玄関ドアの外にいたのは、青みがかった黒髪を後ろに纏めてヤンキーっぽく制服を着崩した格好の女の子、川崎沙希だった。
「……その様子だと、本当に風邪引いたみたいだね」
「なんでここに…何か用か?」
「見舞いに決まってるでしょ、バカ言ってんじゃないよ。…上がらせてもらうから」
「ちょ、おい!もう治りかけだから大丈夫だって!」
「顔真っ赤にしてフラついてる癖によく言うね。あんたの部屋は二階だっけ?行くよ」
俺の言葉を無視して強引に俺の腕を掴み、引っ張っていく。力は男である俺より強く、抵抗する力も出ないのでされるがままだ。
俺の部屋に着き、ベッドまで連れて行かれるとゆっくりと座らされた。
「で?いつからそんな状態だったわけ?」
「今朝からだな……夜には治ってると思ってたんだが、さっき起きたら悪化してた」
「……そう、ご飯は食べたの?」
そうだ、さっき食べようとしてたんだった
小町の愛情が篭った(願望)軽食を食べないと…
「小町が冷蔵庫に軽食入れてあるって言ってたから、さっき薬飲んだついでに食おうと思っててな」
「じゃあ食欲はあるんだね……ヨカッタ」
「あ?なんだ?」
「な、なんでもない!ご飯取ってくるから寝てな!」
そう言って何か慌てる様に俺を強引に寝かせて部屋を出て行った。
食欲はあるんだが、いかんせんぼーっとしてるからよく聞こえなかったが、なんでもないって言ってたしいいか。
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「ごっそさん」
「薬は飲んだんでしょ?あとはゆっくり寝て…あ、寝る前に体温測って。体温計は?」
「お、おぉ。ここにあるから」
考えないようにしてた事だが、普段あまり話さないやつが俺の看病に来ているというこのおかしな現状、しかも女子。
やましい気持ちがある訳じゃないが、そんな経験はないからどうしたものか……ダメだ今はなんも考えられん。
……ピピ…ピピ…
体温計の音が鳴り、取り出して確認すると38.0°。多少下がっているが、まだ高い。
こりゃ明日も休みコースか?二日の遅れは痛いなぁ。
「……ノート」
「あ?」
「授業のノート、とってあるから」
「…おぅ、偉いな」
「違う、アンタの分」
「お、俺の分?」
「………」コクン
「………」
もしかしてエスパーですか?俺の周りにいるやつ大体心読んでくるのやめてくれませんかね…これは嬉しいけど。
「…黙らないでよ」
「あ、あぁ。サンキュな、助かる」
なんかやりづらいな…いつも通りってのもよく知らんが、今日の川崎には違和感を感じる。
なんていうか…優しい?
超失礼だな。
「ほら、あとは寝るだけだよ。横になって、さっき冷却シート持って来たから。おでこ出して」
「…っ!お、おう」
おでこ出してって…一瞬ビクンってなっちゃったよ。
違うよ?そっちじゃないよ?
ピト…
「はい、これで大丈夫」
「……すまんな、色々と」
「ん…」
そう、一言だけ残して食器を下げに行った。
ふむ、やはり変というか何というか。
まぁ、ノート取ってくれたって言ってたし懸念してた授業遅れは大丈夫そうだろう。
薬飲んで飯食ったからか、急に睡魔が…
あぁ、まだアイツに言い忘れた事あったのに…
戻って…来るまで…あと少し…起きて…
「………………すぅ」zzz
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ガチャ…
「………………」
「……すぅ……すぅ…」
台所を借りて食器を洗い終わって部屋に戻ったら、比企谷はすぅすぅと寝息をたてて眠っていた。
ふふっ、寝顔は可愛いもんだね。目つきは怖いくせに…ってアタシも人のこと言えないか。
寝ている比企谷の頭を撫でる、兄弟が風邪をひいて寝込むといつもこうやっていた。
だから癖みたいなものでやってしまう。
「………ごめんね比企谷、家族以外の看病とかした事ないからつい素っ気なく言っちゃった」
起きていない彼に言うのはズルイと思うけど、こんな時じゃないと素直になれず余計な事を言いそうで怖い。
「でも、見舞いに来るなんて子、あんまり居ないんだから…気付いてよね」
素直に一言言えれば済むことだけど、アタシじゃ上手くいかない。
だから、時間はあまり残ってないけど少しずつ慣らしていこう…
「……ンン…」
「!!」
起きちゃった!?っていうか聞かれた!?
