お気に入りやUA、誤字修正など大変ありがとうございます。
なんだかんだといつもの倍ぐらい書いてながったらしいですがよろしくお願いします…
お嬢、私とは短い間ですがお別れになります。
大丈夫、私がいなくとも貴女はやっていけます。
望まぬことなどということは存じております…私めが無力なばかりにこのような事になってしまったことを心苦しく思います。
サルヴァトーレ様然り、レオーネ様然り、貴女様のご成長をご期待されておられます。
しかし忘れないで頂きたいのです。
あなたは確かにマフィアの人間ですが、それ以前に一人のチェリーニアということに。
どんな文化があろうが掟であろうが、ひとりとして生きる以上、己の意志を持ち自身で答えをお掴みください
私、ヒューストンはあなた様が一人のチェリーニアで在られることを願っております。
テキサスは勾留中、かつてのことを思い出していた。
彼女のお爺様からシラクーザで我々のルーツを学べという言葉、父親のクルビアにおけるあり方、ヒューストンの自分らしくあれという言葉。
ふと、扉の外に気配を感じた。
「誰だ」と言うと扉から現れたのはラップランドだった。
「やぁ、チョコレートを持ってきたよ。食べるかい?」
「シラクーザの監獄はセキュリティがなってないようだ」
「だけど他の都市よりはしっかりしてる方だよ」
中へと入ってくるラップランドを拒みもせず無言でチョコレート菓子を受け取ると一瞬、テキサスが怪訝な顔をした。
一口齧ると、それは彼女の好みのフレーバーだった。
「アハハッ、てっきり追い出されるかと思ったよ」
「お前を追い出す労力に比べれば、無視する方が楽だからな。私の邪魔をしなければ好きにしていい…それに聞きたいことがある」
「とっても感動したよ、テキサス! ボクとの付き合い方をすこしずつわかってきてくれてるんだね! それで、聞きたいことってなんだい?」
「…お前が選んだものじゃなさそうだな」
食べているチョコレート菓子のパッケージを少し振りながら聞いた。
「そんなことわかるんだ?」
「あぁ」
口に含んでいた一口を飲み込むとラップランドの胸ぐらを掴み壁へ叩きつけた。
少し咳き込みにぃっと笑う彼女をテキサスは睨む。
「酷いなあ、なにをするんだい?」
「なぜお前から煙草の匂いがする?」
「チンピラが吸ってたタバコがついた、とかは?」
「…聞き方が悪かったな。何故、彼の、煙草の匂いが、お前からする?」
強調するように言葉を区切り問い詰めるが笑顔を崩さない。
むしろ聞いて欲しかったと言わんばかりだ。
「言わなかったかなぁ?…奇跡が起きてるんだよ」
「奇跡…だと?」
「そうだよ。死者が歩いているんだ。まるで安魂夜で消えゆく魂が、この世に戻ってきたかのようにね」
「信じると思うか…?」
「キミをここから出すことをお願いされたんだ。もちろんボクもその気だったけどここに居たければいていいと思うよ、後は彼が解決するだろうし」
テキサスは信じられなかった。
この狂人が私を惑わそうと妄言をのたまっていると。
しかし、それがもし本当なら?
