その星に手をのばして 作:志文
両親や社長に話を済ませてから数日後のある日。俺とアイは一緒にいた。
時間がたてば気軽にどこかに出かけたり、動いたりすることは難しいだろうとのことで、今日は久々にアイとデートしている。
二人ともそれなりに有名になり知名度も出てきているので、もちろんバレないように変装はしている。
人目を避けるため、この業界に入る前に行けた場所に行けなくなったことで、新しい場所を探すという楽しみも増えた。人気のない場所や個室のレストランなどがほとんどではあるが、アイと一緒ならどこに行っても楽しいので大満足だ。
今日は奮発して夜景の綺麗なホテルを取り、インルームダイニングを頼んで二人だけの空間でディナーを頂いた。多少は雲がかかっているが、所々綺麗な夜空が見える。
今までよりかなり準備をしたので、喜んでもらえていることに安心している。が、本番はここからだ。
「こんないい部屋でこんな美味しい料理が食べられるなんて贅沢だね~、ほんとに幸せ……」
「だね。頻繁にはこれないけど、また来たいよ」
「そうだね~……人目を気にせずゆっくりイチャイチャできる場所なんて家くらいしかないし、美味しいものまで食べられる場所なんて、なかなかないもん。こんな場所見つけてくれてありがとうね?」
「どういたしまして。じゃあとりあえず、お皿とか返してくるよ。ちょっと時間かかるかもだけど、ゆっくり待ってて」
「うん、わかった、ありがとう!琥珀。あ、ちょっと待って」
二人で腰かけていたソファから立ち上がろうとすると、アイに肩をたたかれ、そちらを振り向くと、想像より近くにアイの顔があった。
「ちゅ」
何この子可愛い。
「えへへ、作戦成功!早く戻ってきてねー」
「うん、すぐ戻るよ」
したり顔で笑うアイを見てこちらからも反撃を仕掛けたい気持ちを我慢し、お皿を乗せたサービスワゴンと共に部屋の外へ向かった。
ホテルのお兄さんからあらかじめ用意していたものを受け取り、アイの待つ部屋に戻る。
人生で最初で最後の経験なので、心臓のバクバク感がやばい。
「アイ、ただいま」
夜景を眺めていた彼女は、こちらを見て目を見開いた。
「え……どうしたの……?え……?え?」
緊張している心を落ち着けるように、彼女の側へゆっくりと歩み寄る。
アイの彼氏になって、芸能界に入って。
だんだんお互い忙しくなって、仕事も増えて、会える時間も減ってしまった。
でも、二人でいる時間がなによりも楽しくて、嬉しくて、ずっとその時間を続けたくて。
彼女が妊娠したと聞いた時は、慌てたし、どうするべきかと思った。
しかし、それよりも嬉しいという感情の方がが大きかった。
愛が分からないという彼女との間にできた愛の結晶。
彼女から産みたいという言葉を聞いた時、とにかく嬉しかった。
生まれてくる子供とアイを絶対に幸せにすることを誓った。
今からすることも、そのための一歩。
彼女の目の前に辿り着き、その大きくてきれいな両目を見つめる。
「アイ」
「うん……」
「愛してる。君に愛が分からなくても、いつか分かる日まで、ずっとずっと……俺は君に愛を伝え続ける。
誰よりも、何よりも、君を愛し続ける。大好きだ。ずっと一緒にいてほしい。だから……俺と……」
左膝を地に付け、百八本のバラを彼女に向かって突き出した。
「俺と、結婚してください」
「……」
アイは、嗚咽を漏らしていた。涙を流しながら笑っていた。
「はい……」
俺の持つ花束を受け取り、涙で彩った顔に大輪の花が咲いたような表情を浮かべる。
「はい……はい……!こちらこそ……よろしくお願いします……!」
「よかったぁ」
「ありがとう……琥珀、嬉しいよ……絶対に離さないんだからね……!嬉しいよぉ……」
花束を大事そうに抱きしめる様子を見て、こちらもとても嬉しくなる。
「アイ、一旦それ机に置いてもらってもいい?もう一つ、渡したいものがあるんだ」
