ウマ娘に転生したけどやべえのと同期なんですが…   作:sannsann

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凱旋門賞

 

10月1日、凱旋門賞。

KGVI & QESと並び、いやそれ以上に日本の悲願となっているG1レース。

今まで何人のウマ娘が挑み、その強大な壁に勝利を阻まれてきたのか。

過去に出走した日本のウマ娘の最高成績は、怪鳥とよばれたウマ娘の2着。

2着でも十分すごいだろう、なにせ世界最高峰のレースでの話だ。

だが、だがそれでも、2着ではダメなのだ。

欲しい、欲しい、勝利という二文字が。

一体どれだけの日本のウマ娘が、トレーナーが、ファンが…国民がそれを渇望しているのか。

何世代と時を重ね、願いは、思いは、未来へと繋がってきた。

次こそは。

私はダメだった、だけど、この子なら。

この子もだめだった、だけど、今度こそ。

そんな、何年、何十年と重なった思い。

 

 

そしてまた、今年も凱旋門賞の日がやってきた。

今年は、一際強い思いだった。

なにせ、挑戦するウマ娘のライバルが、同じく最高峰とされるKGVI & QESに勝ったのだから。

だから、そのライバルとなるウマ娘も、勝ってくれるはず。

いや、勝ってくれ。

勝って、日本の悲願を、呪いともとれるしがらみから解放してくれ、と。

 

 

 

 

 

―――――――

 

 

 

 

 

いよいよ凱旋門賞…。

寝起きはなんか体がベタベタして最悪だった。

奴は寝汗をかいてなかった…私だけか。

シャワーを浴びて寝汗を流していたら、奴も乱入してきた。

変なテンションだったな、さすがの奴もレース前で興奮しているのだろう。

 

レース場への移動中も、奴と一緒にいた。

トレーナー達からも、最強の私に傍にいてあげてと言われたしな。

ふ、ふーん!仕方ないな!なんたって最強の私が傍にいるんだからな、これほどまでに心強いことはないだろう!

そんな最強の私のライバルなんだから、絶対負けるなよな!

 

照れ隠しにそう言ったら、奴はにっちゃり笑ってくれた。

ん?にっちゃり…?あれ?

ディ、ディーさん?あの、いつもと、表情が…。

 

それから奴は私の胸に顔を埋めて深呼吸をしはじめた。

うん…緊張してるんだよね…緊張だよね…これ…あの、トレーナー…なんで顔そらしてるの。

奴のトレーナーさんが、この際過剰になってもいいので限界まで充填しておきなさいって言ってたけど、何を!?

 

 

 

 

パドックでのお披露目が終わり、ゲートまで向かうウマ娘達。

奴は1枠1番、最内とかはじめてじゃない?

人数は8人、やはり日本と比べて少ない。

けれど、油断ならない。

少ないからこそ、より強いウマ娘しか出てこないともいえる。

私とKGVI & QESで激戦を繰り広げたハリケーンちゃんもまた出ている、彼女は去年の凱旋門賞バだからね…連覇狙い。

今回ももちろん怖い。

あとはシロちゃんも怖いし、日本で言うクラシック世代のレイルちゃんも怖い。

人気は、奴とハリケーンちゃんとシロちゃんが3強として人気を3分してる。

レイルちゃんは4番人気。

あとの子達も十分怖い戦績だ、さすが凱旋門賞といったところか。

 

 

それにしてもパドックでの奴のお披露目の時、日本から来た人たちの声援が凄かったなぁ。

文化やマナーの違いとかあるだろうからその辺はうまくやってもらいたい。

 

 

 

『さあ、今年こそは、今年こそは勝てるのか。

 いや、勝ってくれ、国民の期待を一身に背負って…

 第○○回凱旋門賞……スタートしましたッ!』

 

 

奴は…いいスタートをきったな。

 

 

『さあ、各人まずまず揃ったスタートとなりました。

 注目のディープは前の方、前の方につきました』

 

 

スタートが良すぎたのか…いや、違うな。

欧州のレースはどちらかといえばスタート直後、しばらくスローペースになることが多い、必然的に奴が前になってしまったのだろう。

そして今回の場合、それだけじゃないだろう…。

 

『ディープは…2番手、2番手の位置につけました。

 しかしここで大丈夫でしょうか、今まで後方からしかレース経験はないはずです』

 

 

