三下とテラの日常   作:45口径

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三下とボヘミアンラプソディ

エンペラーが引き連れてきたものはこの物語(ゲーム)を終わらせるための最後のピースだった。

ゲームに敗北した狼主たち、そしてミズ・シチリア。

 

ザーロの傲慢ゆえに生まれた掟破り、そして敗北。

一連の流れを経て、ザーロは消え去っていった。

 

「……ありがとう、ボス」

 

「なんだ、らしくねえじゃねえかそんなにボロボロでよ。ヒューストンも病人にしちゃピンピンしてやがるな」

 

「お陰様で、2年も無断欠勤しちまって……それで……約束は果たしたぞ。契約したのはどいつだ?」

 

狼主達は反応しない。

次第に否定の意味を込めたものか姿を消し始め、そこにはどの狼も残らなかった。

 

「……どういうことだ?」

 

「ヒューズ……知らねえ方がいいこともある。だが、悪いようにはならねえさ」

 

エンペラーがいつに無く真剣な雰囲気で声をかけ葉巻を吹かす。

彼が自分の在り方やペースを変えたりすることはたとえ一瞬でも珍しいことだ。

何か知っているようだが今聞いても答えは返ってこない。

来る時が訪れた時に答えをくれる、そういうボスだ。

 

「それよりオメぇに会いたいってレディがいるぜ?」

 

エンペラーに示された、落ち着きのある淑女が現れた。

ミズ・シチリア、このシラクーザに体制を与え支配してきた張本人である人物だった。

 

当然、テキサスとは切っても離せない人物であるが名もないに等しいヒューストンに会いにきたというのは意外だった。

そして開口一言目は予想を大きく超えるものだった。

 

「あなたは……ローグライトの末裔ね」

 

最も長い付き合いであるテキサスですら驚愕の事実の言葉に一同は一斉に彼に顔を向けた

 

「つまり、あの演説で言ってた…」

 

「そう、マリー・ローグライトの息子…シンシアよ」

 

「じゃ、じゃあ! どうしてテキサス家に、テキサスさんに…?」

 

「何故だ 恨みある組織にいたなんて…おかしいだろう!?」

 

「……言いたいことは山あり谷ありってトコですが、まずはこの目の前の素敵なゲストの話を聞いてやろうじゃないですか。そうでしょう?」

 

顎で指すように首を動かし視線を誘導した。

その様子をどこか楽しげな様子でミズ・シチリアが続けた。

 

「あら、じゃあ早速…貴方に送る予定だったけど、手間が省けたわ」

 

彼女が取り出し手にしていたのは封をされた手紙、彼女の直轄の組織『巨狼の口』への勧誘のものだった。

 

「返事は怪我が治ってからでも…」

 

言葉を遮るように一発の銃声が響く。

その銃弾は誰の命を奪うでもなく、銃弾はミズ・シチリアが手にしていた手紙だったものに風穴を開け意味のある書類だったものをただの紙切れにし、銃弾が顔を横切り、風を切り裂き弾道で発生した余波と硝煙の残り香が消えていく。

 

「答えだ」

 

「そう、わかりやすくて良いわね」

 

通常なら、チンピラ崩れのただの男がこの地の支配者に銃口を向けるなどする前に文字通り蜂の巣にされてもおかしくはなかった。

しかしそう答えるのを知っていたかのように彼女は振る舞う。

 

特に感慨を表すことはないように、まるで事務的な反応にそれぞれ思うことはあるだろう。

もはや意味を成さない紙切れを捨てヒューストンに用は無くなり今度はテキサスたち、ラヴィニアやレオントゥッツオに向いた。

 

彼らにとっては予想だにしない邂逅だった。

いくつもの想定をしてきたがまさかこんな形になるなど誰が想像するだろうか。

 

結果的には暴力を経て得た対話だが、チャンスだった。

そして彼らはすでにそれを勝ち得ていた。

 

そしてその前に、やるべきことがあった。

 

亡きベルナルドへの元へ、そして過去から今に至るまでの因縁に決着をつけに。

 

「……チェニー。後はキミの、キミたちの役割だ」

 

「ヒューズ…」

 

「行け…俺はもう、必要ないだろ」

 

「……あぁ、任せろ」

 

「……ありがたいお膳立てだね」

 

去っていく彼女達を見送り、彼は歩き出した。

 

「貴方は、どこへ…?」

 

「……俺なりの決着をつけに」

 

ただ一人歩きながら、悲願を果たすために歩き出した。

 

「そうそう、気が変わったら私の元に来なさい」

 

「誰がまた来るかよ、こんなクソ地に」

 

「威勢がいいわね、まるで全てを切りつける抜き身のナイフみたいね」

 

引き止める様な、どこか冗談めかしたようにミズ・シチリアが去る男の背中に呼びかけるが振り向くことなく中指を突き立てて答えた

 