「えっ……わかった……本当に?」
アイは花束を丁寧に置き、こちらに向き直る。
それを確認して、ポケットから指輪の入った箱を取り出す。
その箱をじっと見て、口元を抑えている彼女に、箱を開けて告げる。
「アイ。大好きだ。愛してる。だから俺と、家族になってください」
「私も大好き……愛してる!愛してるよ……こちらこそ、 よろしくお願いします!」
彼女の柔らかい手に触れ、左手の薬指に婚約指輪をはめた。
そのまま見つめ合った俺たちは抱きしめあい、唇を重ねた。
甘くていい香りに包まれながら、先ほどのアイの言葉を思い出し、驚く。
「ありがとう……え……今、愛してるって……?」
「うん……琥珀、愛してるよ……何回でも言える。愛してる、愛してる、愛してる!」
「アイ……!」
「私、分かったんだ。この気持ちが愛なんだって。琥珀と恋人になって、いろんなことをして、
好きだって思ってた気持ちがどんどん大きくなってきて、妊娠してからも色んな人に暖かく受け入れてもらって、分かったんだ。この気持ちは本物なんだ……愛してる。大好きだよ……琥珀」
「俺も愛してるよ……」
感極まって熱いものが溢れてきた。そんな俺に対して微笑みながら、再びアイが近づいてきた。
「―――ん」
何秒そうしていたかわからない。数秒か、数十秒か、数分か、それ以上なのか。
息が苦しくなっても何とか呼吸をし直し、離れたくない、もっと繋がっていたい、お互いそういう思いだったのだろう。
「ふふ」
「はは」
キスに疲れた俺たちは笑いあって、幸せを噛みしめていた。
「幸せだよ~」
プロポーズの後、俺たちは並んで豪華なソファに腰かけ、きれいな景色を見ながらゆっくり過ごしていた。
幸せそうな顔でこちらを見上げて体を寄せてくるアイ。
彼女の頭に手を置いて、優しくなでる。
「ふふふ……ずっとこんな日が続けばいいなあ」
「残念でした」
「えー?」
「これからは今よりさらに幸せになるよ?夫婦になって、家族が増えて、もっと色んな楽しいことが増えて。
未来のことはわからないけど、俺たちのことを公表して、堂々と二人でどこかに行ける日もくるかもしれない。
人目を気にせずどこかにデートしたり、家族みんなで一緒に過ごしたりできるかもね。
だからこんなに幸せな毎日よりも、もっと幸せになれるよ。
これまで大変だった分、アイはもうなにが起きても幸せにしかなれないから、覚悟しておけよ?」
「うん……もう、さっきやっと泣きやんだのに、泣かせないでよ。女泣かせの悪い旦那様なんだから」
涙を見せないように俺の胸に顔を埋め、冗談を言うアイ。表情は見えないが、嬉しそうな声が聞こえてくる。
「ごめんごめん、許してくれって」
「もう一回キスしてくれたら許してあげる♪」
そう言って目を閉じるアイに、愛おしい気持ちが溢れる。泣いた跡の残るその顔は、それでも綺麗だった。
「―――ん、よくできました♪」
「可愛いなあ、もう」
「そりゃそうだよ、アイドルですから」
「そうだった」
何気ない会話に幸せを感じる。
「まだ結婚はできないけど、式とか挙げるのが楽しみだなあ」
「私、ウエディングドレス着たい!」
「これからゆっくり考えていこうか、まだまだ時間はあるしな」
「そうだね……ふふ。ありがとう、琥珀。私と出会ってくれて。これからもよろしくね、愛してるよ」
「こちらこそ、ありがとう。俺も愛してるよ」
夜空にあった雲はもうどこにもなく、そこにはたくさんの綺麗な星が輝いていた。
お久しぶりです。
難産でしたが、イチャイチャできてかなり満足しています。満足した勢いで投稿したので、後々編集しまくってたらごめんなさい。
たくさんの評価、感想、ありがとうございます。温かい言葉ばかりでとても嬉しいです。
追記
サマポケとホワイトアルバム2にどハマりしてるのでしばらく書けません。感想は見てるのでモチベくれたら早く書けるかもです。