魔力喰らい 〜魔女の学園でただひとりの少年〜 作:緑茶わいん
「あんまり気は進まないけど、戦力が増えるのは正直、国としても助かると思うよ」
引き続き学園長をしているマノン先生は三年経っても見た目がぜんぜん変わってない。
卒業と同時に成人を迎えた僕たち。
強く引き留める理由がなくなってしまったので仕方なく戦争への参加を認めてくれた。
「陛下からのお墨付きもある。みんなには独立した遊撃部隊として行動してもらいます」
陛下からは王家の紋章が入った揃いの腕輪をもらった。
紋章入りの装飾品偽造は重罪。これを見せれば身分を証明できる。軍じゃなくて学園所属なので国側の命令系統にも属さない。
自由に行動できるし、それによって相手を引っ掻き回すこともできる。
拠点は学園内に作られた建物になるわけだけど──正直、都から国境までもかなり遠い。作戦ごとに往復するのは大変だ。
そこで、
「
『城塞の魔女』エルフリーデが協力を申し出てくれた。
彼女の移動城塞なら物資をたくさん積み込めるし中に部屋もある。移動中に揺れるのを我慢すれば寝泊まりだってできるから余計な体力を使う心配もない。
問題は城塞ごと吹き飛ばされることだけど、
「この際だ。とっておきの城塞を使うとしよう」
この前吹き飛ばされたのは僕たちが前に戦ったのと同じ仕様のもの。
あれだって普通に築こうとしたら途方もない時間がかかる。魔法で作るにしてもすごく大変ではあるけれど、とっておきはそれに輪をかけて丹精込められた仕様だ。
これでもかと魔法強化の施された車輪。
砲塔は小型化、射出口を長くすることで飛距離を伸ばし、シューターの応用で爆発の魔法を発射するようになっている。これなら鉄球を飛ばすのと違って撃てる回数に制限がないし連射もきく。
動力源には懐かしい超大型魔石。
リアの魔力で完全に満たしてあるのでちょっとやそっとじゃ枯渇しない。リアと僕が乗り込んでいる以上、減った分の補充もできる。
今まで以上に強く防壁を張り巡らせても余裕。
「念のため、私たち以外の人員は最小限にしておくか。主にメイドと下働きだな」
「戦闘要員を増やしても足を遅くするだけだからねー」
兵士や騎士を載せると戦いのたびに収容の手間が増えてしまう。
だったら戦いに出るのは僕たちだけに限定したほうがずっと戦いやすい。
「身の回りのお世話はコレットたちにお任せください」
すっかり顔なじみになったメイドさんたちがバックアップ。
そして、
「ちゃんと私も役に立つからね! 美味しいご飯期待してて!」
厨房担当として同行することになったニーナが休息のひとときを約束してくれる。
「ありがとうございます。これならきっと戦線を押し戻せます」
僕が言うとエルフリーデはふっと笑って、
「馬鹿を言うな。私たちが共同で動いてその程度の戦果しか出せないのでは、もはや負けは確定だぞ」
もの凄い自信。でも、それと同時に僕たちの役割が重いことも事実。
僕は「そうですね」と頷いて、
「必ず戦線を押し返しましょう」
◇ ◇ ◇
城塞には詰め込める限りの品物を詰め込んだ。
戦場に行くわけなので貴重品は持って行けないけれど、戦いに使う物や食料などはあればあっただけいい。補給に帰れるとは言ってもなるべく移動の手間は減らしたいし。
「ドレスはしばらくお預けだね」
「そうですね。動きやすい服装でいなければ」
大きいと言ってもスペースは限られる。
部屋の大きさは最小限になるし、男女を離して……とかも言ってられない。王女であるリアには辛い環境のはずだけど、彼女は弱音一つ吐かなかった。
出会った頃に比べると四肢はしなやかに伸びて、肌もいくらか健康的な色合いになっている。身体強化を使えるようになった今は体調面の心配もほとんどなくなった。
リアの成長に思わず涙ぐむと、「もう、クリス様?」と鼻を突かれて、
「わたくしは王女と言ってもただの籠の鳥。そこから連れ出して外の世界を教えてくださったのはあなたなのですよ?」
「……そっか、そうだね」
