魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜   作:緑茶わいん

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【番外編】クリスとリアのお風呂問題

「お風呂ならここで入っていけばいい。部員なんだから遠慮することもない」

 

 学園に入学し、専用に用意してもらった家(というと聞こえはいいけれど、要するに隔離場所)で暮らし始めた僕とリア。

 食事と水は調達できるし寝床も十分なものが用意されていたものの、困ったのが風呂だ。

 僕は平民なので水浴びとか、お湯に浸した布で身体を拭くだけとか、もっと言えば水に濡らした布で拭くだけとか「そもそも身体を洗わない」とかでもわりと平気だけれど、お嬢様のリアはそうもいかない。

 それに、魔女学園は年頃の女の子がいっぱいなので身嗜みをちゃんとしていないと嫌がられる。

 

 他にどうしようもない場合は木材を調達して自分で浴槽を作るか、とも考えていたのだけれど、思わぬところから助け船が出た。

 シビル先輩やミシェル先輩の所属する「研究部」にちゃんと風呂がついていたのだ。

 

「ここのお風呂はけっこうすごいよー。部員全員で入れるくらいの広さがあるし、完全魔道具式だからすっごく便利」

「凄いですね。……あれ? でもここって厄介払いされた人たちの集まりなんですよね?」

 

 そんなにしっかりした設備を寄越してもらえるものなんだろうか、と思ったら。

 

「主にうちの顧問が張り切って作った」

「自作ですか!?」

「研究生活に気持ちのいいお風呂は欠かせないんだって。そう言いながら先生、忙しくてなかなかここに顔出せないんだけどねー」

 

 さすが魔女の集まり。必要なら作ればいいし、製作にも魔法が使える。平民のように自分の手でカンカンする必要もないのだ。

 それにしたって凄い技術には違いないんだろうけど、

 

「じゃあ、お借りしてもいいですか?」

 

 ちらりと横目で見れば、リアも控えめな物腰ながらどこかわくわくした表情を見せている。

 

「もちろん」

「というか、さっきも言った通り遠慮しなくていい。部の備品だから」

 

 みんな気が向いた時に入っているので時間も気にしなくていいという。その代わり、入った人が出る時に最低限の掃除をするのがルールだそうだ。

 そういうことならと、僕たちはさっそく使わせてもらうことにした。

 昨日はなんだかんだあって風呂に入っていない。一日くらいならどうということはないけれど、さすがに汗のにおいが気になってくるところだ。

 それじゃあリアから、と少女を促そうとしたところで、

 

「……そういえば、こういう場合って僕が先と僕が後、どっちが良いんでしょうか?」

 

 年頃の女の子とお風呂を共有するなんて初めての経験。

 母さんに身体を洗ってもらったことも洗いっこしたこともあるし、村の女の子と川で水遊びをしたこともあるけれど、どっちも小さい頃の話だし。

 女の子としては男が入った湯を使うのは嫌かもしれない。かといって自分が入った後のお湯に何かされるのも気分的に嫌かもしれない。

 考えれば考えるほどわからなくなりそうな問題に「ぐぬぬ」と思っていると、

 

「気になるなら湯を張りかえればいい」

「そんな贅沢していいんですか……!?」

「魔力で水を作るだけなんだから大した手間じゃないんだよ」

 

 沸かす手間が多少かかるものの、これで問題は解決だ。

 

「それだと僕が先に入ったほうがいいかな? 終わった後お湯を抜いて水を張り直して、お湯を沸かす魔道具を起動させて出てくる感じ」

「そうですね。わたくしはそれで構いません」

「リアは魔道具使えないんだよね? じゃあ後で私と一緒に入ろっか?」

「少年には魔道具の使い方を教える」

「ありがとうございます。お願いします」

 

 お嬢様のリアは逆に「人と一緒にお風呂に入る」のは慣れっこのようでミシェル先輩の申し出に対して笑顔を浮かべていた。

 

「それじゃあ少年」

「はい。行きましょう」

 

