真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
お付き合いのほどよろしくお願いします。
原作とおおよそ流れが変わりませんが、悠介の存在による小さな変化もありますが、基本的には読まなくても大丈夫な話になると思います。
それでも、楽しんでもらえたらうれしいです!!
時は大きく巻き戻り、梁山泊の襲撃の7日前、川神学園2年S組。
「以上のことからこの辺りが怪しいですね」
「そうか。感謝するぞ、我が友冬馬よ。
このような身内の恥、お前にしか頼めん」
「いえいえ。英雄の力になれて嬉しい限りです。
しかし九鬼の内部に不穏な動きですか。
何事もなければそれに越したことはないのですが」
「ああ。我とて身内を疑うなどという真似はしたくない。
今、九鬼は一致団結せねばならん!!
そんな中で身内同士で足を引っ張りあっている暇などにというのに」
「英雄…。
無理はなさらずに。何かあればすぐに連絡をください」
「感謝する」
事態が表面化する、その前に異変は確かに確認されていた。
◆
時間は巻き戻り、九鬼極東本部。
マープルからの伝令を受けた与一たちはある一室に集まっていた。
「さて、全員揃ったようだね」
義経、弁慶、与一、そして清楚を見渡しマープルが呟く。彼女たちの背後には桐山も控えている。
「それでマープル。義経たちは何をしたらいいんですか?」
クローン組を代表して義経がマープルに問う。何しろ、幼いころから教え込まれてきた緊急コードを使用しての招集だ。
一体何があったのかと義経の顔は強張っている。そしてそれは義経だけでなく、外尾メンバーも口には出さないが僅かに緊張がにじんでいる。
そんな緊張感の中、マープルは―――。
「なあに、そう緊張する事はないさ。
少しあんたらの力を借りようと思ってね」
キラリと歯を光らせるような笑みと優しい声音でそう告げた。
緊張をほぐすような気の抜けた声音に義経は気の抜けた声を漏らす。そんな反応を見たマープルは笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。
「なんだい?
もしかして手伝ってくれないのかい?」
「そ、そんなことはない!!。
マープルは義経たちにとって大切な存在!!
義経たちに手伝えることならどんなことでも、全力で頑張るぞ!!
な!弁慶、与一!!!」
「まあ。育ててもらった恩もあるしね。
あ、でも。できるだけめんどくさく無いのでよろしく」
「ふん」
「弁慶!!与一!!」
「ハハッ!!
多少問題はあれど頼もしい答えだよ。
清楚、あんたも同じかい?」
「はい。
私にできることなら」
クローン組の返答にマープルは満足げに頷く。そしてその光景を桐山は楽しそうに見つめている。
「それじゃあ、本題の前にだ。
清楚。お前さんの正体を教えよう」
突然、脈絡なく伝えられたマープルの言葉に誰よりも清楚が驚きを露わにする。
「え?
…でも、正体を教えるのは私が25歳になってからって」
「私もそのつもりだったんだけどね。
まあ、予定が変わったのさ」
「…そうですか」
はぐらかすようなマープルの言葉に清楚は何処か納得のいかない表情を見せるが、知りたかった己の正体が知れるということもあって深くは追及はしない。
「さて、隠しても仕方ないから単刀直入に簡潔に告げるよ。
清楚。お前さんの元となった英雄の名は――――
「え、?。
項羽って、あの三国志の英雄の?」
「その通りさ。
武力をもって天下まであと一歩というところまで迫った武力の英雄さ」
「項羽…私の正体」
「うん?