シロちゃん、ハリケーンちゃん、レイルちゃんは奴の後ろ…。

マークされてるか、さすがに。

 

 

『さあ、ここからゆるやかな上り坂となります、依然としてディープは2番手の位置』

 

 

後ろには…下がらない、いや下がれないか。

他のウマ娘が邪魔になってる。

逆ブロックがえぐい、後ろに下がりたい奴を無理やり前に押し出している。

これはかなりきつそう、ていうか奴のストレスがやばそう。

ただでさえ囲まれるのがイヤなんだ、だからいつも最後方からのレース運びだった…。

さすがに、その辺は研究・対策されているってことか。

いつものレースはさせてもらえない。

 

 

『今日は、はやめのレース運びとなります、果たしてこれは大丈夫なのか、かかっている様子はなさそうですが』

 

『いえ、これは後ろの娘のブロック…とでもいうのでしょうか。

 後ろに下がらせないようにしていると思います』

 

『…なんと、これが強者ゆえの宿命か!

 かなり苦しいレース運びとなっております!』

 

 

奴が苛ついているのが手に取るようにわかる。

落ち着けって、大丈夫だ。そうだろう?

付け焼き刃とはいえ、世界最強の私とトレーニングしたんだからな。

走る奴を後ろからつつきまくった。

追い抜くのは慣れてても、後ろから煽られることには慣れていなかった。

そんな感じで後ろが弱かったんだよなぁ…。

そう、弱かった。

本当ムカつく奴め、天賦の才としか言えん。

すぐに覚えやがった、逃げを、先行を、差しを。

さすがに、それに特化した娘達ほど熟練さはない。

それに走れるだけで、読み合いとかトリックとかは使えない。

あくまでその脚質でもある程度ストレスなく走れるようになっただけ。

さすがにこれだけ露骨にされたらイライラしてるだろうけどね。

ライバルが、奴のことを対策してくるのはわかってる。

だったら、こっちも同じく対策しないわけないよなぁ。

ふふふ、これでまた奴の弱点が一つ無くなった。

奴と走る娘達はかわいそうに…、え、私?私はもう走らないし。

ほんとだって!走らないって!だから色々(・・)教えたんだし!!

 

 

 

『確かに厳しいマークですが…落ち着いているように感じますね。

 初めてとも言える先行の位置ですが、これはいつもと同じように悠然と走っているように見えます』

 

 

『なるほど、それなら安心できそうだ!

 まもなく上り坂が終わります!』

 

 

シロちゃんがあがってきた、奴は……落ち着いている。

 

 

『さあ、坂を登りきった、残り1400メートル!』

 

 

しばらくして緩やかな下り坂…。

奴は3番手の位置。

コーナーを進む、落ち着けよ、大丈夫だぞ。

 

 

『まもなくフォルスストレートに入ります!

 いつもならば、いつもならば、このあたりで大外を捲って進出するのでしょう!

 しかし今日は前目のレースです!

 3番手の位置は変わりません!

 ここからどう動くのか、ライバル達もどう動くのか、目が離せません!』

 

 

『まだ手応えは楽そうです、この感じ、いい流れですよ』

 

 

『さあ、フォルスストレートを終え、最終コーナーに入る!

 早くも、早くもディープが先頭に向けて並びかけていった!!

 残り533メートル!!!

 そしていよいよ最後の直線です!!』

 

 

 

『ディープはまだ楽な手応えだ、いっぱいではない!

 さあここで先頭にたつか!先頭にたつか!?』

 

 

観客の歓声が大きくなる。

きっと日本中が応援しているぞ。

頑張れ、頑張れ、あとちょっとだ、って。

 

 

『残り300メートル!!

 ここでディープが!!

 ディープが先頭にたつ!!』

 

『いけます、いけますよこれは!!』

 

 

実況も興奮してるな、気持ちはわかる。

そのままいけ、頑張れ!

 

『しかし外からピンクの帽子!

