魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜   作:緑茶わいん

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緊急会議 2

「『永遠の魔女』との戦いにおいて最も恐れるべきは奇襲。そして、今日のように周囲を人質に取られること。……味方と敵しかおらず、常に警戒態勢を敷いている戦場ならばリスクはかなり低くなります」

「味方には『不審な動きをする者は敵と思え』と言い含めておけばいい。加えて、『永遠の魔女』の殺害が最優先、とな」

 

 クローデットの意見に師匠が付け加える。

 

「でも、たぶん、あいつはシルちゃんの身体から出ないと思うよ?」

「何故だ、マノン?」

「シルちゃん──シルヴェール・レルネは長年にわたって『永遠の魔女』に抗い続けてきた強い魔女です。解放されれば厄介な敵になることは間違いないですし、『永遠の魔女』がシルちゃんの知識を共有しているのなら、その逆だってありえるはず」

 

 母さんにも『永遠の魔女』の知識が渡っている。

 だとすると下手に解放したら逆に窮地に陥ってしまう。

 

「隣国側の魔女を乗っ取るとしたら戦力が一人分減ることにもなります。……当然、強力な魔女の身体でなければ乗り換える意味も薄いですから、悩ましいところでしょう」

「乗り換えと同時にシルヴェールを処刑するという手もあるだろうが──」

「一瞬の隙に自爆でもされたら被害甚大です。シルちゃんには前科もありますから」

 

 ひとまず母さんの身体は無事かもしれない。

 そう言われて僕は少しほっとする。すると、再び重臣から声が上がって、

 

「しかし陛下、彼を使うとして、役に立つのですか? かの魔女がシルヴェール・レルネの身体を使い続けるのであれば、母親を人質に取られているようなものなのでしょう?」

「殺せるチャンスが来たとして、彼は果たして魔女を討てるのか」

 

 視線が僕に集まる。

 この話は予想していなかったわけじゃない。僕は頷いて、はっきりと答えた。

 

「討てます。……そこで躊躇したら、母さんが頑張ってきた意味がない。『永遠の魔女』を倒すことが母さんの一番の望みのはずです」

「実の母親だぞ?」

「実の母親だからです。もちろん、捕まえられるに越したことはありませんけど」

 

 そんなチャンスがそうそう来ないことはわかっている。

 だからこそ、母さんが現れた時に躊躇なく攻撃した。次に同じことがあったとしても同じようにするだろう。

 むしろ、相手が『永遠の魔女』だとわかったから余計にやりやすい。

 

「……わたしは、若い子に重荷を背負わせたくないよ」

「けれど、これはクリスとオリアーヌ殿下の問題よ。二人をこの問題から排除することはできない」

「ですが、さすがにオリアーヌ殿下まで戦場へ送るというのは──」

 

 重臣が心配するのももっともだ。

 王位継承権が低いとは言っても、リアはこの国の王女。

 男性王族であれば軍を率いて出陣することはある。魔女である女性王族なら戦いの主力になるかもしれない。でも、リアはそのどちらでもない。

 

「はい。リアまで行く必要はないと思います。……でも、僕は何もせず安全なところになんていたくない。できることがあるならしたいと思います」

「クリス様!」

「お願いだよ、リア。僕はリアを失いたくない。それと同じくらい、この国の人たちが傷つくのも嫌なんだ」

「駄目です」

 

 リアは瞳に涙を浮かべながら僕を睨んだ。

 胸に置かれた手がぎゅっと握られて、青い瞳が真っすぐにこっちを向く。

 

「行くのなら連れて行ってください。……わたくしも戦います。わたくしが抗わなくてはならないのです」

「待ってリアちゃん。戦場だよ? 危険もいっぱいあるし、いつ死ぬかもしれない。魔法が使えないリアちゃんが行くのは危なすぎるよ」

「わかっております。ですが、わたくしのいるべき場所はクリス様の傍です。それに、今ならば戦う術もあるのです」

 

 マノン先生たちが作ってくれたクロスボウ。

 あれがあれば確かにリアも大きな戦力になる。一撃で兵士や騎士を倒せる攻撃をほぼ無限に放てるのだから、百人力と言ってもいい。

 それでも先生は表情を曇らせ難色を示す。そこにクローデットが、

 