なんだい。思ったより受け入れているね。
川神学園での自己紹介のことを考えればもう少し狼狽えると思ったんだけどね」
清楚の反応が計算外だと告げるマープルの言葉に清楚は戸惑いながらも口を開く。
「確かに、清少納言や紫式部だったら良いなと思ってはいましたけど、私の正体が誰であろうと私は葉桜清楚なので」
「そうかい……これは想定外だね。まあ、修正すれば問題ないね」
「え?」
「いや、何でもない。
それじゃあ、清楚。お前さんに施した封印を解こうかい」
「封、印?」
「そうさ。
そら、これを読んでみな」
マープルの口から告げられた異様な単語。何かを感じた清楚の足が半歩下がる。そんな先輩の姿に義経たち源氏組が声をかけようとするが、桐山に止められてしまう。
そんな清楚の視線はマープルが差し出した一冊の本によって止まってしまう。
それは、かつて自分が読もうとして従者に止められた本。三国志の本であり、正体を知った今ならその理由がなんとなくわかる。
しかし、そう考えるよりも先に、清楚の口はその
「力は――――山を抜き」
ほぼ無意識に呟かれた言葉に義経たちが反応する。
「気は――――世を蓋ふ――――」
何か様子がおかしい。与一が清楚を止めよう動くが桐山が邪魔をする。
「虞や――――虞や――――」
与一が義経が清楚に声をかけるがその声は届かず、清楚はより詩を読む。
「奈を――――」
同時に清楚の纏う雰囲気が変わる。まるでダムが決壊するような危険な空気が満ちる。
届かない。そう察した与一と弁慶が、義経を守るように前に出る。
「若何せん―――――ッ」
瞬間、文字通り巨大なダムが決壊したかのような力の奔流が起こった。
◆
時は同刻、某国棒空港のプライベートジェット機内。一仕事を終え、次の仕事へ向かう僅かな時間を九鬼揚羽と従者である武田小十郎は過ごしていた。
「揚羽様。
出発までまだ少しあります。
僅かな時間ですが、お体をお休めください」
「ああ。そうさせてもらう」
小十郎の言葉に同意するように揚羽は大きく固まった体をほぐすように大きく背を伸ばす。
僅かに流れる穏やかな時間、するとそこへ。
「揚羽様、失礼いたします」
「おお。ヒュームではないか。
お前が此処にいるとは珍しい」
音もなくヒュームが二人の前に現れる。突然訪問ながら、師と弟子の関係でもあった揚羽は快くヒュームを受け入れる。
そんな師弟関係を感じる雰囲気に小十郎は笑みを浮かべる。
「それで一体何の用だ?
お前が紋白のそばを離れるなど、何か大きな要件なのだろう」
師弟としての空気もそこそこに揚羽はヒュームに訪れた理由を問う。そこには上に立つものとして顔を見せ、先ほどまでの弟子としての顔はない。
「ええ。私が貴方様にお伝えしたいことは一つ」
「なんだ」
「何時如何なる時も最低限の警戒は解くなと教えたはずだぞ!!」
「ッ―――――!!」
それは反撃不可避の一撃。警戒を解いていたこともあり、揚羽は回避も防御もできすに意識を刈り取られる。
突然のヒュームの凶行に小十郎が吠える。
「あ、揚羽様――――――!!!」
「ふん。今のを回避できぬとは、まだまだ赤子よな」
「ふざけるな!
揚羽様は貴方の、いや、お前の事信頼していた!!
だから、警戒を解いたんだ!!
それを、それを!!」
「ふん。
それが甘いというのだ」
「ふ、ふざけるな!!
うぉぉぉおおおおおおおおおおおおッ!!!」
「むっ――――――」
直情的で直線的な軌道と攻撃。ヒュームクラスとなれば目を瞑っても避けることが出来るが、主人を信頼を裏切った者への怒りが、その想定を僅かに超える。
結果として怒りを乗せた小十郎の拳は、ヒュームの顔面に突き刺さる。倒すまでにはいかない。それでも小十郎の拳は数歩、九鬼最強の0番を後退させた。
「…ふん。
今の一撃は見事であった。
揚羽様への曇りなき忠義心見事である。非才な貴様がまさか、忠誠心をもってそうなるとはな。
言い訳に聞こえるかもしれんがこれは、俺も避ける訳にはいかん一撃であった」
「え?」
「だが、甘い!!」
それは一瞬見せた敬意。その敬意に小十郎が硬直したその刹那、鋭い蹴りが小十郎の意識を刈り取った。
「ふん。多少の土産はあったが、それまでだ」
倒れこむ二人を抱え、ヒュームはその場から音もなく消え失せた。
◆
時は進み、川神院襲撃前夜。九鬼極東本部へ続く海中通路某地点。九鬼英雄の命を受け、あずみ、ステイシー、李に加え、協力者として大佐が調査を行っていた。
「よし。
英雄様から伝えられたポイントはここに間違いはない」
「なるほどな~。
パッと見た感じ、怪しい箇所はなさそうに思えるが」
「まだまだ甘いな、ステイシー。
スペシャルな私としては、あそこの消化設備が怪しいと見た」
「これはッ!!。
巧妙に隠されていますが、これは隠し扉です」
大佐の指摘を受け、李が消化ホースなどが格納されている扉を調べると、そこには扉としての機能が隠されていた。
扉を開き、下へと続く通路が露わになる。
「あちゃ~。これは確定だな」
「よしお前ら、突入準備だ」
あずみの言葉と共に四人は通路を飛び降り、暗い道を進んでいく。
「それなりに歩きましたね」
「ふむ。歩いた距離から考えても既に上は海だな」
「中々にロックな相手だな」
「相手を褒めるじゃあねえよ!
