真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
新年一発目です!!
でもおかしいな?描写とかいろいろ切り詰めたはずなのに一万時超えたぞ…なぜ??
長いですが、お付き合いをお願いします。
その日、与一は精神的に疲労した状態で義経から逃げ隠れるように九鬼へと戻ってきていた。
「たっく、義経の奴。
何が英雄として指針を示すだ。はっくだらねぇ。
…そんなお上品な優等生は、お前だけで十分だっての」
普段から言われている事だったが、最近は特にしつこい。理由は分かりきっている。あの決闘が原因だ。与一自身あの決闘に心が震えなかったかと言えば嘘だ。あの姿に普段滅多に顔を出さない弓兵としての自分がうずいた。そしてそれは、自分の敗北を思い出させた。
悠介との決闘は、正に技の差し合いだった。得意の技も防がれ、完全に上をいかれての敗北は純粋に悔しかった。得意の狙撃の間合いで無かったという言い訳が出来るが、それを言い訳に使うには与一は燃えすぎた。
以前から与一自身も、悠介の事は目にかけていた。純粋に否退不屈の意志は凄いと純粋に尊敬するし、何だかんだと他とは違う形で義経のことも気にかけてくれた。
何より、あの恐怖の象徴とも言える弁慶が、悠介と関わった後だと少し大人しいのだ。あの暴君と一緒にいても普段通りの彼を与一は心から尊敬していた。
その悠介と武神との決闘が真面目な義経の心を業火の如く燃やしたのは簡単に想像が付く。彼に負けないようにと、自分の力を頼ってくれるのはシンプルに自分の力を認めてくれているようで嬉しいが…。
だが、自分には
だって―――――自分は義経のように有名じゃ無いんだから
「よう。
ちょっと付き合ってくれよ」
「ッ!??
お前は―――」
考えの海に沈んでいた与一は、ここまで自分が気配に気取れなかった事に驚きを見せるが、相手を見て同時に納得もした。
与一の目の前には、先程まで考えていた悠介本人が立っている。
「何のようだ?」
警戒する様な与一の言葉に、悠介はしばし考える素振りを見せる。そんな悠介の反応に疑問を持った与一だが、次の悠介の言葉に今度こそ度肝を抜かれることになる。
「あ~~。
駄目だな。上手く理由を言葉に出来ねぇし、単刀直入に言うぜ。
俺と喧嘩しようぜ、与一」
「はぁ!!??
何を言ってやがる、お前!!
あの武神に勝ったお前と勝負するわけ無いだろう!!」
想像の斜め上を行く悠介の提案に与一は冷や汗を流しながら全力で拒否する。そんな与一の反応を見た悠介は、苦笑いを浮かべる。
「ちげぇよ。勝負じゃ無くて、
「あ?
意味は同じだろうが。
何を言ってやがる!!」
悠介の言葉の意味が分からずに益々混乱する与一。対して悠介もどう説明をしたものかと頭を悩ませる。
困惑の沈黙が場を包み最中、沈黙を破ったのは悠介でも与一でも無い第三者の登場だった。
「あっ!
見つけたぞ、与一って―――悠介君?」
「よう。さっきぶりだな、義経」
「チィ。追いつかれたか」
学校から与一を探していた義経が二人のもとに駆け寄ってくる。近寄ってくる義経に悠介は普段と変わらない挨拶を、逆に与一は面倒さそうな表情を見せる。
義経は臣下である与一の反応にガーンと気落ちするが、すぐにどうして悠介と与一が一緒にいるのか疑問を口にする。
与一はこのままでは100%面倒ごとに巻き込まれると判断して、その場から逃走しようとするが…
「与一何、逃げようとしているのかな?」
「ゲェエ!あ、姉御!!」
音もなく近づいてきていた弁慶にあっけなく退路を断たれる。肩にに乗せられた手からミシミシと力が加わっており、【絶対に逃げるなよ】という意思が伝わってくる。
その痛みから涙目になる与一だが、俄然に目をキラキラと輝かせた義経が迫ってくるのを見て厄介ごとがもうすぐそこまで迫っていることを察した。
「与一、義経は感動したぞ!!
まさか与一が、悠介君と決闘するとは!!」
「はぁ!?
おいまて、義経!!」
「本音を言えば、義経が最初に戦ってみたかったのだが―――」
「馬鹿野郎!!
