そこに立っていたのは、小さな紙袋を片手に、驚いた顔した一色いろはだった。
彼女は生徒会長選挙の時にある依頼を受けて、最終的に生徒会長へと就任させてしまった女生徒である。
それ故に、事あるごとに「生徒会長にさせた責任」という逆らう事を許さないワードを盾に顎でこき使われる(俺視点)ようになってしまった。
いやまぁ、そんな事はどうでもいいんだけど……
問題はコイツが何故ここにいるのかだ。
学校は…終わってる時間か、いや生徒会の仕事はどうした、というか何故俺の家を知っている…
雑多な思考が頭の中で飛び交うが、この体調のせいで正常な判断が出来ない…
まぁ、まずは話を聞かないと始まらない。
何より体が限界を迎えつつある為、玄関先で立ち話する程の元気は残っていない。
「…取り敢えず中に入r」
言い終える前にふと、違和感に気づく。
俺の目の前にいる彼女は、いつも二言目にはやばいですぅとかあざと発言をするはずなのに、最初の一言からそれ以上何も喋らず胸の前で片手を握りしめている。
そして何より、彼女は泣いていた。
××× ××× ××× ×××
「……………」
「……グズッ」
どうしてこうなった…
場所は変わって自室、あの時真っ先に思ったのは、『家の前で女生徒を泣かせている男がいる』と思われるであろう現状を周囲に見られるのは不味いという保身であり、半強制的に家の中へ連れ込んでしまったが…
彼女を椅子に座らせ、俺はベッドに腰を掛け向かい合わせになり詳しい話を聞こうと思ったが、一色が泣いているため聞くに聞けず彼女の啜り泣き声だけが部屋の中で木霊する。
「…一色、大丈夫か?」
「グズッ…はい…すみません…」
「…それで、今日は何の用だ。…生憎だか見ての通り体調崩してるから力にはなれんぞ。ていうか移るから帰れ」
「……すみません」
「……ハァ」
一体なんだというのか、先程から謝ってばかりで要領を得ない。
あのあざと小悪魔一色とは思えないほどだ。
「……わたしのせいなんです」
「は?」
「わたしがっ!……最近、先輩にあれこれお願いして……無理させちゃったから……」
「………………」
「先輩には…最初から手伝ってもらってばかりで…わたしはただ先輩の言った事をそのままみんなに言うだけ…生徒会長として何も出来てないんですっ!だから先輩に余計な負担を掛けちゃって…」
何を言い出すかと思えば、全くこいつは。
……一つ、忘れていた事がある。
一色いろはという女の子は…あざとくて、小悪魔で、たまにムカつくが…やる事はきっちりやるし責任感はちゃんと持ってる子なんだ。
だから、今日俺が体調を崩した原因が一色にあると思い、責任を感じてここに来たのだろう。
「バカだな、お前は…」
「……ぇ?」
自然と手が彼女の頭に伸び、無意識に撫でてしまった。
一色いろははそんな顔するやつじゃねぇだろ。
「言ったろ、一色を生徒会長にした責任が俺にはある、……だから出来るだけの手助けをするって義務を負っただけ。別に嫌々やってたわけじゃねぇし、なにより生徒の中で1番の権力者である生徒会長を裏で仕切ってる…とか噂のヒキタニくんにはお似合いだろ。だからな……一色。お前に責任はない、俺が夜更かしして体調管理ミスっただけだ、だから気にすんな」
「……っ、バカはどっちですか、バカ」
「……先輩に向かってなんて口ききやがる」
「バカバカバカ、その程度でドヤ顔しないで下さい…」
「ふっ…やっと…元の調子に戻ったな……手間…かけさせ…やが…」
無駄に緊張していたが故に、一色が泣いている理由が分かると急に身体の力が抜けて、目の前がぼやける。
気付いたら一色の顔が近くにあった、なにしてんだこいつ。
あぁ…わかんねぇけど…眠くなってきたな
はなしもおわったし、ちょっと…ねる
『せ…ぱ…!……ぱい!』
うるさいぞ…もうねかせろって…
一色が何か言ってるが、睡魔が勝ってちゃんと聞こえない。
