魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜   作:緑茶わいん

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研究部vs『城塞の魔女』 2

「なに、これ……!?」

 

 一体一体は決して大きくない。

 蹴飛ばせばそれだけで倒せそうな蜘蛛型ゴーレムは、けれど後から後から湧いてきていていったいどれだけいるのかわからない。

 さらに、僕に向かいながら口からぎらり、と太い針を晒してきて、

 

「この……っ!?」

 

 魔力を放てば何体かがまとめて吹き飛ぶ。

 もちろん、それでは終わらなくて。残った無数のゴーレムが仲間の死に構わず群がってくる。虫の形、明らかに生き物ではない無機質さに嫌悪感がこみ上げた。

 

 ああ、もう!

 

 息を吐くと同時に全身から広く魔力攻撃。

 蜘蛛ゴーレムが吹き飛ぶのを確認するより早く風の球を纏って空へ。

 これならさすがに追ってこれないはず──と思った直後、ばばばば、という羽音と共に空へ舞い上がってくる「鳥形ゴーレム」が見えた。

 なんでこんなにいろいろ変なゴーレムが!?

 空を飛びながらだと僕はうまく魔法が使えない。風を周囲に纏ってしまっている弊害だ。仕方なく高速で上空まで移動してから魔法を解除。落下しながら魔力を放って一気にゴーレムを吹き飛ばした。

 

『さすがだな。なかなか楽しませてくれる』

 

 どこからともなく声がしたかと思うと、上部に位置する砲が僕を向いて次々に鉄球を撃ち出してきた。

 たぶん、飛んでも避けきれない。

 当たりそうなものだけを魔力で撃ち落とす。地上から悲鳴が聞こえたような気もしたけれど、それに答えている暇はさすがになかった。

 というかこれ、下手すると死ぬ気がするんだけど。

 向こうとしても致命傷を負わせるくらいのつもりじゃないと敵の数を減らせない。これくらいで死ぬようなら──ということか。

 

 ミシェル先輩は大丈夫だろうか。

 

 外には姿が見えないのできっと中に入ったんだろうけど、あの調子でゴーレムが出てきたらさすがにまずいかもしれない。

 無理せずゴーレムの数を減らしながら持ちこたえて欲しい。

 思いつつ、なんとか鉄球をかわして落下、足元に風を叩きつけて衝撃を和らげると、近くにあった砲台を一つずつ潰していく。

 これ全部、一人で動かしているとすると驚異的だけど、こうやって攻め手を減らしていけばいずれどうしようもなくなるはず。

 外でもフランシーヌたちが攻撃を続けているはずだし、魔力だってどんどん削られて、

 

『仕方ない。もう少し積極的に攻めるとしよう』

 

 ぐらり、と足元が揺れた。

 何事かと思えば、城塞が備えている移動手段──無数の車輪が動いていた。巨体なのですぐには走り出せないけれど、緩やかに前へと進み始めている。

 これって、

 

『ほら、逃げなければ潰されるぞ』

 

 地上にいるリアたちを攻め立てる気だ!

 止めたいところだけど、遠距離からの攻撃は防壁に阻まれる。車輪を攻めようにもここから最下部まで移動するには時間がかかる。

 なんとか天井を抜いて下に降りようとするけれど、その前に城塞は十分なスピードに到達してしまった。

 今から走って逃げても間に合わない。可能性があるとすれば敵の進路とは別方向に逃げて軌道から外れるか──。

 

「みんな、この穴に飛び込みなさい!」

 

 思い切って()に逃げるかだ。

 フランシーヌが開けた穴にリアを抱いたコレットさん、ネリー、シビル先輩にフェリシー先輩、ララ先輩が飛び込むと、城塞がその上を塞いでいく。

 巨大な城塞の弱点。足元に潜られると対処がしづらい。

 多少の地形は無数の車輪が上手くいなしてしまうだろうけれど、だからこそ、あまり大きくない穴は普通にスルーしてしまう。この状態からなら(炎系の魔法は余波が怖いので使えないにしても)リアのシューターで下からダメージを与えられるだろう。

 

 それにしても、ルールに則った試合形式じゃなかったらどうなっていたか。

 

 これが戦争ならこの巨体が彼方から突撃してくる。ぶっちゃけ、そのまま体当たりするだけでも砦を壊すには十分。並の兵士や騎士じゃ何もできずに蹴散らされて終わりだ。

 魔女が対抗するにしても、クローデットですら破壊するのには手間取るんじゃないだろうか。

 なにしろ相手は万全の備えをしている。魔力を魔石等で補っているんだとすればそう簡単には魔力切れも起こさないだろう。

 となると、やっぱり勝つには。

 