「オリアーヌ様をお守りし、手助けするための方策は今も模索しているのでしょう?」

「……まあね。上手くいけば乗っ取り対策にもなるし、もっと画期的な変化も得られるかもしれないけど」

「最も重視すべきは本人達の意思であろう。……オリアーヌ。そしてクリスよ。其方達は師の説得を受けてもなお、戦うことを望むか?」

 

 僕はリアを見た。

 少女の表情は変わらない。決意に満ちた彼女の姿に、僕は「仕方ないな」と頷く。

 

「はい」

 

 揃って答えると、陛下は重々しいため息を吐いた。

 

「我とて子供を戦わせるのは本意ではない。だが、其方らの力が必要なのも事実だ」

 

 戦場に僕がいるだけで敵の魔女からの攻撃を最小限に抑えられる。

 クローデットの爆炎のような魔法が来ても僕より後ろにいればほとんど被害が出ないだろうからだ。

 

「戦いは今すぐ始まるべきではない。争いになる前に決着をつける方法も模索しよう。その上で、これからの時間を大事に過ごすがよい」

「かしこまりました」

 

 本格的に細かい話が始まる前に僕たちは会議室から出され、厳重な護衛の中で学園へと戻された。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「本当にもう! 二人とも、どうしてあんなこと言ったの!? わたしはまだ怒ってるんだからね!?」

 

 マノン先生にはあのあとさらに怒られた。

 

「……まあ、決まっちゃったものは仕方ないし、二人の気持ちもわかるけど。わたしたちがもっとしっかりしてたらこんなことにはならなかったんだろうし」

「先生のせいじゃありません。悪いのはイヴォンヌと『永遠の魔女』です」

「それはまあ、わたしもあいつらのことは憎くて仕方ないけど……もう! こうなったら全力で潰してやる!」

 

 最終的に先生は「戦いになるなら徹底的にやる」という方向性で落ち着いたらしく、研究部のみんなも総動員して色んな魔道具やポーションを研究すると表明した。

 もちろん学園に畑を作るという案も実行に移されることになったし、後期からの授業についても実践的なものが急遽増やされることになった。

 度重なる襲撃などを考えても戦いの術は必要。

 説明を受けた生徒たちの表情には不安もあったものの、前向きに「やれることをやろう」と考えている人ももちろんいた。

 

「母の後を継ぐつもりでいたのです。『爆炎の魔女』の娘として名を馳せるのにまたとない機会ではありませんか」

「私だって戦うよ! なんかほら、戦争になったら戦う人たちのご飯作る係だって必要なんでしょ? そういうところでなら役に立てると思うんだよね! 私だって普通の騎士とかよりは強いし!」

「私はもともと騎士になるつもりだったしねー。国のために戦うのは当たり前。クリスやリアのことも守ってあげるよ」

 

 フランシーヌ、ニーナ、ミシェル先輩。

 

「私たちは裏方向きの能力ですが、その分、知識と技術でサポートするつもりです」

「魔道具もポーションも、こういう時にだって役に立つ」

「ボクはみんなのサポートかな。訓練の相手でも雑用でもなんでもやるよ! 慣れてるしね」

 

 フェリシー先輩、シビル先輩、ララ先輩。

 

 学園には良い人たちがたくさんいる。この場所を守りたいし、壊そうとする『永遠の魔女』を許したくない。

 

「僕たちも頑張ります。もっと強くなれるように」

「はい。わたくしもクリス様のお傍にいられるように、少しでも強さを身に着けます」

 

 僕とリアは前期よりも実践を意識した授業を選択した。

 幸い、基礎知識は夏休みの間にいろいろ手に入れることができた。ここからは戦いのための能力や、実際に魔道具を作るための知識などを重視したほうがいい。

 

「うん。まあ、正直クリスにこれ以上強くなられると私の立場がヤバいんだけど」

「そんなこと言って、僕、まだ本気のミシェル先輩に勝ててないですし」

「夏の間に飛べるようになった子が良く言うなあ。……んー、じゃあとりあえずララ先輩とやってみる?」

「ちょっと、ボクに振らないでよ!? ミシェルと違って肉弾戦はそんなに得意じゃないんだからね!?」

 