 僕はシビル先輩に袖を引かれて浴室へ。

 お風呂が存在する場所はなんと地下だった。空調や乾燥の魔道具もしっかり効いているのでカビたりする心配もないらしい。

 黒い色合いの石で造られた広い湯舟は見ただけで心が躍る。その他の設備も平民には過ぎた代物ばかりだ。

 タオルなんかは予備がたくさんあるということで貸してもらった。

 

「助かりました。この分だとたぶん、リアは大浴場にも行かないほうがいいでしょうし」

「ああ。自分で魔道具を使えない子はたぶん、ここだとすごく目立つ」

 

 寮の個室にも風呂がついているものの、こちらも魔道具式なので結局一人じゃ使えない……と、脱衣所で服に手をかけながらシビル先輩。

 制服姿だとわかりづらかったけれど思ったよりも胸が大きい、じゃなくて。

 

「なんで脱いでるんですか!」

「? せっかくだから使いながら説明する。少年も早く脱ぐといい」

「シビル先輩、貴族でしたよね……?」

「私も実家ではメイドと一緒に入っていたから、こういうのはあまり気にしない」

 

 メイドとは一緒でも執事とは一緒じゃなかったでしょうに。

 

「それとも私程度の身体じゃ見苦しいとでも?」

「わかりました。男の僕が嫌がってるのも変ですよね。覚悟を決めます」

 

 服を脱ぎ、左の手袋とソックスだけを残して裸になる。床面にも魔法が組み込まれているかもしれないし、壁に手をついたり何か操作する時のために片手は魔道具に触れられるようにしておきたい。

 湯船に浸かる時は(マナー違反だけれど)タオルを敷いてその上に座るようにすれば大丈夫だろう。

 

「少年もなかなか難儀な体質をしてる」

 

 シビル先輩が黙々と服を脱いでいくのは見ないようにした。衣擦れの音も意識しないようにしたし、裸になった彼女の素肌がちらちら見えるのもなるべく考えないようにした。

 というか少しは肌を隠して欲しい。

 胸の谷間も柔らかそうな膨らみも見ようとしなくても見放題だ。

 けれど当の先輩は飄々とした様子で、

 

「……なるほど。これはなかなか興味深い」

「前に立たないでください!」

 

 隠すどころか自ら肌を晒すように回り込んできて、しげしげと僕の身体を眺めるのだからたまらない。

 慌ててタオルで隠すと「どっちが女なのかわからない」と言われてしまった。

 幸い先輩はすぐに浴室の案内に移ってくれたものの、高級じょうろの先端のような器具から温水の雨が降る「シャワー」なるものを使いながら、

 

「女らしいと言えば、少年の身体も不思議に満ちている。昔からこうだった?」

「ええ、まあ。といっても小さい頃は男も女も大差ないようなものでしたし」

 

 女みたい、とか男子にからかわれる程度で済んでいた。

 父さんの顔を知らない僕は身近な大人が母さんしかいなかったので、女子に交ざって遊ぶのも苦じゃなかった。そういうのもあって「個人差なんだろうな」くらいに思っていたのだけれど、あの事件があって別の人に拾われて、身体が本格的に成長し始めてからはさすがに疑問に思うようになった。

 

「裸でも女子に見えるというのはかなり珍しい」

「ですよね」

「端的に言って可愛い。眼福」

「ひょっとしてシビル先輩ってそっちの趣味ですか……?」

「たぶん一番は可愛い男の子だと今、自分の趣味を理解した」

「駄目じゃないですか!?」

 

 貴族なら平民の子供を「買う」のはぜんぜん合法というか、むしろ買われた子供にとっては大出世まであるのだけれど、ここは魔女学園。

 僕にも拒否する権利があるし、当然それを行使させてもらう。

 と。

 

「じっくり観察させてくれたら報酬を支払う」

「う」

 

 仕事の件よりも高い額を提示してくるものだからついつい流されそうになった。

 

「だめです」

「減るものでもないのに」

「尊厳が減ります」

 

 その後はなおもアプローチ(?)をかけてくるシビル先輩をかわしながら浴室の使い方を教わり、温かなお湯に浸かるという至福の贅沢を堪能した。

 なお先輩には向かいではなく隣に座ってもらったので悪しからず。

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