真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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お待たせしました!!
PCが壊れたり、卒業レポートで苦戦しつつどうにか更新でしました!!

そしてこの小説も8月3日をもって、まさかまさかの四年目に突入です!!
四年か~~~四年たっても、百代との対決を終わらせれないとは……始めたときは此処まで長くなるなんて、思わなかったな

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!














根性見せろよ、悠介……そこを越えてこそ、俺の弟子だ。――――鍋島正。


持たざる者 傷だらけの挑戦者

斬馬刀(ざんぱとう)斬左(ざんさ)の登場に、百代は何を仕掛けてくるのかとワクワクが止まらない。

悠介の性格と準決勝の義経との戦いで見せた動きから、それがハッタリで出したとは思えない。

何より自分を見つめるその瞳は、始まりから何も変わらない。その事実が、百代の中の何かを震わせる。

 

「行くぞ!!モモぉ!!」

 

「来い!!悠介!!」

 

体中に傷を負いながら、息を切らせている。それでもその動きは鍛錬の賜物か、悠介の動きには全くダメージを感じさせない。その動きで一気に斬左の間合いを詰める。

 

「オラァ!!」

 

悠介は間合いに入ると一気に横薙ぎに斬左を振るう。その巨刀の圧は並ではなく、少なくとも義経ですら恐れを抱いたそれを前に百代は…

 

「はッ!!」

 

一切の恐怖を覚えずに、自慢の拳をもって迎え撃つ。直後、ガゴン!と拳と鋼がぶつかったとは思えない轟音が響く。

 

「チィ…」――――躊躇なく、ぶつかりやがる…

 

拳の衝撃に斬左が押され、押し戻される。それを体全身を使い引き留め再び構える中で、悠介は舌打ちをこぼす。

 

「いっ~~たぁ~~~。悠介、お前のそれ硬すぎるだろ!!私が砕く気で殴って、砕けないとかよっぽどだぞ」

 

対する百代は、今の一撃で拳に響いた衝撃に僅かに顔をしかめる。しかしその表情は、歓喜に染まっている。

たったの一振り。されど一振り。それだけで感じたのだ、目の前の漢が、如何なる鍛錬を積んだのか。そしてその全てが、今自分を倒すためだけに振るわれている。

その事がただただ嬉しい。

 

「はっ!俺の斬左(あいぼう)は、『硬さ』と『丈夫さ』がメインで作られてるからな!易々と砕けると思うなよっ!!」

 

百代の言葉に答えながら悠介は更に体を動かす。状態を戻し、再び横薙ぎに斬左を振るう。が…

 

――――いや、この攻撃は届かない

 

百代は即座にその攻撃が、一歩分自分に届かないと察する。

 

――――この場でのミスは命とりだぞ、悠介

 

僅かな落胆と共に、振り切った後の隙を狙わんとした斬左が空振るのを見届けようとした瞬間

 

「ハッ!」

 

悠介は斬左に添えていた右腕を離すと同時、一歩分足を滑らせる。それにより丁度、百代の目の前を通り過ぎようとしていた斬左の斬撃は、突如として突きへと変化し、間合いを変化させながら、猛スピードで百代へと迫る。

 

「なっ!!??」

 

突如として行われた攻撃の変化と間合いの変化。僅かながらも大きな変化に百代は虚を突かれ、ドン!と迫る斬左の刃先に押されるように吹き飛ばされる。

 

『これは――――!!相楽選手の一撃が、再び百代選手にクリーヒット!!再び、百代選手が吹き飛んだ――――!!』

 

大佐の言葉と二度も武神が吹き飛んだという事実に会場が驚きに染まる中、実力者たちは悠介の剣さばきに驚嘆の声をこぼす。

しかし肝心の悠介は、即座に斬左を構えなおし、今度は上段から一気に振り下ろす。

瞬間、何時の間にか間合いを詰めてきていた百代の拳と再び斬左がぶつかり合う。二度目となる轟音に観客たちは、耳を塞ぐ。

二度目の激突は弾かれることなく、刀同士の鍔迫り合いのように拮抗する。ギチギチと互いの力が、相手を押しつぶさんとする。

 

「「—————っ」」

 

『両者、無言の鍔迫り合い!!この勝負を制するのは、果たして―――』

 

大佐の言葉が、観客たちをより深く勝負へと集中させる。そのさなか、ふいっと悠介が斬左を引き戻す。

 

――――勝負!!

