その星に手をのばして 作:志文
幼馴染と幸せに過ごすifがあってもいいはず。
人生で初めて何か書くのでお手柔らかにお願いします。
「おーい、一緒にかえろー?」
ホームルームが終わり、帰る準備をしていると、隣のクラスの少女が扉の前から声をかけてくる。
「おっけー、ちょっと待って」
「早く早くー?」
彼女の名前は星野アイ。世界で一番かわいい女の子だ。天真爛漫でいつも笑顔をくれる、大輪の花のような存在。小さいころからずっと一緒に過ごしてきて、いろんなことを乗り越えてきた。今でも一緒に登下校する仲だ。彼女の家庭事情も完全には解決できなかったものの、元気そうに毎日過ごしている。
アイに返事をして帰る準備を進めながら同じクラスの悪友たちと話していると、彼女は俺の席に向かってきていた。
「まじかよ。かわいいし結構人気あるんだぜ?あの子」
「もったいないことしたんじゃね?」
「やっぱり幼馴染か?幼馴染なのか?」
「何の話何の話?私も聞きたーい!」
「お、星野さん、こいつまた告白されたらしいぜ」
「おい、言うなっていっただろ」
その言葉を聞いた瞬間、笑顔だったアイの表情、瞳が変わる。
「え、誰に?」
星のような輝きを宿していた彼女の目は黒く染まり、闇のようなものが見える。さっきまでしていたにこにこ笑って、見るものすべてを魅了するような表情は消え去り、こちらをじっとみつめていた。
「ふーん、へぇー。そうなんだ?へぇー?」
アイは俺が誰かに告白されるたびに不機嫌になる。これが長年一緒にいる幼馴染に対する嫉妬なのか、家族のような存在に対する嫉妬なのか、それとも男としての俺に対する嫉妬なのか。それが分からず、あと一歩を踏み出せないでいた。どうしても。どうしても、今の居心地のいい幼馴染という関係が、人生の半分以上をともに過ごしてきた彼女との関係が、変わってしまうことに怯えてしまい、告白に踏み出せていない。
「違うって、すぐ断ったから!もう帰るぞ、アイ!じゃあなお前ら、明日覚えとけよ!」
「はーい」
不服そうな顔の彼女の手を取り、扉に向かって歩き出す。
悪友たちに別れを告げ、アイと家路につく。
学校を出て、家へと足を進める。
「今度はだれ?ほんとに断ったの?その子のことどう思ってるの?」
「同じクラスの東さんだよ。ちゃんと断ったって。たまに話すくらいでただのクラスメイトとしか思ってなかったよ。」
「ふーん、ほんとかな?」
「呼び出されたところあいつらに見られて付けられて、遠くから全部見られてたらしくてさ。あんまり言いふらさないでくれよ」
「そういうアイこそどうなんだよ、告白とか」
「私も全部断ってるよ、琥珀以外興味ないもん」
「またそんなこと言って。本気にするぞ?かわいいんだからそんなこと俺以外に言うなよ」
「ありゃ、私の可愛さについに落ちちゃった?」
「はいはい落ちた落ちた。思わせぶりな小悪魔め。幼馴染でもその話題だけは冗談か本気かわからんわ」
「ふふっ、どうだろうね?でも琥珀が私以外の人と付き合ったりしたら、寂しくて死んじゃうかもしれないよ?」
「嘘でも死ぬなんて言うなよ、縁起でもない」
「えへへ、ごめんごめん」
そうして何気ない会話を続けて歩いていると、彼女が何かを思い出したような表情をする。
「どうしたんだ?」
「そういえば私、スカウトされたんだ!」
「おぉー、すごいじゃん、何にスカウトされたんだ?」
「アイドルだよ!苺プロダクションってところ!」
その言葉を聞いた瞬間、突然激しい頭痛に襲われる。視界が歪みだし、立つこともままならなくなる。今まで経験したこともない不調に耐え切れず、思わず膝をつく。
「あ、これ無理な奴だ」
「大丈夫!?ねぇ!琥珀!琥珀って!」
意識が朦朧として、彼女の声が遠くなっていく。そうして俺、夢川琥珀は意識を落とした。
『……愛…よ』
『…………………で…』
『……嘘…じ…………よ』
なんだ、これは…………?理解しがたい光景を見せられている。
俺のいない世界のアイ…………?
