真剣で私に恋しなさい~その背に背負う「悪一文字」~ 作:スペル
今回の話を書いていて、この話を連載再開の一発目でもよかったような気がしてきましたが―――構成とかが衰えてるなと感じてしまいます。
そのため、違和感あるかもしれませんがご了承ください
息抜きになれば幸いです。
武神川神百代の敗北で幕を閉じた、若獅子タッグマッチトーナメント。多くの衝撃が波紋となり、世論に広がっていく。
そんな波紋が波打つ最中、四人の男たちは多摩大橋に集まっていた。彼らは何も言わず、ただ沈みゆく夕日を眺めている。
「やはり、ここにいたか」
「おうおう。
揃いもそろって何黄昏てんだよ」
そこに加わる二人の男。
かけられた言葉に、集まった男の一人鉄心が反応する。
「ヒュームは兎も角、総理大臣がこんな場所に一人で来るとは、公務はどうした」
「ふん」
「いやいや。
これもれっきとした公務さ。
明日の経済は荒れる。
国を背負う者として、知らないといけないからな
それに世界で、今ここ以上に安全な場所なんてないだろ」
鉄心の言葉に、総理は苦笑いをこぼしながら理由を告げる。そう、今総理の目の前には、川神鉄心、ルー・イー、釈迦堂刑部、鍋島正という世界でも名だたる武術家がいるのだ。
彼らの隙を突き、自分に害をなせる存在も自分とともに来たヒューム・ヘルシング位の者だ。
何よりも彼は知らねばならない。そのために、あの決闘の決着後、急ぎ足で川神に訪れたのだ。
総理の言葉に真意を悟った鉄心はまあいいかと息を吐く。
「では、メンツもそろったことじゃ。
目的を果たそうかの」
「いや師よ、少し待ってくれ」
「なんじゃ」
自分の目的を理解されていながら無視されている事を察した総理が慌てて口を刺す。
「あの百代ちゃんに勝った相楽悠介という少年について、知っていることを教えてくれ。
あんたの弟子なんだろ?」
「…理由は?」
「
真っすぐと見つめる目線に鉄心は誤魔化すのは無理そうだなと何度目かの息を吐く。
「察しの通りじゃ。
面倒を主に見ていたのは、ルーと釈迦堂じゃ」
「特殊っていうと―――」
「川神流を納めてはいるが、門下生という訳ではない。そこらへんはまあ、別にいいじゃろ。
お前さんが知りたいのは、そこではあるまい」
「ああ。
俺が知りたいのは、相楽悠介という少年の人格だ。
情けないが、百代ちゃんとの決闘を見るまで、俺たちは彼のことを知りもしなかった」
「知ってどうする?」
「もしも人格に問題があるなら、国を背負う者の責任として彼を――――ッ!!!」
総理の言葉はそこで途切れた。理由は明確、言葉を発することさえ許されない圧が四つものしかかっているためだ。
仏道の長、武錬の極み、魔獣の牙、仁王の覇、一つでも事足りるはずが四つも襲い来る。場が震え、鳥が、魚が、虫たちが、慌ただしくその場を去り、草花と空気が震える音がいやに響く。
圧が明確に告げる。そこから先の言葉を言おうものならば、容赦はしないと。
想定を遥かに超える状況。それでも総理も引けぬ理由がある。
「信じても――――いいんだな」
「「「―――――」」」
三人は沈黙し、ただ一人鉄心が口を開く。
「ワシの名に懸けて。
相楽悠介は、お主が危惧するような危険性は孕んでおらぬ。
お主らが、奴の誇りに触れぬ限りな」
「そうか。
――――ならいいんだ」
総理は鉄心の言葉に安どしたように息を吐く。反応するように、四つの圧もまた消え去り、場を静寂が包む。
「ふぅー。
全く、必要なこととは言え肝が冷えるぜ」
「相変わらず、難儀じゃの」
「いやいや。
もとより覚悟の上だ。
それよりも、釈迦堂。お前までとは意外だったぜ」
「へへ。
後で監督不行き届きとかちゃちゃ入れられたんじゃ面倒なんで」
「素直じゃないネ」
「うるせぇ」
「だが、これで漸く話が進められるぜ」
「そうじゃの。
お主もそれでいいかの?」
一変して和気あいあいとした空気の中、鍋島の言葉に鉄心は同意し、今まで無言を貫いていたヒュームに問いかける。
鉄心の問いにヒュームも構わないというように頷く。
「では、新たな武人四天王の選出を行う。
皆、候補を挙げよ」
そう。それこそが主題。武道四天王のうち、家業を理由に辞した九鬼揚羽、軍役を理由に辞した橘天衣、進路を理由に辞した鉄乙女。次世代の代表というべき、武道四天王のうち三人が、引退している。
これは武術の世界においても大きな問題であり、次世代の四天王候補を見つけることが若獅子タッグマッチトーナメントの本当の目的なのだ。
「総代。
私は、黛由紀江を指名しマス」
「ふむ。
彼女か、ワシとしても異論はないがどうじゃ?」
「俺も異論はねえな。
あの太刀筋だ。
充分に資格はあると思うぜ」
「へへ。
いいんじゃねえか」
「あれは逸材だ。
かの剣聖をも超えるな」
「決まりじゃな。
あの子の性格じゃ、より一層精進してくれよう」
ルーの言葉に誰も文句は上げない。あの若さで阿頼耶の領域まで剣速を磨き上げたのだ。才も実力も申し分ない。
「なら師よ。
俺は松永燕を推すぜ」
「ああ、あの嬢ちゃんか。
確かに、今までにいないタイプだったし、面白そうだ。
何より、あの嬢ちゃんは俺たち側な気がするぜ」
「コラー!
