喫茶バーアルカノイド   作:ピポゴン

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お久しぶりです。色んな小説思いついたら書いちゃうから各シリーズが停滞すると言うカルマ


焔の勇者メルト・セピルム

 

 

グツグツと湯が沸き立つ。それを確認してから数秒待ち、火を消す。そして、隣で熱せられていたフライパンに厚切りの肉2枚、次いで卵を2個落す。然程時間を置ずに肉汁が滴るジューシーな肉と、肉の香りをほんのりつけた目玉焼きが出来上がった。同時に、竈門の中からトロトロのチーズが乗っかったパンを取り出した。それらを1つの皿に盛り付け、先程のお湯でコーヒーを注ぐ。

テーブルの上で配膳を済ませ、席につく。

 

「ふう」

 

一息ついて、手を合わせる。

喫茶バー "アルカノイド"の店主、アルカノイド=バークの朝はこうして始まる。アルカノイド、通称アルは1人の時間が好きだ。もちろん、喫茶バーの店主をしているだけあって人との関わりを苦手にしているわけではない。しかし、喫茶バーがオープンすれば嫌でも人と話す機会がある。

つまり、アルにとってこれは1日の中で数少ない1人の時間なのだ。それは大切にするに決まっている。

食卓についたアルは、まずは肉からと切った肉にフォークを刺し、それを口に持っていく。

 

コンコン。

 

が、それが口に含まれることはなかった。

突如の来訪者。扉の外にかかっている板はまだクローズにしてある。途端にアルは嫌な顔になった。アルは知っていた。開店中以外に訪ねてくる人々は、皆一様に面倒ごとを運んでくることを。

 

コンコン。

「あのー!すいませーん!」

 

聞こえているとも。出てこないんだから察してくれてもいいだろうに。奴さんは「あれ、聞こえてないのかな?」など的外れなことを言っている。

 

コンコン!

コンコンコンコン!!

 

どうやら居留守は使えないらしい。

 

「ちくしょう…。ちくしょうが…」

 

腹を括ったアルは目の端に涙を浮かべながら扉へと向かった。

そしてドアノブを捻り、扉を開けた。

ほんのちょっとだけ。

 

ガチャ

 

「何のようですか」

 

「あ、やっぱり居られましたか!ボクッ…!わ、私は今代の焔の勇者!メルト=セピルムと申すものです」

 

10センチほど開けた扉の奥には中性的な顔立ちがあった。身長は160センチ前後くらいか。赤髪をザックバランに斬り、サバサバとした印象を与える風貌をしていた。

イケメンとも美少女とも取れる顔だが、いかんせん童顔だとアルは思った。

 

「ああ、自己紹介は大事ですよね。私アルカノイド=バークと言うものです」

 

「勿論存じております!噂はかねがね!」

 

(え、噂?何それ)

 

「それで、今日来た用でしたよね。実はなんですが、その…ボ、あ、私を弟子にしてくれないでしょうか!」

 

「嫌です。では」

 

地面に頭がつきそうなほどのお辞儀をしたメルトに二つ返事で断りを入れ、アルは扉を閉めた。が、その扉が途中で止まる。

 

「グギギギ!ま、待ってください!お話だけでも!ボクはどうしても強くならなくちゃいけないんだああ!」

 

このまま扉を閉じることはできるが、そうなるとメルトは指を挟むことになるだろう。流石にそれはと思ったアルは扉を閉める力を緩めた。そしてゆっくりと扉を開く。15センチだけ。

 

「おお!弟子をとってくれる気持ちになりましたか!」

 

「んなわけないですよね。とりあえず話だけでも聞いてあげようと思っただけですけど」

 

「それでも有難いです!噂に違わない聖人ぶり!なんとお礼を言っていいか!」

 

(え、だから噂って何)

 

「実はこれには涙無しには語れぬ壮大なバックストーリーがありまして」

 

言いながらメルトは足を踏み入れようとする。

 

「いやちょっと」

 

が、その足を扉が挟んだ。

 

「イタタタ!!な、何を!?」

 

「いや何入ろうとしてるんですか。まだ開店してないですからね。今入ったら普通に犯罪ですよ」

 

「いやだから!壮大なバックストーリーがあると!」

 

「?はい。話なら聞くと言っていますよ」

 

「え、ここで言うんですか」

 

「何か問題でも」

 

お互いに額に?を浮かべる。

 

「いやあの、割と長いんですけど」

 

「んー、確かに立ち話はあれですね」

 

「で、ですよね!それで」「ちょっと待っててください」

 

アルはそう言い残すと一旦奥へ引っ込み、また戻ってきた。その手に椅子を抱えて。

 

