ウマ娘に転生したけどやべえのと同期なんですが…   作:sannsann

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原初の思い

 

 

 

 

 

 

 

『ただ1人桁が違う!

 これが世界の実力!

 これが世界の実力だ!

 後続を大きく引き離し、今アサオンクライが1着でゴールッ!!』

 

 

 

 

『さあ、今、勇気の翼を広げて!

 1着で、ゴール!!!

 凱旋のジャパンカップを制しましたッ!

 首を洗って待っていろアサオンクライ!

 有への視界良好だッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

奴が凱旋門賞を勝って帰国したときは、まさに凱旋という言葉が相応しかった。

空港には入場制限や道路規制がひかれるほどであった。

げ、解せぬ…私のKGVI & QESの時だってここまでじゃなかったのに…。

おかしいな…私も同格のKGVI & QES勝ってるんだけどな…。

奴は毎日テレビに新聞に雑誌にと引っ張りだこだった。

……。

う、うん私は最強だからね!そんな小さなこと気にしないし!

それになんてったって私は奴に勝った存在だからね!

奴がちやほやされればされるほど私がすごいってことだ!

 

 

そんな感じで月日は流れ、帰国後の凱旋レースとして私はエリ女を、奴はジャパンカップを選択した。

そして二人共圧勝。

うん、まーじで負ける気がしなかった。

他の子には悪いけど、ぶっちゃけ余裕だったね!

そして今から奴との合同記者会見だ。

なんか多くない?奴とのセット。

まあいいんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

「お二人共おめでとうございます!

 まさに圧勝!世界最強はこれほどか、と思えるレースでした!」

 

「「ありがとうございます」」

 

 

うんうん、わかってるねぇ記者さん。

これこれ、こういうのでいいんだよ。

いやー気分がいいねぇ!最高だね!

 

「アサオンクライさんは、今回は追い込み。

 最早脚質の適性などという言葉に意味はなく、あらゆる位置から走れますね!」

 

「そうですね!」

 

そうそう!なんだってできるよ!

 

「さらに洗練された末脚、最早敵なし」

 

「ですね!」

 

「あとは唯一のライバルと雌雄を決するだけですね」

 

「ですね!」

 

「おお、ではやはり有で対決なのですね!」

 

「です…ね…?」

 

ん?

 

「去年も盛り上がりましたが、今年はさらに盛り上がるでしょう!」

 

「あ、え…?」

 

「国内最強決定戦が、今年は世界最強決定戦となる!」

 

「凱旋門賞覇者とKGVI & QES覇者の対決だ!」

 

「楽しみだね♥アサちゃん♥」

 

あ、あ、あ、しまった、ついつい何も考えずに返事してしまった!

やばいやばいやばい。

 

「あ、あの、実は」

 

「去年の対決後、今度は末脚勝負を見せてくれるとも言ってくれてましたしね!期待してます!!」

 

 

 

 

 

「……………………はい」

 

「♥♥♥」

 

 

 

 

オワタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、トレーナー」

 

「なんだ?」

 

「私が、有で奴に勝とうと思えば、どんなふうに走るのがいいと思う?」

 

「そうだな、やはり前回と同じ展開に持っていくのがいいだろう。

 もしくは逃げの位置でいくのもありかもしれん、今やお前の脚質は自由自在だ、どの位置にいようとも、周りはそれが最善だと勝手に勘違いしてくれる。

 前目につけて、スローペースを維持し、早めのラストスパートで距離を稼ぎ、奴の猛追から逃げ切る。

 まあシミュレーションとしてなら、これだろうな」

 

「勝てると思う?」

 

「レースに絶対はない。

 ましてや相手が相手だ。

 が、俺はお前がその絶対を生み出せる存在だと思っている」

 

「そっか…ありがと」

 

うんうん、トレーナーからも太鼓判をもらった。

奴相手に、だ。

ふっふっふ、私も強くなったじゃないか。

 

 

「本当に聞きたいのは、そんなことじゃあないんだろう?」

 

 

思わず、ビクリと体が跳ねてしまった。

 

 

「言ってみろ、お前の本当の思いを、願いを」

 

「な、なに言ってるの?

