺伝しちゃった!!!!!!!!!二人ともおいでおいで〜〜!!!!!!!!!!」
「まさかあの子たちまでここに来てしまうとは…」
「…完全に私の血を引き継いでしまった」
歴史は繰り返される。━━━三代ほど後のテキサスの血を引く者より