「術者を叩くのが一番、か」

 

 いちおう、エルフリーデの居場所には見当をつけてある。

 三本ある尖塔はあくまで物見や攻撃のため。万が一崩されたら大変なのでそこにはいないと思う。いるとしたらお城で言う玉座の間にあたる位置、どこから侵入してもある程度深入りを要求される中心部だ。

 抜いた天井から内部へ侵入した僕は外観から向かうべき方向を見定めると走り出した。

 途中、蜘蛛型や鳥型、人型のゴーレムが妨害しに来るも、構っている暇はない。右手でシューターを抜いて敵を撃ち落とし、左手で魔力を放って薙ぎ払っていく。

 

 城塞の移動はもう止まった。

 

 ギャラリーをひき殺してしまうわけにもいかないので動き回るのを諦め、リアたちを穴に閉じ込めることにしたんだろう。

 代わりに音を立てて壁や天井が動き、内部構造を作り変えようとしてくるも、前を塞がれるのなら吹き飛ばせばいいだけのこと。

 目的の中央にたどりつくには時間がかからなかった。

 呼吸を整えつつ、いかにもな大扉の前に立つ。ひとつ深く息を吸い込んでから勢いよく扉を開けて──。

 

「《城塞よ》」

 

 僕に向けられた一斉砲撃と、念のために準備していた特大の魔力光が激突、互いに威力を殺しあって消滅した。

 エルフリーデは正面。

 シューターを向けて矢を放てば、床が持ち上がって盾になる。

 近づこうと走れば、がくん、と、急に足場が崩れて穴に変わった。慌てて穴の淵を掴み、淵が崩れると同時に風を下に叩きつけて反動で上昇。

 勢い余って宙に浮く形になった僕に再度の砲撃が来るも、慌てず撃ち落として。

 

 ──いきなり崩れてきた天井が僕の身体を叩き落とした。

 

 二階分を落下して床に激突。

 一瞬、目の前が真っ白になった。瓦礫からなんとか這い出すと全身に痛み。骨くらいは折れているかもしれない。治癒魔法を施しつつポーションを取り出して一気飲み。痛みが引いてだいぶ楽になった。

 

「このっ!」

 

 エルフリーデがいた位置に向けて魔力放出、天井ごと吹き飛ばせば『城塞の魔女』は読んでいたかのように僕の落ちた穴から身を翻してきた。

 手には短杖。

 魔法に使うのかと思えばそれを器用に振るって近接戦で来る。かわしつつ機を窺うも、さっきまでのように急に周りを崩されるかと思うと、

 

「どうした、動きが鈍っているぞ?」

「それは、そうでしょう……っ!?」

 

 敵の攻撃が何度か身体に当たって痛みを生む。体力が削られ、さらに攻撃をかわしづらくなる。

 このままじゃまずい。

 僕は急遽、戦法を変更。逃げるのを止めて前進、

 

「むっ」

 

 慌てず間合いを調整、振るわれる短杖を敢えて肩で受けると、それを相手の手ごとぐっと掴んだ。

 低威力の魔力放出で手袋を焼けばエルフリーデの素肌が露出。

 ぐっと掴んだところから魔力が流れ込んでくる。

 

 吸収速度の変更だって上手くなった。

 

 このまま持久戦に持ち込めば分があるのはこっちのほう。

 なにがあっても離さないという覚悟で力を籠めれば、直後、ものすごく強烈な蹴りが腹に刺さった。女性の筋力とは思えない。凄腕魔女の身体強化は想像以上の力を齎す。

 それでも、

 

「離さない……っ!」

「良い覚悟だ。いいじゃないか、クリス・フォンタニエ……!」

 

 エルフリーデの唇が歪む。

 凄絶な笑みを浮かべた女王は掴まれた腕を振り回し、残った三本の手足で僕をめった打ちにしてくる。

 対する僕は彼女に両手でしがみつきながらただ耐える。一秒でも長く耐えることが勝ちに繋がる。

 視界が歪み、感覚が鈍ってきても腕だけは離すまいと力を籠める。

 

「クリス!」

「邪魔だ」

 

 ぼろぼろになったミシェル先輩が剣を手に駆けつけてくるも、側面から無数の石弾に撃たれてその姿を埋もれさせていく。

 『城塞の魔女』の作った建物の中、それは怪物の体内にいるようなものだ。

 

「攻めてよし、守ってよし。城塞とは素晴らしいだろう!?」

「ぐっ!?」

 