余計な勘ぐりはダメだヨ!!
でも彼女も充分に資格を持っていると思いまス。
何より、釈迦堂と同じ意見というのが癪ですガ、彼女は今までに無イタイプ。
それを踏まえて、良イかと」
「おいルー、癪ってどういう意味だ」
「そのままの意味だよ」
「やめんか!
全く。まあだが、確かに松永燕の存在はありじゃな。
じゃが、家名をかなり大事にしとるし、受けてくれるかのう」
「そこは問題ないぜ。
事前に俺のほうに連絡してきてな。
謹んで受けるってよ」
「へへ。
目ざといね。
こっちの思惑もお見通しってか」
「それはそれデ、頼もしいネ」
「お主はどうじゃ、ヒューム」
今までにいない松永燕という存在に各々が意見を交わす中、鉄心は沈黙を貫くヒュームの意見を問う。
ある意味でしてやられた側であるヒュームだが、そこは一切おくびに出さずに告げる。
「ふん。
松永燕が
そして我々九鬼がバックアップもしている。
当然のことながら、揚羽様の後釜として相応しいだろう。
――――まだまだ赤子ではあるがな」
「…まあ、異論がないならば問題ないの。
二人目の四天王は決まりじゃ」
計略をもって勝利をつかむ。決闘に至る経緯さえも武器とする、ある意味で誰よりも勝ちに貪欲。
そして実力も申し分ないとこは、今までの経緯から理解できるゆえに問題もない。
「ルーと鍋島のおっさんが挙げたんなら、次は俺ですかねえ」
「意外だネ、釈迦堂。
誰か気になる子でもいたのかイ?」
「興味があるな」
「余計なことを言うじゃねえよ。
全くよ、俺は板垣辰子がいいんじゃねえかと思う」
「あの弁慶と組んだ子か。
確かに素材という意味ではピカイチだったかもしれねえな。
いいと思うぜ」
「まさか自分の育てた弟子を推スとは、随分と師匠が板に付いてきたじゃないカ。
総代。私も板垣辰子の推薦に賛成しまス。
彼女は他の二人と比べれバ、実力は僅かに劣りますが、成長性という意味でハ一番かとト」
「一言多いんだよ、てめは!!」
「ワハハ。
あの狂犬が一端の師とはな。
これも
「ふむ。
板垣辰子の四天王入りはいうなれば、武術世界の裾の広がりを意味するか…。
上手くいけば、より多くの者たちを見つけることが出来る」
「成るほどの。
ルーの意見も、ヒュームの意見も踏まえても、板垣辰子の四天王入りはありじゃな」
「へへ。
あいつを育てる場合は、ゆるやかに頼むぜ。
無理やりさせたら、あいつの良さが死ぬからな」
「ふむ。
この中で一番のあの子を知るお主の言葉じゃ。
しっかりと留めておく。
のう、ルー」
「ええ。
勿論」
「頼むぜ」
武蔵坊弁慶に見劣りしない圧倒的な
その資質に気が付けない節穴はここにはいない。ゆえに、彼女が名を連ねることに何ら異論はない。
外野がわめくだろうが、彼女の強さならばすぐに黙らせるだろう。
「しかも、他にも候補はわんさかいるしな。
師よ、未来は明るいな」
「確か二。
義経や弁慶、予選落チしましたが、天神館の石田。
まだまだ先が楽しみな若者が多イ」
「ああ~。
石田の奴はそもそも、この話受けなかっただろうな」
「そうなのかイ?」
「へ~。
「ああ。
余計な肩書なんざより、集中したい相手がいるのさ。
その肩書を背負うのはそのあとだろうな」
「成るほどの…それはそれで楽しみじゃ。
あとは、義経や弁慶の~。
あの二人に肩書を渡すとなると、九鬼がうるさそうじゃ」
「ふっ。
当然だ。
与一の様に天下五弓のような異なる肩書ならば考えてやらんこともないぞ?」
「考えはしたが、こういうもんは多くなると格が落ちるからの。
まあ、今はこれで問題なかろう」
「ふん。
ならば此方からも言うことはない」
「白々しい。
義経や弁慶を候補にあげたら、ここぞとばかりに条件つけるつもりじゃったろ」
「何のことだ?」
「まあ、いいじゃろ。
ではこれで新たな武道四天王は決まりじゃな」
「異論ありませン」
「右に同じく」
「俺もだぜ」
「ふん」
新たに任命されし、次世代を担う四人の武人。
神の名を関する、武の寵愛を受けし若き現人神
一対一の決闘においては未だ負け知らず、比翼の兵法家
剣才においては武神をも超える、礼を秘めし剣巫女
秘めし鱗片は至極の才、目覚めの刻を待つ暴威の化身
才能も
無事に新しい四天王も決まり、四人は未来の明るさに笑みをこぼし、一人は胸の内を隠し話に耳を傾けている。
そんな中、ただ一人惚けていた男 総理が、漸く現実を受け入れたかのように慌てて口を開いた。
「待て待て!!」
「なんじゃ急に。
要件は終わったはずじゃろ。早く仕事に戻らんでいいのかの?」
待ったをかける総理に鉄心はまだ何かあるのかというような表情を見せる。
「おかしいだろ!!