どれだけ待ち望んだだろう、どれだけ頼りになるだろう。
どれだけ、この途方もない寂しさを埋めてくれるだろう。
ラップランドを解放すると彼女は続ける。
「で、どうするんだい?」
「…看守は?」
「寝てるよ。勤務中なのにいけないなあ」
テキサスは外へと駆け出しその場から消えた
「キミってば、すごく慌ててるね。ボクから話すこともあったけど、まぁいいか」
ベッドに置かれているチョコレートを箱から取り出し一口齧る。
それは彼女の嫌いなフレーバーだった。
ラヴィニアは拘束され放置されていた男を尋問していた。
冷静な殺し屋は三年ほど前、裁判官として活動し彼女が感銘を受けるほどのスピーチをした男だった。
家族を家ごと燃やされ今は殺し屋として生きて先日の襲撃における重要人物であったが、今はもう亡き者となり横たわっていた。
「ラップランドめ、面倒をやらせてくれるな」
ヒューストンが現場にたどり着いた頃にはラヴィニアが襲われており現場は混乱していた。
刺客の脇をとり手榴弾を投げ込んでボウガンを構える。
手榴弾は爆発し破片を撒き散らしながら数名を巻き込む。
続くクロスボウによる攻撃でこちらの位置を特定されるよう仕向けると注意がこちらへと向いた。
ラヴィニアの様子を伺うと既に姿はなく後退は上手く行かず、難航していた。
ラヴィニアと合流して後退を援護することにした。
「あなたは!?」
「敵ではない。アンタを逃す。それだけだ」
手榴弾を投げクロスボウで応戦をするが手勢が多いせいか中々刺客も後退せず応戦してくる。
本来ならばスモークグレネードを使い煙幕を張り逃げるところだが生憎の雨でそうは行かなかった。
ヒューストンが敵の矢を受けるがボディーアーマーで防がれる。
衝撃は逃がしきれず転倒してしまい大きく隙を作ってしまう。
「クソッ!」
もう目の前まで迫り武器を彼に振り下ろそうとしている敵にクロスボウを向けると、目の前にそれを阻むように黒い影が差し込まれる。
目の前の刺客はその影によって倒される。
長く艶のある黒い髪、昔のテキサスファミリー式のデザインのスーツ、2本の装飾を施した剣
見間違えることなどない、チェリーニア・テキサスだった
彼女は振り向き彼の胸ぐらを掴みラヴィニアのいる遮蔽物へと一気に引っ張った。
「テキサスさん!?」
「ここにいろ。…立て」
差し出された手を取り立ち上がった
「…側面から援護する。アンタは彼女を連れて…」
「ダメだ。矢の撃てないクロスボウなんか役に立たない」
テキサスの言葉に自分のクロスボウを確認すると弦が切れていた。
先ほどのクロスボウがおそらく弦も切った上で彼のボディアーマーに当たったのだろう。
「私とお前で奴らを切り尽くすぞ」
「…了解した」
「続け」
クロスボウを捨て拳銃とナイフを取り出し一瞬敵の位置を確認し顔を合わせて同時に頷いた。
一気に飛び出す。
拳銃で優先的に飛び道具を使う物を狙い、テキサスがどんどん前に進み敵を薙ぎ払う。
その後ろを守るように追従していく。
その戦いは一種の乱舞、ダンスのように軽やかで鋭い攻撃だった。
被害が甚大になってきた頃を見計らい敵は撤退を始め場は静まり返った。
残心を忘れずに背中合わせで周囲の索敵をするがどうやら危機は去ったらしい。
その場を去ろうと足を少し上げただけだった。
コートをがっしり掴まれ振り向かされ肩を掴まれる。
2本の剣が地面に落ち金属音を鳴らす。
「何処へ行くつもりだ?」
見上げてくる彼女の双眸が彼を逃さない。
まるで蛇に睨まれた蛙のように彼は動けなかった。
一瞬の静寂、鳴り止まない雨音、見つめ合う二人。
「ヒューストン…本当に、お前なのか…?」
「…今はただの余所者、そういうことにしておいてください」
彼の素性を隠す事情を彼女は問わなかった。
ただ黙って彼を強く抱きしめ離れた。
「…協力に感謝する。行こう」
流れ出そうになる激情を抑え、僅かながらに流れる涙は降り注ぐ雨によって流される。
ラヴィニアの元へ向かうと本来尋問するべきであった男の側にいた。