 さすがに意識が遠くなってきた。

 できれば倒しきりたかったけど、後はみんなに任せるしかないか。

 フランシーヌたちが穴から脱出してくれれば、消耗したエルフリーデと良い勝負を繰り広げてくれると──。

 

「悪いけれど、私の義弟を放してくれるかしら?」

「クリス様、遅くなって申し訳ありません……!」

 

 声。

 視界がぼやけていてよく見えないけれど、何が起こっているのかは不思議とわかった。

 ミシェル先輩の時と同じように城塞自体を使っての攻撃をコレットさんたちが防壁で防ぎ、リアとフランシーヌがためらいもなく攻撃を実行。

 魔女同士の戦いにおいて、僕は人質にならない。

 魔法による攻撃なら当たっても吸収してしまうからだ。それを良く知っているリアたちは攻撃を躊躇わない。

 

 舌打ちしたエルフリーデは防壁を用いて攻撃を防いで、

 

「降参だ」

 

 どさっ、と、僕の身体が床に落ちた。

 

「盾にならないどころか、《爆炎》の余波を吸収して味方への被害さえ減らせるとはな。……さすがにこれは分が悪い。全員殺さずに終わらせるのは不可能だろう」

「戦いは終わり、ということでよろしいのですね?」

「そう言った。楽しませてもらったぞ、若者たちよ」

 

 フェリシー先輩とリアが駆け寄ってきてポーションを飲ませてくれる。

 意識がはっきりしてきたので後は自分で治癒魔法が使える。なんとか身を起こして座りこむと二人に「ありがとう」を言って、

 

「よくやったな、クリス」

「わっ……!?」

 

 気づくとエルフリーデに抱き上げられていた。

 彼女は胸が当たるのも構わず僕を横抱きにすると顔を覗き込んできて、

 

「気に入った。お前、私と子供を作る気はないか? 望むのなら王配にしてやってもいい。養子とはいえ公爵家の子なら周りも文句を言うまい」

「え? え? えええ……!?」

 

 ちょっといきなり過ぎて話についていけなかった。

 すぐさま抗議の声を上げたのは僕の傍にいたリアで、

 

「クリス様はわたくしの婚約者です。横やりは我が国への敵対行動と見做されかねませんが、その覚悟はおありですか?」

「ふむ。恋のさや当てのために戦争を起こす──少々心惹かれる話ではあるが、止めておこう。この国と争っている間にかの国に攻め込まれては面白くない」

 

 ぽいっと放り出すようにして返された僕の身体をコレットさんとネリーが二人がかりで受け止めて支えてくれる。

 エルフリーデはその様子を面白そうに見つめて、

 

「結婚は諦めるが、子供を作るだけならどうだ? 一人でも跡継ぎ候補がいれば口うるさい奴らも少しは静かになるだろうしな」

「いや、それはさすがに……」

 

 なしだろうと答えようとすると、リアは少し考えるようにしてから、

 

「クリス様の子を国外に出すのであれば国家間での契約を交わすべきかと。どうか陛下と話し合いのうえでお望みくださいませ」

「そうか。では、もう一度城に案内してもらうとするか」

 

 わりと本気の話だったのかな……?

 二人の会話がどこまで冗談なのか測りかねたまま、僕はふらつく足でみんなと一緒に外へ出た。

 魔力供給を失った城塞が音を立てて崩れていく中、エルフリーデが敗北を宣言するとギャラリーから一斉に歓声が上がった。

 ……って、

 

「何故、貴国の人間まで喜んでいるのですか?」

「そりゃ、私がこの国と戦争するのに反対だからだろうよ」

 

 女王様の横暴ぶりに僕は何度目になるかわからない呆れを覚えた。

 

「安心しろ。お前たちはしっかりとその力を見せてくれた。あちらの国に協力するよりはよほど楽しそうだ。裏切りにでも遭わない限りこの国を攻めることはないと誓おう」

「本当ですか……?」

「私は嘘はめったに言わないぞ」

 

 美人なうえに男前とかちょっと反則な気がする。

 と、マノン先生とクローデットが寄ってきて、

 

「陛下? うちの生徒に随分ひどいことをしてくれたみたいですけど?」

「次は私たちとの力比べはいかがですか?」

 

 二人の魔女からの(わりと本気の)挑発に女王はふっと笑った。

 

「遠慮しておこう。この状勢で無駄に疲弊しあうのは得策ではないからな」

 

 いや、あんたが吹っ掛けてきたんだろうと誰もが思っただろうけど、誰も口には出さなかった。

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