まぁ…いいだろう。
××× ××× ××× ×××
〜1時間前〜
先生から生徒会に指示された、ある面倒な仕事を数日掛かりでやって、残すは確認のみというところまで終わらせられた。
正直、これは先輩が手伝ってくれたから終わったけど、居てくれなかったら間に合ってたかどうか分からないものだった。
本来なら生徒会のみでやらなければいけないものだから、今回ばかりは先輩に申し訳ない事をしたと思う。
長いこと先輩を借りてしまったから、雪乃先輩たちにも謝っておかないと。
放課後になり、作業終了の報告とお礼の為に奉仕部部室へと向かう。
あの二人の事だから、怒りはしないと思うけど…ちょっと怖い。今のメンタルで雪乃先輩に睨まれたら余裕で泣ける自信ある。
なんてこと考えてるうちに、部室到着。
ノックする前に襟を正して、小さく咳払い。あとはちょっと申し訳なさそうな顔をすぐ出来る様にイメージしておく。
いや、ホント申し訳ないとは思ってますマジで。
コンコン…
『どうぞ』
ガラッ
「し、失礼しまーす…」
「あ、いろはちゃん。やっはろ〜」
「こんにちは一色さん」
「こんにちわです、先輩方」
ふ〜、お二人は怒ってなさそうで良かった。
あとはお礼を言ってささっと退散しよう…
「あれ?」
挨拶が出来たのはいいものの、先輩の姿が見えない。
部室に来る前に生徒会室に寄って副会長たちに指示を出してきたから、放課後になって少し時間が経ってるはず。
また平塚先生に呼ばれてるのかな。
「先輩がいないようですが、どちらに?」
「あ…ヒッキーは…」
「比企谷くんなら、体調を崩したみたいだから今日はお休みよ」
「……え?」
先輩が…体調を崩した…?
ふと、思い浮かぶのは一緒に作業していた時の先輩の顔。
目が腐っているのはいつもの事だけど、いつにも増して目の隈が目立つ様な気がしてた。
先輩にそれとなく聞いたけど、『作業に集中しろ』とはぐらかされてしまったのは記憶に新しい。
先輩…もしかして数日前から既に…
そう考えてしまった途端、サーッと血の気が引く感覚になる。
そんな…わたしは…なんで…
なんで気付けなかったのか、いや、気付いてはいた。なぜ、先輩の言う通りに作業を優先してしまったのか。
生徒会メンバーならまだしも、先輩はボランティアで来てもらっているのに、それ以上の負担を掛けてしまった。
ただの体調不良かもしれないけど、近くで先輩を見ていて、一緒にいたからこそ余計に心配になってしまう。
こうはしていられない。
「いろはちゃん?」
「すみません先輩方!用事を思い出しました!また後日改めて!」
「え、いろはちゃん!?」
先輩たちの返事待たずに部室を飛び出す。
行かなきゃ、先輩の家に。
謝らなきゃ、先輩に。
走り出し、渡り廊下に差し掛かった時にある事を思い出した。
「……わたし先輩の家知らない」
焦っていて大事な事を忘れていた。
行こうとしても場所が分からなければ意味がない。
飛び出して行った手前、奉仕部に戻るのも気が引ける…それになんとなくだけど、あの二人が先輩の家を知ってるとは思えない。
ここは職員室に行って平塚先生に聞いた方が早そう。
生徒会長たるものが廊下を走るのはダメだけど、今回ばかりは許して欲しい。
下駄箱から職員室へと目的地を変え再度走り出した。
*
コンコン…ガラッ
「失礼します、平塚先生にご用があって来ました」
「ん?どうした一色、私に何か用か?」
職員室前に着き、上がった息を少し整えてから入室する。
運良く平塚先生はおり、デスクで書類を書いている様だった。
「はい、ちょっとお願いしたい事があるんです」
「ふむ、場所を変えようか?」
「いえ、すぐに済むと思うのでここで大丈夫です」
「そうか。それで、お願いとは何かな」