男は心臓を貫かれており、絶命していた。
弔うように目を瞑り、安らかに眠らせるように瞳を閉じさせた。
こちらに気づいた彼女は立ち上がり2人に向いた。
「…ありがとうございます。あなたたちがいなければ、死んでいたのは私でした」
「気にするな…それは?」
ラヴィニアの手に握られていたのはシラクーザの裁判官であることを証明する手帳だった。
彼女がそれを確認すると角が切り取られ汚職により資格を剥奪された節の書き込みだった。
「汚職…ね。よくもこんなことが書けたものです。もっとまともな口実を用意できなかったのかしら?」
彼女は怒りを露わにした。
その怒りは理解できるが、彼女たちにかけられる言葉はなかった。
きっと、同じ裁判官だったこの男に思うところがあるのだろう。
「…大丈夫か?」
テキサスの言葉に深呼吸をし、心を落ち着かせた。
「…それより、まずあなたがどう監獄を出たのかを聞かせてもらいたいですね。それと、あなたのことも」
「企業秘密だ」
「敵ではない、ただの余所者だ」
「…二人揃って、寡黙な方なのはわかりました」
そう誤魔化すもラヴィニアは今は言及する気がなくそれ以上聞かなかった。
手がかりのこと、カラチのこと、時間がないこと、シラクーザのことを語る。
今起きている問題も、この地における問題も、彼女にとっては自らの法というものを憂いていた。
食事にでも行かないかというテキサスの誘いに乗りいつもの飲食店へと向かう。
飲食店へ入るとレオントゥッツォがいた。
ラヴィニアが襲われた知らせを受けてこちらへと駆けつけてきたのだ。
「無事で何よりだ…そこのアンタは一体誰だ?」
「テキサスさんと一緒に助けてくれた人よ。どうやら敵ではないわ」
二人の後ろに控えていたヒューストンが小さく頷く。
レオントゥッツォも怪訝な表情で彼を見つめるがラヴィニアを助けてくれた一人ということでお礼を言い本題へ移った
手を引くこと、命を粗末にするなという忠告、犯人の調査のこと、ロッサティとの対話のこと。
ラヴィニアも対抗するように話す、調査をし犯人を突き止めること、カラチの死のこと、自らの意思を背いてきたこと、互いに譲るつもりはない。
「もし、私の命と引き換えに、何かを得られる
ことができるなら少しは楽になれるのかもしれない」
「…俺がクルビアから学んだのは…他人に言うことを聞かせたければ、暴力よりも利益の方が有利な時もあると言うことだ」
「時間の無駄だ」
それに横槍を入れたのはヒューストンだった。
2人の会話を遮るように割って入る。
「…アンタの意見は求めてない。確かに彼女を助けてくれたことは感謝してるが今は━━━」
「あぁ、わかってるとも。協定だ和平だ定めて血を流すのをやめましょう。あぁ理解できるとも。だがそんなことをしてもただの先延ばしで、できる限りのあらゆる手段を尽くしても結果的に暴力が起きる。それが人間だ」
煙草に火をつけ煙を吐き出す。
「ましてや、現状は敵ってヤツは誰かもわからない。自分は幽霊に首を絞められてるってワケだ」
「確かに、どのファミリーが何の目的でこんなことをしているかわからない。アンタは思考放棄して短絡的に暴力で解決したいだけだ、獣のようにな。その方が考えることが苦手そうなアンタには楽だからな」
「忘れるな。お前のその対話とやらも暴力によって築かれた上に立っているとな。それと俺も血を流す必要がないにことに越したことはない。思った通りにコトが進めるなら、誰も神頼みも、人を疑うことも暴力も、ましてや世にファミリーなんてもんすら必要ないだろう」
「結局、何が言いたいんだ?」
「時間がない。まずは目の前の面倒ごとを片付けよう。余計な、死ぬべきじゃない人間が死ぬ前にな。でっちあげはお得意だろ?」
煙草を吸い切り吸い殻を灰皿へと捨てた。
「俺がこの事件の犯人になって、本物の犯人を誘き出そう。そうすれば本当の犯人が━━━」
「いや、待て」
テキサスが立ち上がりヒューストンを遮る
