ウマ娘に転生したけどやべえのと同期なんですが…   作:sannsann

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相手が精神的に無防備になった時ほど…♥

 

 

僚バも一緒にとは言っても、今回の遠征は3ヶ月。

さすがにずっと拘束するわけにもいかず、イギリスでの生活に慣れてきた1ヶ月が経つころには、僚バの娘は帰国してしまった。

ウマ娘一人でも長期の遠征費用は馬鹿にならない。

宿泊費はもちろん、食費や蹄鉄などの維持費、その上で体調管理もしないとだから結構お金がかかる。

レースまで残り約2ヶ月…短期的に応援・併走とかで来てくれるみたいだけど、基本的にはトレーナーとの2人生活だ。

 

ぶっちゃけ、これ以上身体的能力の向上は望めない。

スピード・パワー・スタミナどれもほぼ限界値だ。

トレーナーさんから、これ以上伸ばそうとすれば、他の値が犠牲になると言われた。

根性はまあ、別枠。

だからあとはひたすらに、イギリスの芝になれること。

コースの特徴を熟知すること。

ライバルについて知ること。

レースの勘を鈍らせないこと。

この4つだった。

 

そして2ヶ月は、あっと言う間だった。

 

芝に関してはもうひたすらに触れ合った。

走ることはもちろん、お昼寝とかも芝の上。

一部切り取って拠点まで持ち帰ってひたすら手で触ったり頬ずりしたりする。

時には食べたり…まではさすがにしなかった。噛みはしたけど。

そんな感じで芝を具現化できるレベルで触れ合った。

いやそれくらいの気持ちでだよ!

コースに関しても、実際にレース場で何度も練習で走ったりした。

坂もそれに見越したり、直線だってそう。

徹底的に体に覚え込ませた。

ある意味、アスコットレース場にひたすら特化させた感じだ。

仮に今、他のレース場…走り慣れた日本のレース場に戻ったとしても、違和感を覚えるレベルにまでなっている。

後のことは考えない、次のレースで終わってもいいという覚悟だ。

対戦相手の研究も常に行っている。

どう動くのか、どういう癖があるのか、実際のレースではどういう作戦をしてくるのか。

考えられるあらゆる想定を頭に叩き込み、脳内でもレースを行う。

日本URAから応援に来てくれたウマ娘達にも支援してもらい、シミュレーションした動きをしてもらう。

現地のウマ娘にも依頼して、本番さながらの模擬レースも何度も行う。

もちろん情報を抜かれることも想定してちゃんとやっている。

そのへんは自称IQ200のトレーナーがいるからね、不安はない。

この人本当に頭いいのか?ってたまに思うけど死にたくないから口には出さない。

 

 

 

そんな感じでずっと順調だった。

このままいけば、本当に勝てそうだと思えるくらいには。

濃厚な2ヶ月、精神的にも肉体的にもしんどかったけど、振り返ればあっという間だった。

 

そう、順調だった。

 

レースまであと4日となり、あとは調整となった。

夜、持参した愛用の布団で眠ろうとしたら、眠れなかった。

今まで感じたことのない、不安が襲いかかってきた。

 

負けたらどうしよう。

皆、私に期待している。

日本バ初のKGVI & QESの勝利に。

トレーナーやファンどころか、今や国をあげての応援だ。

スポーツ新聞どころか、普通の新聞でも、記事になっている。

レースが近づくにつれて、頻度も多くなる。

見なければいいのに、見てしまう。

テレビでも、新聞でも、SNSでも私が勝つかもって言われている。

実際に、事前人気では2番人気だそうだ。

人数は6人と少ないけれど、日本バでの2番人気はすごいことだとか。

もし負けたら、どうしよう。

無敗だったのに、負けてしまったら。

もう最強だとか思われなくなっちゃうのかも。

いや、そこはもう仕方がない。

ただ、どんな顔して日本に帰ればいいのだろう。

あれだけ期待されていたのに、あれだけ応援してくれていたのに、それなのに。

皆の期待が力になるのは事実、けど重荷になるのもまた同様だ。

 

 

 

一度そういったことを考えてしまうと、もうとまらなかった。

眠れない日が一日経って、トレーナーに即ばれた。

調整どころではない。

以前やった死という恐怖を克服する方法はダメだそうだ。

一時的に立ち直っても、すぐにまた戻るんだとか。

今回ばかりは私自身が立ち直るしかない、と。

 

二日目も眠れなくて、まじで睡眠剤でも飲もうかとトレーナーに相談したが却下された。

仮に眠れたところでその精神状態をなんとかしないとレースでは勝てないと。

わかっている、わかっているが、睡眠だけでもとりたい。

何事にも悩むことなく眠りたい。

 