持ってきた椅子を置いてアルは座る。

 

「よっこいしょっと。では、お話をどうぞ」

 

「……いやあの、どうぞって、ボクがまだたってるんですけど。話し手が立ってるんですけど…」

 

「しょうがないじゃないですか。扉は15センチしか開かないんです。15センチじゃ椅子は出せません」

 

「いや15センチ縛りはいつから!!普通に入れてくれればいいと思うんですけど!!………まあ、いいです。とりあえず話始めます」

 

▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

ボクの生まれたところはとても小さな村でした。決して裕福ではないけどみんな幸せで、笑顔の絶えない所でした。しかしある時、ボクが日課の山菜取りに山に出かけていた時、厳しい造りの馬車が眼前を通りました。が、その馬車はボクを通り過ぎた瞬間に横転しました。要因はただ一つ。魔獣です。見たこともない魔獣でした。4メートルほどの体格に、縦に割れた2つの目。人を思わせる四肢、しかし顔は人とは程遠く、鋭い歯、尖った耳などが目立ちました。

 

魔獣はその目をボクに向けると、歯をギチギチと鳴らしボクに迫ってきました。ボクはもうダメかと思いました。しかし、よく見るとボクの足元には一振りの剣が転がっていたのです。

先程の馬車から溢れた荷物だったのでしょう。ボクはそれを振るい、見事一刀の太刀のもと怪物を斬り伏せました。後日ボクは王都へ呼び出されました。そして王へ謁見したのです。どうやらボクの使った剣は伝説の聖剣で、勇者にしか使えない代物だと。そこで王は仰られました。

 

『お前は今日から勇者だ。世界平和にできる範囲で努めるように』

 

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 

「それが1週間前のことです。以来ボクは強くなる為に邁進中なのです。しかしどうにもこの頃憤りを感じております。なるべく世界を平和にするにはもっと強くなる必要があるんです!そこで、貴方の力を貸して欲しいのです!伝説とまで言われた、アルカノイドさんに!」

 

「え、伝説って?……いやそれより。突っ込みどころが多すぎでどこから言えばいいか」

 

「きになることがあればなんなりとお聞きください!」

 

「いや、うーん、あの。え、それだけですか?」

 

「…?それだけというのは?」

 

「いや、ですから、要約するとそれ拾った剣が聖剣だったからなし崩し的に勇者になった的なアレですよね。魔獣に村の人達皆殺しにされて、復讐する為強くなるとかじゃないんですよね?」

 

「な!失礼な!みんなちゃんと生きてますよ!ピンピンしてます!冗談でもそんなひどいこと言わないでください!」

 

「え、ごめんなさい」

 

「むう。聞きたいことはそれだけですか」

 

「いやまあ、言い出したらキリないんだけど。壮大なバックストーリーって言った割には内容なさすぎるなあとか、どうしても強くならなきゃいけないって言った割に理由フワフワだなあとか、憤りを感じているとか言った割に勇者になってからまだ1週間かよ短すぎるだろとか、さりげなく一人称ボクになっちゃってるとか、とか、とか。気になることはたくさんあるんですがね。まあ、1番言いたいのは、強くなる必要あります?ってことですかね」

 

「なるほど。ボクの実力はもう充分だと」

 

「いえそうではなく」「しかぁし!ボクにはわかるんです!世界をなるべく平和にするにはまだまだ実力不足だと!」

 

剣を掲げ堂々とそう言うメルトにアルは困ったようにため息をつく。もうテーブルのメシは冷め切っているだろう、あんなにトロトロだったチーズは硬くなっているだろう、と肩を落としながら、もう少し話に付き合ってあげることにする。

 

「そもそも、世界は充分平和ではないですか?」

 

「……え」

 

メルトがポカンとした顔をする。

 

「だって今のところ交友関係があるとまでは言いませんが、魔族領と人間領と獣人領はちゃんと独立して別れているんでしょう。それぞれ自国は自国で補い合いながら暮らしているじゃないですか。そこに介入する必要ありますかね」

 

「………ない!!」

 

「ですよね。では」

 

再びアルは扉を閉めようとする。

 

「でも!やっぱり強かった方が何かと都合がいいじゃないですか!」

 

「とうとう今日一のフワフワが出ましたね」

 

「ほら!万が一周りの人が危険に晒された時、やっぱり守れる力は欲しいんですよ!」

 

「うーん……」

 

アルは悩む。盛大に悩む。理由としては余りにも不明瞭すぎる。そんなのでいちいち弟子をとってたらキリがないと。そして悩み抜いた末、重要なことに気づく。

 

