三下とテラの日常   作:45口径

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三下と雨音が唄う夜

ジョヴァンナは事実上無傷だが今目覚められては困る、ロサッティやその他組織から彼女を狙う者たちからいつ気付かれてもおかしくはない。

ヒューストンの息がかかっている病院関係者に任せ近くの空き家に目星をつけてヒューストンがピッキングで扉を開け、簡易的な拠点を立ち上げた。

 

「……そんな器用なことができたのか」

 

「こちとら物乞いからやってるんでね。それとマダム・フラワーのとこいる時にも訓練しましてね」

 

「あっ、そういえばヒューズの傭兵時代の話聞いてないよね!?」

 

「追々話しますよ。さぁて、そろそろお暇の準備ついでにジョヴァンナさんを龍門へご招待するプランでも考えときますかねえ」

 

テキサスとソラからの情報共有でもはや借りはないが今度はヒューズ自身のザーロを引き摺り下ろすと言う課題が残っていた。

 

ひとまずはジョヴァンナの安全が優先のため1日寝かせ準備が整い次第脱出の予定だ。

 

場を和ませるための話題としてジョヴァンナを龍門へ招待する話は功を奏しやれ着いたら何から見せようかと談笑していた。

 

「……そういえば、ラップランドはどうするん?」

 

「……あいつは放っておいてもいいだろう。少なくとも邪魔はしてこないはずだ。」

 

「あのガキは……まぁ、おそらく直ぐにでも姿を見せるでしょうよ」

 

「ラップランドの呼び方結構ひどいじゃん。そんな嫌いだったっけ?」

 

「むしろ一周回って好きですよ。遠慮なく顔面を殴れる相手としてね」

 

あの劇場以来姿を見せないラップランドを少し懸念していた。

テキサスのために動いているのは確かだがまだ何かしら動きがあるかもしれなかった。

 

「ジョヴァンナさんを龍門に連れて行ったら…何からしようかな!」

 

「まず観光して、ボスにも合わせて…最後はやっぱパーティでしょ!」

 

「ブレへんなあ。でも概ねそんな感じやな」

 

「……まずは、此処を出ないとな」

 

「ジョヴァンナ嬢びっくりするでしょうよ。俺たちの生活を見たら」

 

「あっははは、確かにね!……ヒューズは…その、家族は…?」

 

「物心つく前か後にはもういないですぜ」

 

「いや結構幅ブレブレやん。たしかにヒューズの家族は気になるで、話ぶりからもうおらんのはわかるけど……やっぱマフィアだったん?」

 

「えぇ、幹部だったはずですが」

 

「……行く前に、墓参りの一つでもしておきたいな」

 

「お構いなく。教会にも墓地にも……俺の一家の墓はないんでね」

 

「えっ、なんで!?」

 

「そりゃ……当時は粛清対象でしたからねぇ。腹いせに壊されたんでしょうよ」

 

「うわーっ、それすっごいバチ当たりだね…」

 

「正直俺にとって此処には何もない。嫌な土地だってことだけですよ……お嬢」

 

「……どうした?」

 

「流れで脱出するみたいなこと言っちまいましたけど……本当の所どうです?」

 

それはこの場にいる全員が気になっていることだった。

確かに契約は終わりあとは帰るだけだがこのまま帰る事はどうにも、不完全燃焼と言わざるを得ない。

 

ジョヴァンナのこと、この地にいる助けを求める死ぬべきではない人間、ザーロのことなど考えればどうしようもないことばかりだがそれでも気になることが多いのだ。

 

「……私自身、早く龍門に帰りたい所だが…なんとも言えないな。ただ、ヒューズの言った通り此処はいい土地じゃないのは確かだ」

 

「此処の人は龍門のがめつい商人よりはマシ、ですけどね」

 

「クロー?アコギな商売してないよね?」

 

「せえへんわ!」

 

「クロ先輩、実はいい商材があるんですが…ちょいとアレなやつでして……」

 

「やめえや!うちの商会に悪い影響与えるやろソレ!」

 

「……かつてソラに売った写真の件、そういえば片付いてなかったな…ヒューズにクロワッサン?」

 

「あっ…えー、そんなこと…あったかいなあ?」

 

「すみません、寝てたんで身に覚えないんですよねー」

 

「……ダウトだヒューズ、ソラはもう隠し持ってないだろうな?」

 

「な、ない…ですよ?」

 

「あーっ!あったねそんなこと!」

 

談笑は途切れない。

こんなやりとりはいつ以来だっただろうか、此処へ来てから殺伐としたやり取りしかなかったため彼女達と、さらにはヒューストンも交えて行うことが、何よりも久しぶりだった。

 

夜も更け始め熱は少し冷め始め各々が眠りにつく中、ヒューストンだけは窓から病院周辺を見張っていた。

 

「……寝れないのか?」

 

「この地にいる限りは、安眠できないですよ」

 

視線を窓の外から外さず、テキサスがそばに寄った。

相変わらず雨は降り続けている。その雨音は、どこか弱々しく何かを伝えたい、知ってほしいと語りかけている気がした。

少し気恥ずかしそうに「ん」と煙草を要求するとこの前のような反抗的な事はせず煙草を巻き始め一本手渡した。

 

「フィルターが切れちまったんで、ちとキツいですが」

 

「構わない、ありがとう」

 