人の話を―――あぎゃ!!」
「与一、主の言葉を遮るとはいい度胸だね」
「だが、せっかく与一がやる気になったのだ!!
義経はうれしく思う!!
悠介君は強敵だが、与一ならきっと勝てると義経は信じているぞ!!」
「勝手なことを、痛デデ!!姉御、ギブ!ギブアップ!!」
「与一!!主がここまで応援してるんだ。無様な姿をさらしたらどうなるかわかっているね」
こうして自分の意思とは無関係に与一は悠介と
◆◇◆◇
悠介と与一の
場所を変えると言った悠介についていく形で四人が向かった先は、親不孝通りにある青空闘技場。
かつて、親不孝通りで行われていた力を持て余した不良たちの闘技場。武士道プランの施行とともに九鬼家によって封鎖された悪ガキたちにたまり場だった。
「悠介君?
どうしてこんなところで決闘をやるんだ?」
「まあ、決闘というかただのケンカだからな。
ギャラリーはいないほうがいい。
それにケンカはこういう場所でやるほうが
悠介の言葉を聞いた義経は意味が分からずに頭に?を浮かべる。そんな義経の反応に悠介は義経にはまだ早かったかと思いながらも、見ていればわかると告げて、闘技場に立つ。
そして挑発するように指をクイクイと上下させ、与一を呼ぶ。
挑発を受けた与一は武器を持って闘技場に上がろうとするが…
「
「はぁ!?
お前と武器なしでやれってか!!
ふざけんじゃねえぞ!!」
「悠介君。
流石に義経もそう思う」
悠介の爆弾発言に与一は悲鳴を上げ、義経もそれはあまりにもといった表情を見せる。ただ一人、今回の騒動の真意を知る弁慶だけが無言を貫いている。
「最初に言ったろ?
これは決闘じゃなくて、ただのケンカだ。
ケンカは素手ごろでやるから意味があるんだよ」
だから早く来いそう告げる悠介に与一は意味が分からねぇと困惑した表情で悠介を見つめている。
「心配すんな。
ハンデはやる。
俺はお前の拳を絶対に受け止めるし、膝をついたら俺の負けでいい」
与一の表情を見た悠介はまあそうなるよなと苦笑いしながら、このケンカにおける与一の勝利条件と自らの枷を告げる。
その破格の条件に与一と義経はそれはさすがに舐め過ぎだと思う。
特に渦中の人物でもある与一には明確な怒りが現れる。
「いい加減にしろよ。
何が目的だ」
「…お前と
これでも不満があるなら、まだハンデをつけるが?」
「悠介君!!」
あまりにも下に見た発言にさすがの義経も怒りを覚えるが、それよりも早く義経に弓を押しけた与一が闘技場に上がる。
「後悔するなよ!!」
「させてみろ」
怒りに顔をゆがませた与一の挑発を悠介は受け流す。そして成り行きを見守っていた弁慶に声をかける。
「弁慶。
合図を頼む」
「…ゴク。了解。
二人とも準備はいいね」
「当然」
「おう!」
「それじゃあ――――はじめッ!!」
弁慶の合図とともに悠介と与一のケンカが始まった。
◆◇◆◇
実力から見ても与一は自分が悠介に勝てるなどと驕るつもりはもうとうない。何なら今からでも逃げ出したい。だが、そんな自分にも武術を学ぶものとしての矜持はある。
だから、悠介の見え透いた挑発に我慢ならなかった。
何よりも――――
――――
悠介の言葉に自分以上に怒った表情を見せた何処までも真っすぐな主の姿。どんな理由があろうとも彼女にそんな顔をさせていいわけがない。
だって、義経は自分とは
「おらっ!!」
あふれんばかりの怒りを込めた拳が悠介の顔面にせまる。確かな威力を秘めた拳を前に悠介は微動だにせず、顔面で受け止めた。
自分の言葉を有言実行した形であるが、あくまでも挑発だと考えていた与一は文字通り受けるとは考えてはおらず、唖然として拳を振りぬいた形で制止する。
それは義経も弁慶も同じだったようで驚いた表情をしている。弁慶に至っては「痛そう」とつぶやいた。
静寂は一瞬。ケンカはすぐに動き出す。
「終わりか?」
「ッ!!