「それと一つだけ教えてやる…俺の名はオルブライト・ヒューストンだ、二度と間違えるなクソババア」

 

彼は霧のように、どこかへと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…良いところだな」

 

写真の裏に書かれている掠れた文字が示す場所はシラクーザの端にある土地、見渡す荒野、周りにある人工物は経年劣化で今にも全て崩れ落ちそうな木造小屋の廃墟と長年放置されて腐った木の柵だけだった。

 

小屋にはいつからか放置され時間だけが経過し崩れ落ち苔がが生えた木材とと錆びたシャベルがあるだけ。

今にも折れそうなシャベルを手に取り長年孤独に生えている、示された目印である枯れ木の下を掘り進め始めた。

この地の雨季のせいで掘り進めることに少し難儀した。

 

長い時間をかけて穴を掘り続ける。

雨の影響でシャベルで持ち上げる土は泥になっており肉体的により負荷をかける。

同時に、ここには本当に何かあるのかという疑問を抱くと同時にもし、見つけた答えが知りたくもなかった答えだった場合が不安も募り精神的にも負荷をかける。

 

それでも、ただただ掘り進める。

まるで自らが泥沼に飲み込まれることに気づいていないように深く深く泥を掬っては投げを繰り返す。

 

人を1人埋めるには程よい頃になっただろうか、ついにそれは姿を見せた。

それは金属製の箱だ、掘り出して調べると入念に封印され中にはパッキングされた古ぼけた手帳と経年劣化でバラバラになった手作りのアクセサリー、そして大金と当時の形式で偽造された身分証の類だった。

手帳を開き中を見るとそれは記録であったり、メモ書きやその時の心情を記した一種の日記のようだ。

 

ファミリー間での出来事の整理、都市計画の一端をまとめたもの、強調された次の休みの予定、過去にあったそれらを読み最後のページに書かれていることに目を通す。

 

 

 

 

 

 

きっと上手く行く、これが終われば私たちは自由になれる。

 

ファミリーとも、この地の血掟からも抜け出し遠く離れた地で幸せに暮らしていけるんだ。

 

私の人生は許されるものでもなければ、うまくいったとは言えない。

けど、ついに報われる時が来た。

 

願わくば平凡で、つまらない幸せが訪れますように。

 

私の全てを愛しき我が子、シンシアに捧ぐ。

          

             マリー・ローグライト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、何も残りはしなかった。

彼の母が残していたのは今に繋がるものでもなければ未来に向かって前向きになれるような言葉でもない。

ただその時必死で幸せを勝ち取ろうとし闘い、敗北し報われなかった決意の残滓だけだった。

 

彼は、少しだけ望んでいた。

今の自分に言い聞かせる言葉を、前に向かって背中を押してくれるような言葉を。

 

結局は壊れていた過去の遺物だけ。

 

『お前なりに生きて答えを見つけろ』

 

誰かの言葉が頭をよぎる。

しかし頭を駆け巡る希死念慮がそれを霧のように覆い、靄をかけていく。

 

「……もう全部、やり切ったよな?」

 

誰かに問うようにその胸中にある言葉を放つ。

力が抜けたように座り込み衣服がより泥にまみれ、雨に晒される。

少し強くなってきた雨が、縁の土を泥に換えて掘った穴へと滑り落ちていく。

まるでこれまでのシラクーザで生きて来た者たちの人生を表しているようだ。

 

「……いや、まだだ。まだ始まったばかりだ」

 

「…勝ったか?」

 

「…………まぁな。ベンという男に聞いた、ここにお前の母親の墓があると」

 

「墓、というか…遺品の隠し場所だったな」

 

テキサスは側へと寄り彼が視線を落として見ている写真を見た。

色褪せて顔の見えない女と、幼い彼が映った古ぼけた写真だった。

 

「お前の母親のことを聞いた、何よりも息子を大事にしていた母親だったこと……本当のお前の名、シンシアのことも」

 

「……気になるか?俺が本当にテキサスを……キミを恨んでいるか」

 

少しの沈黙が流れる。

雨の音と、寒さから出てくる白い吐息。

背中越しに聞こえる銃に弾を込めた音。

彼は腰を上げ立ち上がり泥を払って振り返った。

 

ヒューストンは拳銃を構え、彼女を見据えた。

 

もしも彼が本当に撃つなら、テキサスが助かるなら、殺すなら今なのだろう。

それをただ彼女はただ見守るように、見届けるようにじっとしていた。

剣を構えようとも、逃げようともしない。

 

彼女は身動きひとつしない。

受け入れるつもりだった、彼が復讐を望むのなら、親殺しの怨みを晴らそうというのならそれをやり切って欲しい、最後のテキサスをその手で殺すことで終わらせて欲しかった。

 

