魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜   作:緑茶わいん

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同盟

 後日、この国とプリンツェンツィング──エルフリーデの国との間で同盟が結ばれた。

 条件は魔道具開発に関する協力や軍事協力などなど。両国間の国境は山などの険しい地形が多く行き来は少し難しいのだけれど、魔女はだいたい飛べるので有事の際にも応援に駆け付けることができる。もちろん、あの移動城塞も多少の悪路は物ともしない。

 通信の魔道具を交換しておけば短期間で連絡を取り合うことも可能だ。

 

「よくやってくれた、クリス、オリアーヌ。そしてその協力者達よ」

 

 きっかけは間違いなくエルフリーデとの腕試し。

 僕たちには国から褒賞が贈られ、同時に名誉が与えられた。僕とリアがもらった褒賞の一部は祝勝会の費用に充てたり友人たちにちょっとしたプレゼントを贈ったりして、戦いに参加できなかったニーナなどにも還元するようにした。

 同盟によって緊張ムードは少しだけ緩和。

 二国を相手にするとなればさすがの『永遠の魔女』も慎重になる。稼ぐことができた時間を使って両国はさらなる戦争の準備を始めることになる。

 

 もちろん、自分たちから攻めるつもりは基本的にはない。

 

 けれど、この国、ひいては世界によって害悪となりうる『永遠の魔女』を隣国が抱えているのは見逃せない事実。

 二国からの引き渡し要求をのらりくらりとかわし続けるというのなら折を見て連合軍が攻め込む、という可能性も出てきた。

 『城塞の魔女』なら部隊規模の戦果を一人で挙げることも可能だし、兵力を抱えて移動することもできる。こと争いにおいては『爆炎の魔女』と同じく頼もしい味方だ。

 

「ではな、クリス。なるべく早く約束を果たしてくれ」

 

 帰国する際、エルフリーデはそんな風に僕へと告げていった。

 彼女とは再び会うことになる。それが早いか遅いかはわからないけれど。

 

 同時期に学園では恒例の入学試験と入学式が行われた。

 

「まだ一年しか経ってないんだね……。色んなことがありすぎて何年も経った気分だよ」

「本当ですね。ですが、逆に早かった気もします。わたくしたちが後輩を迎えることになるなんて」

 

 去年もそうだったように、試験や式には案内役として在校生が協力することになった。

 

「人が足りないんだよ。手伝って、クリスちゃん、リアちゃん!」

 

 と、マノン先生に泣きつかれたのもあって僕たちも参加。

 制服を纏って新入生を迎え入れると、期待に胸を膨らませ、不安を抱えた彼女たちがなんだか初々しく見えた。僕たちもこの一年、けっこう成長したのかもしれない。

 できれば一人でも多くの子が合格して欲しいと願う一方、これから入学してくる子たちが将来、戦争に参加することになるかもしれないと思うと複雑な気分にもなった。

 

「あ、あの! オリアーヌ王女殿下とクリス様。お二人の活躍を耳にし、密かに憧れておりました。まさかこんなに早くお会いできるなんて──!」

 

 僕たちのことを知っている、という子も思ったよりも多くて、中には顔を真っ赤にして声をかけてくれる子もいた。

 

「少し心配していたけれど、入学希望者の数は例年と変わりなさそうね」

「フランシーヌ」

 

 ちなみに首席であるフランシーヌ・フォンタニエに憧れている子の数は僕やリアの比ではないくらい多かった。

 

「戦争の噂についてはそれほど心配していなかったけれど、我が弟のせいで生徒数が減った、などということになっては困りますもの」

「あはは……やっぱり男がいると嫌だって子もいるよね」

「そんな我が儘が通ると思っているのなら幼稚にも程がありますけれど」

 

 去年、フランシーヌもけっこう噛みついてきた気がするんだけど。

 言うと怒りそうなので口に出すのを控えていると、代わりにリアがくすりと小さく息を漏らした。さすがにリア相手には怒れないのかフランシーヌは顔を真っ赤にするだけで堪えて、

 

「そもそも、貴方をみて『男だ』と思う者がどれだけいるか疑問ですけれど」

「それはまあ、そうかも」

 