まだだ!!」
与一の拳で鼻の血管が切れたのか、鼻血を流しながらも真っすぐと与一を見つめる悠介。
真っすぐに自分を見据える瞳に与一は吠える。
「そうじゃなくちゃなあ!!」
「うぐっ!!」
与一の血気盛んな言葉とともに繰り出される拳を再び顔面で受け止めた悠介は返す刀でコンパクトな振りとともに拳を打ち込む。
重さはなくとも鋭い一撃は、その一撃だけで与一は呼吸が止まり痛みで放とうとした手が止まる。
「どうした!!
こんなもんか!!?」
「舐めるな!!」
煽るような悠介のセリフ。負けん気が顔を出す。そうだ、ここで終わるのは余りにも無残すぎる。
そんな姿を――――
――――見せるわけにはいかねぇだろがっ!!「おらぁ!!」
「ハハッ!!」
血気盛んに自分を睨みつけながら、顔面に拳をぶつけてくる与一の姿に悠介もまた笑みを深くする。
その笑みは闘争からくる笑み、そして
◆◇◆◇
悠介と与一の
「おらぁ!!」
「ハハハッ!!
そうだ、もっとこいや!!」
「その上から目線をやめやがれ!!」
「黙らせてみやがれ!!」
与一の拳は何度も悠介の顔面を貫き、返す刀で振るわれる拳に膝をつきそうになるが、悠介の瞳が何より背後から感じる視線が、与一の気力を奮い立たせる。
対する悠介は数えきれないほどの与一の拳を顔面に受け続け、その顔は大きく腫れあがり、鼻血もたれている。
外から見れば、与一が押しているように見えるだろう。しかし実際は全くの逆。手数は確実に与一が多い、それも人体の鍛えることのできない箇所である顔面にだけ受けているのだ。
いかにタフな存在といえど、膝をつくどころか倒れこんでもおかしくないのだが、悠介の体幹はブレることない。
「弁慶…与一は大丈夫だろうか」
状況を正しく理解しているからこその義経の言葉。対する弁慶も川神水を口に含みながら自分の考えを告げる。
「う~ん。どうだろうね。
与一があれだけ攻撃を受けても倒れてないところを見ると、悠介はしっかり手加減してくれてるみたいだし。
それにさっきから悠介は
押してるのは悠介だけど、案外いい勝負にしてる気もするしね」
「やはり、相良君はわざと」
「十中八九ね。
顔面で攻撃を受け続けるなんて意図がないとしないでしょ。
弓兵の与一に、顔面だけを狙う技術があるわけがないし、そんな隙を悠介がそのままにするなんてありえない」
「だとしたらどうして?
挑発もそうだが、今日の相楽君は何か変だ」
「う~~~ん」
義経の疑問に弁慶は川神水を飲むことで口を濁す。悠介に任せた身としては、それを素直にしゃべるのははばかられるし、何より弁慶自身が悠介の意図を理解できずにいる。
――――ホント、何をしようとしているのか
弁慶もまた悠介の思惑を読み取ろうと思考を働かせるそんな時、ついに悠介の思惑が最後の段階に至った。
◆◇◆◇
「なあ、おい!!」
「あ”?」
殴り合いのさなか、悠介が声を上げた。普通なら無視しても構わないはずなのに、与一はその声にこたえてしまう。
「お前はいつまで
「わけのわからんことを!!」
「弁慶から聞いたぜ。
なんでお前が
「ッ――――!!」
それはえぐられたくない過去。いまだに折り合いをつけることも、吹き飛ばすこともできていない那須与一の
「ふざけた話だなよな!!
勝手に生み出しておいて、
「黙れ――――」
普段ならば仮面をかぶり取り繕うことが出来たかもしれない。しかし、ケンカの最中、燃えあがる闘志が取り繕うことを許さない。
「お前に!!――――俺の何がわかる!!
ああ、そうだ!!俺は誰かに産んでくれと頼んだわけでもない!!
