真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~   作:スペル

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前回以上に少し恋愛描写に力を入れて見ました。
大きな目的も達したので、今後は今までばらまいてきた恋愛描写も力を入れていこうかなと思います

第一弾はこの方ですと言うわけで、読んで頂ければと思います。



悠介とお願い

悠介は朝の騒動の後、無事に川神学園に辿り着いた。昨日の今日という事もあり、時の人といえる悠介に多くの生徒と教師が感心と興味を向けており、今まで向けられてこなかった感情を向けられた悠介はどうすれば良いのか分からずじまいで、正に針の(むしろ)状態だった。

居心地の悪さを感じ昼休みになると悠介は、その視線から逃げるように教室を後にしていた。

 

「というわけだ」

 

「ははっ。

有名人は辛いね~~」

 

「好き好んで有名になった訳じゃねぇよ。

ったく、俺に何をしろってんだ」

 

「いやいや。あの百代先輩を倒しておいてそれは些か無責任なんじゃない?」

 

「……」

 

「アハハハ。図星だ」

 

昼休み。だらけ部へと避難した悠介だったが、先客に弁慶がいた。そこまでは良い。問題は、珍しい慌て方をしていた悠介に興味を持った弁慶が、その理由を尋ねた。

精神的に少し参っていた悠介は、口にだして発散するつもりで弁慶に相談という形で話したのだ。

悠介の話を聞いた弁慶は川神水を飲みながら、何処か呆れたように指摘する。指摘された悠介も百代のネームバリューを知っているが為に反論は出来ない。

その為、悠介に出来るのは弁慶から視線を逸らすという如何にも子どもっぽい手段だった。

そんな子どもっぽい反応を見せる悠介を川神水(さけ)の肴にしながらも、弁慶の内心は全く違っていた。

 

――――本当にあのモモ先輩に勝つんだからね。凄いなんてものじゃ無いんだけど。

まあ、今の姿からじゃ想像も出来ないね。

 

普段から目つきの悪さと獰猛な笑みを浮かべることが多い事から、猛獣のイメージを抱きやすい悠介。

だが今、自分の目の前にいるのは、そんな獰猛さともギラギラとした瞳とは無縁な年相応などこ何処にでもいるふて腐れた少年の表情だ。

恐らく滅多に見る事の出来ない表情。それを今、自分だけが見て独占していると思うと胸の奥から優越感が湧き上がってくる。

 

――――あ~。でも、少なくとも燕先輩と…後はモモ先輩にあの天衣って人は見てる可能性はあるよね。

う~~~ん、これは本格的に困ったぞ

 

優越感に浸りながらも、弁慶の冷静な部分がこの表情が自分だけのモノでないと考えてしまう。

それに対して普段ならば何も感じないはずなのに、弁慶の胸の内から顔を出すのは、苦みの塊を噛みつぶしたかのような不快感。

その不快感が何を示すのか、タッグマッチでの勝負の中で気がついてたその感情が原因である事は疑いようが無い。

 

――――普段の私なら、面倒ごとはめんどくさがってぬるっと逃げるのにな~~~。まさかこの私が絶対に手に入れたいって思うなんてね

 

自他ともにものぐさを自覚する自分が、諦らめたくないと思うなんて天地がひっくり返ってもあり得ないと思っていた。

だが、その感情を自覚してからは大変だ。今朝もそうだ。面倒くさいから悠介を隠れ蓑にした。そう思われても仕方ないが、本心は違う。少しだけ期待していたのだ。

そしてそれは大成功だった。護られる立場とその対象から向けられる言葉。その言葉と行動に、一喜一憂してしまう。それは最早止めることの出来ない波だった。

今なら、女の子が護られる立場のお姫様に憧れるのも理解できる。当事者となって胸の内から湧き上がる幸福感。あれは、紛れもなく恋する理想そのものだ。

 

――――主以外では、楽な方に出来るだけ面倒くさくない方に流れるタイプだと思ったんだけどな…

 

スゥーと川神水を含みながら、悠介の横顔を見つめる。不思議なことにその顔を見ているだけで、肴はいらずに何処までも呑んでいられるそんな感覚さえ湧き出てしまう。

 

――――ヤバっ。私ってこんな女だっけ

 

乙女として満足する自分とそれを冷静に俯瞰して若干ひいている自分が交互に顔を出す。それは自分でもまだその感情に振り回されている証拠だ。

 