 ララ先輩が協力してくれるようになったので訓練も捗る。

 リアはフランシーヌと一緒に訓練場を借りては弓の練習をしている。精度は少しずつ上がっているものの、やっぱり課題は筋力らしい。

 あんまりリアの腕が太くなるのはどうだろう、と口にしたら頬を膨らませて怒られた。

 

「クリス様は、わたくしの腕が太くなったら嫌いになるのですか……?」

「そんなことないよ。リアのことは大好きだ」

 

 家に帰ってきたのでキス──もとい、魔力供給はしやすくなった。

 二人きりにならないといけない関係上、コレットさんやネリーに席を外してもらうわけで、つまりはバレバレなんだけど。

 気持ちいしどきどきするのでなかなか止められない。

 ある日、リアは唇を離した後にうっとりと目を細めて、

 

「戦争が始まったら、結婚、できなくなってしまいますね」

「……そっか、そうだね」

 

 普通に式を挙げて、子供を作って、のんびりと暮らしてとはいかなくなる。

 もちろん戦って死ぬつもりはないけれど、戦争が一年やそこらで終わるとは限らない。終わってからゆっくりと、なんて言ってるうちに十年経ってました、なんてこともありうる。

 

「いっそのこと先に結婚する?」

「そうできたら幸せかもしれませんね」

 

 微笑んだリアは「ですが、止めておきましょう」と言った。

 

「どうして?」

「結婚したら、子供も欲しくなってしまいます」

 

 生まれる前に戦争が始まったら最悪だし、生まれた後だったとしても戦場には連れていけない。子供に辛い思いをさせるのは好ましくない。

 

「早く戦いを終わらせるしかないね」

「ええ。……わたくしたちに何ができるでしょうか」

「できることからやるしかないよ。一つずつ、一歩ずつ」

「そうですね。励みましょう、これからも」

 

 授業を受けて、自主練をして、魔力抜きの仕事をこなして、毎日の魔力測定や実験に付き合って。

 

「というか少年、夏の間にぐっと女の子らしくなって。恋でもした?」

「僕が好きなのはリアなので関係ないと思います……」

「見た目女の子同士なのも背徳的でいいと思う。というか今なら一緒にお風呂に入っても合法じゃない?」

「シビル先輩とは前にも入ったじゃないですか!?」

「じゃあ今でも問題ないはず」

「シビル先輩。わたくしのクリス様を取らないでくださいませ」

 

 リアに睨まれたシビル先輩は「ごめんなさい」と本気で謝った。

 前から怒ると怖かったけど、本気でケンカになった場合もクロスボウで狙撃される可能性がある。反応できなかったらシビル先輩でも一発だ。

 

「リアも頼もしくなった。……先生の研究が上手くいったら猶更。もしかしてやりすぎかもしれない」

「わたくしも、もっとみなさまのお役に立てるのですか?」

「………」

「ふふっ。純粋で頑張り屋なリアさんだからこそ、みんなが協力してくれるのでしょうね」

 

 やることが山積みなので日々はあっという間に過ぎていく。

 その間、国の動きについては断片的に入ってくるだけ。平民や貴族に広く知らされる情報についてはもちろんわかるけど、それ以上、隣国との交渉がどうなっているのかは全て教えてもらえるわけじゃない。

 一つ言えることは人と物の動きが活発になったこと。

 隣国産の品物は入ってきづらくなったものの、学園も国も購入する品物の量を増やしているのか商人の出入りはむしろ活発になっている。

 一方で学園の警戒レベルは上がっていて、特に前のような魔獣の襲撃、および『永遠の魔女』の侵入についてはいろんな対策が取られた。その成果なのか、わざわざ隣国からやってくる手間を惜しんでいるのか、僕たちが再び襲われることはなく。

 

 学園に入って三度目の試験を突破し、四度目の試験が近づいてきた頃、

 

「ひとまず目途が立ったよ。リアちゃんに魔法の操作能力を与える方法」

 

 マノン先生が思わぬ朗報を僕たちに齎した。

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