ゲーセンファンタジー・俺がプロゲーマーになる迄の記録   作:マキシマムとと

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 「ーーーふむふむ…なるほどですね?」

 所々塗装が剥げ、古めかしさを感じさせる大型筐体。
 それは世界で初めて個人所有された『にはんぢんコボットだいすち』であり、声はその内側から響いていた。

 「このタイミングで予定通りにコラボを実行に移した運営がおバカさんなのか、それともそれを見越して準備を重ねていた簒奪者が周到なのか。どちらでしょうかねぇ…?」

 声の主は女性だった。
 特徴の薄い黒髪、ショートボブ、黒縁のメガネ。
 教室の角で小難しそうな文庫本を読んでいそうな雰囲気の地味系メガネ美少女。

 厚手のセーターだけ(・・)を身に纏う、ごく普通からかけ離れた少女が問いかける。

 「ねぇ? (わたくし)が聞いておりますのよ?」

 叱責に、彼の舌が動きを止める。

 「…あら? 貴方に唯一許された仕事をおサボりして、それでお食事を食べられると思っておりますの?」

 理不尽な言動。
 しかしそれも慣れたもの。

 物言わず、緩慢な動作で、彼女の股の間に跪いた少年が動作を再開した。

 尊厳など無い。
 ともすれば、少年がこの世界に生まれる前から。

 「…ふふっ」

 彼を見下す傲慢な視線。
 その瞳の中にじんわりと恍惚が混ざる。

 「管理者から降ろされて、消えてなくなってしまったと思っておりましたのに…ふふふっ」

 溢れる夢が、愛しい人への止められない想いが。

 「う…うぐぇ」

 「ダメよ、溢しちゃダメ。お前は優秀なワンちゃんですもの、わかっておりますよね?」

 啜る音。
 舐める音。
 飲み下す音。

 彼の苦しみが、そのまま彼女の幸福に変わる。

 「可愛い私の天使さま。もし、もし私が貴方の願いを打ち砕いたとしたら…嗚呼…ん、ん…アァん♡♡♡」

 願う。
 あの瞳。
 深海を覗くような碧眼。

 風に揺れる稲穂のように、その瞬間に神を感じさせる美しいブロンド。

 小さなお口とその舌で、私を憎ませながら、ご奉仕させる事が叶ったならば…!!

 「欲しい…欲しい…っ!!」

 デスパジャマ。
 彼女はそう呼ばれていた。

 『絆』と言うゲームを通して出逢った、純血の天使。
 AIとして作られ、半人活性因子へと組み込まれた紛い物の生命。

 「レン様…♡」

 『だいす』が起動する。
 ゆっくりと魂魄を解離させ、少年のモノを含めて『彼方(だいす)』へ送る。

 【起動シークエンスーーークリア、双魂連結機構ハ、■常ニ稼働シテオリマス。マスター、オーダーヲ】

 「よろしい」

 微笑む。
 唇は小さく、愛でられる草花のように。

 「特級フレーム、双頭蛇竜の伊吹(ブレス・オブ・アンフィスバエナ)起動」

 微笑む。
 瞳は大きく、渇望に狂う光を魅せて。

 「目標、DP1面世界管理権限簒奪者への制裁。そして推しの子の救出♡ …出来ますわよね?」

 【イエス、マスター。貴女ガ最強ノ『フォルニ・ヤララ』デアル限リ、不可能ハ有リ得ナイ】

 『フォルニ・ヤララ(人類最強)

 人間と言う悪魔が、静かにその牙を濡らした。



42.迷宮妖精

 

 ◯月◯日 晴れ (2ページ目)

 

 

 『アーマードギア』

 

 【隠れる】ことをゲームの趣旨とする本作は、ステルスゲームと呼ばれるジャンルにおいて日本で最も注目を集めた作品として名高い…まぁ悪名だが。

 

 隠密行動の基本となる『視覚』『聴覚』へ対して『隠れる』『遮断する』の概念に『電子戦』を組み込む事でゲームの質と戦略に深みを持たせる事に成功した! …と。

 開発はそのように述べたらしいが、開発側がプレイヤーに要求するスキル、その最低ラインを満たせる人間が笑っちゃうほど少なかったんだな、これが。

 

 

 『電子戦?』

 

