就任演説とは名ばかりの告発を行い、せめてもの抵抗として扉を障害物で塞いでいたが相手は最も容易くそれを破り中へと入ってきた。
洗車工のダンブラウン、サルッツオからの差金だった。
引き金にかかった指に力をか撃鉄を落とそうとしたその瞬間、突如後ろの壁が爆発した。
小規模とはいえそれがもたらす爆風はルビオを転ばせダンブラウンは反射で爆風と破片から身を守るように腕で顔を覆う。
腕を下ろした瞬間2つの物体が爆破された壁の外から中へ侵入してきた。
一つはロープを使って乱入した見覚えのある男、もう一つは円筒状のものだ。
その2つが同時にやってきたときダンブラウンは自身に向かって迫る円筒状の物体に意識し身を守るために身を屈めると耳を劈く破裂音が連続して響き聴覚に不快な耳鳴りを残す
正体が殺傷能力のないフラッシュバンと知り立ち上がって侵入者の男に意識を向けるとルビオを抱えこちらを向いて何か言っていた。
彼は口の動きからそれを察していた。
『よう、また会ったな』
なぜ今まで理解していなかったのだろう、あの男はチェリーニア・テキサスのお付きの男ではないか。
そう思う頃にはヒューストンはロープを使い地上へと着地しそれを追いかけようとした頃には姿を眩ませていた。
「あ、あなたは……?」
「……聞きたいことがある。さっきの演説、ローグライトについて嘘偽りは無いな?」
人気が着きにくい路地へ連れ込まれ、乱入してきた男が注射器を取り出し自身へと打ち込む様子を見てようやく落ち着き状況を理解しつつあるルビオは乱入してきた男に今更ながら正体を問うがそれを遮るように質問をした。
その質問は鋭い雰囲気を纏い、嘘を吐こうものなら問答無用で殺されると感じた。
死ぬ覚悟であの演説をしたが今になって死に対する恐怖が蘇りつつあり、ルビオは無意識に答えていた。
「……は、はい…事実ですが…」
「そうか………ありがとう」
その言葉を聞いた彼は、どこか放心したように見えた。
しかしすぐに引き締まった様相になり覚悟を決めた、闘う者の顔つきへと切り替わった。
「何故、私を? あなたは一体……」
「……帰れ、生きろ。あんたと俺たちは違う」
注射の効果か幾分か足取りと顔色が回復し路地から通りを伺う。
「いいか、車を取ってくる。そしたらあんたの家まで行くぞ」
ヒューストンが路地から出て行きルビオはそれを伺っていた。
「そ、そんな...お、お父さんがっ…!」
ルビオの娘は大きな動揺をしていた。
父のことは嫌ってなどいなかった、向上心というものがなくカラチやラヴィニアに比べて何も成せていないと誹ることもあるが、決して家族に死を望むようなことなどありはしなかった。
ラヴィニアは彼の日記を読み、彼の想い、目的、彼の信じている者たちの希望のことを、その全てを知った。
そして、自分がやるべきことを理解した。
「ううっ……どうしてっ…お父さん……こんな…どうして…!」
「…これが慰めになるかはわかりませんが…まだ理解に及ばないあなたのお父さんは本当に立派です。どうか、あなたはここにいて、お守りできるように人を呼んきます……いいですね?」
「ラヴィニアさんっ、ダメです!今外に出たら危ない目に…一緒に隠れていましょうよ!」
「…ありがとうございます。ですが、私には使命があるのです」
ラヴィニアが部屋を出ると勢いよくブレーキが踏まれ目の前で急停止した黒塗りの車が現れた。
ガベルを構えて臨戦体制に入るがその正体はヒューストンと死んだと思っていたルビオだった。
「ルビオさん!? ヒューズさん、これは一体…!?」
「時間が無え、奴さんの娘も連れて早く乗れ!」
ラヴィニアは急いでルビオの娘を連れ出し押し込むように車に乗せた後車に乗った。
「お父さん!?」
「喜べ娘さんよ、親父さんはしっかり生きてるぜ」
娘は父親に抱きつき泣きじゃくった。
娘のそんな姿を見てルビオは少し戸惑いながらも謝罪と安心させるように呼びかけていた。
「まさか、こうなることがわかっていたんですか!?」
「まさか! ただの偶然だ!行く当てがねえ、避難出来そうな所はないのか!?」
「裁判所へ、今から人を集めます!」
「了解だッ!」
いつもの丁寧な運転など悠長なことはしていられない。
激しい運転で大きく車内を揺らし、再び急停止をした。