三年間、彼女と一緒に学園で過ごしてきた。
部屋の狭さなんて今更だし、男が傍にいるのもそうだ。もう彼女は出会った頃のか弱いお姫様じゃない。立派な魔女で、僕のパートナーだ。
僕たちの部屋は隣同士ということになった。
リアの部屋の隣はエルフリーデ。「いつでも夜這いに来ていいぞ」と言われたけれど、あいにくそんな予定はない。
「移動中はポーションを作りづらいのが困りものですね」
「魔道具も新造はしづらい。やっぱり夜が狙い目かも」
エルフリーデが寝ている時は基本的に城塞も止まる。
自動で移動もできるけど、それをやると行き過ぎた時に止める人がいないからだ。それを考えるとバックアップ組は夜更かしが鉄板になるわけで、なんというか学園にいた頃とやっていることがあんまり変わらない。
でも、みんなが朝起きて夜眠る生活だと警戒がおろそかになりやすい。
起きていてくれる人がいるのはとても助かるのでここはみんな敢えて咎めないようにした。
シビル先輩たちは基本、戦場には出ずにアイテムの作成や負傷者の治療を行う係だ。
「ボクはいつも通り、手伝えそうなところを手伝う感じでいいかな?」
「お願いします、ララ先輩」
ララ先輩は魔力が少なめなので実戦闘よりはシビル先輩たちと同じように夜番を務めてもらったり、各所にあるシューターのメンテナンス、時には厨房の手伝いまでを臨機応変に担当してもらう。
「私はこういうの慣れてるから任せてよー」
ミシェル先輩は学園を卒業後、『調和の魔女団』に所属しながら騎士団に出向して腕を磨いていた。
男に囲まれた生活や日常的に戦いの技を振るう生活、遠征による野外活動などにも慣れているのでとても頼もしい。
騎士服をもとに仕立てた僕たちの制服も一番ばっちり決まっている。
「賑やかなのは結構ですけれど、主戦力がいささか少なくないかしら?」
学園生活の中でフランシーヌもだいぶ逞しくなった。
狭くて湿気が多いと文句を言いながらもそこには拘らず戦力的な不安を口にしてくれる。
と思ったら「まあ、私がいれば十分でしょうけど」と軽口を叩くのも忘れない。
「あんまり大人数で出ても仕方ないだろ。雑魚は
城塞をコントロールしないといけないエルフリーデは外には出られない。
もっとも、彼女一人で全シューターをコントロールし、城塞の進路も調整できるのだからむしろ驚異的としか言いようがない。
なので、いざという時の戦闘を担当するのは僕、ミシェル先輩、フランシーヌ。
「オリアーヌ。お前は私と一緒に魔石の間で待機だ。初めから切り札をすべて見せる必要はない」
「かしこまりました」
僕たちの出発は多くの人たちに見送られながら盛大に行われた。
陛下からも「其方らの活躍に期待する」との言葉をもらった。これは失敗できないし、したくない。
城塞が動き出す中、僕たちは塔に上がって外の景色を眺めた。
遠ざかっていく都。街道を塞がないように脇に逸れて進んでいく城塞。移り変わっていく景色が目に楽しい。
「……なんか、ちょっとわくわくしてきた」
「はい。わたくしもです」
なんだかんだ、僕たちはほぼ都の中で生活していた。
村から都に来た時以来遠出もしていない。そう考えるとこれは初めての長旅で、楽しくなってしまうのもある意味仕方のないことかもしれない。
「いいんじゃない? 今から緊張してても大変だし、少しくらいは楽しんでおきなよ」
「はい、ミシェル先輩」
城塞は馬と違って疲れない。
一日の半分以上を一定の速度で走り続けられるのでかなりの速度が出るものの、それでも国境までは何日もかかる。
隣国に入るまでは待機時間であり、僕たちはその過ごし方を考えないといけなかった。
身体がなまらないように訓練をしたり、余計な疲れを残さないように休憩したり、英気を養うためにもしっかりと食べたり。
魔力を温存するために魔法の訓練は控えめにしないといけなかったけれど、それ以外はいろいろなことをした。そうしているうちにだんだんと国境が近づいてきて、
「念のためにおさらいしておくとしよう。我々はまず、押し寄せてくるゴーレムの群れを蹴散らす」
