ウマ娘に転生したけどやべえのと同期なんですが… 作:sannsann
ゆめをみていた。
『ねぇ、アサちゃん!
わたしね、いつか、がいせんもんしょうでかちたい!』
『がいせんもんしょー!
すごいやつだよね!
たしか、せかいさいきょーのやつ!』
『そうそう!
それでね、あの、その…………よかったら、アサちゃんも……その、いっしょにめざそ?』
『うん!いいよ!
いっしょにさいきょーになる!
………あ、やっぱイヤ!
ダメ!』
『ぇ……』
『あ、ち、ちがうよ!なかないで!
いっしょにはしるのが いやなんじゃないの!』
『どういうこと…?』
『あのね、ディーちゃんが、がいせんもんしょうをかつならね』
『うん』
『わたしは、きんぐじょー………きんぐ…あんどくいーん…?
なんかそんなやつをかつ!』
『!!』
『そして、ふたりでせかいさいきょーになって、そのあとまたしょうぶしようよ!』
『うん!』
『かったほうが、しんのせかいさいきょーだー!!』
『うんっ♥』
ーーーーーーー
夢を見ていた。
いつかは世界最高峰と呼ばれるレースに出ることを。
『さあ、2番人気となる3枠4番は…我らが代表…ッ!』
遠く離れた島国では、特番まで組まれてテレビ放映されていた。
時差があり、その島国ではもう夜中。
そろそろ寝る時間となる時刻であるはずなのに、その日は誰もが眠ることなく、テレビに、パソコンに、携帯電話に、その画面にかじりついていた。
仕事をしているものでさえ、ラジオをつけて、実況の声に耳を傾けていた。
夢を見ていた。
いつかは、世界最高峰と呼ばれるG1レースに勝ってくれることを。
ーーーーーーー
6つ並んだゲートが一気に開く。
スタート直後は、長い直線となる。
しかしゆるやかな下り坂。
『スタートしましたッ!
さあ、―――クライは3番手、3番手の位置につけました』
実況の声に誰もが安堵した、出遅れることなくスタートしてくれたことに。
勢いよく駆ける6つの影、その中でも目立つ黒と黄色のトレードマーク。
もはや、その位置が前目すぎるなどとは、誰も思わない。
国内最強を打ち破った時もそうだし、異国の地で逃げ切った時もそう、あらゆる位置取りで勝利を収めてきたその存在は、あらゆる脚質を駆使して勝利するのだと皆の心に刻み込んできたのだから。
『さあ、逃げる先頭は後続に2から3馬身の差をつけて走ります。
さらに2番手には昨年の凱旋門賞馬が続きます。
そして、―――クライは3番手。
上位人気3頭が2、3、4番手という形になりました』
夢を見ていた。
1着でゴール板を通過することを。
国内ではあまり見ることのないレース場のつくりである。
緩やかな、そして長い長い下り坂を終えて、コーナーを終える頃には、次は逆に緩やかな登り坂がはじまる。
『順位はかわらず。
残り1000メートルをきりました。
ここからは登り坂となります』
誰もが息をすることすら忘れるほど、画面に見入る、実況に聞き入る。
『さあ、最終コーナーへ向けての直線に入りました。
先頭は依然4馬身のリードをたもっています。
そしてここで―――クライは4番手となりました』
終盤に向けて、位置取りが変わっていく。
誰しもが、応援することを忘れ、祈るように手をあわせていた。
『いよいよ、最終コーナーに入ります!
一気に動きが加速する、△△△がまだ粘る!
ここで■■■が先頭へ踊りでる勢いだ!
さらに□□□が続く!』
最終コーナーに入り、全体の動きが激しくなる。
三強と呼ばれる内、一頭が一気に先頭へと躍り出る。
『600の標識を通過した!
―――クライも外から合わせてあがっていく!!』
『観客も、歓声も、どんどんヒートアップしていくぞ!
残り500!!!
―――クライも一気に加速していく!!』
満を持しての加速に、祈っていた者は希望の光を見た。
『さあ残り400を通過した!
そして―――クライ!
―――クライがきた!
一気に先頭に変わった!
残り300!
―――クライが、■■■を捉えて先頭だ!』
夢を見ていた。
誰もが、このまま勝利すると喜んでしまった。
遠く離れた島国では、既に一部で歓声すらあがっていた。
『さあ残り200!
―――クライまだ先頭だ!
内から!!!内から□□□!!!!
再び□□□が伸びてきた!
■■■にもかわされた!