 『何するの?』

 

 『電子レンジ?』

 

 

 9割を越える大多数プレイヤーがそんな感じだ。

 そもそも母数すら少ない。

 

 昔から日本人は『ゲーム』と『ロボ』が大好きだ。

 

 例えば無料小説投稿サイト『小説家☆を☆推そう』で特定のジャンルに人が集まるように、何故か極端に日本人はゲームとロボを愛している。

 

 だが人間にはそれぞれ事情がある。

 金が無かったり時間がなかったり年が足らなかったり行き過ぎていたり。

 あとは健康状態なんかもデカイよな。

 

 そうしたモノを差し引いてざっくり半減

 その後に『ステルスゲーム』が来た時点でまた半数が脱落して、最後に『電子戦』でまた半数。

 様子見主義を加えればもっと下がるから、超アバウトに考えて母数の1/16になる。

 

 んで、ようやくゲットした顧客の9割は『電子戦』に理解が無いし、適正が無い…つまり、まぁアレだ。

 クソゲーとなるべくしてなったゲームなんだよ、この『アーマードギア』は。

 

 

 

 俺は㈱ミナミのゲームは昔から好きで、その前作にあたる『イモータルギア』もプレイした事がある。

 

 イモギアはニッチなジャンルの魔物転生系ゲームで、スケルトンに転生した主人公が奇跡を求めてダンジョンの地下へと向かうストーリーなのだが、その過程で倒した魔物の数によってエンディングが変わるマルチエンディングシステムが特徴的だった。

 

 ステルスゲームに触れるのもそれが初めてだったし、敵の挙動を把握して視覚の外を走ったり、あえて音のする石ころを投げて敵の意識を引き付けたりする事が楽しくて楽しくて仕方なかった。

 何故か用意されたダンボールに隠れて、それを発見させて敵モブに囲まれるのは最高だったし…敵によって、

 

 「騙せると思ったか、バカがッッッ!」

 

 「ーーーこんな所にダンボール…ふぅん?」

 

 と反応が別れる細かさにも爆笑した。

 だからアマギアもその流れでプレイした経験がある。

 

 アマギアはステルスゲームに『ロボ』の概念を取り入れた事で三次元的な深みが増していた。

 スケルトンではどうやっても立体的な行動に限界がある。

 それは操作面でもステージ作成にしても同じ。

 重力に縛られ、地表に縫い付けられた状態での探索やステルスから、より三次元的な動きが加わった点は評価しても良かったーーーが。

 

 『ロボ』で隠れるってのが…なぁ?

 

 なんだろうか、酸っぱいカレーみたいな?

 なんでカレーなのに辛さじゃなくて酸味を重視しちゃったの? みたいな独特の違和感+先述の電子戦概念に敗北したんだよな。

 

 

 

 

 ーーーと。

 長々語ってみたのだが、実際には上のような事を考える余裕は無かった。

 

 そらそう。

 

 寝て起きたらS◯Xしてたんだぜ?

 妹にはバレてるし、1ヶ月うらしまだし、人だって殺してる可能性が高い。

 わけがわからんし、困惑してるし、本当は叫びたいくらい混乱してる。

 

 考えてもみてほしい。

 

 ある日唐突に生活の基盤となる『だいす』へのアクセスを禁止されて、つい気の迷いで旅行に行ったら旅先で妹が発熱、帰ったら自分が発熱して、それから『絆』に出稼ぎに行ったら何故か1ヶ月時間が飛んでる。

 

 世にも奇っ怪な物語や、流行りの転生系小説の主人公と大差ない状況やねんで? 俺の頭はグロッキーですよ、マジで。

 

 『だいす』が直ったって言うから、それならペレさんにこの不安と苦しみとモヤモヤのすべてを吐き出しながら日課の歩行訓練や空中姿勢制御の練習に没頭して、それでどうにか精神を保とうと思ってたのにさ?

 

 コラボ?

 大金ゲット?

 今しか出来ないから新機体で?

 『妹』と一緒に?