 本当も何も、それだけだよ。

 奴に勝ちたい、それだけ。

 勝率が最も高い戦法を選んで、そして勝ちたい、絶対に負けたくない。

 当たり前じゃん、どうしたの?急に」

 

「俺はお前のトレーナーだ。

 お前に勝利させるのが、俺の仕事だ。

 だが、それだけじゃあない。

 俺はお前に、悔いなく走って欲しい。

 うまく表現できなくてもいい、教えてくれ、俺に。

 お前の想いを」

 

 

 

 

 

 

 

「お前はなぜ最強を目指す?」

 

なんでって…なんでだろ…。

ちやほや…はもうされてるしな。

 

「すまん、抽象的すぎたな。

 きっぱりと言うぞ。

 お前は確かに強くなった、それも最強と呼ばれるくらいには。

 だが、お前はまだ、奴に勝ったとは思ってない…いや違うな、納得してないんじゃないか?」

 

…。

……。

うん、そうだね…………そうなんだろうね。

 

「今でこそお前の脚質は、変幻自在、オールラウンダーなどと良いように言われているが、元は追い込みばかり、たまに差しと言ったところか」

 

そうだね。

 

「幼い頃から、奴と同じように後方一気ばかり、いやばかりとは言うまい、何らかの想いがあったのだろう」

 

だって後方からギュンって抜いて一着になるの超気持ちいいし。

 

なにより、なにより、さ。

 

………奴みたいに、走りたかったんだよなぁ…。

 

一目惚れってやつなんだろう…。

 

ああ、そうなんだよな…憧れてたんだよな…奴の走りに。

 

今でも、思い出すのは初めて奴と競争したときのことだ。

 

いいや違うな、思い出すんじゃない、ずっとずっと覚えている、想い続けているんだ。

 

 

「憧れ、か」

 

 

そうだねぇ。

あの時さ、リトルクラブに入った私はそりゃあ天狗になってた。

地元じゃ誰にも負けない。

パパやママはもちろん、コーチだって褒めてくれてたし、他の皆も私のことすごいすごいって言ってくれてた。

それでクラブに入って初めて競争したときのことなんだけどね。

まあ、もちろん私は余裕かましてたよ、皆の度肝をぬいてやる、すごいすごいって言わしてやるってね。

 

スタートして、私はほぼ最後尾、奴と二人並んで走っていたんだよね。

そして最後の直線が近づいてきて、いつものように、ラストスパートをかけて皆をごぼう抜きだと思っていたのに、全部奴にもっていかれたんだ。

 

私の前を進む、奴の姿。

 

どれだけ歯を食いしばって追いかけても、追いつけない。

 

自慢のスパートが通用しない。

 

ちっぽけなプライドはズタズタに。

 

心も見事に砕け散った。

 

奴に追いつきたい。

 

奴を追い越したい。

 

どれだけ思っても、叫んでも、無駄だった。

 

差は縮まるどころか開いていく。

 

そりゃあ泣きそうになったし、絶望だってしたよ。

 

はじめての敗北だったからね。

 

だけど、だけどそれ以上に。

 

その輝きに惹かれてしまった。

 

なんて気持ち良さそうに走るんだろう。

 

なんて楽しそうに走るんだろう。

 

なんて綺麗に走るんだろう。

 

なんて、なんて疾く走るんだろう。

 

奴のように、走りたい。

 

奴みたいになりたい。

 

 

その情景は、想いは、ずっと薄れること無く私の心に在り続けた。

 

 

 

「そしてようやく思いが叶って、前回奴に勝った。

 が、その時は奇襲的な先行策だ。

 奴に追いつくどころか、終始前を走っていた。

 本来ならば、脚質にこだわりはないのだろう。

 勝てば良いのだ、勝ったからそれで良いのだ。

 が、だ」

 

うん。

 

「お前自身が納得していない、か?」

 