「今日、せんぱp…比企谷先輩が体調不良でお休みと聞いたので、普段のお礼も兼ねてお見舞いに行きたいのですが、お家がどこにあるか分からなくて。先輩の住所を教えて頂きたいんです」
「なるほど……分かった。少し待っていなさい」
「はい、ありがとうございます」
余計な詮索をされなくて良かった…
平塚先生は書いていた書類を少し端に寄せて、メモのようなものに書き始める。
書き始めてすぐ、平塚先生はメモから目を離さず、わたしに話しかける。
「君は変わったな」
「え?わたしがですか?」
「まぁ、関わり始めたのはここ一か月ほど前からだが、そう感じるよ。これも比企谷のおかけかな?」
「それは…」
わたしは変わったのだろうか、変われたのだろうか。
あの仮面を被り、『いろは』を演じてきた日々から。
生徒会長になったから、という訳ではないと思う。
ただ…わたしはあの人の……
「ほら、これが住所だ」
平塚先生はまるで独り言だったかの様に、わたしの返答を待たずにメモを渡してきた。
「私から言うことはなさそうだ。比企谷を頼んだぞ」
平塚先生はフッっと優しい顔をして言った。
先輩といいこの人といい…お見通しって訳ですか。
わたしって分かりやすいんですかね…
ホントにいい先生だと思う、結婚できない理由は知らないけど。
「……何か良からぬ事を考えたか?」
「ひっ、な、なにも!」
先生の目元が細くなる。
こっわ、なんでバレたんだろ。
先生まさかこういうところのせいでは…?
「ほら、急いでいるんだろう?早く行きたまえ」
「あ、はい。先生ありがとうございました」
「あぁ」
平塚先生に一礼して職員室を出る。
ちょっと話し過ぎちゃったかな、遅くなる前に行かないと。
〜しばらくして〜
「………ふぅ」
まさかあの一色がお礼とお見舞いにと、しかも住所まで教えろときた。
そこまでする子じゃないと思っていたが…比企谷もやるじゃないか。
もはやボッチなどとは言えないな。
はぁ、私にもいい人来ないかなぁ…
××× ××× ××× ×××
現在午後5時、調べてみたら徒歩では少し遠いくらいの位置に先輩の家がある。
「……ここが」
住宅街に建つ一軒家、表札には『比企谷』と書いてある。
多分ここで間違いないはず…
あんなに急いで来たのに、いざとなると足が竦んで前に出れない。
怒っているだろうか、呆れているだろうか、見放されたらどうしよう…
目の前に現れるかもしれない可能性を考えると怖くて仕方がない。
でも、そうであるならわたしは叱責を受けなければならない、その責任がわたしにはある
このまま立ち竦んではいられない。
意を決してチャイムを鳴らす。
ピンポーン…
「……………」
反応なし…ダメ、諦めるな。寝てるだけかもしれない。
震える指をなんとか落ち着かせて、もう一度。
ピンポーン…
「…………っ」
2度のチャイムで反応なしとすると、今日は無理なのかもしれない。
先輩は体調不良、起きるのも辛いならわたしはさらに負担を掛けることになるかもしれない。
軽い絶望感とも言えるような気持ちになりながら、帰ろう…と踵を返し家から離れようとした時に…
ガチャ…
「はい…どちらさんで……?」
「あ……」
「え……どうしてお前が」
玄関扉が開き、中から出てきたのは…
上下ダボダボのスウェットを着て、いつものように気怠そうな顔をした…いや、普段より数倍に顔色が悪い先輩でした。
あぁ…良かった、思ったより重い症状じゃなさそうで安心した…
でも、心配とはまた別の…負の感情が込み上がってくる。
拒絶されたくない、いつもの声を聞きたいのにその先を聞きたくない。
心の中で感情がグルグル渦巻いて…
「…取り敢えず中に入r」
ポロッ……
「い、一色…?」
「ぁ……あれ」
気付いたら一筋の涙が頬を伝っていた。
そしてダムが決壊したかの様に、涙が止まらなくなる。
フルフル……
違う、違うの、心配されたいからじゃない、これじゃまた先輩に迷惑掛けちゃう…!