「悪い、止まるぞ!」
「きゃあっ!?」
ラヴィニアたちが短く悲鳴を上げながら必死に掴まり踏ん張る。
開けていた窓から声を張り上げる先にはラヴィニアが見知った顔、彼の仲間であるペンギン急便のメンバーのクロワッサンとソラだった。
「クロ先輩、ソラ先輩! 乗ってくれ!」
「ヒューズはん!」
2人が乗り込み後部座席が狭苦しくぎゅうぎゅう詰め状態になり無理矢理にでもドアが閉められる。
「待った待ったッ、ジョヴァンナさんは!?」
「それが、病院に着いた頃にはいなくなってたの!」
「嘘だろ…!?」
「ヒューズ、どこへ向かうんや!?」
「裁判所へ、2人にも連絡を!」
アクセルを踏み込み、裁判所へと全速力で向かっていた。
結果としては早期に動き始めていた裁判官たちと守衛が少数ながら既に集結しており、それに続く形で遅れてやってきた裁判官、そしてテキサスたちが合流した。
バリケードを急遽作成し防御を固めて人数を掌握し状況を整理していた。
「……今更ながら、ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い。にしても、急な展開だったからこうしたが……」
「えぇ、わかっています。私もあんな事を言いましたが…ようやく理解したんです、自分のやるべきことを」
ウォルシーニに響き渡ったあの放送は、暗雲ですら恐れをなしていくらか後退させ希望を象徴させるような陽光が差し込んでいた。
かつてベルナルドが約束を背いたときあらゆることと見失っていたが今は違う。
ひとりで戦っているわけではない、そう告げる者がいたからだ。
そうした人たちをもう犠牲にするわけにはいかない、もう犠牲になる誰かなんて必要ないのだ。
彼女がルビオの日記に記されていた全てを、彼女は生涯忘れないだろう
そして、今、彼を死なせずに反撃のチャンスを与えてくれたこの友人に報いようと、己の成す正義を貫こうと決意したのだ。
「あなたたちが成した事を、これまでの全てを……無駄にしないために」
「…何か手はあるのか?」
「考えがあります……皆さん、聴いてください」
彼女は集まった者たちへと語りかける。
託そうと願い希望をくれたルビオのこと、マフィアたちへの不満、彼らの力が必要だという事を。
少しの沈黙が流れ、それを問う者が現れた。
「自分たちに何が出来るのだろう?」と。
それはこの場にいる誰もがそう思っていた。
「先ほど、新都市の中枢区画の分離システムが起動したけれど……これはルビオさんの暴露を裏付けるものよ。マフィアにとっては争いの火種だけど、私たちにはチャンスでもあるの」
都市を確保し、ミズ・シチリアとの話し合いをする上での交渉材料にすることが目的だが、確保する上でに人数は、あまりに少なかった。
そこで彼女の友人たちである、ペンギン急便の出番だった。
チェリーニアとサンクタ人、そしてルビオが用意していた応援。
彼女たちの登場により少しざわつき始めた。
その上で、命の危機を冒したくない者は立ち去っていいと提案した。
立ち去る者、残ったが不安が残る者、そしてラヴィニア達。
上手く行ったとしても彼らは何かを為せるのか、保証なんかなかった。
しかし彼女の意思は固く、貫く事を決意している。
彼女はその為に命を捧げることが出来るのだから。
残った者は少ない、それでも彼らは去るつもりなどなかった。
彼らもまた暴力によって苛まされ、我慢などできないの、思い知らせてやろうと決意したのだ。
ラヴィニアがシラクーザの役人からの連絡を受け準備が整った事を知らされた。
「テキサスさん、これ…ジョヴァンナさんが残していったの…」
「これは…」
それはネックレスだった。
それはかつてミズ・シチリアが贈った証であり、ジョヴァンナが残して行ったものだった。
それを受け取り思いを馳せる。
この地の怨嗟、暴力、自らに取り巻くもの、この地のを離れた時に思っていたことは、この全てに終わりなどないと考えていた。
しかし、もう違う。
この地に根付いたもの、そして今度こそ彼女自身の過去を打ち砕く時が来たのだ。
「……お前たち……頼りにしている」
それを聞いたメンバーたちは「当然!」と言わんばかりに笑顔で頷いた」
今こそ、変えてみせる。
頼もしき仲間たちと共に。