 男だということに拘らなくなってから、容姿以上に仕草が女の子っぽくなった。

 リアと永続的なつながりを持つようになってから甘い感覚というか浮遊感というか、そういうものが身体を包んでいるのもあってついつい表情筋も緩んでしまう。

 そういえば「男がいると聞いたのだけれど」「どこにいるのかしら」なんて声も聞こえてきたような。

 

「バレないならバレないでありがたいかな」

「どうせ、貴方は目立つから少しの間だけでしょうけど」

「フランシーヌに比べたら目立たないよ」

「私は目立っても困りませんもの」

 

 後日、マノン先生から聞いたところによると受験者および合格者ともに去年よりも微増したそうだ。

 去年、学園でもいろいろあったものの、イヴォンヌ・マルチノンの失脚および魔法院の体質改善が魔女に対するイメージアップに繋がったのかもしれないとのこと。

 

「魔女が減ったから、今なら余計に活躍のチャンスがあるしね」

 

 卒業後、戦争に参加させられる恐れがあるというのも、逆に言うと在学中は戦火を免れやすくなる。

 衣食住についてのサポートもある。

 イヴォンヌのとばっちりで家族がいなくなった没落貴族なんかもそういうバックアップを求めて受験してきたとか。

 

「お金に困っている子がいるなら、バイトの手伝いをしてもらうのもいいかもですね」

「お、いいね。そういうのはどんどんやりなよ」

 

 フェリシー先輩は前に聞いた通り学園に残ることになり、むしろ今まで以上に生き生きと研究やポーション作成に励むようになった。

 

「それにしても、私たちもとうとう最上級生かあ」

「実感湧かない」

「先輩たちもそうとう自由ですもんね……」

「あはは。ボクみたいに留年しないように気をつけなよー?」

 

 研究部は一人減って五人に。

 ララ先輩が残っているし、フェリシー先輩もたびたび顔を出すのであまり減った気はしないけれど、

 

「少年。新入部員を捕まえてくるように」

「え。うちの部って無理に入部させるものじゃないんですよね……?」

「でもまあ、二人を勧誘したのはシビルだよね」

 

 そういえばそうだった。

 

「別にいなきゃいけないわけじゃないけど、できれば一人か二人は欲しいところ。伝統が途絶えないように」

「要は生け贄だね」

「いや、ものすごく勧誘しづらいんですけど」

 

 普通の子を勧誘しても戸惑うだけだろうし、どうしたものか。

 そもそも僕よりリアが誘うほうがいいんじゃないかと思い、彼女と相談をしていると、部室のドアをノックする音がして、

 

「あの、ここが研究部だって聞いてきたんですけど……」

「新入部員……!?」

 

 いつも淡々としているシビル先輩が珍しく大きめの声を出して驚いた。

 なんと、その年は五人もの入部希望者が来た。

 うち二人は「合わないから」と入部を取りやめてしまったものの、三人が居ついて、去年よりも一人多い新入部員を獲得することに成功した。

 

「もしかして、部室が近くなった効果?」

「いえ、それもありますけれど……」

「王女殿下と公爵家の方が所属されていると聞きまして」

 

 なんと僕とリアの知名度のおかげだった。

 

「解せぬ。家柄は関係ないはずなのに」

「あはは。クリスたちはけっこう活躍もしたもんね」

「期待に応えられるよう励まなければなりませんね」

 

 こうして二年目が始まって、僕たちは慌ただしく日々を過ごしながら勉強と鍛錬に励んだ。

 僕とリアの繋がりは数か月に一度強化されて、少しずつ身体に馴染んでいった。慣れてくると繋がりがなかった頃の感覚が思い出せなくなって、リアと繋がっていないなんてありえないとさえ思うようになった。

 

 二年目が半分以上過ぎて後期が始まった頃だっただろうか。

 

「クリス君の魔力量がリアさんを上回っていますね……」

「少年、いよいよ化け物じみてきたね?」

「ひょっとしてリアの魔力を吸い過ぎなのかな?」

「いえ、わたくしはお陰さまでとても快適ですし」

「でも、別の意味で『吸い過ぎ』だったりしない?」

 

 毎日僕に一定量を供給してくれるリアと、注いでもらっている分を使い切れていない僕。そのうちこの日が来るのはわかっていたけれど、いざそう言われてみるとなんだか変な気がした。