「おい。さっきから見つめてなんか言いたい事でもあんのか?」

 

「…いや~~、悠介が見えるな~と思って」

 

「だいぶ回ってやがるな」

 

呆れた表情を見せる悠介の言葉に弁慶はヘラヘラと笑う。しかし、その内心では不満が湧き上がってきた。

 

――――はぁ。私が見つめてるんだからさ、少しは意識してくれても良いじゃん

 

それは恋する乙女の不満か。弁慶自身、自慢では無いが自分の顔が整っている自覚もあれば、自分の体つきが男受けする事も自覚している。

それなのに目の前の男は。

 

――――これは自信無くすな~

 

なまじ他の男達にチヤホヤとされているからこそ余計にそう思ってしまう。ならばどうすれば良いのか、それは簡単だ。少しだけ歩を進めれば良い。

悠介が見せてくれるなら、自分も他の男に見せない顔を見せれば良い。

ギュッと弁慶は悠介の左腕に抱きつくと。

 

「おい。急に何すんだ」

 

柔らかく温かな二つの大きな塊が両側から左腕を挟む感覚が伝わる。並みの男ならば興奮から鼻の下を伸ばし、赤い水を鼻から垂らすだろう。しかし悠介は何の反応を見せる事なく非難の目線を向けるが弁慶はその程度では動じない。

 

「ねえ。ちょっとだけ、頭を撫でてくれない?」

 

「はあ?なんで俺がそんなことしなくちゃいけねぇんだよ」

 

「良いじゃん。私も悠介の愚痴聞いてあげたんだからさ。

そのお礼と思って」

 

「いや。お前が無理矢理喋らせ…いやもういい」

 

「ほらほら!!」

 

諦めた様に呟いた悠介の言葉。それだけで嬉しく感じてしまうなんて安い女だなと自分を笑いながらも嬉しくて顔を綻ばせる。

 

「んっ」

 

のせられた悠介の手は、その見た目とは裏腹に優しく弁慶の頭を撫でる。想像しているよりも優しい手つきに弁慶は気持ちよさそうに目を細める。

弁慶の反応に、悠介は何処となく毒気を抜かれ手櫛の要領で髪を流しながら頭から頬へ手を流していく。

 

――――なんか、デカイ猫を飼ってる気分になるな

 

「悠介って撫でるの上手いね」

 

「あ?

急にどうした」

 

「ほら。

私って癖っ毛じゃん。櫛とかしても引っかかるからあんまり好きじゃないんだよね」

 

スゥーと淀みなく髪をすきながら、頭と頬を撫でられる。心地よさにますますの心のバリケードが持ち上がり、仲間内にしか話さない話題も口に出す。

弁慶の言葉を聞いた悠介は心底驚いたという表情を見せる。

 

「そうなのか。

もったいねぇな。折角、綺麗な髪なのに」

 

「―――本当にそう思う?」

 

「コンプレックスなんだろ?

そう思ってる奴に対して薄い言葉(・・・・)を吐くつもりはねぇ。

本心だよ」

 

「そっか。ありがとう」

 

「感謝されるような事は言ってねぇ」

 

「それでもだよ」

 

「聞こえねぇ」

 

照れたように顔を逸らす悠介の反応が面白く弁慶は笑みを浮かべる。流れる時間がゆっくりで温かい。弁慶は、悠介の持つこの二面性が改めて好きなのだと実感する。

そんな時間は突如として終わりを告げる。バタバタとこちら側に向かってくる足音が一つ。

気がついた悠介はその足音で誰かを察して手を止める。突如として心地よい動作が止まった弁慶は不満げに悠介に視線を向けようとした瞬間

 

「与一!

此処にいるのか??」

 

バタンと扉が開かれ、義経が姿を見せる。足音で誰か察していた悠介は、ようと軽く手を上げる。弁慶は主が来るまで気がつかないほど夢中になっていたことに改めて気づかされ赤面する。

 

「悠介君に弁慶!!

休憩にして所すまない。

与一を見なかっただろうか?」

 

「いや。見てねぇな。

なんかあったのか?」

 

「今日こそ与一に義経達の役目である仕合に取り組んで欲しいと頼もうとしたら――――」

 

「逃げられたと」

 

「うん」

 

「あいつ、また主を悲しませて!!」

 

全身から悲しいと表現している義経の言葉に悠介はあ~と遠くを見て、弁慶は全く懲りないバカ中二病に怒りを覚える。

 

「まあ、俺も見かけたら一声かけとくわ。

お前も無理はすんなよ」

 

「ありがとう!!