「ていうか、俺勇者の師匠になるほどの実力ないんですけど」

 

根本的な見落としをしていた。そもそも何故自分は勇者に教えを乞われているのかと。いろいろ事情を聞いたが関係なかった。だって鍛えることなど出来ないのだから。

 

「ご謙遜を!アルカノイド殿こそ、ボクが師事すべき人だと思っています!」

 

「いやだから…」

 

アルはそこで言いかけた言葉を飲み込んだ。何がどう伝わったかは分からないが、そんな伝説になるほどのエピソードは持っていない。しかし、自分は一般人より属性魔法が少しだけ上手かった。先程この……少年?少女?は言っていた。勇者に選ばれてまだ1週間だと。それまではずっと村育ち。つまり、明らかに攻撃魔法などに縁がない……はず。

こんなにしつこいのだ。属性魔法を出来る限り伸ばして、適当に満足して帰ってもらおう。

アルはそう決めた。

 

「……分かりました。微力ではありますが、出来る限りお手伝いしましょう」

 

言うとメルトは目をキラキラさせ、顔を綻ばせた。

 

「本当ですか!ありがとうございます!これからは師匠と呼ばせていただきます!」

 

「いややめて下さい。それで、俺が出来ることを少し考えましたが、あなた……メルトさんは属性魔法は使えますか?」

 

ここで使えると答えられるといよいよやることがないのだが、予想通りメルトは微妙な反応を見せた。

 

「いやあの…実は勇者になってから上がったのは剣の技術くらいでして……属性魔法で使えるのは昔から使えた炎属性だけでして…。し、しかもその炎属性も大した事はなく…その…」

 

尻すぼみに小さくなっていく言葉。だが、アルの目標は決まった。短期間で炎属性を自分レベルにさせる。その際他の属性も使えるようになれば儲け物。それが済んだら帰ってもらおうと。

 

「いやまあ、最初はそんなもんですよ。ではまずどんなものか炎属性の魔法を見せて下さい」

 

ここにきてアルは初めて扉を全開にする。しかしそれでも喫茶バーから出る事はないが。

 

「えぇ…うぅ…。うまく出来るかなぁ…」

 

言いつつ、メルトは喫茶バーに背を向ける。そして、正面に両手を向けた。補足しておくが、ここ喫茶バーは実は更地にポツンと立っている。四方八方どこを見ようと建物らしき物はひとつも見当たらない。つまり、何処に魔法を放とうと被害は生まれないと言う事だ。

 

「行きます!うおおおおおおお!ファイアーボール!!」

 

叫ぶと同時にメルトの両手からポンッとポップな音がする。そして出てきたのは、拳ほどの大きさもない今にもかき消えそうな火の玉だった。その玉はヒョロヒョロと3メートル位進んだのち、ヒュオっと風に吹かれて消えた。

 

「う、うぅ……」

 

肩を下げるメルトを背後からアルは唖然とした顔で見る。ここまでとは思わなかった。いくら魔法で戦う機会がそんなにないとはいえ、まさかここまで酷いとは。

 

「い、今のが…」

 

「は、はい。今のがボクの放てる最大魔法のファイアーボール」

 

恐れ入った。ファイアーボール自体第3階位と低級な魔法だが、今のはそのファイアーボールにしても酷い。普通速度はもっと速いはずだ。その他持続力、飛距離、威力、全てにおいて欠けている。メルトは気まずそうにこちらに振り返る。

その直後

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 

 

 

アルの遥か前方にて大爆発が起きた。

 

「ファイアーボール式広範囲殲滅魔法、第9階位ファイアードームコフィンです」

 

「ファイアーボール式広範囲殲滅魔法!?」

 

前方には名前の通りドーム状に広がる炎。距離や見た目の大きさを考慮するとかなりの規模であることが窺える。言うまでもなく、この魔法ひとつで戦況がひっくり返る程の威力である。

アルはもう一度、今度は別の意味で唖然とした。そして爆心地からこちらへ迫ってくる衝撃波を見ながら、

 

「うん、教える事は何もありません。では」

 

そう言い残し扉を閉めた。

 

「え、ちょっと!待ってください!まだっきゃあああああああああ!!!!」

 

外から何処か遠くへ遠ざかっていく叫び声が聞こえた。暫くは店全体がゴゴゴゴと激しく揺れたが、じきにそれも治った。物音一つしなくなった後扉を開けると、そこにはいつもと同じように何もない更地だけが残っていた。それを確認した後、アルはまた食卓についた。




ハーメルンでははじめての異世界ファンタジー。
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