クソ!ここまで気が付かなかったとは不甲斐ないぜ」
軽口をたたきつつも四人は警戒を緩めることなく歩を進める。幾分か進んだ先、広い空間を確認した四人の足は一度止まる。
声は出さない、しかしハンドサインで意思疎通を行い、更に警戒を強めて四人は突入する。
「なんだこりゃ?」
突入したステイシーはその部屋の異質さに声をこぼす。
四人が入った部屋には、不気味に光る巨大な水槽のようなカプセルが多数設置されており、絵面だけ見ればまるでSF映画のセットのようだ。
「!。あずみ、ステイシー、これを見ろ」
カプセルを確認していた大佐が何かに気が付き、あずみたちを呼ぶ。大佐が指さす先を見たあずみたちは、そこに刻まれている名を読み上げる。
「
「確か、項羽の軍師だった人物ですね」
「おいおい、これはまさか」
「ふむ。
よく見れば、設置されているカプセル全てに歴史上の偉人たちの名が刻まれているな」
「おい、李。
あたしの記憶が正しければ、クローンは義経たち四人だけだったよな?」
「ええ。私もそう記憶しています」
「ああ、間違いねえ。
今回の件、黒幕は――――」
情報、設備、物的証拠からあずみがその名を口にしようとした瞬間、コツコツと奥から足音が空間に響いた。
「やれやれ。騒がしいったらありゃしないよ。
こんな夜分に一体何の様だい?」
「マープル」
奥から姿を現したのは、九鬼家従者部隊序列2位マープル。彼女の登場にあずみは武器である短刀を構える。
後ろに控える三人も静かに戦闘体制へと移行している。
「やれやれ、全く。
こんな戦えない老婆一人相手に物々しいね」
「要件は分かってるよね。
マープル。あんたを九鬼への反逆容疑で拘束する」
「そうかい」
あずみの言葉にマープルは動じない。むしろ
あずみの言葉を受け、李とステイシーがマープルの確保に動く。
「英雄様も悲しむだろうぜ。
まさか裏切者があんただと知ったらな。
何故、裏切った」
重く告げるあずみの一言。しかしマープルは、ますます呆れを深める。
「全く、己で考えず直ぐに答えを知ろうとする。
嘆かわしい事この上ないね」
「なんだと…?」
「悪いけど、まだ捕まる訳にはいかないんでね」
「ッ!!
李、ステイー!!」
「確保します!!」
「お縄に付きやがれ!!」
マープルの言葉にあずみが声を荒らげ、李とステイシーの二人が確保を急ぐ。しかしそれよりも早く、マープルが手に持った杖で床を数度叩いた。
駆動音と共に、あずみたちの立っていた床が開き、一種の落し穴と化す。
「いかん!!」
「クソ!!」
「ッ!!」
「ファック!!」
回避不可能。落ちるしかないと悟り、各々が迂闊さに舌をかむ。
奈落へ落ちる四人を見つめながらマープルは誰に聞かせるわけでもなく呟いた。
「全くこんなんで乗り越えられるのかね」
誰もいなくなった空間をしばし見つめたマープルは携帯を取り出し、どこかに連絡を入れながらその場を後にした。
◆
時は進み、川神院襲撃一時間前。九鬼家極東本部、九鬼英雄の私室。
英雄、葵、井上、小雪の四人が集まって話し合いを行っていた。
「それで英雄。あずみさんたちからの連絡は?」
「ふむ。
例のポイントで不審な施設を見つけたという連絡の後から連絡がない」
「…そうですか。
やはりそこに何かあったと考えるべきですね」
「やはりそうか」
英雄と葵があずみたちの身を案じている最中、井上と小雪の二人は教室で行うような普段通りのやり取りを行っている。
そんな空間に軽いノック音が響く。
「英雄様、失礼いたします」
「おお。クラウディオか!
何か用か?
すまんが、今我は手が離せん。
手短に頼む」
身内を疑う内容ゆえに聞かせられないと英雄が要件を問う。英雄に問われたクラウディオは普段通りの温和な笑みを浮かべて告げた。
「簡単なことでございます。
英雄様、葵冬馬様、井上準様、榊原小雪様。
あなた方を拘束させていただきます」
「なに…?