だが、義経は英雄だ!!皆の模範ならないと!!

何より、悠介君と百代先輩の決闘は凄かった!!

義経も英雄の一人として負けられない!!」

 

「主は真面目だね。

少しは肩の力を抜いた方が良いよ」

 

「弁慶!!

お前ももう少しやる気になってくれ!!

後、悠介君に迷惑をかけては駄目だぞ」

 

「は~い。

私は私のペースでやらせて貰います」

 

「弁慶!!」

 

このままではまた義経が泣かされる。そう感じた悠介が流れを断つように義経に「時間は大丈夫か」と声を掛ける。

悠介の言葉を聞いた義経は時計を見て時間が差し迫っていることを察して慌てて部屋を後にする。

義経が慌ただしく去った後、弁慶は怒りを忘れるように川神水を飲む。

 

「まったく、与一は。

主を困らせるとは。今度、源氏式コブラツイストの刑にして、身の程を分からせてやる」

 

「義経を困らせているって点じゃお前も言えるとこ少ないだろ」

 

「いやいや~。私は主従愛があるから。与一の我が儘とは違う違う」

 

「そうかよ」

 

弁慶の言い分に悠介は何度目か分からない呆れた表情を見せる。そんな悠介の姿に弁慶はふいっと杯を手渡す。

 

「まあまあ。こういうときはぱーっと一杯行こう!」

 

「…まあ、一理あるか」

 

考える事を放棄するように弁慶から杯を受け取り一気に川神水を飲み干す。悠介の飲み方に気をよくした弁慶が悠介に寄りかかりながら酌を行う。そして今度は役割を交換し、互いに杯に川神水を注ぎ飲み合う。

川神水を飲んでいる最中、ふと悠介が口を開いた。

 

「なあ、気になってはいたんだが。与一の奴って何であんなにすれてんだ?」

 

「あ。やっぱり気になる?」

 

「まあな。与一の奴は、口じゃ何だかんだと言ってるが、義経を護るって行動は真面目だった。イヤイヤだったら、彼処まで自然には動けねぇよ。

だから気になってな」

 

思い出すのは初めて会った時のこと。あの時、与一は確かに義経と自分の前に壁になる様に立ち、警戒の目線を向けていた。

言葉とは裏腹な動作に驚いた記憶がある。だからこそ、気になる。

 

「少なくとも、義経も弁慶(おまえ)も、清楚先輩もそうなってない。

環境が性格を作る要因の一つと考えられているが、他のメンツを見てると環境が原因とは思えない。

何かあったんだな。与一の奴がああなった事件か何かが」

 

確信を得ている声音に弁慶は流石だと内心呟く。そしてしばしの思考。それは酔った中で生まれた迷案かもしれない。

しかし、あの苛烈に映り込んだ生き様をした彼ならばもしかしたら、与一を変えてくれるかも知れない。そんな予感と共に口を開いた。

 

「私も詳しく知ってる訳じゃないけど。

昔―――――――」

 

そうして語らえる那須与一の過去。

全てを聞き終えた悠介は静かに「成る程」と呟いた。小さな事だが、幼い子どもの時に言われた言葉は一種の呪いだ。

そうなっても不思議じゃ無い。寧ろ、あの程度で済んでいるのだ。性根の真面目さが見て取れると思う。

 

「ねぇ。悠介。

私からお願いがあるんだけど」

 

「いいぜ」

 

弁慶がいい終わる前に悠介は了承する。

想定外の言葉に弁慶はビックリした表情を向ける。弁慶の表情を見た悠介は、真っ直ぐとした目で彼女を見つめ返す。

 

「心配すんな。

あいつの気持ち(・・・・・・)は分かるからな、くすぶってんなら引っ張り上げてやる」

 

「頼りにしてるよ」

 

悠介の言葉に疑問を抱きながらも弁慶はもしかしたらを感じ期待の言葉を述べた。

 

 

―――――全く師範代達もいつまで時間の無駄を過ごすつもりなのか




如何でしたでしょうか?
弁慶の恋している描写を旨く表現できていればいいのですが。

何か気になる点などがあれば気軽にお願いします。

そして、ゲンさんと竜兵に並ぶ悠介の悪友にするつもりの与一がメインです。
どうなるのかお楽しみに!
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