俺と出会わず、様々な問題を解決できず、嘘をつき続けていた。
この世界の彼女は、愛がわからず、理解するためにアイドルになった。そして俺でない誰かと…………
俺でない誰かに恋をして、子供を作った。自分の子供なら愛せるかもしれないと思っていたのだろう。芸能界を生きていこうとする彼女は、人間関係に悩まされ、笑顔でいようとしているが、辛いという気持ちが少なからずあるのがわかった。
だが、子供たちと接する彼女は幸せそうで、とてもいい顔をしていた。期待していた通り、子供を産んで、その子たちを愛することができたのだろう。その日常を見ている間、俺も幸せな気持ちになった。
そしてその記憶の最後にアイは、ストーカーに刺されて死んだ。彼女の父親がストーカーを唆し、彼女を殺害した。
…………。
一億歩譲って俺以外に恋をして子供を作るまでは良い。死ぬほどつらいし苦しいしメンタルが死にそうだが、彼女の幸せがそれで得られるのなら、俺はそれでいい。
しかし、道半ばで彼女が殺されることだけは絶対に受け入れられない。
この世界に俺はいなかった。だからこそ、この未来は変えられるだろうし、この世界とは違う道をたどっているはずだ。そしてこの記憶のようなことが実際に起きるとも限らない。しかし、ただの夢と片づけることはできない。自分の中の何かが、これはただの夢じゃないと叫んでいる。
星野アイに恋をして、楽しそうに過ごす彼女とずっと一緒にいて、そんな日常がずっと続いていく。そう思っていた。俺のよく知る彼女はどうなのだろうか。母親の虐待の問題がひと段落した時、彼女が言っていたことを思い出す。
『愛されるって、愛するって何?』
彼女を愛していると言った母親は、刑期が終わっても迎えに来なかった。その時こぼした言葉は、本心だろう。記憶の中の彼女は愛を知るためにアイドルになった。俺と一緒に過ごしてきた幼馴染はどうなんだろう。アイドルについてどう思っているんだろう。
彼女のことが好きだから、幸せになってほしい。たとえ彼女が誰に恋をしても、どんな選択をしても、俺がアイを守ろう。絶対に守り抜こう。魑魅魍魎が蔓延る芸能界に彼女が行きたいというのなら、俺も一緒に飛び込もう。彼女を守れるだけの影響力とコネを手に入れて。なんとしてでも守り抜いてみせる。でもやっぱり、俺と結婚してほしいなぁ。
目を開けると、見たことのない部屋にいた。突然の頭痛で膝をついてからの記憶がない。
違う世界の彼女のことは鮮明に覚えているのだが。
俺は病院のような場所のベッドに寝かされているようだ。
「琥珀!大丈夫!?」
アイが心配そうにこちらを見つめている。あぁ、かわいいなぁ。
「アイ」
意識がまだ不確かで、何も考えずに彼女を抱きしめる。寝起きだからか、大きな声を出すことができず、彼女の耳元で小さく声を出す。
「ふぇ!?何!?どうしたの?琥珀?」
「アイ、好きだ。ほかの誰かのものにもならないでくれ。俺とずっと一緒にいてくれ。俺が幸せにしたい。愛してる」
「え!?え!?うん!うん!?」
顔を真っ赤にしたアイが俺の言葉に慌てながらうなずいている。彼女への想いが溢れてより強く抱きしめてしまう。いつものいたずらっぽい笑顔はそこにはなく、顔がくっつきそうな距離で、潤んだ瞳がこちらを見つめている。
「かわいいなぁ」
そうして俺はまた夢の世界に旅立った。あれ、何言っちゃったんだろう。やばいかも。
まぁいいや!