 ピンクの帽子が並びかけてきた!』

 

『ああっ…!…頑張れ!まだいける!まだいけるぞ!』

 

途端に歓声は悲鳴めいたものに変わる。

果たして、シロちゃんやハリケーンちゃんはどんな気持ちなんだろうね。

ああ、二人は伸びてきていないから、この場合はピンクの帽子のレイルちゃんか。

うん、青いリボンのプラちゃんも後ろから飛んできているな、この子はもしかしたら、有り得たかもしれないディーの位置にいた子だ。

もしいつもどおり最後方からの競バをしていたら、きっとこのプラちゃんみたいに飛んできていたんだろう…それが間に合っていたかはどうかは別として。

 

レイルちゃんにしろ、このプラちゃんにしろ、凱旋門賞の有力候補として奴の研究はしていただろう。

そして、奴が最後方からの追い込みしかできないことも。

 

だから、きっとレース中にほくそ笑んでいただろう…ああこれで奴に勝てる可能性が高くなったと。

先行策を取らされた結果、奴の象徴たる末脚の伸びが欠けて、最後は差しきれる、と。

 

 

『残り200!!

 ディープがねばるねばる!

 まだ頑張れる、まだいけるぞ!

 頑張れ!

 ああっ、後ろからもう1人きたか!?』

 

 

 

このまま負ける。

 

 

もしかしたら、そうなっていたのかもしれない。

 

 

どこかでありえた未来なのかもしれない。

 

 

だけど、残念だったねぇ。

 

 

私がいるんだよ。

 

 

私にできて、奴にできないわけが………ないよなぁ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

いけ。

 

 

 

いけ!!!

 

 

 

「いけぇ!!!ディィーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

『っこ、この!この大地に沈み込み!蹴り出すような独特のスパートはぁ!?』

 

 

 

並びかけてきていたレイルちゃんを一瞬で置き去りにする。

レイルちゃんの絶望顔よ。

引き離されたプラちゃんは…うん…エネル顔ってやつ?走りながら器用なまねするなぁ。

ていうか、あの蹴り出すラストスパートってこんなエグい加速するんだ…。

 

 

しっかしディーめ、楽しそうな顔しちゃって。

そうだよなぁ、好きだもんな、誰かと競争するの。

大好きだもんなぁ、風を切って走るの。

ましてや夢だったもんな、凱旋門賞。

そりゃあ気持ちいいよなぁ。

 

 

 

『どのような策をなそうと関係ないッ!!

 

 "友"との翼を!

 

 そして世界へ挑戦した勇気の翼を!

 

 今!!!

 

 その双翼を広げて!!!

 

 1着で!!!

 

 ゴールだああああああ!!!!!』

 

 

 

 

『世界に!世界に深い衝撃があたえられたぁ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディー……よがった…よがっだ…」

 

 

涙が止まらない。

良かった、奴が勝ってよかった。

うれしい、本当にうれしい、そして安心した。

 

 

『やりました!

 日本の悲願が!夢が!ついに達成されました!』

 

 

観客も、実況も解説も、トレーナー達も皆泣いてた。

観客席に向かって手をふる奴に、国籍等関係なく歓声と拍手が浴びせられる。

ああ、ダメだ、奴に拍手をしてあげたいのに、涙が止まらない。

 

 

 

気づけば、いつのまにか奴が目の前に立っていた。

 

 

「アサちゃん♥」

 

「うん…ディーち"ゃ"あ"ん"…お"め"でと"う"ぅ"ぅ"…」

 

「うん♥」

 

 

柵を乗り越えて、抱きつく。

涙がとまらん。

はは、珍しい、ディーちゃんも泣いてるや。

いつかの日のように、おでことおでこを合わせる。

さすがに押し倒したりはしない、立ったままだ。

 

 

「ほんとおめでとう…」

 

「うん♥♥♥ありがと♥

 アサちゃんのおかげだよ。

 いつももさ、翼が生えたみたいに感じるんだけど…今日はもっと感じた。

 アサちゃんのおかげだよ♥」

 

「うん…♥」

 

 

 

私達が目を瞑って抱き合い、おでこを合わせている写真は世界中の新聞の一面を飾った。

後日、その写真を撮ったカメラマンは”世界で最も美しい涙”との題材で世界的な写真の賞を受賞した。

私達も一緒に呼ばれてインタビューとか受けた。

照れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





















やめて!ただてさえ手が付けられない末脚なのに、このうえさらに終の加速(自分の切り札)まで覚えた"奴"と走るなんて、アサオンクライの精神が燃え尽きちゃう!

お願い、負けないでアサオンクライ!

自業自得とは言え、あんたが今ここで負けたら、最強になるっていう約束はどうなっちゃうの?

練習できる日はまだ残ってる。
ここを耐えれば、ディープに勝てるんだから!


次々回「アサオンクライギャン泣き」
レーススタンバイ!
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