 

 

 

 今では無い。

 

 

 

 うん、今じゃないんだよ。

 今は無理なの。

 精神が困ってるの。

 魂がねじれてるの。

 めっっっっっちゃ苦しいの。

 

 お前らの前で『お兄ちゃん』してられる余裕なんかね? 1ミリも無ぇんだよ。

 

 早く。

 とにかく早くこのクソイベントをスキップしてペレさんに会いたかった。

 ペレさん成分が不足しすぎてた。

 

 

 

 『良いタイムだ、これならパターンAで進めても十分に安定した記録を狙えーーー』

 

 「ストップして、三歩後退、それから五秒後にーーー」

 

 

 

 2人の妹の声が、疎ましかった。

 とにかく、兎に角。

 早く、もっと、もっと早く。

 

 俺はペレさんに会いたかったし、アシガルに乗りたかった。

 

 『兄上…?』

 

 「にーにー?」

 

 雑音が遠退く。

 …そして。

 

 ◇

 

 「ーーーーーー聞こえる」

 

 「…ぽん?」

 

 「ケルベロスビート(音響認識改編機構)を全力稼働、2秒でヤレ」

 

 「…る!?」

 

 「ケルベロス・戦闘システム起動」

 

 『兄ーーー!?』

 

 遠退く。

 遠退く。

 

 雑音はすべて、遥かな彼方。

 

 【ーーーLoooooーーー】

 

 近付く。

 近付く。

 

 遠吠えは常に、俺を導く。

 

 『01ーーーキドウーーー』

 

 『半人≠半神circuit重畳連結』

 

 『システム戦闘モード・起動』

 

 「ぶちかませ、ゼロワンドライヴァー」

 

 大昔の特撮。

 奇っ怪で不気味な半赤半青(人体模型)

 そんな不可思議なヒーローを知っているだろうか。

 

 キッカイダー01。

 

 両腕を真上に伸ばす。

 空中に浮き、横倒しに構え直した身体も同じく真っ直ぐに伸ばす。そして原理不明の推進力を発揮してドライバーのように回転しながら敵に突撃する、その大技。

 

 イーメージ通りの挙動でケルベロスが空を滑り、俺が睨んだ壁面へと激突する。

 

 「に゛ぃぃぃ!?」

 

 『なんで!? ケルベロスの制御が! なんで!?』

 

 「ッッッケおらぁ!! バーストエンドッ!!」

 

 謎エネルギーの爆発。

 正義の光が悪を斬る!

 俺の魂の叫びが、荒ぶる破壊を呼び起こしたんだ!

 

 「ーーーっ! ビートを限定封鎖モードで全開! ミレンはヘレンに合わせてちょんまげ!」

 

 『ぃよ~し! やってやるともさ!!』

 

 そうして俺はスキップした。

 くだらない過程を、強要される時間を。

 

 「こんな隠しブロックがあっただなんて! 最速! レンちゃんのにーにーは世界一の人体模型!」

 

 『兄上! やはり兄上しか勝たんっ!』

 

 わーしょい! わーしょい! わーしょい!!

 

 ◇

 

 ーーーそんな。

 

 毛根が腐りそうな程に馬鹿げた妄想を、脳内で繰り返し再生する程度には、俺は本当に、このクソみたいに地味で永遠と続くステルスミッション(省略不可能な現実)にうんざりしていた。

 





 『イモータルギア』

 ーーーあと少しだった。
 光は既に見えていた。

 愛する家族の微笑みが、光の中に浮かぶ。

 私は死んだ。
 奇跡の秘宝を孕むと言う【大迷宮ソリッド】で、その奇跡の灯火に魂を狂わされ、闇に飲まれて息絶えた。

 若かった、愚かだった、無力だった。

 迷宮で死んだ魂は邪神に囚われ、醜悪な魔物として人を害するようになるらしい。
 せめて、人として死にたかった。

 それが最後の願いーーーとなる、筈だったのに。



 『貴方は迷宮に囚われた』

 『されどその魂は純白』

 『奇跡を司りし神の使者として』

 『大迷宮ソリッドへ挑む』



 広大な探索空間、100を越えるアイテム。

 気配を隠し、注意を反らし。
 清らかなる魂で奇跡を望むか。

 殺意を放ち、命を散らし。
 混沌なる魂で奇跡に挑むか。

 イモータルギア(不死の歯車)

 汝の選択は、如何に。




 『小説家に』『スケルトン』『イモータル』

 この3つでピンと来たコアパーツさんは手遅れです。
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