エルフリーデ主導のもとあらためて作戦会議が行われた。
「具体的にはどうやって?」
「城塞ですり潰す」
それしかないのか、と言ってはいけない。それが一番楽なんだから使わない手はない。
「蹴散らせば蹴散らすだけ守備兵の負担が減るだろう。雑魚共を潰しながら中央に向かって進軍していくとしよう」
「果たしてうまくいくでしょうか……?」
「さあな。……むしろ、この程度でどうにかなるようなら拍子抜けと言ったところだが」
国境に到達。
ゴーレムの進軍を防ぐため、国境には厚く高い壁が築かれていた。魔女の力は攻撃に使うだけが脳じゃない。人力ならとても時間がかかる作業を短時間で終わらせられるのだから、こうやって守りを固めることだってできる。
ここではゴーレムの他、空から投下される魔道具兵器に警戒しているらしい。
「およそ一日に一度、飛行型のゴーレムが飛来します」
もしも兵器が投下されればせっかくの壁も吹き飛ばされてしまう。
空に敵が見えたらシューターや弓を使って必死に撃ち落とす。ただ、今のところは全てブラフ。兵器を持ったゴーレムは来ていないらしい。
出し惜しみをしているのか、それとも。
「いつ来るかわからない。心理的な負担を大きくして嬲っているのかもな」
「では、こちらから打って出れば対応が変わるかもしれませんね」
「ところで、壁はどうするんですか? まさか突き破るわけじゃ……」
「そんなもの、飛び越えればいいだろう」
「え」
城塞全体に浮遊の魔法をかけて壁を普通に乗り越えた。
「オリアーヌのお陰だな。動力源がなければさすがにここまで浪費はできん」
「いえ、エルフリーデ様も十分すごいといいますか……」
魔石がなくてもできなくはない、と言いたげなあたりが本当に非常識だ。
国境警備兵から快く見送られてしばらく進むとさっそくゴーレムが姿を現した。小集団を形成し、四六時中攻めてくるという情報通り、数十体が一定のスピードで国境へと向かっている。
彼らは自分たちのほうへ向かってくる城塞を「敵」と判断したのか足を止め、腕を持ち上げて攻撃態勢に入るも、
──ごっ!! ごりごり、めきめきめきっ!!
撥ね飛ばされ、すり潰され、なにもすることなくその役割を終えていく。
倒された際に爆発する個体もいたけれど城塞にはなんの影響もない。防壁がちょっと起動した程度で、そのくらいの消耗はリアがいればいくらでも補える。
そのまま進んだ城塞は次々とゴーレムを発見、蹴散らしていって、日が暮れかけたところでいったん移動を止めた。
敵地なので遠慮なく街道のど真ん中である。
「さてさて。夜間にどう出てくるかが見ものだな」
果たしてゴーレムたちは暗視機能かなにかを備えていた。
城塞に衝突することはなく
「なるほど。動いていない状態では
「大きすぎてただの建物扱いなんじゃないかな?」
とりあえず、目についた分はシューターで蹴散らされた。
「とはいえ、眠らないわけにもいかん。夜間に遭遇した分は無視するか」
それでも国境にたどり着く個体はずいぶん減るはず。
夜番をフェリシー先輩たちに任せて僕たちは眠りにつき──。
真夜中、轟音と共に城塞が揺れた。
飛び起きて状況を確認すると「安心しろ、傷はついていない」。城塞全体の様子を魔法で把握したエルフリーデが淡々と言った。
「例の魔道具が投下されたらしい。……ふむ、意外と早いな。飛行型ゴーレムかなにかで偵察しているのか。あるいは予想されていたか?」
「大きすぎて遠くからでも発見しやすいだけじゃ」
「はははっ。それならそれで構わんがな。強化した防壁なら防ぎれることもわかった」
この夜、さらに二発の魔道具兵器が城塞に向けて投下された。
どちらも防壁が阻んで無傷。消費した分の魔力はリアが供給して補充。
これで敵は貴重な魔道具を三発も浪費したことになる。これだけでもかなりの戦果のはず。このまま敵は切り札を撃ちこみ続けてくるのか、それとも。
「ほう。……そう来るか」
翌朝。
動きだそうとした城塞に向けて、