魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜   作:緑茶わいん

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研究部vs『城塞の魔女』

 エルフリーデは準備に一日時間をくれた。

 僕たちはその間にできる限りのことをしないといけない。

 

「なるほどね。それで私たちが呼ばれたんだ」

 

 内緒話にちょうどいい、ということでやってきた研究部の部室。

 集まった五人のメンバーは僕たちからの説明に深く頷いた。

 

 ミシェル先輩、シビル先輩、ララ先輩、フェリシー先輩、そしてフランシーヌ。

 この五人に僕、リア、コレットさん、ネリーを足せば九人でほぼ定員になる。

 ちなみに、コレットさんとネリーは魔女じゃないし学園の卒業生でもないので戦いに出ても問題ない。

 

「それにしても少年。つくづく変な女に縁があるね」

「だとしたら、シビル先輩もその中に入りますからね……?」

 

 ツッコミを入れてからフランシーヌを見ると、紅髪の公爵令嬢は「私に話を振らないでちょうだい」と僕を睨んできた。

 

「そうじゃなくて。……フランシーヌ、危険なのはわかってるけど、君にはどうしても一緒に戦って欲しい」

「あら。在学生なら構わないのでしょう? だったら二年生や三年生にいくらでも頼めると思うのだけれど」

「相手は城塞だよ。本当なら『爆炎の魔女』が戦うべき相手だ」

 

 クローデットが参加できない以上、相応しいのはたった一人しかいない。

 

「クローデット様譲りの攻撃力がどうしても欲しいんだ。……お願いできないかな?」

「別に、頼まれるまでもありません」

 

 いざとなったら跪いてでも頼み込む覚悟で言うと、彼女はふん、と顔を背けて、

 

「功績は積めるだけ積んでおきたいもの。喜んで参加させてもらうわ」

「ありがとう、フランシーヌ。君がいてくれれば百人力だよ」

 

 決して大袈裟な話じゃない。クローデットは兵士の千人くらいあっさり吹き飛ばすだろうし、娘のフランシーヌだって百人分くらいの力は余裕である。

 これにほんのりと頬を染めた義姉は「ただし、条件があるわ」と付け加えて、

 

「どうせ一人分、席が空いているのでしょう? 私のメイドも参加させなさい」

「うん、それは大歓迎だよ」

 

 フランシーヌの護衛についていてもらえば彼女が傷つく危険も下がる。

 これでちょうど十人。

 もちろん、他のみんながOKしてくれればの話だけれど、

 

「先輩たちにもお願いできませんか? 下手に他の人にお願いするより連携しやすいと思うんです」

 

 高魔力かつ騎士志望のミシェル先輩。魔道具の専門家であるシビル先輩。ポーションはもちろん普通の魔法も十分以上に優れているフェリシー先輩。三人をサポートしてなんでもそつなくこなすララ先輩。

 研究部のメンバーはただ変なだけじゃなくてそれぞれ十分すぎる秀才揃い。

 学園中探してもこれ以上のパーティはなかなか作れない。

 

 僕が深く頭を下げると、

 

「顔を上げてください、クリス君。むしろ、私たちを頼ってくれてありがとう」

 

 フェリシー先輩の優しい笑顔があった。

 ララ先輩とミシェル先輩がぽん、と僕の肩を叩いて、

 

「もちろん協力するよ。ボクも名誉挽回のチャンスだし」

「城塞が相手ならいくら壊しても怒られないよね?」

「ありがとうございます、先輩がた」

 

 僕は優しい仲間たちに深く感謝した。

 

「……条件を出されたら最悪なんでもするつもりでした。それくらい、このメンバーで戦いたかったんです」

「ん? 少年、今なんて言った?」

「え」

「ああ、そういえばシビルだけは明確に参加を表明していませんでしたね」

「私はまだやるとは言っていない。やるけど、せっかくなら少年になんでもさせる権利ももらう」

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

 シビル先輩はすぐに「冗談」と言ってくれたけれど、目がわりと本気だ。

 まあ、いちおう常識は弁えているはずだし、過度に変なことはしてこないと信じたい。

 

 成り行きを見守っていたマノン先生も「うん」と頷いて、

 

「いいメンバーだと思う。これなら十分に勝機はあるはず」

「しかし、学園長。先方は『一人で戦う』と言っただけで魔道具の使用は禁じていないのでしょう?」

「そうだね。エルフリーデ様は魔道具を使って数の不利を補ってくると思う」

 