三日目になり、思考もおぼつかなくなってきた。

布団に横になるが、眠気は相変わらずこない。

 

そもそも私はなんでKGVI & QESに出ようとしたんだっけ…。

奴に勝てばそれで終わりだっただろう。

 

そうだ、奴が、世界を、凱旋門を取りたいって言ってたからだ…。

あれはリトルクラブのころだったか…。

奴がそう言ったから、それなら私はKGVI & QESを取るねって約束したんだっけか…。

そうだ、思い出してきた、奴が無敗三冠、私が無敗トリプルティアラをとるって約束した時だったな…。

そんでお互い闘って、勝ったほうが6冠だとか言ってたっけ。

その後はお互いで世界をとって、また戦おうねって言ったんだった。

奴が凱旋門、私がKGVI & QESをとって、そのあとまた闘って、勝ったほうが世界最強だって、言ってたっけか…。

懐かしいなぁ…そういえば、ここ2日は奴から電話がない。

メッセージとか写真は送信されてきたけど…。

 

奴のことは、目の敵にしているが、別に嫌いというわけではない。

むしろ、好きだ。

レースで勝てなかったことを除けば、大好きだ。

人間的にも、そして奴の走る姿を見惚れた、一人のファンとしても。

ああそうだよ、ファンだよ、悪いかよ。

私自身、奴の走りに惹かれていたんだよ。

あんな風に、空を翔けるように走りたいって。

 

おかしい、なんかセンチメンタルだぞ…。

それもこれも奴がここ数日でリトル時代の写真やらトレセン学園での思い出写真とかを送信してくるからだ…。

こんな状態でそんなの見たらそりゃこうなるよ。

 

 

ああ、奴に会いたいなぁ…。

声を聞くだけじゃなくて、いつもみたいに奴に抱きついて、抱きつかれて、ギュッとしあって…。

 

だめだ、ついには幻覚まで見えてきた。

いるはずのない、奴の姿が見える。

まじでもうダメかもしれない。

 

 

「………………会いたいよぅ………ディー………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あはっ…私もだよ♥」

 

 

次の瞬間、私の鼻腔に嗅ぎ慣れた香りが入ってきた。

忘れることのない良い香り。

そして視界にも、見慣れた、忘れることのない小柄な奴の姿が見えた。

 

「……ッエッ…?」

 

あるはずのない、いるはずのない存在に驚き、フリーズする。

けれど現実に、奴が目の前にいる。

瞳に映る姿も、鼻腔から伝わる香りも、耳から入っていくる声も、全部が本物だと訴えてくる。

 

 

「……ディー……ちゃん……?」

 

 

「あはっ♥ そう呼ばれるのはリトル時代以来かな?」

 

 

 

不安も恐怖も、そして我慢とか理性とか恥ずかしさとかも全部吹っ飛んだ。

 

私は奴に突進し、抱きつき、押し倒し、腹にグリグリと頭を押し付けながら、ギャン泣きした。

 

 

 

 

 

 

どれほど泣いただろうか、ようやく落ち着いてきた。

奴の手が私を優しく撫でる。

 

「そっかそっか、不安だったんだね」

 

「うん…うん…怖かった」

 

「大丈夫、大丈夫だよ、ここまで頑張ってきたんだから」

 

「うん…」

 

「それに、私と勝負するのとKGVI & QESで走るの、どっちが負けそうで怖い?」

 

「…ディーちゃん…」

 

「…うん♥」

 

あれから私は幼児化したかのごとく、奴の腕の中であやされた。

これがバブみというやつか…。

まじで何をしているんだろう私。

いくら睡眠とれてなくて思考回路がバグっているとはいえ…。

 

 

少しずつ落ち着いてきた頭を回転させる。

 

「どうしてここに…?」

 

「アサちゃんがなんか大変なんじゃないかって感じたの。

 あとはアサちゃんのトレーナーさんからもやばいって来たんだよね。

 まあ、そんなものがなくても、どっちみち来るつもりだったけど♥」

 

うん…このうえない、私への特効薬だよこれは。

悔しいけれど、もう不安がなくなったことがわかる。

 

やつも調整だとか色々あるだろうに、わざわざイギリスにきてくれた。

そのことが、とても嬉しくて、心が暖かくなる。

それに、傍にいてくれるというだけで、心強い。

 

 

 

 

それから2人でたくさんお話して、その後は久々に、リトル時代のように、2人で一緒布団に入った。

…………ああ…今日は……ぐっすり、眠…れ…そ…う……。

 

 

 

 








???「あえて昔の写真おくった効果が出て良かった♥
    久々に愛称で呼ばれちゃった♥」
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