クラウディオを、お前のジョークにして笑えんな」
「ジョークではありませんので」
「まさか―――!!」
「そのまさかでございます、英雄様」
身構える英雄と何かを探るような視線を向ける葵を庇うように井上と小雪がクラウディオの前に立ちはだかる。
「じいさん。
俺はあんたのことを尊敬している。あんたの出す、紅茶はうまいし、その落ち着き方はマジで将来そうなりたいとい思ってる。
だからこそ、その殺気は似合わない」
「邪魔はさせないぞ~~!!」
身構え、守るために二人が攻勢に出る。
しかし――――。
「な―――っ!!」
「う、動けない」
「準!!ユキ!!」
それよりも早く、クラウディオの攻勢は終わっていた。井上と小雪の四肢には目に見えない、それでいて頑丈な糸が幾重にも絡まりあい動きを拘束している。
二人の間をクラウディオは悠々と歩き、首元に何かを素早く打ち込むと、二人の体から力が抜け意識を失う。
家族ともいえる二人の異変に葵が名を呼ぶが反応はない。肩が上下していることから息はあると判断はしたが不安は増すばかりだ。
「クラウディオ貴様……!!」
「英雄様、冬馬様。
拘束させていただいてもよろしいでしょうか」
左右に意識の失った家族を人質にクラウディオが再び二人へと問う。反論も反抗も許さない、それでいて声音だけは優しい。
「…仕方ありませんね」
「うむ…」
こうしてあまりに静かに四人の拘束は行われた。
◆
時は同じく、九鬼極東本部九鬼局の私室。
そこでは紋白が局に一週間の出来事や成果を報告していた。そこには親と子の関係はない。上司と部下のような空間に思えるかもしれない。しかし紋白を見る局の瞳の奥底には分かりづらいが、確かに親が子に見せる温かさがあった。
そんな空間に入り込む一人の執事。
「局様、失礼します」
「桐山か…。
一体何の様か?」
コツンと局と約2メートル離れた場所に立ち止まった桐山は普段通りの胡散臭い笑みを浮かべながら告げる。
「紋白様も一緒にいるのは好都合です。
すみませんが、この私の野望の為、拘束させていただきます」
なんてことないように告げた桐山の言葉に紋白は唖然とするが、局は即座に動いた。
「誰か!!誰かいないか!!」
「流石です、局様。
しかし無駄です。
その程度の工作を行わずに、宣言するほど、この桐山鯉は無能ではありませんので」
「くっ!」
「では、拘束させていただきます」
そういいながら桐山は局に近づいていく。部屋は広いが出口は桐山の背後。九鬼財閥でも有能な若者だ。ここまで来て自分を逃がすというミスを行うはずがない。局は万事休すかと唇をかむ。
そんな局と桐山の間に立つ影が一つ。
「させぬ!!」
「紋!」
母である局を庇うように紋白が前に出る。
「母上には指一本触れさせん!!」
紋白の覚悟ある言葉に二人の視線が彼女に吸い寄せられる。
「母上は――――」
――――なんだこの威圧感。紋白様が発せられているのか
眠れる才能の覚醒。そう確信するほどの何かが紋白の内側から溢れ出ようとしている。
―――――我が守る!!」
紋白の覚悟に桐山が呑まれる。その一瞬の隙を局は見逃さない。
紋白の背後から勢いよく飛び出すと、そのまま桐山に飛び掛かる。
「母上!!」
「子どもに守られるほど弱いつもりはない!!。
護身術程度は嗜んでいる!!
紋!!逃げよ!!」
「しかし!!」
「くどい!!」
局の言葉に迷う紋白。何とか桐山を拘束している局は長くはもたないと声を荒らげる。
その瞬間、部屋に第三者が乱入する。
「局様!!ご無事ですか!!」
「!!。
李よ、我のことは良い!!
紋白を連れて逃げよ!!」
「ッ―――!!
了解いたしました!!」
局は自分を案じる李の声に、桐山たちの敵であり、自分たちの味方だと判断し、即座に指示を出す。
局の命を聞いた李は、即座に状況を理解する。そして僅かな迷いを振り切り、紋白を抱えて部屋から脱する。
「母上!!
李!!母上を!!」
母である局を置いていくことに紋白が声を上げる。母を思う子の声に李は静かに現実だけを告げる。
「申し訳ありません。
私も無傷とは言えず、この状態で二桁の従者を相手どる余裕はありません」
「ッ―――!!」
紋白は李の言葉を聞き、冷静に彼女を見る。彼女の服はいたるところ破れており、一部の箇所からは僅かに血が流れている。
よく顔を見れば、血の気が悪い。
この状況では李の言う通りだろう。何より、このまま自分が我が儘を通せば、母の思いも部下の思いも無下にしてしまう。
今の自分にできることは一つだけだ。
「李!!
川神院に急ぐぞ!!」
「ッ!!
承知いたしました!!
揺れますが、ご容赦を」
「構わん!!」
紋白の覚悟を感じ取った李は足を速めて九鬼極東本部からの脱出を急いだ。
紋白を逃がした桐山だったが、無事に局の拘束には成功している。
「やれやれ。
いささか、紋白様を甘く見ていましたか。
しかし、局様もお見事でした」
「ふん。
見え透いた世辞などいらん」
「いえいえ。
局様、貴方の行いは紛れもなく母の愛!!
私、感服の一言でございます。
やはり、母とは偉大だ」
何かに酔うように告げる桐山を局は睨みつけることしかできなかった。
◆
そして時は川神院へと戻る。
さて、この小説を月一で更新しながら他の小説も更新頑張るぞ!!
…月一更新できなかった時の保険じゃないですよ???