奉仕部部室内は基本的に会話がない。
特に依頼がない日などは、カチカチと時計の針が動く音、小説のページを捲る音、携帯のタップ音、微かに聞こえる忍び笑い…
これらが相まって、一種のBGMのようになり、彼らにとって心地よい場所になっている。
その日は、いつも通りに集まり、いつも通りに帰宅時間まで各々時間を潰す…はずだった。
ペラッ………チラ
……………ハァ
ペラッ…フフッ
「……由比ヶ浜さん?」
「…ん?どうしたの、ゆきのん?」
「いえ…気のせいなら申し訳ないのだけれど、先程から携帯の操作音がないのが気になって…それになにやら浮かない顔をしているように見えるわ」
「あ、あはは〜…そうかな?」
「……何か悩み事?」
「ううん!全然、大丈夫だよ?」
「そう…」
「うん…」
「………」
由比ヶ浜結衣という少女は、少し前まで周りの空気を読み話を合わせるという、自分の本心を素直に言えない子だった。
しかし、比企谷八幡や雪ノ下雪乃との出会いによって建前を気にせず本音で話せるようになった。
それなのに、今の彼女はまるで周囲に合わせて自分を隠している前の由比ヶ浜さんに戻ってしまったと雪乃は感じた。
それは、これまでの活動を通じて育んできた友情とも言える感情を裏切られた感覚になる。
雪乃のそれが堪らなく嫌だった。
「由比ヶ浜さん」
「…なに?」
「私には…いえ、私たちには相談出来ない事なのかしら?」
「な、なんのk…」
「とぼけないで。短い間でも同じ時間を過ごしてきたのよ、何か悩んでいる事くらい分かるわ」
「………」
「由比ヶ浜さん、私たちはね…あの時貴女のおかげで救われたの」
「…ゆきのん?」
「………」ピクッ
「比企谷くんが…一歩踏み出してくれた時、私は何も分からなくて逃げたわ。でも、由比ヶ浜や比企谷くんは追いかけてくれた。多分、比企谷くんだけならあそこで終わっていたと思う」
「…………」
「私たちは一人でも欠けたら成り立たない、3人で奉仕部なの。だから…一人で抱え込まないで、相談して欲しいの」
「ゆ…ゆきのん……」
「……………」
「ごめんね…ゆきのん、あたしが間違ってた…これくらい自分でなんとかしなきゃと思ってたんだけど…」
「由比ヶ浜さん…」
「ゆきのん…あたしね————」
「体重が1キロ増えちゃったんだよ…それに胸もちょっと大きくなったみたいで…」
「………………………は?」
「え?」
「ちょっ、ヒッキー!そこだけ聞かないでよ変態!」
「いやだって…横にいたら嫌でも聞こえちまうだろ。てかお前…マジか、なんていうか…」
「あーもうっ!ヒッキーは喋らないで!」
「なにその理不尽、じゃなくて…お前って中々エグい事するな」
「…………………」プルプルッ
「…なに言ってんの?」
「えーこれ俺がおかしいの?俺超可哀想じゃん。だってあの黒歴史を急にネタに使われた挙句、思いっきり見当違いって…」
「……まぁいいや、それでね。最近、優美子たちと食べ歩きばっかりしてたから、昨日それが分かって凄くショックだったんだ…」
「…………………」プルプルッ
「今日は3人で行きたいところあったのに、それもあって誘いたくても誘えないっていうさ〜」
「…………………」プルプルッ
「…ゆきのん?」
「……かえる」グズッ
「ゆきのん!?」
「あーあ、由比ヶ浜が雪ノ下泣かせた」
「えぇ!?なんで、どうして!?」
「こんな辱めを受けるなんて…その上む、胸の自慢まで…屈辱だわ」
「な、なんかごめんね?」
「謝らないで由比ヶ浜さん、死にたくなってくるわ」
「死!?」
「あーもうめちゃくちゃだよ…」
これは誰の責任なのか、誰が悪いのか
ただ一つ言える事は…勘違いしたまま突っ走らない事だな、うん。
ついでにさっき黒歴史持ち出されたから、俺も死にたくなってきたわ。
………帰ろ。
終