まずい、今すごい恥ずかしいこと言ってたのに!
でも…聞いたんなら…聞こえてたのなら…
彼の顔を覗き込む…
「……すぅ…すぅ…」
「…………はぁ」
ただの寝返りだったようで、無意識にため息を吐いてしまった。
聞かれなくて良かったのか、聞かれてなくて残念なのか。
自分でもどちらの意味のため息か分からなかった。
全く、コイツはほんと….期待ばっかさせてさ。
人の気持ち考えろっての…
「かわ……さき……」
「へっ!?」
本当に起きちゃった!?
気を抜いていたところだったから変な声をあげてしまった。
「な、なに?」
「…あり……がと、な………すぅ……」
「………………」
ただの…寝言?
はぁ、ビックリさせないでよ…
今のは聞かれなくて本当に良かった。
でも…
「……ありがとう、か」
普通の言葉だけど、変に嬉しいと思う。
ついニヤっとしてしまう。
アタシって以外に単純なのだろうか…
「ふふっ…どういたしまして」
彼の頭をもう一度優しく撫でて、アタシは帰る準備を始めた。
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「………ん…んん」
ゆっくりと目を開けて、周囲が真っ暗だという事を確認する。
もう夜か……そういや川崎が来てたな、こんな暗いしもう帰ったのだろうか。
重い体を起こす、気怠さはまだ残っているが熱はだいぶ下がった様に感じる。
あとで測っておこう。
ベッドから出て、部屋の電気をつける
ふと、机に見知らぬペットボトルとメモのようなものが置いてあるのに気付く。
「……ふっ」
そこに、ポカリと一言『お大事に』と書かれた置き手紙があった。
「結局、言いそびれちまったな。これなら明日は大丈夫そうだしそん時にでも言うかね」
置いてあったポカリを有難く頂き、ぐうっと鳴った腹を満たすためにリビングへ向かうのだった。
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翌日
「あ」
「お」
無事翌日の朝には無事治っていたので、別のダルさを引きずりながら学校に到着したら、同じタイミングで登校していた川崎とばったり会った。
「よぅ川崎、昨日はありがとな。お礼また言えてなかったし、助かったぜ」
「……別に、アンタには世話になったから」
「お、おぅ。そうか」
うーん、やっぱ怖えな。昨日のは俺の見間違いか?熱にやられてたんだろうか。
「……………」
「な、なんでしょか…」
昨日の事を思い出していたら、目の前から視線を感じ、川崎がジッと見ていることに気付く。
ふえぇ…怖いよぉ、なんで怒ってるのぉ…
「ひ、比企谷!」
「ひゃい!」
急に大声出すなよビビるなぁ、近くにいた他のやつもビビってんじゃねぇか。
共用の場所ではお静かにだぞ。
「あ、アンタ昼ご飯は」
「は?昼飯?パンだけど…」
「そう…」
「??」
ガン飛ばしてたかと思ったら、次は飯はなんだって…
まから俺のパンを奪おうとしているのか!?
やらせはせん、やらせはせんぞ!
「……やらねぇぞ」
今日は買い溜めしていたパンを持って来ていたので、それが入ったカバンを守るように体を背ける。
「…バカじゃないの?」
「うぐっ…じゃあなんだよ」
ちぃ…さっきから一体なんなんだ、何が狙いなのかさっぱりわからん。
もう帰りたい。
「弁当」
「……ん?」
「弁当持って来たから」
「…おぅ、そうか」
「違う…って昨日と同じことすんじゃないよ、アンタの分だよ」
は?俺の分?なんでコイツが?
「………なんで?」
「……毎日そんなのばっか食べてるから風邪なんて引くんだよ、ちゃんと栄養とりな」
「いや…でも」
「いいね…?」
「ひ、ひゃい…」
なんでこんなに押しが強いんだ…
しかもコイツなんで俺が毎日パン食ってること知ってんだ…?
もう訳わからん。
昨日とは別の意味でおかしい
「比企谷」
「……なんだ」
「……覚悟しておきなよ」
「ちょ、どういう事だよ?」
「じゃ、また後で」
「お、おい!」
不吉な事を言い残して先に行ってしまった。
怖すぎんだろ…教室行きたくねぇ。
ため息を一つ吐き、やれやれと思いながらトボトボと教室に向けて歩くのだった。
「アタシは諦めないよ」