あいつらが勝手に生み出しておきながら、何がもっと他に候補があっただろうだ!!」
それはまだ与一が小学校の頃の話。一人、九鬼家の施設を歩いていた時に偶然聞こえてしまった無自覚の悪意。
――――それにしても、なぜ
――――全くだ。あんな無名な武将よりも、もっといい候補があっただろうに
その言葉はいまだに精神が不安定な子供の時期。ましてや、英雄という存在と与えられた役割の重さにもがく子供にとっては呪いに等しかった。
自分は望まれていない。それは、子供にとって最も受け入れがたい事実だ。ましてや、那須与一は、クローンであり、表立って祝福を受けない命なのだから。
だからグレた。現実から目を背け、逃げるように。
当然、突然与一がそうなれば、原因を追究するのは自然のこと。該当する研究者たちは粛清されることとなったが、そんなことは与一にとってはどうでもいい話だった。
勿論、多くの人たちが与一を支えた。義経、弁慶、清楚、そして
しかし――――
「消えないんだよ!!
どれだけ、言葉をかけられようが!!
あの日の言葉が俺の足を引きずる!!!
ああ、そうだ!!俺は――――義経や姉御とは違う!!
英雄なんて大層な肩書なんて似合わない!!あの二人のようにはなれない!!!
自分が望まれないと言われた者の気持ちがお前にわかってたまるか!!」
その傷は癒えることなく与一を苦しめ続けている。
おそらく初めて聞いたであろう与一の叫びに、義経が涙を流しながら違うと叫ぼうとする。しかしそれを同じ気持ちの弁慶が止める。
弁慶の行動に義経が驚きと非難の顔を向けるが、弁慶はただ一人真正面から与一の気持ちを受け止め続けている悠介を見つめている。
ある意味で、与一の心が強く心優しかったからこそこの程度で済んでいるのかもしれない。
吐き出された感情とともに我武者羅に振るわれる拳を悠介はすべてその顔で受け止めていた。
そして与一の言葉が吐き出されたと同時に、静かに拳を握りなおした。
「わかるよ」
今までの挑発するような荒々しい言葉ではない。少なくとも、悠介から発せられたその声音は今までの彼からは想像ができないほどに同情にあふれていた。
「何をいって――――」
「もちろん、完璧には理解はできないけどな。
似たようなことなら、俺も経験がある」
「ハッ!
天下の武神を倒したお前になにが―「俺もさ、川神院で世話になりだした頃はよく言われてたぜ?」――――ッ!?」
「意外か?
別に不思議じゃねぇだろ。
訳合って門下生とは別枠で修業を受けてたからな。
師範代や
まあ、最初からモモみたいに才能があれば、違ったんだろうが。
あいにく俺は、武術の世界に身を置くものなら一目見てわかる凡人だったんでな。
向上心の高い奴らからは、よく早く諦めろみたいな言葉を言われたよ」
その時を思い出したのだろう。そう語る悠介の表情は、今までに見たことがないものだったが、それは与一が自分が、あの時部屋でみた顔と同じだった。
「まあ、お前が抱いたものよりは軽いかもしれねぇが。
少しは理解してやれるつもりだ」
だからと呟き唖然とする与一に、悠介は握った拳を大きく振りぬく。ドゴッ!と大きな破裂音とともに与一の体が沈む。
「
今までに雰囲気を一蹴し、再び荒々しい雰囲気をまとい、今までの鬱憤を晴らすかのように重い一撃を叩き込む。
「ムカつくよな!!
その癖、俺たちと真正面で話すときは気のいい言葉を吐きやがる
俺が何も知らない気が付かないと高をくくってやがる」
言葉を紡ぎながら、当時のことを思い出しているのだろう。悠介の表情が怒り以上に悔しさで歪む。
「わかってるんだよ!!
そんなこと言われなくてもよ!!
俺があの人達の時間を奪ってたことぐらい!!――――それでも、仕方ねぇだろが!!
ああ、分かっていたさ。あの4人が自分には身に余る存在だということも、自分以上の志を持って学んでいる弟子たちが多くいることも。
川神流を学ぶでもなく、武術に感銘を受けたわけでもない、ただ夢に見た技を覚えたいだけの子どもなんて、真摯に武術に取り組む彼らからすれば、自分のことを疎ましく思うのは当然であり、間違いなどあるわけがない。
ましてや自分に才能がなくて諦めるしかなかったことも。
それでも、自分はあきらめきれなかった。4人は手を離さないでいてくれた。
だから――――
「外野の声なんざ知らねぇよ!!!