「その役は、私がやろう。私のテキサスの名前と、ベッローネの関係者という立場を利用する。他に適任はないだろう」
「…お二人の、同情からのご提案ならお断りします」
「誤解しないでくれ。自分のためにそうするんだ。お前たちの意見はどちらも正しい、だがヒューズの言う通り、死ぬべきじゃない人間が死ぬ前に状況を鎮める必要がある」
「ヒューズ…?」
「アンタ…ヒューストン、なのか…!?あの日よりも前に死んだと思っていたが…」
「…お嬢」
「すまない、つい癖でな」
「…俺の生死などどうでもいい。それで、やるんだろ?」
テキサスを犯人に仕立て上げ、名声を多少犠牲にすれば彼女を切り離すことで迅速に状況を鎮め黒幕を誘き寄せる可能性ができる。
「…リスクはあるが、妙案だな」
「危ない橋一つも渡れないものに勝機はない…だろ?」
「…よくご存知で」
テキサスはヒューストンを見ると少し呆れたような表情が口周りを隠した覆面越しでもわかる。
それに少しニッっと笑い返してレオントゥッツォに向き直る
「しかし、テキサス家の末裔が、そんなことをすればその名は完全に地に落ちることになるぞ」
「あぁ…構わない。私にはもうどうでもいいことだ」
「アンタは?従者として止めないのか?」
「彼女が決めたことだ」
「それに、私の目的はただ一つ、ベッローネとの契約を果たすことだったが…」
「それに関してはもうお嬢が気にすることはありません。先に龍門へお帰りを」
「だが…」
「これは私と、ベッローネ…と言うよりはザーロとの揉め事。奴のゲームとやらを終わらせて、とっととこの忌み地を去りますよ。それにはまず、この問題を鎮めなきゃなりません」
「…そうだな。だが帰る時は一緒だ。少なくとも、私だけ飛ばされるのはもう懲り懲りだ」
「その節は…」
少し恨みがましくかつてのことを少しだけ掘り返すとバツが悪そうな様子を見せる
「なぜ…そこまでしてくれるのですか?」
「ロドスという場所にも、そう考える友人たちがいてな。そんなやつらを死なせたくないのと同じだ」
「これが上手くいけば、黒幕を追い詰めることができるだろう。ようやくあんたらがこっちについてくれて良かったと思えてきたな」
「別に思われなくてもいいんだが」
「そうと決まれば裁判を大きくして、他のファミリーを黙らせられるようにしなければな」
「…あぁ、そうだ。ついでに俺はドン・ベルナルドにお目通りするとしよう…今回の契約について、だ」
「…それを含め段取りをしよう」
「さぁ、目にものを見せてやろう」
4人の意思は同じ方に向き、これが成功することを願って動き始める。
「ヒューズ」
「はい」
「…頼りにしている」
「さっさと帰って、パーティでもしましょう」
「ふふっ…そうだな。エクシアたちにもお前が起きたことを見せてやらないとな」
「…大変そうだ」
「そして今、私との約束を果たせ」
「…約束?」
「起きたら最高の一本を巻く。そういう話だ」
「…おっと、これは失礼を」
「ん」
「はい」
記憶が戻って意識もはっきりしている今、身に覚えのない約束を果たすというのも変な話だが、約束は約束だ。
その場で手際よく1本を巻き手渡すと彼女はそれをじっくり眺めていた。
完璧なシャグの量、崩れない硬さ、端正な見た目、完璧な一本だった。
テキサスがポケットから彼から借りていたライターを取り出し、心地良い金属音を鳴らし火をつけた。
紫煙を大きく吐き出しそれを堪能した。
あぁ、変わらない。
煙草の味を噛み締め求めていたものがようやく戻ってきた感動が巡る。
しかしまだ時ではない、これが終わったら思う存分気持ちをぶつけてやると決めた。
「…そういえば、龍門で散々約束を破ったり、私を出し抜いたな」
「…申し訳ございません。当時の私が何をしたか皆目見当もつきませんが、罰なら甘んじてお受けします」
「おい。気安く話せと約束したはずだ」
「…わかった。それよりも、それ大事に吸え」
「もちろんだ」
紫煙は雨に飲み込まれ、地へと沈んでいく。
全てが終わったら、きっと元に戻る。