―――クライ頑張れるか!?』
歓声は途端に声にならない悲鳴となった。
『内から□□□!
内から□□□!』
夢を、見ていた。
ーーーーーーー
最後の直線に入って、一気に加速した。
溜めに溜めた脚を、全力で解放する。
残り400で先頭にたてた。
このまま一気に押し切るつもりだった。
そう思っていたのに、いけると思っていたのに。
もう力尽きたはずの娘達が、再び加速して伸びてきていた。
一瞬の時間が、やけに長く感じた。
一歩を踏み出すのがやけにスローモーションに感じる。
世界から音が消えた。
世界から光が消えた。
あんなに渇望していた、ゴール板すら、見えなくなった。
競バ場のメインスクリーンに映る、茶色い4本脚の生物達。
たぶん、レースをしている映像だった。
私と似たカラーリングの服を着た人間が乗る生き物がいた。
同じだった。
先頭にたてたのに、抜き返された。
映像は、そこでとまっている。
ふと、横に、荒い息遣いを感じた。
ブルルル、と聞いたことのないはずの、けれどどこか懐かしい
顔を横に向けると、映像に映っていた生物がいた。
あれ、おかしいな、私はこの生物を知っているはずなのに。
イギリスに来る時も、そのことを考えたはずなのに。
わかんないや、まあいいけどさ。
しかし見れば見るほど、なんかあれだね。
黒ずんだ、けれど艷やかで美しい鹿毛。
額の真ん中には、大きく、美しい白い流星。
二重のとても綺麗な瞳。
顔は小さいのに、脚はとても長い…ちょっとガニ股だけど。
うんうん、やっぱりなんかシンパシーを感じるね。
「そっかぁ…悔しかったんだ?」
「――――、―――、―――」
「なるほどねー、体調が万全ならねぇ。
けどそれ言い訳じゃん」
「―――!? ―――――ッ!!!!」
「ちょ、怒らないでよ!
へー、喉もいたかったの?」
「――――、―――――」
「ご飯食べれなかったって私と一緒じゃん。
って貴方も石壁蹴り壊したの?わかるわー」
「―――、――――。―――――」
「それに寂しかったんだ?
ああ、言いたかったけど、言葉が伝わらなかったんだ。
それは辛いねぇ。
そこは私とは違うかぁ、皆いてくれたし…それに最後は奴にも会えたし……」
言葉は通じないはずなのに、その生物の言いたいことは伝わってきた。
「ていうかさー、こういうのもうちょっと早くして欲しいなぁ。
因子継承的なやつでしょ?これ。
それならもうちょっと楽にクラシック戦えたのに……。
え?違うの?
じゃあこれなに…え、こわ…」
「―――――、――――――」
「あ、純粋な応援?あ、ありがと…
ええとそのー、なんかこう、パワーを授けるとかそういうのは…あ、ないんですね、はい」
「――、――、―――――」
「まあ、こんだけ言っておいてなんだけど、今更あげるって言われてもいらないけどね」
「―――?」
「なんでって、だって私は最強になるんだから。
誰かの力で成った最強とかカッコ悪いじゃん。
それにここまで頑張ってきたんだからさ、最後まで自分の力で頑張りたいよ」
「―――、―――??」
「あれも私の力、私が考えたから。
策を用意して全力で実行しただけ。
だからいいの、おいやめろ、通報しようとするな」
「―――、―――。―――?」
「うん?あげようと思えばパワーをあげれるけど4本足で走らないとってそれダメじゃんw」
「―――、―――。
――――――――」
「うん、運命ってのはよくわかんないけどさ。
運命ってのは過去…結果だよ。
頑張った結果が運命ってよばれるだけ。
だからさ、未来の運命なんてないの。
運命だから勝つとか、運命だから負けるとかそんなのおかしいよ。
勝つために頑張ってるんだからさ、そんなクソみたいなもののせいで負けるとか絶対に許せない」
「―――――――」
「確かに、一人だと辛いかもしれない。
けどさ、大丈夫だよ。
だって、私は一人じゃない。
応援してくれる人がいる、こんな遠いところまでやってきてまで。
ママもパパも、トレーナーも。
ファンの人たちも、あんなにたくさん。
あいつもいるし。
それに、貴方もなんでしょ?
―――クライ 」
彼は、肯定するかのように甲高く嘶いた。気がする。
夢を見ていた。
それは、4本脚の茶色い生き物が、惜しくも破れてしまう夢だった。
そんな夢を見ていた。
けど、それは所詮夢で……。
『さあ残り200をきった!』
止まっていた時間が、急激に動き出す。
『内から□□□!内から□□□が再び伸びてきた!