 一対十とはいえ、高位の魔女は他の魔女が束になっても敵わない力を持っている。

 その強さの何割かは魔石や魔道具を用意する能力だ。

 事前準備の量と質も強者の証。

 

「できるかぎり作戦を決めておいたほうがいいと思う。敵がどんな風に戦ってくるかの予想も含めてね」

「マノン先生。知恵を貸してくださいますか?」

「もちろん。わたしもこういうところでは協力させてもらわないとね」

 

 話し合いは長時間に及んだ。

 シビル先輩とフェリシー先輩は途中でアイテムの準備に入り、ミシェル先輩も「身体を動かしたい」と外へ。残るメンバーで考えられる限りのことを話しあった後、翌朝、『城塞の魔女』との決戦に備えて各自十分な睡眠をとった。

 

 

   ◇    ◇    ◇

 

 

「なんでクリスたちは私を除け者にするかな!?」

「ごめん、ニーナ。ニーナには祝勝会の準備をお願いできないかな?」

「祝勝会? ……ふーん、なるほどね。いいわ。そういうことならそっちで腕を奮ってあげる!」

 

 格下扱いしているわけじゃないけれど、適材適所。

 魔力の低いニーナにはお留守番とお祝いの準備をお願いした。最初は渋っていたけど料理となるとやっぱり嬉しいのか、最終的には張り切って引き受けてくれる。

 

 戦いの場所は都の外、外壁からも街道からもある程度離れた何もない平原。

 

 思えば、外に出るのは都まで来た時以来だ。

 こっちのメンバーは条件ギリギリの十人。

 離れた場所にはこっちの見届け人としてマノン先生やクローデットをはじめ騎士や兵士などが待機し、向こうの人員も数十人が集まっている。

 この国のお城よりは小さめだけど十分に城と呼んでいいサイズのでん! とした建物の前には『城塞の魔女』大地を思わせる焦げ茶色の髪の美女が立っている。

 

 向こうはシンプルながら高級そうなドレス姿。

 

 対する僕たちは思い思いの戦闘服を身に着けている。

 僕は四度目の試験の終わりにフランシーヌと戦った時と同じスタイル。フランシーヌとミシェル先輩もパンツスーツで動きやすい格好。

 三人のメイドさんは戦闘用のメイド服を身に着け、残りの四人は最も慣れていて防御力も高い格好──すなわち制服を選択した。

 

「その顔だと勝算は十分なようだな」

 

 笑むエルフリーデを真っすぐに見返して「はい」と答える。

 

「勝ちます。あなたに協力してもらうためにも」

「いいだろう。……ここで私に勝てないようでは『永遠の魔女』になど勝てるわけもない。その力、たっぷり見せてもらおう」

 

 たった一人。

 一人で僕たち十人を迎え撃つエルフリーデは、しかし背後の城塞と共に凄まじい気迫を放っていた。

 誰もが息を呑む中、彼女は悠然と城塞へと戻っていく。

 

 戦いの開始は城塞が動き出した時。

 

 最後の猶予に僕はフランシーヌを振り返って、

 

「リアをお願い」

「ええ、もちろん」

 

 火力担当のフランシーヌには専属のメイドさんが護衛につく。城塞に近づく必要もなくて比較的安全な立ち入ちなので、ついでにリアを守ってもらうことにした。コレットさんは当然リアの護衛だし、僕も遊撃の方が得意だからネリーもリアについていてもらう。

 銀髪の少女の手にはもちろん新型のシューター。

 彼女は不安を押し殺すようにして微笑むと、空いているほうの手で僕の手を取った。

 

「クリス様。絶対に死なないでくださいね」

「もちろん。こんなところで死んだりしないよ」

 

 全員、念のためにフェリシー先輩謹製のポーションを携帯している。

 これがあれば緊急時の回復もできるし、リア以外はある程度治癒魔法も使える。エルフリーデも約束を違えて僕たちを殺しに来たりはしないだろう。

 

「少年、ミシェル。思う存分暴れてくるといい」

「お二人とフランシーヌ様が主力ですからね。私たちはそれをサポートします」

「はい。どうかよろしくお願いします」

 

 そして、地響きのような駆動音が響きだす。

 中央と左右、合計三本の尖塔、そして外壁から無数の砲が突き出し、正面入り口からゴーレムが吐き出され始める。

 