今まで彼女の望みに応え全てを与えてくれた彼に、たった一つの願いを叶えれるなら彼女は命を持ってでも応えたかった。

 

あと引き金をほんの少しの力で引けばいい。ただ撃てばいい、あとは銃弾が彼女を殺すだけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━引き金を引け、これで全てが終わる。

 

 

 

━━━この血錠を断ち切れ、自由になれ。

 

 

 

━━━それを、望むのなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、1発の銃声が響いた。

 

 

乾いた銃声は雨の湿った音に飲み込まれることなく響き渡る。

 

 

 

 

銃弾は彼女の頬を掠めることなく、雨に飲み込まれたように消えゆく。

 

そして彼の手から銃がこぼれ落ち、吸い込まれるように地面に落ちた。

 

そして、まるで彼女を迎えるように両腕を大きく開いた。

 

彼は笑顔だった、貼り付けた嘘の笑みでも、意図のある笑みでもない。

息苦しく閉塞的な屋敷に住んでいたあの頃から何も変わってない、子供だった彼女と遊んでいた時の純粋な笑顔だった。

 

「……死んだのさ…シンシアという過去の男も、ドン・テキサスに仕えたヒューストンも」

 

「…そうか、もうお前は……ただのヒューストンになったんだな」

 

「最初からさ。俺はただのヒューストン。キミはチェリーニア……俺の大事な…お転婆で我儘で、寂しがり屋の頑張り屋で、多くの苦難と絶望を乗り越え、勝った…勇敢なチェリーニア……俺の誇り、俺の全て」

 

彼女は手をゆっくりと伸ばして、ただ抱きしめた。

 

「もう…いいのか?」

 

「俺は…ただひとりの未練を確かめに来たんだ。それを見届けれた、その結末も」

 

「……そうか」

 

「変わらない、何もかも…変わりはしないんだ」

 

「……そうかな」

 

「決着はついた……さぁ、もう少しだけ付き合ってくれ」

 

自ら掘った墓から、自らを過去に引き摺り込ませた泥沼から彼女の手を取り這い上がり煙草を咥えると彼女にも煙草を渡し火をつけた。

 

大きく吸い込むと煙草の先端の炎は強く熱と光を灯し、紫煙を吐き出した。

灰色の空に消えゆくは己の未練と煙草の紫煙。

 

その火は鎮魂の念を込めた一本。

 

まだ始まったばかりの人生の、長い長い旅路の一服。

 

彼の過去を象徴とする色褪せた写真を一瞥し、それを手放すと風に揺られながら墓穴へと、過去の遺物たちの下へと舞い戻った。

 

「さらば。過去に縛られし者、ローグライト」

「さらば。私の最高の従者、ヒューストン」

 

二人は同時に鎮魂の灯りを墓へと投げ入れた。

それは偶然か必然か、導かれるように写真に映る過去を焼き焦がし静かに消えてゆく。

 

「〜〜〜♫」

 

消えゆく火種を見届けながら彼は鼻歌を奏でる。

始まりである母が歌ってくれた子守唄を、鎮魂歌として彼が終わらせる。

 

朧げに残っていた記憶の中、時に夢に現れ消えていたものは天に昇った。

 

火種は消え、歌が終わり、穴を埋め、気休め程度の墓石に見立てた腐った木の板を立てた。

 

 

 

「……酷い出来だな」

 

「…これで良い。飾りつける主義でもないんだ」

 

 

 

 

 

 

マリー・ローグライトとその息子シンシア。

そしてその化身でありチェリーニアの従者としてのヒューストンは思い出と共に安らかにこの地で眠る。

 

 

 

 

 

 

 

きっとすぐに墓標は消え去り、時間と大地の波に飲まれ、あらゆる全てから忘れ去られていくだろう。

 

それでもいい、彼は今こそ過去の残滓を振り払い、今を生きる者として、ひとりのために生涯を終えることができるだろう。

それが望んだものと信じて。

最後の走馬灯はこれでよかったんだと思えるように、願いを込めて。

 

 

「……ヒューズ」

 

最愛の家族に呼ばれ振り返る。

灰色の暗雲に穴が開き、天から降ろされた梯子のような陽光が差し込むと、いつも無愛想な表情に柔らかな笑みをした彼女を照らした。

 

それはかつて、あの屋敷で見せてくれた可愛らしい子供の笑顔ではない。

自らを縛り付けた血錠と降り注ぐ険しきものを振り払い、共に今を生きている彼女がいた。

 

 

 

 

「帰ろう」

 

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ろう、愛しきあの居場所へ。

 




最終回なので初投稿です

今までありがとうございました。
最後の最後で雑な感じになってしまう悪癖が出てきてしまった、、、

ここまで長いこと引っ張ってしまい、これ以上開けると完走しきれないと思い急遽仕上げました。

また気が向いたら小話程度書く予定です。

改めて、みなさま…ありがとうございました。
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