負けじと■■■も伸びてくる!
なんという叩きあい!
なんというデッドヒート!
抜かれ、抜き返し、また抜き返す!!
アサオンクライ頑張れるか!?』
内から、本命と呼ばれていた娘が一気に伸びてきた。
残る三強の1人も負けじと伸びてくる。
だけど、私だって!!!!!!
「―――――ッッァァァァアアアアアアアアッッ!!!!!!」
最後の一伸びの時、誰かが一緒に叫んでくれた気がした。
まるで泣き叫ぶかのような、心の声を。
『アサオンクライッ!
再び!再び差し返した!!
アサオンクライが差し返した!!!!
アサオンクライ先頭だ!
アサオンクライが先頭だあああッ!!』
湧き上がる大歓声をバックに、私は芝生の上に倒れた。
いや、押し倒された、が正しいか。
原因がおでこを突き合わせてくる。
あーあ、泣くなよ、笑っとけよな。
約束、守ったんだからさ。
「…勝ったよ」
「…うん」
「最後さ」
「うん…」
「変な夢見た」
「どんな?」
「なんていうか、こう…UMA的な?」
「なにそれ…」
「ごめん、言いたかったのはそれじゃないんだ…。
聞こえたよ、最後。
ディーの声が」
「うそだぁ」
「ほんと。
不思議だよね、あれだけの大歓声の中なのに、はっきりと聞こえたんだ、アサちゃんって」
「うん♥」
本当に不思議だ、モノクロの世界の中で、奴の声だけがはっきりと聞こえた。
あと、なんだったんだろ…あの変な生き物。
UMAとは言ったけど、なんかついこの間まで知っていた気がするんだけど…。
なんかすっぽり抜け落ちちゃった感じ。
まあいっか、勝ったし…。
…………。
「勝っちゃったぁ…」
「勝っちゃったねぇ」
奴の顔を横目に、空に浮かび消えていく雲をぼーっと眺める。
不思議な気分、ふわふわ、ふわふわと。
勝ったんだよなぁ…。
周囲がだんだんと騒がしくなってくる。
マイクを持ったウマ娘のリポーターさんらしき人が突っ込んでくる。
「《おめでとうございます!》
《怪我はありませんか?》」
なるほど、わからん。
日本語でおk。
とりあえず頷いてピースしとこ。
「《よかった!素晴らしい熱戦でした!》
《あなたも、ええと…友達?いやそれにしては距離感が…そして誇らしい恋人もおめでとう!》」
英語わからん、かんぐらちゅれしょん?
おめでとうって意味だっけ。
とりあえずイエスとサンキューって言っとけばいいだろ。
「イエスイエース!さんきゅーべりまっち!」
「あ、アサちゃん♥♥♥♥♥♥」
なんか奴が溶けはじめた!?
・
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・
・
・
あれから、さすが格式高いレースというべきか、厳かな空気の中で優勝式典が行われた。
最後まで、誰が勝つのかわからないレースだった。
私もそうだし、最後に競り合った二人の娘達も、限界を越えていたと思う。
私が一度抜け出した時、誰もが私の勝利を確信した。
けど、すぐにまた伸びてきて、今度はその娘の勝利と思われた。
けどけど、終わったはずの私がまた伸びてきた。
限界を越えた走りをしていたのに、さらにその限界を越えることができた。
最後に争ったあの3人の中で、私だけが泥臭く勝ち続けてきた。
何度も何度も限界を越えて、勝ち取ってきた。
最後はそんな勝負根性が、勝敗をわけたのかなぁ。
私一人で走っていたら、勝ててなかった。
私と一緒に走ってくれた、
残酷な世界だ。
レースの勝者はいつだって一人。
他の娘を戦って、争って、蹴落として。
そして今の私がある。
確かに勝ったのは私の力だ。
だけど、そこに至るまでに、私の強さの糧となってくれた娘達が、そして支えてくれた娘達がいるのだ。
私は皆の上にたっている。
血と汗の上に。
涙の上に。
私もいつか死ぬのだろう。
そして私が死んでも、レースは毎年開催される。
いつか、語られるような日がくるのかな、この熱戦を。
ううん、絶対語られる、果敢に海外へ挑戦した、偉大なる先輩として。
そんな風にぼーっと思っていたら、聞こえた気がした。
どこかで聞いた覚えのあるような、甲高い嘶きが。