 戦闘開始。

 

 多くの人たちが固唾を飲んで見守る中、僕たちは一斉に動き出した。

 

「《爆炎よ》!」

 

 口火を切ったのはフランシーヌの大火力。

 生み出された火球は母・クローデットの単なる物まねではなく、自分用に使いやすくアレンジを加えたもの。参考にし、超えるべき相手の存在によって強くなった令嬢の力は同じ時期のクローデット・フォンタニエをも超えているはず。

 並の相手ならまとめて吹き飛ばすだろうその火球は外壁の中心でまともに炸裂し、炎を広範囲に撒き散らす。

 吐き出されたばかりのゴーレムが複数体巻き込まれて吹き飛んでいくも──城塞自体は張り巡らされた防壁によってまったくの無傷。

 

「わかってはいたけれど、さすがの堅さね」

 

 イヴォンヌと戦った時の魔法院だってクローデットの本家《爆炎》を防ぎ切った。だからこれは想定内だけれど、対クローデットを想定し時間をかけて準備されていたあの場所と同等の防御能力があるとすれば周到を通り越して怖い。

 

「いいわ。それならそれで、壊れるまで撃ち込んであげましょう!」

 

 小手調べのようにぽんぽん放り込まれていく《爆炎》。

 その全てが防壁によって防がれるも、吐き出されてくるゴーレムが端から吹き飛んでいるので十分に役に立っている。

 それに、僕やミシェル先輩が近づく前じゃないと巻き添えが怖くて使いにくいから出し惜しみはしないのが正解だ。

 

「じゃ、私も行くよ。クリス、お先!」

「気をつけてくださいね、ミシェル先輩!」

「わかってるってば!」

 

 風を纏ったミシェル先輩は驚くほどの速さで迂回し、フランシーヌの邪魔にならない軌道を描きながら城塞へと接近していく。

 搭載された砲から何発もの鉄球が放たれるも、移動中の彼女には当たらない。その間に近づけるだけ近づいてしまえば狙える砲自体がほぼゼロになるので、後は出入り口を見つけて侵入するなり、外壁を直接殴りつけるなりするだけだ。

 さて。

 僕も手袋を外した右手を持ち上げて、

 

「まずは!」

 

 瞬間的に出せる全力の一撃を低く、城塞の下部めがけて発射。

 狙い違わず飛んだ魔力光は車輪を覆い隠す外装へと飛び──直撃する直前で()()の防壁の前にあえなく散った。

 さすが、見え見えの弱点。

 

「二重くらいはあるだろうと思ってたけど……」

「三重は無理ね、諦めなさい。素直に他を狙った方がマシだわ」

「だね」

 

 頷いて答え、僕もフランシーヌたちから距離を取る。

 ミシェル先輩が向かったのとは逆方向へ。

 リアが新型シューターを使い、フランシーヌの《爆炎》を逃れたゴーレムを撃ち倒していくところ、砲による攻撃をメイドさん三人が巧みに防ぐところ、先輩たちが使い捨ての魔道具をぽんぽん放り投げて攻撃していくところを見ながら、

 

「《風よ纏え》」

 

 風の球に包まれると一気に飛翔する。

 空中で一瞬制止、方向を見定めたら一気に加速、砲の攻撃を潜り抜けて左の尖塔へ。

 窓から中へ飛び込むと同時に飛行を解除、置かれていた砲を魔力攻撃で破壊したら壁に手を触れる。

 

 『魔力喰らい《マナ・イーター》』。

 

 壁に施されている防御魔法が不安定になり、魔力が僕に流れ込む。もちろんすべて吸収している暇はないけれど、この状態でもう片方の手から魔力光を放つといともあっさり壁は内側から吹き飛んだ。

 外が見える。

 

「その調子でさっさと穴を増やしなさい!」

 

 言われなくても。

 フランシーヌの声に後押しされるように、今度は壁に触れながら天井を狙って、チャージ付きの太い光。上階の何割かが吹き飛び、折れて崩れ落ちる。

 落下の衝撃を防壁が殺すも、それは敵の魔力を無駄に消費させることになったはず。

 

「よし、この調子で──」

 

 思った僕は、下の階から何かの物音が響いてくるのに気づく。

 かちゃかちゃという不快な音。

 何かと思えば、

 

「なっ!?」

 

 蜘蛛を模したような小型のゴーレムが次々とその姿を見せ、僕に襲い掛かってきた。

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