 

突然の事に僅かに体勢を崩す百代だが、それでは決定的な隙にはならず。即座に体勢を戻し、悠介へと迫る。が、たどり着くよりも早く、再び斬左が迫る。

再び、激突かと思われたが…

 

「無双正拳突き――――!!」

 

「チィイ!!」

 

アッパーの形で放たれた強力無比な百代の一撃に斬左は、拮抗することなく弾かれる。そしてその重量故に重さに()られる形で、悠介の重心が浮き、足が浮いてしまう。

 

――――クッソ!!

 

分かっていてもどうしようもできない隙。そしてそれを見逃すような、甘い敵ではない。

 

「隙あり――――!!」

 

「ガアァ!!」

 

直後、隙だらけな腰付近にとてつもない衝撃。堪える事も出来ず、悠介は吹き飛ばされる。

 

――――手放すな…

 

痛みで全身から力が抜けそうになるが、無理やり意識を保ち決して斬左を手放さない。闘技場の床に叩きつけられながらも、即座に斬左を使い立ち上がる。

 

「ハァ…ハァ…クソ、そう上手くはいかねぇか…ハァ」

 

「威力はなかなかだが、その分だいぶ速度が落ちるからな。斬左(それ)を使ったのは、失敗(・・)じゃないか」

 

先ほどの乱打戦を思い出したのだろう。百代が不満げに言うが…

 

うるせぇ!!失敗かどうかは、俺が決める!!その言葉、今に後悔させてやるよ」

 

それは百代にとっての慈悲。己の認めた武術家と最も理想的な勝負がしたいという欲望。それは武神(ちょうてん)に立つが故の驕りにして悠介に望む優しさにして願望。

斬左を握った悠介(おまえ)よりも拳を握った悠介(おまえ)の方が強い。先ほどよりも言葉が飛び交うのもそれが理由だろう。

だが、悠介はその優しさを捨てる。戦っている相手に慈悲を見せるな!お前の想像を俺は超えてやる!俺が望むのはそこではない!と悠介は吠え、斬左を構える。

その宣言は、百代が今まで聞いてきた自分の実力を顧みない未熟者のそれと同義に取られてもおかしくはない。しかし自分を見つめる瞳が、それは違うと断言させる。

だからこそ…

 

「面白い!その言葉が真実になるかどうか、試させてもらうぞ!!悠介!!」

 

「いわれる迄もねぇ!!!」

 

期待を込め百代は、再び悠介へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

振る。ただ振る。至れるわけではない、それでもただ振る。直向きに、愚直に、振る。その一振りが、己の血肉になると信じて振る。

 

「ふぅ―――。あと、100っ!!」

 

斬左を頂き三年弱。巨刀である斬馬刀を漸く体を流されることなく振ることが出来るようになってこれた。

自分が定めたノルマをこなし、膨大な重量を誇る斬左を地面に突き刺す。

 

「これなら、漸く試せる(・・・)な……やるか」

 

汗をタオルで流し、大きく息を吐き、神経を集中した状態で、斬左を握り巨大な岩の前に立つ。

 

「これが出来たなら、身体操作の修行は一先ず完成だな(・・・・)

 

修行の集大成。その意味を込めて、悠介は思いっきり斬左を振りかぶり…

 

「オラァッ!!」

 

その一振りは放たれた。

 

そして悠介がその場を後にした、物陰から一人の女性が現れる。

 

「うわぁ―――まさかここ迄とはねぇ…相も変わらず、凄まじい子ね」

 

物陰から現れたのは松永ミサゴは、その痕跡(・・・・)を前に驚嘆の声を上げる。彼の母親である美咲に頼まれ、彼が無茶をしない様にと見守っていたが、これは想定外だとしか言えない。

 