テキサスがオイルライターで火をつけ煙を吐き出す。

マッチで火をつけようとしたが湿気のせいで火がつかないヒューストンの咥えている煙草にも火をつけた。

だいぶ慣れてきたのか遠慮をする様子もなく素直に火をもらっていた。

 

「……まさかお嬢に火をつけてもらう時が来るなんて」

 

「……気分はどうだ?」

 

「……なんとも。同僚特権って事で、喜ぶべきなんですかね」

 

「ふふふ…そうだな、もっと喜ぶといい」

 

「それはそれは……で、ライターは返していただけないので?」

 

「悪いな……此処にいる間だけでも、貸してくれ」

 

「……まぁ、お好きに」

 

大事そうにライターを握り込む。

彼女にとってはお守りのようなもので預かってからずっと肌身離さず持ち歩いていた。

ふと思い立ったようにトリックをしてみせると心地いい金属音が響かせ火をつける。

成功したことを満足気に笑みを溢した。

 

「また覚えなくてもいいことを覚えられて…」

 

「…上手いだろ?」

 

「……お上手です」

 

金属音が再び響き火が消されるとその残滓かライターは少し熱を持っていた。

 

「……墓の話、本当なのか?」

 

粛清された後でも墓は残されていることがある。

テキサスに墓が最たる例だった。もっともジョヴァンナによって管理されていたものであるがため残っていたのだろうがそれでも存在しないなどと言うことがあるのかが疑問だった。

 

「……教会にいたアグニルの爺さんは無いって言ってましたね。ただ、教会と墓地にないだけなのでね」

 

「……あるんだな」

 

「ええ」

 

写真を取り出しそれを見下ろす。

写真には一人の少年と黒ずんだ何かがところどころ付着しておりその顔は伺えないが女性であることは確かだった。

写真の裏を見ると、掠れた文字の羅列があった。

 

「……その場所に?」

 

「遺骨があるとは思えませんね。調べないことには、なんとも……」

 

「行くんだろ?」

 

「……この件が片付いたら、場所だけでも」

 

「…付き合わせてくれるか?」

 

「……考えさせてください」

 

「あぁ、頼む」と答え静寂が訪れる。

眠る仲間達の寝息がはっきりと聞こえるほど静まり返り、外を見張っているも影の一つもない。

 

「……さっき此処に残るかを聞いたな。お前は……どうなんだ?」

 

「……墓次第ですね。気持ちは龍門へ帰る所ですが………」

 

「私の下を離れていた頃、どこかに定住しようとは思わなかったのか?」

 

「何処も良い悪いはそんなに変わりません……と言うより、何処の土地にも馴染めないってとこです。気が向いたら何処かへ消える、それだけでした」

 

「まるで放浪者(ボヘミアン)だな…龍門でもか?」

 

「俺がヒーロショーやる柄じゃないのはご存知でしょうに」

 

「ソラから聞いた時は傑作だった」

 

「……本当のところは、馴染み切れないだろうってとこです。堂々巡って結局最後は此処に戻るのかもしれませんがね」

 

「……私もだ…かつて龍門人になったかと聞かれてな…最後には此処に戻ると答えた」

 

2年前の安魂夜のあと定住し始めたシチリアファミリーの新しくボスになった人物に問われたことを思い出していた。

いつか、この地に決着のようなものをつける時が来ると理解していたのだ。

 

「今ならこう言える、私は龍門に帰ることを選ぶだろう…きっとお前もな」

 

「……人生、何が起きるかわかりませんよ」

 

「確かにな……私一人で荒野に放り出されたり、死んだと思っていたお前に龍門で再開したりな」

 

「そう言う話なら負けませんよ。親が死んで、全て失って、物乞いから始まって、ドンの御息女の面倒を見て、ファミリーから脱出して、傭兵やって……結局お嬢の下に戻ってペンギン急便で暴れて、2年も寝てただなんて……思いの外あっという間でした」

 

「説得力が違うな……ヒューズ……お前は、ペンギン急便に来て幸せだったか……?」

 

「もちろん……ただ俺は……俺も、過去に決着をつけなきゃならん1人なんですよ」

 

「そうか…そうだな……ヒューズ」

 

「えぇ」

 

「……おやすみ、ヒューズ」

 

「……おやすみ、チェニー」

 

テキサスはその場を後にしエクシア達が眠る隣の部屋へと移った。

エクシアの近くで腰を下ろして小声で話しかけた。

 

「……面白いものは聞けたか?」

 

パチリと目を開けにっこりとピースサインを作ると同じくクロワッサンとソラもピースサインを作り笑った。

 

「ヒューズ全然昔のこととか話さないから気になってたんだよね〜」

 

「えらい壮絶な出立やな、ほんまに」

 

「細かい話も聞きたいけど…話してくれるかな…?」

 

「話してくれるさ…いつかな」

 

テキサス達は再びだんだんと睡魔により段々と意識を落とし眠りについた

 

「……母さん」

 

写真に映る、顔の消えた人物へと言葉を零す。

色を忘れた思い出の景色も、聞こえなくなったあの優しい声も、救われなかった悲しみも、選べなかったかもしれない、運命だったのかもしれない。

この心を守ってた身体と、支えていたこの足で遂に此処まで来た。

 

知り得なかったものを知るために、本当の自分がいるか確かめるために。

 

今こそ、その時だ。

 

かつて、聴かされていた子守唄が雨音によって奏でられている気がした。

 

 




あと残すところも僅かなので初投稿です…
あとちょっと…お待ち下さい
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