三下とテラの日常   作:45口径

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三下たちとライター

「あっ、カタリナさん!」

 

「ただいま、ソラ。勉強熱心ね」

 

「あ、カタリナ!」

 

「お帰んなさい、カタリナはんもピザ食べへん?」

 

帰宅後、カタリナことジョヴァンナは帰宅して資料に囲まれながら数日後に控えている公演の練習に励んでいた。

 

数日後の公演のこと、しばらくここを開けるということ、3章のクライマックスについてのことを話している中、ふとソラが気になっていることを言葉にした。

 

「あまりにもヒューストンの事が美化されていて、なんだかおもしろくて笑っちゃうんです」

 

「…そうなの?」

 

「そうだよ、あいつこんなロマンチストみたいなことしないし」

 

「むしろドカーン!って暴れて誘拐みたいにした方がよっぽど説得力あるで」

 

「彼は確かに忠実な〜って感じなんですけどやっぱり私たちとあんまり変わらないっていうか、絵に描いたような固まりすぎた人ってわけでもないんです!」

 

「…そうなのね」

 

「脚本だとなんだか機械みたいで…私の中だともっと明るくて、自由な感じで、ちょっとおバカな人っていう印象が強すぎるせいかもしれないです」

 

「…なるほど、参考になったわ」

 

「いえいえ!脚本だとなんだかパッと現れてテキサスさんをロマンチックに攫う怪人みたいな感じだからあんまり想像つかないなって思って…」

 

「もうちょっと、脚色とかするべきだったわね…」

 

この『テキサスの死』は、テキサスがこの地を離れてからジョヴァンナ自らの心境を投影したと言っても過言ではない。

むしろぶつける相手がいなかったが故にこのような形で表したのだ。

 

ジョヴァンナはヒューストンとテキサスの関係をただ従者程度にしか認識していなかった故に幼少期の頃からの話など一切知らなかったのだ。

あの出来事からテキサスは死んだと思われていたがソラ達と出会い、ヒューストンとの邂逅、テキサスの生存を知り彼は本当に一種の怪人なのではと悩ませていたのだ。

 

「それで、この2人って、ジョヴァンナさんはどう思っているんですか…?」

 

「そうね…私は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、これはこれは…」

 

「…ベントネキシジオスさんではありませんか」

 

「お久しぶりです、ヒューストンさん」

 

テキサスが釈放されるまでできる準備をするべく目的地へと向かっていると、とある男に声をかけられた。

 

この男ベントネキシジオスとヒューストンは過去に龍門へと来ていた。

芸術雑誌の仕事で龍門に訪れ、ヒューストンに送迎兼護衛という形で仕事を請けていた。

 

これはまったくの偶然だったのだ。

この芸術雑誌の記者の歪な価値観が気に入り彼が龍門にいた数日は話を弾ませ時間を潰していた。

まさかこんなところで再会するとは思いもよらなかった。

 

「まさか、こんなところで再会をするとは」

 

「いやはや。偶然とは時に恐ろしいものですね」

 

ベンチに腰をかけ座り込む。

年季の入ったベンチは2人分の体重に少しばかり悲鳴を上げる。

 

「配送業の方は順調ですか?」

 

「今は休業中でね。私用で此処に来たんですよ」

 

「今話題のチェリーニア・テキサスの帰還に…あなたはとても深く関わっているとお見受けしましたがいかがでしょう?」

 

「…おや、ご存知でしたか」

 

「私は龍門で偶然あなたに会う前から、あなたを知っておりました」

 

ヒューストンが煙草に火をつけ、吸い始める。

 

「貴方はまだ、かつて話したようにしがらみから抜け出せず彷徨っているようです」

 

「あの時と同じように、彼女に仕えてきたことが貴方には私の後悔に見えると」

 

「迷いや惰性とも取れますし、諦観というものも見られます」

 

「一種の妥協や言い訳とも?」

 

「相違はありません」

 

「まるで、俺をわかっているような口振りだ」

 

「そんなことはありません。ただあなた自身も知りたいのでは無いでしょうか。本当を、自分の心からの願いを」

 

「オルブライト・ヒューストンはチェリーニア・テキサスに仕えてきた三下の灰皿、それはこれからも変わらない。チェリーニア並びに仲間の皆が幸せになることを願ってやまないただの男で間違いないと思っていたが」

 

「それはあなたの役割と目標、言わば文化と言うもので揶揄されるでしょう」

 

「しかし本当のものではないと?」

 

「私なりに言うならば文明という名の虚飾、本心を使命という名目でひた隠し文明で飾りつけたものなのかもしれません」

 

「オルブライト・ヒューストン自体が嘘という文明で、本当の願いを持った俺は荒野のどこかにいるとでも?」

 

「それはどうでしょう。確かめない限りは答えは見つからないでしょう。それもいいかもしれません」

 

煙草は燃え続ける煙をあげながら葉と紙を灰にし続ける。

 

「あなたの心は…答えを求めて荒野を彷徨っているのかもしれません」

 

「全てから解放されたいとか、知らないことを知りたいとか、無くしていた何かを探して生きろと。まるで自分の生き方の誤りを知れとでも言いたげじゃあないですか」

 

「重要なのはあなたがどう捉えるかです。貴方はあるのかもわからない目的地を探して彷徨う。自分の知り得たい答えを探して」

 

「まるで自分探しの旅だ。そんなことしたって何か在るはずもない、ヒューストンは今を生きる、過去などない」

 

鼻で笑い煙草を指で弾くと水溜りに落ち、火は消える。

 

「今こそ向き合う時ではないでしょうか。あなたの母のこと、嘘と泥に埋められていてもなお存在するあなた、シンシア・ローグライトのことを」

 