わたしはただ…!
「ちょ、なんで泣いて…一色?落ち着けって」
「う、うぅ…グズッ」
「あー、取り敢えず中入れ!」
グイッ
「……あっ」
………パタン
こうして、わたしは意図しない形で先輩の家にお邪魔してしまいました。
××× ××× ××× ×××
〜現在〜
ギュ…ピチャピチャ……
「……よし」
あの後、元々無理をしていたのか、先輩は話終わった途端、気を失うようにわたしに倒れかかって眠ってしまいました。
汗が凄かったので、タンスからタオルを拝借…その他色々探して濡れタオルで先輩のか、身体を拭いていたところです。
やっと落ち着いたのにこれじゃ意味ないですよ…
はぁ、結局先輩には迷惑しか掛けてないな…
こんな状態だったのに話を聞いてくれて、慰めてくれて…
どこまでお人好しなんですか、先輩。
ナデナデ…
先輩がしてくれたように、わたしも先輩の頭を優しく撫でる。
身長差もあって、普段出来ない事だからなんだか嬉しい感じになる。
べ、別にしたかったとかそういう願望があった訳じゃないけど…
先輩はわたしの為に動いてくれた、なら、次はわたしが先輩の為に出来ることをしよう。
*
「………ん…んん」
ここは…って俺の部屋か。
あー、確か一色が来てた…よな、あのあとどうしたっけ…。
寝起きで記憶が曖昧だ、しかも身体中怠い。
「…ん?」
ふと、額に何か乗ってる感覚に気付く。
これは…タオル?
それになんか左手にも変な感じが…
ギュッ……
「……うぅん…」
「…へ?」
俺以外の声が聞こえ、左を向くと…
こちらに顔を向けながら自分の腕を枕にして、床に座りベッドの端で寝ている一色がいた、俺の左手を握った状態で。
「……………」
俺、フリーズ。
一色がいるのはまぁいい、話してた記憶あるから。
問題なのは、こいつがなぜ俺の手を握ってるのかだ。間違って握ったという割にはガッシリ握ってるし…
「…………」
「……あ」
凝視していると、俺が起きたのに気付いたのか一色も目を覚ましたようだ、目と目が合う形で。
なにその瞬間好きだと気付きそうなやつ。
「あれ…わたし寝ちゃって………って先輩っ!?」
「うおっ!」
少し反応が遅れたみたいだが、俺を認識した途端ガバッと体を起こした。
なんだよビックリさせやがって。
「せ、先輩、体調はどうですか?」
「お、おぅ…気怠さはまだあるけど、熱っぽさはなくなったみたいだ…」
「そうですか、良かった…」
「あぁ…」
「…………」
「あ、あの」
「な、なんですか?」
「……手を離してくれないだろうか」
「……………あっ!」
シュバッ!
やはり無意識だったのか、俺の手を握っていたのに気付いていなかったようで、顔を赤らめて凄い速さで両手を後ろに隠してしまった。
「……………」
「……………」
き、気まずい!
