やぁ、この前回ネジがぶっ飛んだミス・フラワーとエクシアの姉御にその場のノリで世紀末の三下みたいな格好をさせられたヒューストンです
中央の前髪から後頭部にかけての雑な剃り込みはまだ治ってない、なんなら居るだけでも笑われるという状態なためこれからは帽子が必須さ
あの仕事を経てしばらくは休業だがその間にもやるべきことはもちろんある
買い出しという一見簡単そうで非常にめんどくさい雑務だ
さらに各先輩型達のこれから使うものと必要になるであろう消耗品の調達、アジトの清掃とやることは山積みである
まずは我らがペンギン急便のボス、ドン・エンペラーの葉巻とレコード、お嬢の甘味の調達、エクシアの姉御の弾薬類の調達、クロワッサンさん先輩に捌いてもらう商材を伝手で頼んで、ソラ先輩には…なにがいいんだ…?
などとアジトの掃除のため道具を準備しながら考えていると後ろから後頭部をどつかれた
振り向くとむすっとした表情でとても綺麗整った美女である、テキサスことお嬢がいた
私のボスです
「…なにをしてる、休め」
「しかし、明日以降の準備が…」
「まだまだだな、そういうことは明日考えろ」
まだまだ、この組織での振る舞い方はどうやら奥手の方らしい
ソファーに腰掛けポーチからチョコレート菓子を取り出して口に放り込んだ
「座って」
ソファーの空いている場所をポンポンと叩き促して来た
此処で断ることは失礼にあたる、隣に静かに座ると静寂が訪れる
ヒューストン自身自分から何か話すタイプではなかったし、元はと言えば静かな方だ
この新しいメンバーに合わせると必然的にうるさいと形容されるがそういうものだろう
「…悪くないな」
ふと、テキサスが呟くとそれに首を向ける
どこか朗らかそうな雰囲気があまり変わらない表情をからでも伺えた
というより彼が長く仕えて来たことでわかるものだろう
「ペンギン急便と騒がしい日々も、お前といるこの静寂も悪くない」
「…ボス。自分に何かお話があるのではないかと思い自ら此処へおいでになられたのかと思いますが…違いますか?」
ポキリ、チョコレート菓子が折れる音が嫌に響く
彼の質問など気にも留めてないかのように菓子を頰る
「ただ同僚として、話がしたかっただけ」
「私の勤務態度のことでしょうか? それとも今後についてでしょうか」
「そう焦るな、お前はよくやってるしこれからも期待してる。 昨日のことだ…仲間だったんだろ」
そういうことか、と納得した
先日の件、ラーズは黒幕でありかつて彼の仲間だった男だ
何が彼を変えてしまったのか、それは間違いなく野心だろう
そんな事をしても仮初の成り上がりにしかなれぬ事を知っていたはずだ
しかしやつは選んだ上で失敗した、まだ生きているだけでも大きな得だろう
「…過去の話です」
「隠すな、話したいことがあるはずだ」
「此処はテラの地、裏切りや謀反、騙し討ちなど当たり前なことなのです」
「そうか…お前は、そうだな」
何ともいえない空気になってしまう
テキサスも過去に身をもって味わった過去がありあまりその話題には触れたくない
結局言えることもなく黙りこくってしまう
彼女は立ち上がり少し埃の被った冷蔵庫からボトル水をこちらに投げて、それを彼はキャッチした
ボトルを開けぐびっと一気に中の水分を飲み込む
今までだってそうだ、寧ろ裏切られたりするのは初めてなんかじゃないし何なら騙し討ちをしたことなど少なくない
そうやって遺恨や後悔など、酒を飲み干すのと同じで━━━なにこれめっちゃ辛
「ゴフッ!? ゴホッゴホッ!?」
「はははッ、相変わらずあっさり引っかかるな」
やりやがった、中には極東からよろしく取り寄せたであろうワサビとかいうクッソ辛いブツを仕込んでやがる水だ
しかも製品なのかよこれ、一見しても水の殺人兵器じゃあねえか!
「お、おじょゴフっ、おゴフゴフッ!!」
「ふふふっ、どうだ辛いだろう」
齢が重なりいたずらとは無縁のドンとなり今に至るだろうが今回は完全に不意を突かれた
彼女はいたずらに成功したことが楽しいのか楽しげに笑っている
あまりにも咳が止まらないのを見かねて新しいボトルの水を手渡され受け取り被るように水を含ん━━━違う味の刺激水じゃねえか!!
「オ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛オ゛ボッ、オ゛ェ゛ア゛エ゛ア゛ァ゛!!」
「う゛ッ!? はっ、はははっはっははっ!!」
咳き込む勢いで帽子を外してしまい中央の前髪から後頭部にかけての雑な剃り込みが見え声を出して笑い始めた
くそっ、人の心とかないんか!?
可愛らしい顔して悪魔じゃん、種族はループスの皮を被ったサルカズの人じゃん
こわいわー、狼こわいわー
しかも普段声出して笑わないからすげえぎこちなく爆笑してますやん
お嬢普段からもっと笑って?
「はぁー、ふぅ…どうだ、昔を思い出すだろ?」
「ゴホゴホッ、昔っ、ですかっ…?」
「あぁ」
「…すみません、何のことか」
「子供の頃だ、憶えてないのか?」
「…申し訳ございません」
「…そうか」
ひとしきり笑い転げたあと昔の事を少し話そうとしていたがヒューストンは表情を見るに身に覚えがないった様子だった
それを彼女は少し悲しそうに笑い、今度こそ普通の水を手渡した
そして昨日の事を思い返すように話す
それぞれ起きていた事、カーチェイスのこと、婦人の暴走のこと
しかしどうにも、彼女の心に残ったわだかまりがとれることはなかった
かつて、彼は幼少のドン・テキサスの世話係としてその役割を担ったことがある
その時はいたずらが好きで思いついてはこうして何か仕込んでわざと引っかかってるのではないのかと思うほど確実に引っかかっていた
その時の思い出は今も鮮明に覚えている
さっきのように笑い転げ、よく叱られていた
それを覚えていないのは彼が知らないところで過酷なものを乗り越えて来た弊害なのだろうか
それでも、少しだけでも思い出して欲しかった
「ヒューズ、私は━━━」
突如ヒューストンが彼女に覆い被さると耳をつん裂く爆発音が響く、アジトは煙に塗れ咳き込む
「お嬢、ご無事で」
「…あぁ、何ともない」
傷ひとつない様子を見て彼はその場を退いた
すると携帯から着信が入る
テキサスの今の相棒、エクシアだった
電話に出ると激しい銃撃音と爆発音と悲鳴、そしてあまりにもその状況に合ってないエクシアの呑気な声だった
『テキサスー、大丈夫〜?』
「…残党の襲撃か」
『そうそう! 片付けて大地の果てで合流しない?』
「あぁ、わかった。1時間後に」
通話を切り今の彼女を象徴するものの一つ、源石剣の刃を実体化させた
同じくしてヒューストンも拳銃を取り出した
「どうにも休めないですね、この仕事は」
「おまけに面倒ごとがたくさんだ」
中にやってくる刺客を確認してお互いに顔を合わせる
「ついてきて」
「仰せのままに」
2つの影が、爆煙も晴れる間もなく駆け抜けた
悲鳴と銃声が鳴り響き煙が晴れる頃には、伸びた襲撃者達が横たわっているだけだった