「ただ努力だけで、此処まであの武器の性能を引き出すなんてね……これは燕ちゃんが言ってたように、私自身あの子の事をまだ甘く見てたのかしら」

 

その努力を知っている。そしてその困難な道のりも、知っているつもりだったし、何よりも彼にはその才が資格が無いことも見抜いていたつもりだ。

だからこそ、その時の自分に言ってやりたいとすら思う。これを想像できたかと…

 

「これは正しく必殺と名付けるに相応しいわ。足りない物を武器というファクターで補い、超人たちへと牙をむく。君が擁する?もう一つの必殺技ね」

 

まあ彼にとっては、これもあくまであの技へ至るための研鑽の一つなのだろう。そして彼は、その為ならば何度でも無茶をする。そんな確信を抱きながら、ミサゴは青い蒼天の空を見上げる。

 

「執念……その信念(やぼう)を欲するほどの執念をあの子が得てしまった事は、果たして幸運なのかしらね…」

 

何処か表情に影を持ちながら発せられた言葉は、その場に消えていった。しばしその場に立ち止まっていたミサゴも、その場を後にする。

後に残ったのは、文字通り両断され、その膨大な破壊痕が刻まれた大岩だけだった。

 

そして悠介の成果は燕にも伝わり、普通の一撃と区別する意味と悠介の研鑽を証明する証として、その一振りには燕より技名が付けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

加速し迫る百代を前に、悠介は一度「ふぅ―――」と深く息を吐き、斬左を思いっきり振り下ろす。

 

「オラァ!!」

 

「はアッ!!」

 

ドン!と轟音が響く。再び鍔迫り合いになるかと思われたが、

 

「遅いっ!!」

 

「ぐぅ――――っ!!」

 

百代は斬左を弾くと同時に、低空にて加速し一気に間合いを詰め、悠介に拳を叩き込む。百代の拳を受けた悠介の重心がぶれ、体勢が崩れかける。が…

 

「な、めんなぁっ!!」

 

ゴウ!身体操作で無理やり体勢を整え、斬左を振るう。防御よりも攻撃の選択に、百代は一瞬虚を突かれるが、すぐに歓喜の表情を見せる。

 

「面白い!!」

 

迫る斬左を前に百代は、拳を叩きつける。鈍い音が鳴り響くが、二人の動きは止まらない。百代はあえて体勢を前に崩すことで、悠介との距離を詰めて正拳突きを叩きこむ。対する悠介は、拳を受けながらも無理やり体勢を整え、流れる斬左を引き戻し、百代へと振るう。が、百代は腕を盾にすることで斬左の攻撃を防いでみせ、そのまま拳を悠介に打ち込む。

 

「ぐ―――――っ」――――――迷うな!!止まるなっ!振れ!!斬左(こいつ)をもって、俺に出来るとなんざ、一つしかねぇんだ!!

 

一撃一撃は必殺に等しい百代の拳。如何に異常なタフさを持つ悠介といえど、確実に限界が近づくが、それでも斬左を振るうことをやめない。

 

『なんという激しいぶつかり合い!!剣が拳が互いの間合いで火花を散らす――――!!』

 

「どうした、悠介!!動きが遅くなってきたんじゃないか!!」

 

「はっ!ぬかせや!!」――――モモの奴、迷いなく斬左に自分の拳をぶつけやがって…真剣(マジ)出鱈目過ぎんだろ、瞬間回復!!

 

斬左の重量は桁外れだ。それが重力の落下も加味したうで振るわれれば、並の武器なら砕け散る。ましてや裸拳(らんけん)で対抗しようものなら、問答無用に拳が砕かれるはず。まして内気功で強化しようが、拳に痺れなどの異変が起きてもかしくない。

しかし百代は、瞬間回復を使うことでその異変を無にしている。

改めて目の前の武神(デタラメ)な存在の恐ろしさを否応なしに再確認してしまう。

 

――――だがまあ、目的の一つ(・・・・・)は達している……保てよ、俺の体。頼むから……黛の時のような不甲斐なさは、見せてくれるなよ!!「おぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

気迫の一閃一閃が放たれる。その一閃一閃を受け止めながら、百代は狂喜に似た声をこぼす。

 

――――ああ、そうだ!!これがお前だ、悠介!!