なんだよ畜生、風邪の後は雰囲気で俺を攻撃するのか。
神様あんまりだぜ。
ガチャ
「「!!」」
お互いなにを話せばいいか分からず、沈黙が続く中で部屋のドアが開いた。
思わずビックリしちまったけど、それは一色も同じようだった。
「…お兄ちゃん、入るよ〜ってお二人とも起きましたか」
「小町か…帰ってたんだな」
「あ、えっと…」
「あ、初めまして!妹の小町です!兄の看病をして頂いたようで、ありがとうございます」
「う、ううん、そんな事は…わたしは一色いろは、先輩の…比企谷先輩の後輩」
「ほうほう…お兄ちゃん、小町後輩さんがいるなんて聞いてないんだけど?」
「いや後輩つったって奉仕部のじゃないから、学年的な意味での後輩だから」
「そんなの関係ないよ!全くごみぃちゃんは…ご挨拶が遅れてすみません、兄がご迷惑お掛けしたりしてませんか?」
なんて事言いやがるこの妹ちゃんは、俺は人と関わらないんだから迷惑掛けるなんてあり得ないだろ。自分で言って悲しくなったわ…
まぁ、今回は一色に少し迷惑掛けちまったけど…
「……ううん、そんな事ないよ。逆にわたしが先輩に迷惑掛けっぱなしなくらい…だから今日だって」
「一色、それはもう気にするな」
俺が寝る前に終わらせたと思ったら話を一色が掘り返すのを止める、全くこいつは俺がいいと言ってるのにまだ気にしてるのか。
「でも、そういう訳には」
「あー、はいはいお二人ともストップです!」
「「え?」」
「いま何時か知ってる?」
「「…………えっ!」」
二人して目覚まし時計を確認、そこに表示されている時間に驚く。
19:45、もうすぐで20時になりそうだった。
「もうこんな時間…ごめんなさい、全然気付かなくて…」
「いえ、時間は全然大丈夫なんですが…お兄ちゃん、食欲ある?」
「え、あぁ…うん、腹減ってる感じするし大丈夫だと思う」
「ならよし、いろはさん…ってお呼びしていいですか?」
「う、うん、大丈夫だよ」
「ではでは、もうすぐ晩御飯にしようと思うので、いろはさんも一緒にいかがですか?」
「え、で、でも……」
「学校での兄について色々お聞きしたいんです、どうでしょう……」
「うっ…」
小町の甘え攻撃!いろはすは効いている!
同じ妹属性持ってるはずだが、小町の方が強いみたいだ。
「せ、先輩はどうですか?」
「あ?」
「わたしが晩御飯に同席するのです」
ふむ、なんだかんだ言ってこいつも連日の作業疲れがあるだろうし、今日の一色は初めからおかしいところがありすぎる。
早めに帰したほうがいいんだろうが…
「……別に小町がいいって言うならいいんじゃねぇの、それより時間大丈夫なのかよ、心配されてんじゃねぇか?」
「あー、そこは上手くやっておくので大丈夫です」
「あ、さいですか…」
遠回しに帰宅を勧めたがダメみたいですね…
まぁ、本人がいいって言うならいいか。
「よっし!じゃあいろはさん、ちょこっとお手伝いお願いしてもいいですか?お兄ちゃんは着替えられる?」
「うん、分かったよ」
「大丈夫だ」
「じゃあお兄ちゃんは体拭いて着替えたら下降りてきて、何かあったら呼んでね。ではではいろはさん、一緒にご飯の準備お願いします!」
「まかせて!」
スタスタスタ…ガチャ…
「はぁ…小町のやつ」
あの雰囲気を察して、路線変更したのか…それとも偶然か。
まぁ腹減ってるのは事実だな、さっさと着替えて下行くか。
××× ××× ××× ×××
それから小町ちゃんに先輩の話(ある事ない事)をしながら楽しく晩御飯を頂いて、気づけば21時になろうとしていた。
まだ30分も経っていない感じ、楽しい時間はすぐ終わってしまう。
「ありゃ、もうこんな時間ですか」
「ほんとだ、ごめんねこんな時間まで」
「いえいえ、こちらこそお付き合いしてもらってありがとうございます〜、色々とお話し聞けて良かったです!またいらして下さいね!」
「うん!ありがとう!」
ちょっとお二人さん、俺の存在忘れられてない?