星野アイは動揺していた。
いつも通り幼馴染と一緒に帰っていると、彼が突然倒れた。どうしていいかわからず、私は慌てて救急車を呼んだ。下校中で周りにたくさん生徒がいたこともあり、大騒ぎになってしまった。
救急車がすぐにきてくれて、そのまま一緒に病院へ向かった。
倒れてしまった彼が心配で心配で仕方なかった。そんな彼が目を覚ましたかと思えば、突然プロポーズみたいなことをして、満足げな顔でまた眠ってしまった。私の気持ちも知らずに。
彼と初めて出会ったのは小学校の入学式。初めて出会う人たちの中で、一際目を引く人物が彼だった。人の名前を覚えるのが苦手な私でも、すぐに覚えてしまうくらいに彼は輝く存在だった。顔がかっこいいのも理由の一つかもしれないが、それだけではなかった。なぜか目を惹かれてしまう、そんな何かを彼は持っていた。
実際に学校生活が始まると、誰とでも仲良くなる社交性や、どんな時でも場の雰囲気を明るくする人柄、細やかな気遣いなどもでき、小学生とは思えないほどの優しさもあって、周囲の大人にも信頼される、ただそこにいるだけでみんなを笑顔にしてしまう、太陽のような男の子だった。
どんな人とでも仲良くなる彼は、一人で過ごしている子を見るとすぐに声をかけ、誰にも寂しい思いをさせないようにしていた。違うクラスの子でもすぐに仲良くなり、みんなが彼のことが好きだった。そんな彼は、私にとっても憧れだった。
二年からは同じクラスになり、最初の席で隣になったことがきっかけでどんどん仲良くなっていった。ほかの子のことをあまり覚えられない私が浮きそうになった時も、お母さんに傷つけられた時も、私を助けてくれた。施設に預けられるようにはなっちゃったけど、幸運なことに今の学校からも転校せず、それまでと変わらず彼と一緒に行くことができた。彼と出会うまで嘘も本当もよくわからなかったけど、私は彼のことが大好きだ。
「かわいいなぁ」
そういって私を抱きしめる力が弱くなり、琥珀は安らかな顔で眠りに落ちた。
密かに期待していた言葉を、一番欲しかった言葉を言われて私は真っ赤になってしまった。心配していたのに突然あんなことを言われて反応できず、頷くことしかできなかった。
好きだ。愛してる。
彼の言ってくれた言葉が何度も私の心に響く。私も大好きだよ、琥珀。
だからこそ、愛してるって私も言いたいなぁ。
「え、ていうかこれってもう彼女だよね!?もう結婚する?いつ式あげる!?子供何人ほしい?」
興奮して声が出てしまい、慌てて冷静さを取り戻す。
幸せな気持ちが体中を満たしている。
私が一番距離の近い異性であることは理解していたし、容姿も自信があった。だから、彼の恋人に一番近いのは私だと思っていた。
でも、彼は人気者で、いろんな人が彼に惹かれる。今日も告白されていたし、いつか誰かの恋人になってしまうかもしれないという恐怖がずっと、心の中に存在していた。
他の誰よりも長く一緒にいた幼馴染だったけど、それ以上の関係になりたいってずっと思っていた。でも今の幸せが壊れてしまうのがずっと怖かった。
でも私のそんな不安も、彼にはお見通しだったのかな。
「それにしても、なんで急に言ってくれたんだろう?起きたら聞いてみないと!」
「それにしても、寝顔もかわいいなぁ」
明るい未来に思いを馳せながら、幸せそうに眠る彼を見つめていた。
一日おいて見直したら変な文章と流れがあったのでちょっといじりました。
大きな変更点
記憶で見たアイへの考え
アイの愛についての話の追加
愛してる⇨大好き
に変更
愛してるに関しては、クソデカミスです。私のアイへの愛が溢れて漏れてしまいました。