俺は俺だ!!!」
泥臭く、みっともなく、その手に縋りつくことを決めたのだ。
初めてこぼした悠介の負の側面といえる経験に義経や弁慶も驚きを隠せない。彼女たちが抱く相楽悠介のイメージはそういったものをものともせずに進んでいくものだった。
しかし実際は相楽悠介はそれを抱え込みながら、それでも藻掻いていた。
その精神の在り方に義経は感動を、弁慶は流石だとこぼした。彼女の顔がわずかに朱色に染まっているのは
そして最後の一人は――――
「うるせえ!」
「てぇ(ニヤリ」
関係ないとばかりにカウンターを悠介に叩き込んだ。
「さっきからボコスカボコスカ殴りやがって!
その癖なんだ、お前の身の上話なんて興味ねえよ!!」
「うんだよ。
こっちが勝手に知っちまったから、詫びの意味を込めて話したんだが!」
「うんなこと頼んでねえよ!!
そもそも、何がわかるだ!!
お前の考えは的外れなんだよ!!」
「ッ!!
そりゃあ、悪かったな!!
だが、外野にムカついたのは事実だろ」
「ああ、そうだよ!!
ムカついたよ!!
なんであいつらなんかに、あんなこと言われないといけないんだ!!
俺が何かしたか!!
違う!!
俺はただ生きていただけだ!!
それなのに――――ッ!!」
「絶対!!若干かすってるだろ!!
格好をつけてんじゃねぇぞ!!
つか、テメェも自分語りしてんじゃねぇよ!!」
「うるせぇ!!
お前もしゃべったんだから、俺にしゃべる権利あるだろ!!」
「わがままだなぁ、おい!!」
そこから繰り広げらえるのは、互いに不満をぶちまける小学生のようなケンカが始まる。
「そもそもあいつらは何様のつもりだ!!
お前らにとやかく言われたくねえんだよ!!」
「同感!!」
時に意見が合い。
「――――俺の気持ちなんてわかるか!!」
「そんなもん知るかぁ!!」
時に意見をぶつけ合い。二人の
それは外から見ていた二人からも見て取れた。
「弁慶。相楽君と与一なんだが、すごく楽しそうに見える」
「そうだね。
主。私にもそう思えるよ」
次々にこぼれる与一の本音に思うことがる。力になれなったことは悲しく、自分を頼ってくれなかったことは、自身の主としての力不足をより痛感する。
だが同時に、今悠介と拳をぶつけあう姿を見れば、確実に与一の中の何かが救われていると理解できた。
「弁慶」
「どうしたの?」
「相楽君はすごいな」
「―――うん。そうだね」
義経の様々な思いがこもって口に出された言葉に弁慶も深く同意する。それと同時に改めて弁慶自身も悠介のすごさを実感した。
◆◇◆◇
一撃を食らうたびに苦痛で膝を折りたくなる。しかし、その拳とともに放たれる
その拳にこたえるように拳を放つとき、無意識のうちに腹の内側に溜まっていたものが口に出る。
客観的な自分が、こんなものは自分らしくないと告げてくるが、今はそんなものはどうでもいい。
ずっと秘めてきた劣等感、必要がないと望まれないと感じた失望感。それらすべてが内側から消えていく感覚が心地いい。
殴られるたびに体を走る衝撃が、自分の中にあるそれらを全てを崩していくような感覚。なぜ、今までこんな小さなことで悩んでいたのかと疑問に思ってしまうほどの衝撃。
――――いや、考えるだけ時間の無駄だ。
「ギブアップか!!
なら、俺の勝ちだ!!」
「ほざけ!!
まだまだここからだ、勘違い野郎!!」
「言うじゃねぇか、捻くれ野郎!!」
理由などもはや考えなくても分かっている。目の前で自分と殴り合う存在のおかげだ。
同情するわけでもなく、自分を立ち直らせようとするわけでもない。
ただ同じ目線で受け止めてくれる。今までになかったあり方。そして同時に溜まりに溜まった膿を拳として発散できている。
口では勘違いだといった。だが、その言葉は殆ど的を射ていた。その通りだ。悲しかった。寂しかった。でも、それはすぐに晴れた。だって、自分は人に恵まれたから。
だからこそ、すぐに悲しいとか寂しいといった感情は消え失せ、怒りに似た感情が沸き上がった。でも、それを発散できる場だけがなかった。
もう胸の内は殆ど晴れている。膝をついても問題はない。しかし、ただ一点のみをもって与一はいまだに悠介と殴り合っている。
――――此処までお膳立てされて、むざむざ負けられるか!!
