三下とテラの日常   作:45口径

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ソラ先輩の話その2なので初投稿です


三下と頼れる先輩 その2

「こんにちわー! ペンギン急便です!」

 

「あらまぁ、ソラちゃんこんにちわ!」

 

早速到着した配送先は小さな飲食店だった

どうやらよくこのペンギン急便を利用してくれる客らしく親しい挨拶を交わし世間話が始まった

 

「ところで、そっちの彼は? もしかして噂の新人さん」

 

「そうなんですよ! 昨日入ったばっかりなんです!」

 

「初めまして、ヒューストンと言います。 よろしくお願いします」

 

正直風体があまり世間に馴染めるものではないため客の前に出ることを躊躇っていたがソラに促されるまま着いて行った

怖がられたり敵意を持たれるか心配だったが杞憂だったらしい

 

「まぁ、珍しく礼儀正しい男ね! 龍門っていうよりこの辺じゃそんなの居ないからねえ」

 

「ホホホ」と笑うご婦人は手を振りながら楽しそうだ

 

「あらやだ、あんまり引き止めるのもダメね。 またお願いするわね!」

 

「それじゃ、またのご利用お待ちしてますね!」

 

車に戻り次の配達先へと確認し出発をする

世間話程度に「お客さんと仲良いんすね〜」と話題を振ると「うん、いい人なんだ〜」と先ほどの客のことを教えてくれた

 

道中も似たようなモノだったがやはりこの組織の客層は良さそうだ

時にソラがアイドルと知ってか、はたまたか弱い女性に見えるからだろうか引き留めていい寄る質が良くない客にも遭遇したがそんなものはごく一部で『ぶん殴るぞ』といった表情を器用に駆使して追い払える小心者ばかりだった

 

半日もしないうちに荷物を届け切りあっけなかったがおそらくタイミングが良かったのだろう

定期便というわけではないから偶然仕事が少ないというだけでコレから1日かけて配達、または違う移動都市に配達する仕事も来るだろう

 

「呆気なかったっすね」

 

「今日は少なめだったからね〜」

 

「そういや一個だけデカい箱が余ってますけどアレなんです?」

 

「それはね…コレから行くところで使うの」

 

確認した時に持ってみたが大きさにしては軽く伝票もないため怪訝に思っていたがソラは楽しそうだ

 

長年の経験であの手のものは碌でもないと辺な勘繰りをしてしまう

大量の違法な葉っぱだったり偽札の原本を隠すために綿が詰まっているとか勝手な妄想が頭をよぎる

 

俺はこの手のことから逃れられないのかもしれない、しかしお嬢が上ということであれば幾分かマシだが自分の感情としては複雑なものだった

 

「ここだよ」

 

ついたのは少しひらけた広場のようなところだった

車を降りてソラは息を吸って、吐いてを少し繰り返した

 

「みんなー! ソラちゃんが来たよー!」

 

響き渡る通りの良い、心を躍らせてくれる活気のいい声が木霊する

 

するとわらわらと元気よく子供達が出て来た

それに続くようにその親と思しき人物たちが追ってくる

先ほどの箱を開けると沢山のお菓子が入っており子供達に配っていた

 

この時ほど自分の生き方を恥じたことはないだろう

彼女は純粋に、子供たちを、報われない人々を笑顔にして来たのだ

自分はどうだ、時に危ないものを運びその後は知ったことじゃない、不幸になろうがどうでもいいのだ。こちらの利益になればいいだけだと考えて生きて来た

 

彼女は利益なんて考えていないだろう、一人の龍門に生きる人間として、この地に生きる人間として少しでも彼らに、それこそ感染者だろうが貧乏人だろうがなんだろうが関係ない、報いようとしている

 

それは彼らと、彼女を見て感じた

あの幸せそうな空間に、少し入りづらかった

だがふと後ろにいてなかなかお菓子を取れない子供たちを見つけた

彼は勢いに任せて、少しの真似事でもしてやろうと、少しでも手の届かない彼らを報いてやろうと決意した

 

「ソラ先輩、失礼します」

 

「え?」

 

お菓子の入った箱をとり車のルーフに乗って声を張り上げた

 

「よーし、ガキンチョども! 受け取れ!」

 

入っていたお菓子をばら撒き後ろにいた子供たちに配る、当然配る分量を間違えないようにぶんなげた

 

「俺はペンギン急便、新入りのヒューストンだ! よろしくなぁ!」

 

彼は笑顔でばら撒き続ける

それを見たソラが「負けてられないね」とアカペラで歌い始めるとみるみる人が集まり始め小さなライブコンサートが始まったようだった

 

沸き起こる歓声、笑顔の人たち、感極まってソラを呼ぶ声

 

彼女が、彼女だからこそできることを片鱗だがこの目にすることができた

それだけでもなんだか感動していた

今朝テキサスが言っていた、「変えてくれるさ」という言葉に嘘はなかったと同時にこんなに早く魅せられるとはと案外軽いノリだなと考えていた

 

盛り上がりが最高潮に達した時だった

ふと不穏な影が見えた、一つや二つではない

 

その影は段々と人混みを掻き分けてやってくる

間違いない、敵対組織の人間だろう

 

ついにソラの前まで来たかと思えば明らかに敵意を持って襲いかかって来た

そんなことをさせるはずもなく、割って入り顔面を力いっぱいにぶん殴ると「ぶべっ」という声が聞こえた気がしたが気のせいだろう、どうでもいい

 

「悪いな! こっからはヒーローショーだ!!」

 

次々と襲ってくる刺客を千切っては投げ千切っては投げという言葉のように、ぶん殴っては投げぶん殴っては投げを繰り返す

 

もはや一種のエンターテイメントなのか「いいぞペンギン急便ー!」「やれやれー!」と応援まで入って来た

 

粗方倒して一旦落ち着いたところで場の空気がが高揚しておりヒューストンはどこかのカンフー映画のようにポーズを決めた

 

「ホワチャァーーーーー!!!」

 

「あははははは! ダッセ!!」

 

「新人さんカッコ悪いー!」

 

「カッコ悪いだってェーーーー!?!?」

 

荒事が目の前で起きているというのにまるで映画のワンシーンでありお笑いのような空気感、嫌いなんかじゃない

しかし長居していると追撃が来てしまう

 

「じゃあなお前ら、また来てやるからな!」

 

「みんなありがとう!! またねー!!」

 

急ぎ車に乗り込みエンジンを始動し別れの挨拶を助手席の窓から乗り上げてたソラも身体を引っ込めて歓声を浴びながら全速力でその場を発つ

それを追うように数台の車が追いかけて行った

 

「ペンギン急便の新入りの話、本当だったんだな」

 

「でも変なやつだったなー」

 

残された群衆は祭りの余韻に浸りながらその場を後にした 




まだまだ続くんだなその3で

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