ウマ娘に転生したけどやべえのと同期なんですが…   作:sannsann

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秋華賞

 

 

 

いよいよ最後のティアラ…秋華賞の日がやってきた。

やれるだけのことはやった、夏を超えて、私の脚はさらなる飛躍を果たした……はず。

 

やっぱり緊張はする、そりゃあするよ。

だって無敗でのトリプルティアラだよ…。

しかも、奴の無敗三冠との同時達成だとか世間は期待してるんだよ。

ぶっちゃけ、怖い、今にも押しつぶされそう。

震えだってとまらない。

 

けどトレーナーが教えてくれた。

それは恐怖ではない、武者震いだって。

ガタガタ震える脚も、一向に収まらない激しい心臓の鼓動も、にじみ出る手汗も、全部、勝負が楽しみだ、勝つのが楽しみだっていう武者震いなんだって。

 

そう言われても、ああそっか、とはならなかった。

そこまで単純じゃない。

けど、心は楽になった。

虚栄でも、見栄っ張りでも、かっこつけでも、なんだっていい。

やってやろうじゃないか。

それに、ここまでの頑張ってきた過程は、努力は、ウソじゃない。

履きつぶした靴は一体何足だったか。

擦り切れた蹄鉄は一体何個だったか。

私が私を信じれなくても、体は覚えてる。

頑張ってきた体は、応えてくれる。

だったら、心もそれに応えないと。

 

 

だけど、どれだけ自分に言い聞かせても、不安が消えない。

どれだけ努力を重ねようと、才能に恵まれようと、運に恵まれようと、レースに絶対はない。

 

……だけど、(絶対)にあんなこと言われたら、不安なのが全部フッと消えてしまった。

 

しゃくだけど…ほんっとーーーにしゃくだけど、奴に少しだけ感謝してやろう。

 

 

『不安な顔してるー。

 なんかショックだなー。

 私よりあの子達の方が強いって思ってるんだ?』

 

 

本当に、いつもいつも私に大きな衝撃を与えてくる子だ。

そうだ、奴に比べたら、奴の絶望を与えてくる速さに比べたら、なんてことない。

そうだ、私は奴に勝つんだ、そして最強になるんだ。

何を怯えている、何を不安がっている。

私の目標はもっと上だ。

確かに今日の子たちも強敵だろう。

皆今日のために頑張ってきたのだろう。

けど、それでも、奴と戦う絶望感に比べたら、まだましだ。

比べること自体失礼なのかもしれないけど、ぶっちゃけそうなんだもん…。

 

うん、落ち着いてきた…。

ありがとう、今日くらいは伝えておく。

じゃあ見ててよ、私の走りを。

 

 

 

 

 

 

『さあ、トリプルティアラ達成なるか!

 断トツの1番人気、2枠4番!

 アサオンクライ!!!』

 

 

ワアアアっと大歓声があがる。

もう、不安はない。

もう、緊張はない。

あるのは…沸々と沸き立つ、闘争心。

ギラギラと輝く野心。

この大観衆が、私のトリプルティアラをたたえてくれるのだ。

きゃーさいきょー!そしてさいこー!って大歓声で言われるのだ。

ふふふふふ。

 

『続きましては2番人気、前走こそ不覚をとりましたが、最後のティアラは渡さない!

 NHKマイルに続いて2つ目のG1制覇を狙います!

 3枠5番は………』

 

ラインちゃんも気合たっぷりだね…。

もちろん要注意だ。

だけど…。

 

『………さあ3番人気、前走は素晴らしい末脚で見事本命を打ち破りました!

 桜花賞、オークスの雪辱を晴らすか!?

 5枠10番………』

 

今日やばいのは、この子だ…エアちゃん。

前走の末脚、かなりやばかった。

上がり3ハロンだけ見たら私に肉薄するレベル。

それだけに、スパートのタイミングを見誤れない。

おそらく先行策でいくであろうラインちゃんに出し抜かれないようにしつつ、エアちゃんの末脚にも注意する。

大丈夫だ、やれる、私ならやれる。

 

 

 

 

『さあ、ファンファーレが終わりいよいよ枠入りです』

 

『皆すんなりゲートインしていってくれてホッとしますねぇ』

 

『ははは…去年は3分くらい待たされましたっけ…』

 

『今年はすんなりと終わり…今……スタートですッ!!』

 

 

ゲートが開くと同時に飛び出す。

内枠なのでそのまま流れにのって走る。

最内の1番の子と隣の3番の子がすっと前にでていった。

そのまま逃げるっぽいな、おっと外からもさらに来たな。

そしてラインちゃんも行ったか。

エアちゃんはどこだ…。

少しペースを押さえて後ろに下がる。

いた、ちょっと中団が膨らみ気味だけど、まあいい。

第1コーナーに入ると隊列も決まってきた。

私はエアちゃんの後ろにすっと入る。

後方追い込みだと、ラインちゃんを捉えきれないかもしれない。

だから今日は追い込みではなくて、中団からやや後方で行く予定だった、エアちゃんの走りも想定通り、なのでマークさせてもらうよ。

 

 

1000mはたぶん平均くらいか…。

早めではないはず。

 

第3コーナー、ペースがあがってきた。

焦るな、まだ溜めろ私。

今抜け出したらエアちゃんに差される。

大丈夫だ、自分の脚を信じろ。

 

第4コーナーにさしかかった。

ラインちゃんが一気にペースを上げた、ラインちゃんの勝ちパターンだ。

今じゃない、まだ、まだ、溜めろ、溜めろ、溜めろ…。

 

第4コーナー終盤。

今ッッッ!!!!

