三下とテラの日常   作:45口径

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呑気に初投稿です

お待たせして申し訳無いです、まだまだ待ってもらいます。


マザーウルフは連れ去った

昼下り、巨躯の大男は辟易としていた。

記憶の中に母親そのものの存在が現れ抱きつかれ顔面を舐め回された後、どう言うわけかいきなり退院させられ必要書類だなんだを書き入院期間の費用を見て自殺を検討し、ようやく解放され入院の間健康面における担当医であったガヴィルに案内されながら食事のために病棟から生活区画へ繋がる連絡通路を渡っていた。

 

「いつまでもクヨクヨしてんじゃねえよ。ロドスにはそういったのはありふれてて、別にお前だけじゃねえんだから」

 

「クヨクヨするだろ、こんなん…」

 

「だいじょうぶよぉ〜、ママがいるんだからへっちゃらへっちゃら!」

 

その額はかつて数十年かけて築いた財産で自らの主人に何かあった時のための保険として用意した時の額を超えており、彼が所属するペンギン急便の年収で一生のうちに払い切れるほどのものではなかった。

 

ロドスとペンギン急便における契約で出向すればロドスと弊社からそれぞれ給与はもらえるらしいがそれでもとんでもない額だ。

 

そんなことを知ってか知らずか能天気で根拠のない慰めを先ほどから肩に腰掛け文字通り頭を抱えてくる絶世の美女で自称母親こと、マリー・ローグライトが甘えるような声で甘やかそうとしていた。

 

「その…仲良いんだな、母親と」

 

「やめろ、黙れ、殴るぞ」

 

「こら! 女に向かって殴るなんてダメよ!」

 

大抵のことは聞きしない気質のガヴィルでもこの厳つい容姿で威圧感のある男がもしかすればマザコンなのかもしれないと言う可能性があるこの光景に少し引いていた。

 

子供を叱りつける親心を表すようにぺしぺしと撫でるように頭を触るたびにヒューストンの表情に皺が増えて頬引き攣り始めた。

 

「すみませんが降りていただけないでしょうか?」

 

「やだ、もぉ〜! ママに対してそんな他人行儀だなんて、ママ悲しいわ…!」

 

「降りろ」

 

威圧的な声色を一声発すると「は〜い」と頭をひとなでし肩から降り着地した。

 

「流石にもう子供じゃなくなっちゃったね」

 

「母親面するな。俺に母親はいない」

 

「どんな存在になっても、違う名を語ろうとも、私はあなたの母親よ」

 

「黙れ、似非ものが」

 

穏やかな雰囲気と表情で語るもヒューストンからすれば不快極まりなかった。

 

脳裏に浮かぶは数少ない想い出の光景、訃報の絶望、最後に見つけ出した残滓。

シンシアという過去、シラクーザから、己を縛り付けていた全てから解放されたと思いきやいきなり現れた過去そのものがのうのうと現れベタベタしてくる。

 

何がどうなったらこうなるのだと聞き出したかった。

理不尽だろうがなんだろうがこの怒りと迷いの矛先はこの母親を名乗る女しかいなかった。

 

一種の妄想のようなものに囚われていた。

実は生きていて今の今まで生き抜いて今になって現れた、などと言う夢物語に。

 

荒唐無稽で馬鹿な話で信じる価値もない話だが彼にとってはこの人生の全てが無駄だったと否定されかねない話だった。

 

一時とはいえ母親のため復讐の道を歩み、愛した主人のためにその感情を墓まで抱え込み、決別を選択したその全てが、無駄だったと。

 

その様子を一介の医者であるガヴィルが仲裁という形なのかアーツロッドで頭をどついた。

 

「…痛えな」

 

「その辺にしとけ。とりあえずメシ食ってからしろよ」

 

ガヴィルが先導するように進みそれに続く形で2人はついていく。

 

その時2人は何も喋らずだったがマリーはニコニコと笑顔で彼を目線で追いかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食事を終えガヴィルによる施設案内を終え後は自由だと放られるように解放され真っ先に喫煙所を探すべく歩き回る。

当然その後ろをついてまわる存在に鬱陶しさを感じながら甲板へ出る扉を見つけ外へ出た。

 

扉を開くと艦内へ押し返すように一瞬強い風が吹きつける。

それに抗い外へ出ると遠めにトレーニングか訓練かその様子が伺える。

 

特に興味を持てることではなかったため近くの柵に寄りかかり持っていた煙草に火をつけた。

煙を吸い込み火種が消えないように吹かし紫炎を大きく吐いた。

風が吹き曝された煙を攫うように通り抜ける。

その様子をさも楽しげに彼女は眺めていた。

 

「タバコ、いつから吸ってるの?」

 

「……」

 

風で漆のように美しい髪を靡かせるその様はこの世とはかけ離れていた。

まるでこの世の全ては彼女を飾りつける舞台装置のようであった。

 

押し返すような強い風も、艦の足元から吹き上げる大地の砂も、彼の吸う煙草も、その彼さえもだ。

 

まるで一枚の絵画を見ているような光景だったが、彼らにとってはどうでもいいことだった。

 

彼女は質問をした、しかし彼は何も答えない、ただそれだけだ。

 

ふと遠目に移動都市が見えた、それを眺めていると隣に立ち彼女が口を開く。

 

「あれは何処の都市だと思う?」

 

「……」

 

「興味ない? あなたはきっと世界を渡り歩いてきたと思う。けどこの世界はあなたが見てきたものだけが全てじゃないはずなの」

 

「俺の世界は、俺が感じたものだけだ」

 

「知らないものを知りたい、そして知った時の喜びは覚えてる?」

 

「……さぁな。知らないものは無いのと同じだ」

 

「なら知ればいいの。それがこの世に生を受けた者だけに許される喜びだから」

 

「生きるも死ぬも地獄のこの世で、喜びね…」

 

「私も、死んでからそう思ったの。変な話よね?」

 

くすくすと笑う彼女が、かつての母親の顔と重なった。

その仕草や優しい表情が、懐かしい声が、そのままそこにあった。

 

「…あんたは、一体誰なんだ?」

 

「知りたい?」

 

答えを放つ前に彼女は抱きつき、華奢な身体で大男を軽く持ち上げるように甲板からテラの大地へと飛び降りた。

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