 もちろん、リアがいないと魔力が減っていくばかりの僕と毎日驚異的な量が回復するリアじゃすごいのはリアのほうなんだけど。

 

 何度目かの施術でリアもめでたく魔法が使えるように。

 

 僕の魔法操作能力を使う関係上、あまり大きな魔法は使えないみたいだけれど、火をつけたり水を出したりといった日常生活に必要な魔法は問題なく使えるし、練習していくと防壁を張ったり治癒魔法を使ったりもできるようになった。

 僕と繋がりのあるリアが使うと『魔力喰らい(マナ・イーター)』をすり抜けられるのか僕への治癒も可能で、

 

「これは、クリスちゃんにはリアちゃんがついてないとだめだねー」

 

 と、マノン先生からからかい交じりに言われてしまった。

 

 身体は二年目が終わる頃にはほぼ、裸の状態でも女の子にしか見えないように。

 男としての機能については前に言われたようにマノン先生に相談してなんとかできるようになった。

 

「女の子が使うには感覚的に難しくて向き不向きが激しいみたいなんだけど、クリスちゃんの場合はもともとあったものを復活させるだけだからね」

 

 子供を作れない、なんてことがなくなって一安心。

 と、思っていたら「そうなったら産む方で作れば」なんて囁かれたりもして、わりと冗談にならない話にぞくっとした。

 身体の変化は体調的には問題なくて、むしろ調子がよくなったくらい。

 魔法が安定するようになって以前は苦戦していた魔法も使えるようになった。

 

「やっぱり、魔力自体に女性との親和性があるっぽいね」

「不思議な話ですね。身体の特定部位が魔力を司っているわけではないはずですよね?」

「そのはずなんだけどね。そうなると一番怪しいのが胸ってことになるし」

 

 胸の大きい女の子が魔法を得意としているかというとそうとも限らない。

 実際、フランシーヌは胸があまり大きくない。ルシールや母さんみたいに幼少期から天才的な才能を発揮する子がいる説明もつかないし。

 

「なら子宮が怪しい」

「まあ、確かにそこは魔法的に意味のある部位だけど……クリスちゃん、あるの?」

「知りませんよ!?」

 

 シビル先輩とミシェル先輩、ララ先輩の進路に関してはいろいろ話があった。

 ミシェル先輩なんかは出会った頃から言っていた通り騎士団に入ることもできたんだけど、

 

「実はねー。学園が固有の兵力的なものを持ったらどうか、っていう話が出たんだ」

 

 これまで学園絡みで問題が起こった場合は学園長以下、教師たちが主に対応にあたってきた。

 必要であればマノン先生なんかが適宜生徒をピックアップしたりして不足を補っていたわけだけれど、そういうのとは別に、有事の際に率先して動けるチームがあってもいいんじゃないかという話。

 どうしてそういう話が出たのかというと、先生やクローデット、師匠いわく、

 

「もし戦争になったとして、クリスちゃんたちを軍属にはしたくないの」

「私は臣下の一人として陛下および国に忠誠を誓い、有事の際は軍に協力することを約束しています。ですが、これもあくまで個人の話」

「ひよっこのお前たちがクローデットと同じ事をしたいなら何かしらお墨付きがあった方がいいだろ」

 

 そこで、学園所属の遊撃部隊。

 

「っていうか、何でも屋だねー。平和な時は研究するなり普通に先生しててくれればいいし。訓練してても『そういう役目だから』で何も言われない」

「夢のような生活」

 

 この話が出たもう一つのきっかけはエルフリーデとの戦いだ。

 僕たちが若者だけのチームで『城塞の魔女』を打倒したという話がこの案にある程度の説得力を作った。

 暫定メンバーはシビル先輩、ミシェル先輩、ララ先輩、それに既に卒業済みのフェリシー先輩。

 

「クリスちゃんとリアちゃんにも卒業後に加わってもらう。どう? これなら上からうるさいこと言われずに『永遠の魔女』を追えるよ」

「もちろん、僕には文句なんてありません」

「わたくしも、願ってもないお話だと思います」

 

 こうして、魔女の力を人々に還元することを目指すと共に国や世界にあだなす魔女を狩るためのチーム『調和の魔女団』が結成された。

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