自分自身でも押さえていた衝動を一気に爆発させる。

横を見たら、ほぼタイミングでエアちゃんもスパートを掛けてきていた。

そして前ではラインちゃんが一気に抜け出た。

ゴールまで後300ッッ!!!

絶対に差し切る!!

 

 

頭に血がのぼる。

脚を限界まで回す。

腕をこれでもかと振る。

爆発的な加速。

奴以外には負けるつもりのない、私の自慢の末脚。

 

 

内を走る娘達をあっという間に抜き去り、置き去りにして、グングンと前に進む。

だが、だが斜め後ろのエアちゃんも負けじと食らいついてくる。

引き離せない。

二人で揃って、先頭を走るラインちゃん目掛けて突っ走る。

ラインちゃんも早い、けど追いつける。

 

あと200、いける、追いつける、差しきれる。

 

あと100、ラインちゃんに並んだ、あとは追い抜く。

 

あと50、抜け出せそうで抜け出せない、二人とも必死に喰らいついてくる。

 

あと2・3秒で終わってしまう。

 

負けるかも、このまま接戦になったら、写真判定で、負けるかも。

 

負けちゃう?

 

私が?

 

奴以外に?

 

 

「ああああああああッッッッッ!!!!!!!!」

 

太腿が千切れそうになる。

脚が悲鳴を上げる。

だがそれがどうした。

負けない、負けない、勝つ、勝つ、勝つんだッ!

スパートの前傾姿勢のまま、蹴る(・・)ように振り上げた脚を今度は凄まじい速さで振り下ろす。

全身全霊を込め、地面に叩きつけ、悲鳴を上げるつま先を無視して、持てる力を全て込めて前へと進む推進力に変える。

 

一歩。

 

二歩。

 

たった二歩。

 

たった二歩で、脚どころか全身に千切れ飛びそうな激痛が走った。

 

 

けれど、その二歩が終わった時。

 

 

私の体は二人よりほんの少しだけ先にゴールできていた。

 

 

 

 

 

 

『アサオンクライ体勢有利か!』

 

『最後の最後、さらに伸びましたねぇ』

 

『………………………。

 判定が出ましたッ!

 達成!達成です!無敗でのトリプルティアラ達成です!!!』

 

 

脚が痛い。

体が熱い。

呼吸が落ち着かない。酸素が足りない。

肺が痛いし、心臓の鼓動も壊れそうなくらい激しい。

動けない、そんな余裕がない。

 

最後、差せたよね、私、ゴールできたよね。

先にゴール、したよね。

負けてないよね。

 

自分の心臓の音と呼吸の音がうるさすぎて実況の声がよく聞こえない。

大歓声があがっているのはわかる。

 

けどそれは、どっちだ。

私が勝ったからか、それとも負けたからか。

 

膝をついてゼーゼーと言っていると、ふっと影がさした。

エアちゃんとラインちゃんだ。

 

「あーあ、最後勝てると思ったのになぁ」

 

「私も。ていうか何、あの最後の伸び、ありえないんだけど」

 

「あ…え…」

 

「あーあ、なんて顔してるのよ」

 

勝った…のか…?

 

「ほら、観客が待ってるわよ、取るんでしょ?例のポーズ」

 

「そうそう、ティアラ路線の最後のシメなんだからきっちりしてよね」

 

勝った。

勝ったんだ私。

 

「………ぁう…ぅぇ………う"え"え"え"え"え"え"ん"ん"ん"ん"ん"ん"………」

 

「ちょっ!な、何泣いてるのよ!!」

 

「あーもう、仕方ないわね、ほら、手、上げなさいよほら」

 

「ぅえッ!ぅぅぅッ!ぁぐっッ、ヒック…」

 

「あーあ、なんで負けた私達が気を使わないといけないんだか…」

 

「なんかもう悔しさが吹っ飛んじゃったわもう…」

 

涙が止まらなかった。

気づけば大号泣だ。

うん、まじで、感情が爆発した。

たぶん、不安で押しつぶされそうだったのに、無理やり蓋をしていたものが一気に溢れ出たのだろう。

ラインちゃんとエアちゃんが呆れながらも私を支えながら手を上げさせてくれる。

膝もガクガクしてまともに立てない。

よかった、二人がいてくれて。

 

 

「ほら、ちゃんと3本指立てなさい?」

 

「そうそう、私達に勝ったトリプルティアラの女王様なんだからね?」

 

 

 

私がなんとか指を立てると、観客からの大歓声がさらに倍増した。

 

 

『か、感動しました!

2着の!3着の子たちが!不貞腐れずに支える!

美しいッ!

 すっ、すっ、すっ、素ッッ晴らしいッッッッッ!』

 

『お、落ち着いてください!

 しかしまあ、確かに素晴らしいですね。

 本当に美しい心を持った子たちです』

 

 

うれしさ、達成感、安心感、なんかもう色んな感情が私の中を暴風のように駆け回っていた。

 

私、勝ったよ。

ふふ、私ってば最強ね!

 

いけないいけない、涙を拭かないと。

クールな私に泣き顔なんて似合わないしね!!!

 

 

 









「おおああああああ………」

「アサオンちゃんどうしたの?」

「なんか各新聞の一面に、自分の鼻水と涙でぐちゃぐちゃになったブッサイクな顔晒されて悶てるみたい」

「www」
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