「…まさか、あなたからその名前を…俺の名前を聞く事になるとは」

 

「あなたの母、マリー・ローグライトは心待ちにしておりました。あなたの成長を、旅立ちを、別れを」

 

「初耳ですよ、アンタと母さんが知り合いだなんて」

 

「彼女ならびに私も、あなたが望むままの答えを見つけられることを切に願っております」

 

「そうかい、そもそもあればいいなそんなもんが…ありがとう、自殺志願者のベントネキシジオスよ」

 

「気にすることはありません。死をも騙す、我が友の息子よ…さようなら」

 

「さようなら」と振り返ることなく立ち去るヒューストンを、彼は見送った。

 

「私にできることは、もうありません」

 

ベンは彼とは反対の方向に向かって進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

テキサスは裁判所での一連の騒動あと再び勾留され釈放を待っていた。

手にはいぶし銀のオイルライターが握られておりそれを暇つぶしに開けたり閉めたりを繰り返している。

ボディチェックを受けた時に没収されていたがラヴィニアに頼みこれだけ持ち込ませてもらっていた。

ヒューストンが時折見せてくれたトリックを真似てちょっとした芸ができるようになっていた。

彼からそのまま預かっていた年季の入ったライターを見て自然と笑みを溢していた。

 

遂に帰ってきた彼と帰った後何をしよう。

龍門に帰ってからも忙しそうだがそんなことは後で考えればいい。

食事やちょっとしたお出かけ、寝ている間に言い聞かせていた好きそうな店、ペンギン急便の皆とドライブすることなど考えていた。

 

しかし、時折頭をよぎるこの地での出来事が彼女から笑みをなくす。

今起きている出来事、過去にあった脱出劇、後ろ髪を引いてくるテキサスの名前。

 

ラップランドはこの地を泥沼と形容しており、テキサスとしてもこの地は根が深く変わることなどないと思っている。

 

かつてサルヴァトーレの孫、テキサス家の末裔、誰よりもシラクーザ人らしいという周りの評価。

シラクーザでもクルビアでも掟や権力における血と暴力の怨嗟。

 

これらに纏わる事柄に心から疲労しきっていた。

彼女が一瞬とも言える間だけでもファミリーのドンになったのはヒューストンのためだった。

 

父が殺されたのをきっかけに実行犯を殺し周る事をしてファミリーから反感を買い見せしめで殺させないためにドンとして君臨し無理矢理にでも彼の命が絶たれることを阻止するために、親や教師、ファミリー以上に親密で大事な彼に生きていて欲しかったのだ。

 

テキサスとして在ることを選び、冷徹で傲慢な振る舞いをして来たが、結果彼女の心は壊れかけていた。

いっそのこと彼と逃げ出してしまえばどんなに楽かと常々思い始めて来た頃、悲劇が起きた。

 

かつて参謀に置いていた人物が謀反を翻しテキサスファミリーは滅びたのだ。

 

あとで知った話だが父を殺したのは彼女の祖父のサルヴァトーレの指導もあったこと。

その彼はあの日に粛清と称した暗殺で命を落としたこと。

父はクルビアで得た風土や技術を用いて利益を得ようとしていた結果殺されたこと。

 

しかしそれを知った時にはもうすでにどうでも良かったのだ。

肉親以上であり、彼女の半身とも形容して来た男との別れにより彼女の心は一度壊れていた。

 

しかし最後に彼が言った「生きろ」という言葉の通り、目的地のない旅の末龍門に辿り着き、賑やかな仲間たちと共に過ごし心の傷を少しずつ癒していた。

 

しかしどこか埋まらないものがあった。

それはヒューストンがここにいてくれたらという願望、叶わぬ夢だった。

 

そしてあの日に、その願いが叶い彼女は救われたのだ。

 

そうして思い返していると扉が開かれる。

ラヴィニアがやって来た、内容は今回の件についての謝罪と、ロッサティファミリーの面会のことだった。

 

「…今回のこと、ごめんなさい」

 

「謝る必要はない、それに今回はこいつがあっただけで随分マシだった」

 

手に持ったライターを器用に弄び心地よい金属音を鳴らして蓋を開ると火をつけた。

ゆらゆらと揺れる炎は強く、決して消えないもののように思えた。

 

「…すぐにここを去ることも可能です。手続き上容疑は晴れていますが…」

 

「そうだな…お前は諦めないんだろう?私もここで休んでいるわけにはいかない…それに彼が居るんだ、一緒に帰ると約束したしな」

 

カラチの死の真相、ラップランドが本当に殺害したのか、この件に潜んでいる真実。

ラヴィニアにとってはまだ諦めるには早いことだった。

 

「わかりました。それではロッサティの方に面会を」

 

「あぁ」

 

蓋を閉じ火を消してポケットにライターをしまった。

同時に空いていた手でラヴィニアのポケットに何かを入れ込んだ。

それは番号の羅列と、幾らかの文字が書かれた紙だった。

 

『雨にも負けずお届けします。ペンギン急便』

 

きっと、先程見た小さくとも強く燃える炎は雨などでは消せないと思えるように、この言葉は信じる事ができた。




シラクザーノ、最終日ですね…
皆様は無事イベントを走りきったでしょうか?ということで初投稿でした…

いつもたくさんのUAやお気に入り、誤字修正、アンケートのご協力等ありがとうございます。

気が向きつつ蛇足など書いておりますが本編でこれは一体なんだい?と言った質問、リクエストなども募集しております。

感想や評価など本当に励みになりますので何卒この作品をよろしくお願いします…
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