いの一番に候補に挙がるべき存在の名前が挙がってないだろ!!
何なら、俺が推薦してもいい!!」
そう。全員が全員、当然のようにスルーしていたが、今回の若獅子タッグマッチトーナメントにて一番に名を挙げた存在が候補にすら上がらないのはおかしい。
「俺は、相楽悠介を候補に推薦する」
ゆえに伝える。おそらくそれは世論もまた望んでいる。
総理の言葉を聞いた鉄心は、あ~やっぱりかと言わんばかりの表情を見せ―――
「悠介は、断りおった」
「はあ!?」
彼らにとっては周知の事実を告げた。
◆
夕暮れの親不孝通り。学校を終えた悠介、忠勝、与一、竜兵が集まっていた。集まった理由などはない。
ただ忠勝が悠介を誘った後、与一に悠介が声をかけ、与一も同意した。そうして帰路についている中で竜兵とも合流した。ただそれだけの話だ。
「そういえば良かったのかよ?」
「あん?
急にどうした」
竜兵、与一と話していた悠介に忠勝がふいに問いかける。問われた悠介は問いの意味が分からず首をかしげている。
「とぼけるな。学長からの話だ」
「ああ。
あれか…」
「なんだ?
何か言われたのか」
「ああ、まあな」
「兄貴、スッゲェ、めんどくさそうな顔しているぜ」
その時のことを思い出したのかめんどくさそうな顔をする悠介に竜兵は、よっぽどだなと引き、与一も悪魔の取引でも持ち掛けられたかと疑問符を浮かべる。
「別に大したことじゃねぇよ。
ジジイから、四天王にならねぇかと言われただけだ」
「マジかよ…」
「ハハ!!
流石は兄貴だぜ」
なんてことなく告げられた言葉に与一は驚愕し、竜兵は我が事のように喜ぶ。しかし悠介は何でもないように続ける。
「まあ、断ったけどな」
「はあ!!」
「なんでだよ、兄貴!!」
「俺もそれが気になる。
お前にとって悪い話じゃないだろ」
断ったという悠介の言葉に、与一は信じられないという表情を見せ、竜兵はどうしてだという顔をし、幼馴染の努力を知る忠勝は理解出来ないという意思を見せる。
三者の目線を受けた悠介は静かに口を開いた。
「別に嬉しくねぇわけじゃないが…。
シンプルに俺が背負うべきものは一つだと決めている。
他のは俺にとってはどれだけ価値があろうが、無価値なんだよ」
そう。それが理由。悠介にとって背負うべきものは一つだけ。惡一文字。それだけが背負うべきもの。
それ以外での称賛などいらない。それが相楽悠介の意思。
いらねぇと告げた悠介の真意を理解した鉄心はそうかと告げた。
三人は悠介の言葉から真意を完全に理解出来た訳ではない。それでもその込められた思いは理解できた。
ゆえに――――
「さすが兄貴だぜ!!」
竜兵は尊敬を。
「はっ!
お前らしいな」
与一はそうでなければと。
「ふん」
忠勝は納得を。
言うことを言った悠介の後に続くように、三人は歩き出した。
その日、機嫌のいい悠介、忠勝、竜兵、与一の姿に、燕、宇佐美、亜巳、義経はえらく機嫌がいいなと感じた。
◆
悠介の真意を総理に向けて話した鉄心は、だから諦めよと告げる。鉄心の説明を受けた総理は、深く息を吐いた。
「なるほどね。
それが相楽悠介という訳か。
あんたらは分かってたんだな」
「まあな」
「伊達にあいつの師を名乗ってねえよ」
「悠介らしいヨ」
「――――」
僅かなやり取りの中で三人から伝わった相楽悠介という男の存在に総理はここまでの若者がいたのかと驚嘆する。
だからこそ自分は一層、己の責務を果たさねばならないと決意する。
そして沈黙を続ける最強は何を思う。
その翌日、正式に川神院より新たな武道四天王の四名が発表された。
◆
日本某所。
「よし。
これより進撃を開始する」
暗雲が川神に迫り始めた。
悠介たちの話は無理やりねじ込んだ感すごいですが、目をつむってもらえるとありがたいです。
悪童四人衆を少し出したかった、作者の自己満足です