分かっている。本来なら、殴り合いにすらならない相手だ。それでも今、殴り合えているのは偏に悠介の配慮という名のハンデがあってこそ。
人体で鍛えることが難しい顔面のみで拳を受けるのも、自分のほうが殴れるのもだ。拳の威力だって大部分で抑えられている。何より、悠介はここまでずっと膝を曲げ続けて体に負荷をかけ続けている。
そして勝利条件だ。ここまでして漸く自分たちは殴り合えている。
ならば、自分が先に値を上げるなどというみっともない真似はできない。
それはシンプルなもの。那須与一が立っている理由など――――
「くたばりやがれ!!」
「てめぇがな!!」
男の意地に他ならない。
◆◇◆◇
どれほどの時間がたっただろう。二人の
「「オラァァア!!」」
ドス!と互いの頬に拳が突き刺さる。しばしの硬直の後、ズルズルと相手にもたれ掛かるように地面に倒れこむ敗者とそれを見下す勝者が決まった。
「はぁ、はぁ。はぁ、俺の勝ちだ」
「はぁ、はぁ…クソたれ!!」
勝者である悠介は鼻血を拭いながら勝利宣言を告げた。悠介の勝利宣言を聞いたの与一は悔しそうに地面をたたく。
「はぁ―――。
少しは気は晴れたか?」
「…そう簡単に晴れてたまるか」
「まあ、そりゃそうだ」
悠介の問いに与一は顔をそらしながらぶっきらぼうに答える。そんな与一の言葉に悠介は腰を落としながら当然かと苦笑いする。
「だが、まあ――――悪くはない」
「はは。そりゃ何よりだ。
また何かあったら聞いてやるよ」
「ふざけるな。
どうせ、肉体言語だろが。
ごめん被る」
「んだよ。
口下手なお前には一番向いてるだろ」
「労働力が釣り合ってねぇんだよ!!」
「そんなこと言うなって」
ぐちゃぐちゃと駄弁る二人。そこには与一の普段見せる捻くれた言葉はない。それが無意識かどうかはわからない。
しかし、与一は確実に――――
「与一ー!相楽君!!」
「お疲れさん」
「与一、大丈夫か?」
「これが大丈夫に見えるか?
体中痛てよ」
「だが、あの相楽君と戦えたんだ。
義経は心から感動した!!
やったな、与一!!」
「戦えたって、ハンデもありで負けたんだ。
周りに言いふらすなよ、恥ずかしくなる」
変わった。
普段ならば捻くれた言葉を吐くであろう与一が、真正面から義経の差し出された手を取り、軽口を聞いている。
余りの自然さに義経は気づいていない。外から見ていた弁慶だけが気が付いた変化。
「悠介」
「あん?」
「やっぱり、あんたに相談してよかったよ。
ありがとう」
「別に俺は何もしてねぇよ。
ただ、話を聞いただけだ」
「そっか」
「そうだよ」
「弁慶!!相楽君!!
帰ろう!!」
「うん、すぐ行くよ。
あ!そうだ、悠介。
今日、ご飯食べていかない?」
「それは名案だ!!
与一もいいよな」
「…別に構わねえよ」
「相楽君!!」
「あ~じゃあ、お言葉に甘えるわ」
「うん!!
それじゃあ、帰ろう!!」
ウキウキを隠さない義経に続くように三人は歩を進める。
微笑ましい主の姿に弁慶は、これからが楽しみだと川神水を飲み、与一は体中が痛みながらも不思議な爽快感を覚え、チラチラと悠介を見る。
そして悠介は燕になんて断りを入れようかと頭を動かしている。
これが本当の意味で、相楽悠介とクローン源氏組が関わるきっかけになった出来事。
この日の出来事が来たる動乱に大きな波紋を呼ぶのだが、それは少し先の話。
◆◇◆◇
中国 梁山泊 某場所。
「百八星全員を招集しな。
これは最高の太客から依頼だ」
「それほどですか。
場所は?」
「日本 川神」
動乱の火種が小さいながら燻り始めた。
改めて今年も今作をよろしくお願いいたします。