…………そう、なんだろうね。

あれだけ策を練って、勝つために他のすべてを捨ててでも拾いにいった勝利。

確かに嬉しかったさ、だってそれだけが、ううん、それだけを望んでいたんだから。

けど、さ。

心が、なんというか、ね。

つまりは、そういうことなんだろうね。

 

「新聞やネットだけではなく、ファンも言っているな。

 末脚勝負なら、奴のほうが上だ、と」

 

そうだね。

 

「周りがどう騒ごうが、そんなことは戯言にすぎない。

 この世は勝ったものが全てだ。

 どのように走ろうと、勝者こそ全てだ。

 ましてや、自由自在な脚質はお前の武器でもある。

 その武器を捨てて戦えなどと言うのはおかしな話だ。

 あの時、お前は全てをかけてレースに臨み、そして勝利を掴み取った。

 それに対して文句を言える存在は、お前以外にはいない、いてはいけないんだ」

 

そのとおりだ。

逃げだろうが先行だろうが、差しでも追い込みでも、なんでもいい。

奴よりも速く、一番に。

それが私の望みであり、夢だった。

 

だけどさ。

違うんだよ。

他の娘になら、それでいいんだ。

逃げだろうが先行だろうがなんだろうが。

けど、けど奴には、奴にだけは、さ。

 

私が思い焦がれたその背中は。

 

私が憧れ続けたその走りは。

 

それじゃあ、ないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「人によっては、お前の末脚勝負で奴に勝つという思いは傲慢だと言うものもいるだろう。

 ただ勝つことを、速く走ることを考えれば、もっと勝率が高い方法があるのだからそっちをとるべきだ、と。

 だが、思いは、気持ちは、理屈じゃあない」

 

 

…うん。

 

「言葉や数字じゃ、あらわせないもんがある」

 

うん。

 

「悔いだけは、残してほしくない。

 お前は無自覚であったのかもしれんが、奴との戦いを頑なにさけていたのは、負けるのが怖かったからだろう。

 ああ、負けるというのは少し違うか…ただレースに負けるということではない。

 お前が憧れ、磨き上げ続けたその末脚が、届かないことが、追いつけないことが怖いのだろう」

 

ほんっと、このトレーナーはさぁ…。

私が必死に目をそらしていたことをズバズバとさ…。

まあ、それでこそ私のトレーナーなんだけどさ。

そう、もし、あの背中に、あいつに追いつけなかったら…。

そう考えると、私は…怖かったのだ。

 

 

「思いの強さは、走る強さに繋がる。

 そして、思いの強さでお前に勝てる存在なんていないさ。

 お前自身が信じてやれ、お前が築き上げてきた、アサオンクライという存在を」

 

信じるって言われてもさ…。

 

「お前、今までいくつGⅠをとった?」

 

えっと…ジュニアもいれて…ひーふーみー…⑨だね!!

 

「そうだな、そしてそれは日本記録であり、今なお更新中でもある」

 

そ、そういえばそうだね…。

 

「ましてやお前は、世界最高格のレースですら、勝っているんだぞ」

 

うんうん、世界最強だね!

 

「どこに奴を恐れる要素がある?」

 

………うん、そう、なんだけどさ…。

 

「ま、話を聞く限り、初回で自尊心を文字通り粉砕され、その後も十年近く何千回と負け続け、去年ようやく奇襲をかけて接戦でなんとか1回だけ勝てた相手だしな…無理もないか」

 

こ、言葉にするとひどいね…。

 

「まあ憧れというより、トラウマに近いな」

 

と、トラウマ…。

け、けど憧れは嘘じゃない!!

 

「そこだ、問題は。

 はっきりと言おう。

 お前が憧れ、そして恐れている奴の姿は、幻想だ」

 

どういうことかな。かな。

 

「お前は、お前が作り出した絶対最強の奴という幻想におびえているだけだ。

 いいか?

 憧れるのはいい、だが現実から目をそらすな。

 憧れというのはな…それだけで目を曇らせちまうんだ」

 

……。

 

「お前が今まで倒してきたライバルたちは、そんなに弱い存在か?