病人なんだぜ、もうちょい優しくしてや
「あー、一色…駅まで送る」
「病人が何言ってるんですか、早く治してもらわないといけないんですから無理しないで下さい」
「でもこの時間じゃ…」
「もしかして…心配してくれてます?」
ぐっ…こいつ、小悪魔スマイルしやがって
柄じゃないこと言ってるのは分かるが、その際仕方ない。
「……当たり前だろ」
「ふふっ、そうですか。大丈夫ですよ、人通りの多いところ通って帰りますから」
*
「今日は色々ありがとうございました」
「気にすんな、それに今日は俺も迷惑掛けちまったしな」
「それはお互い様、ですよね」
「……ふっ、だな」
「あ、先輩。これどうぞ」
「あ?なんだ」
「クッキーです、ホントは奉仕部の皆さんにと思ったんですけど、今日は無理そうだったのでそのまま持ってたんです」
「あぁ、なるほどね」
クッキーか…少し前の料理教室でもそうだったが、一色は案外菓子作りが上手いんだったな。
有り難く貰っておこう。
ズイッ
貰った紙袋から目を上げると、いつの間にか近寄っていた一色が耳元で話しかける。
「そのクッキー…愛情たっぷりですから、ちゃんと味わって食べて下さいね?」
「………はいはい」
「ふふっ、また今度焼いてきますね」
「…おう」
「それじゃ先輩、また学校で」
「あぁ、またな」
ピッっと敬礼の真似をして、一色いろはは去っていく。
取り敢えずいつも通りのあいつに戻って良かった…と思う。
なんか小っ恥ずかしい事をさっき言っちまったような気もするが、思い出したら死にたくなりそうだから止めておこ
さて、小町にこのクッキーを見つかるとまた面倒な事になりそうだし、見つからないよう部屋に持っていこう
決して自分だけで食べたい訳じゃない、違うぞ、違うんだからな。
〜翌朝〜
今日も今日とて学校へ、って言っても休んだ日から来てなかったんですけどね。
あれからもう一日様子見で休んで、久々の登校。やっと戸塚の笑顔が拝める…ふひひ。
早く会いに行かねば!
「せ〜んぱいっ!」
「ぐふっ!」
突然背後から衝撃が…!
思わずザクとは違う何かの名前を言ってしまった。
「おはよ〜ございます☆」
「あーはいはい、おはようさようなら」
「ちょ、先輩待ってくださいよぉ」
朝からテンション高ぇなこいつ、なんか言葉の最後に星見えるし。
「もう体調は大丈夫なんですか?」
「あぁ、1日しっかり休んだからな」
「なら良かったです、これでまた駒…お手伝いお願いできますね!」
「言い直せてないし、また頼る気マンマンかよ」
こいつ今駒って言いやがった、二度と手伝ってやるものか。
「先輩」
「あ?」
「クッキー…美味しかったですか?」
「………あぁ」
「ふふっ、先輩が素直だ」
「うっせ…もう行くぞ」
「あ、そうだ先輩」
「なんだよ俺は急いでるんだ」
「そんなこと言って〜、会う友達も用事もないくせにぃ」
「やかましいわ。で、なんだよ」
「今日、お昼に生徒会室に来てくれませんか?」
「は?なんでだよ」
「理由はなんでもいいんです、とにかく来て下さいね」
「嫌だけど」
「ぶー、そんなこと言ってぇ。これを見てもまだそんな事言えますか?」
>一色が寝ている比企谷と手を繋いでいる写真
「おまっ!なんてもの撮ってやがる!」
「交渉材料にはもってこいですよね〜、これを結衣先輩たちに見せでもしたら…」
「ぐっ…分かったよ、生徒会室に行きゃいいんだろ」
「話が早くて助かります♪」
くっそ、あの時のは無意識じゃなかったのかよ…油断しちまった…
なんて恐ろしい子…!
学校始まって早々これとは、やれやれだ
「せ〜んぱい、楽しみにしてて下さいね♪」
終