 

昔からそうだ。悠介の拳は一撃は、自分の中のナニカを大きく震わせる。それをこれ程受けれるなど、本当に最高だと思う。

だからこそ、スロースターターである自分のギアがより早く上がっていく。

 

「はあっ!!」

 

――――やっぱ、まだ上がるか…

 

明らかに手数とキレの増加。打ち込まれる数が増え、振り切れる数が少なくなってきている。このまま押しこまれる…否

 

――――数が少ねぇなら、その数本に魂込めろ!!

 

「むっ」

 

そして一振り一振りに込められるものが、ほんの僅かに百代の猛攻を上回る。その気後れを本能的に察知した百代は、仕切り直しと間合いを開く。

 

「見事だ、悠介」

 

「まだ上からかよ…」

 

「こんな美少女が本心から褒めてるんだ。少しは嬉しそうにしてもいいんじゃないか」

 

「ほざけ、戦いに女も男もねぇだろ。いるのは、武人だけだ」

 

「そうだな。だがな、悠介。私は、この攻防が――――」

 

「ッ―――――――!!」

 

「飽きたぞ!!」

 

刹那の瞬きの間に間合いを詰め、百代の拳が斬左を持つ悠介の腕に直撃する。その威力に悠介の右腕は斬左から離れる。

 

「まずっ!!」

 

体勢が崩れた上に片腕では重量のある斬左は支えられない。だからこそ悠介は腰を曲げ、背で斬左を支えるが、それ故に悠介の上半身は隙だからけとなる。

その瞬間を逃さず、百代の連撃が上半身を貫く。

 

「ぐぅ」

 

瞬間、堪えきれず再び斬左を支えていた右腕が弾かれ、斬左が弾かれる。弾かれた斬左へと悠介は腕を伸ばすが…

 

「気を回す余裕があるのか!!」

 

そうはさせないと百代の攻撃が悠介の動きを阻害する。それでも悠介は、背を使い弾かれた斬左を背の上で回すことで落下を防ぐ。

だがそれ故に悠介の体勢は隙だらけ。だからこそ、再び百代が攻撃を打ち込もうとした瞬間、ザッと悠介が低い大勢のまま、数歩下がる。体勢を戻しながら、悠介は回転している斬左を、両腕を使って更に回転させる。

 

「待ってたぜっ!モモォ!!お前が痺れを切らしくれるこの瞬間をよぉ!!」

 

「なに?…っ!!」

 

その言葉に疑問を一瞬持つが、その言葉の意味を即座に理解する。ゴウゴウと旋風を起こしながら回転する斬左。

その意味を理解し、即座に攻撃に移行しようとするが…

 

「おせぇ!!」

 

ザザザと足を地面に滑らせた悠介の攻撃の方が速い。

 

――――嵌められた!!

 

あの行動を何気なく仕掛けられれば、何かあると警戒したかもしれないが、自分の攻撃の中で否応なしの状況での対応策だと思い、見落としていた。

あの動きは斬左を手放さないようにする苦肉の策ではなく、攻撃のための溜め。それに気が付いたときは、明らかに遅い。

 

斬馬刀(ざんばとう)斬左(ざんさ)。文字通り桁外れの重量を誇る巨刀であり、悠介は今まで斬左を、本当の意味で振ってはいない。斬左の重さに遠心力。それだけで、斬左の威力は桁外れだ。裏を返せば、斬左の重さに振り回されない様に振れたなら、それだけでもはや強力の一言。

だがもし、その一振りに自身の筋力を、回転による遠心力をプラスしたら?もしもその勢いに流されない身体操作を会得したならば?

紛れもなくその一振りは、破格の一言なり。

その一振りに冠せられし技の名は―――――

 

「喰らえ!!」

 

―――――暴馬(ぼうう)惡威一文字(あくいいちもんじ)




止めたい。でも私には、そんな権利も力もない。
だから、悠介。どうか、勝ってくれ。―――――橘天衣


――――次回【活路の死地】

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