 そしてそれに勝ったお前は、アサオンクライという存在はそんな弱いものなのか?」

 

いいや、強かった。皆強かったよ。

必死になって、なんとかやっと、勝てたんだ。

 

「そうだろう、ならばその者たちのことを忘れるな。

 そして胸を張って自分を誇れ。

 下を向くな、前を見ろ。

 お前は強い、強いんだ。

 憧れなどという幻想に負けるんじゃない。

 自分を信じろ。

 …………少なくとも俺はお前を信じている。

 奴に負ける?

 そんなわけがあるか。

 たとえどの走り方を、逃げだろうが先行だろうが差しだろうが、そして追い込みだろうが…お前が勝つ。

 

 お前が一番だ。

 お前が、最強だ。

 ………これでもまだ不安か?」

 

うん、やっぱトレーナーはすごいな。

くっそー、ちょっとキュンときちゃったじゃないか。

 

「もう一度聞くぞ。

 お前はどうしたい?

 答えを聞かせてくれ、アサオンクライ」

 

 

「私は…私は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「方針は決まった、だがしかし、だ。

 もう、お前の身体能力はほぼ上限値だ。

 レース中における判断力なども、もうこれ以上は高くはならないだろう」

 

まあ、もう成長はしないだろうね。

生物的限界ってやつだ。

 

「だが、やれるだけのことはやるぞ。

 お前が最強のウマ娘を目指しているように、俺も最強のトレーナーになりたいんだ。

 負けることは許さんぞ。

 レースに向けて調整は続ける、肉体的にも精神的にももう成長が望めないのなら、あとは…」

 

「あとは?」

 

「技術だ」

 

「なるほど、でなにするの?」

 

「せっかく奴とのアドバンテージだったのに、お前が教えちまったからな、切り札」

 

「ご、ごめんて」

 

「そういうとこだぞ。

 まあもう終わったことは仕方がない。

 それすらも良いように、逆に考えるんだ。

 お互い全部を知り尽くし、出し尽くして、それで勝てば、お前自身が唯一無二の最強になれると考えるんだ」

 

「ゆいいつぬに…」

 

「むに、な」

 

「し、知ってるし!

 そうそう、そういうことだったんだよ!

 私だけが知ってる切り札で勝ってもなんかイヤだしね!

 お互い全部出しあってそれで勝ってこそだよ!」

 

「調子にのんな」

 

「い、痛ッ!やめて!肋骨飛び出るかと思ったじゃん!」

 

 

 

 

 

フィジカルもメンタルもこれ以上の成長は望めない。

ならば、ということで技術。

なるほどね、さすがトレーナーだと言える。

つまり私の切り札となる、あの終の加速のさらなる強化訓練だそうだ。

そして眼の前にあるのは、グツグツと煮えたぎる熱いお湯がなみなみと入った大きなお鍋。

 

強く蹴って踏み込む力をさらに強くためにはフットスピードが重要だ!とか言って、熱々のお湯の中に沈めた小石を蹴り飛ばす訓練だそうだ。

 

うん、うん。

なるほどではないな、これ。

ダメじゃん、いや無理じゃん。

脚火傷したら走るどころじゃないんだけど?

さすがトレーナーと思ってたらこれだよ!

あ、もしかしてちょっとしんみりしたから冗談でも、と思ったのかな?それなら納得!

あ、本気デスカ、ソウデスカ…。

………マジ?マジマジのマジ?

 

え?見てろって?

うわ危なっ!

石をこっちに飛ばさないでよ!

え、ていうか手!

手は大丈夫なの!?

や、全然火傷してないどころか赤くもなってない…どういうことなの。

え?本当に人間?あ、怪物ですかそうですか。

次は私って…無理だって!無理無理無理アッー!

 

そんな感じで訓練…?

うん、訓練…訓練かな…たぶん訓練だと思われるものを行ったり、普通に練習とか調整をして、あっという間に有記念の日がやってきた。

 

憧れの日々は、終わり。

 

今日で奴に理解らせてやる。

 

私のほうが、かけっこがはやいってね!!

 

 

 

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