ゲーセンファンタジー・俺がプロゲーマーになる迄の記録   作:マキシマムとと

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45.双頭蛇竜

 

 ◯月◯日 雨

 

 

 死ねとしか思えんのだが。

 

 

 ◆

 

 

 コラボ攻略など端から2人の妹の眼中には無かった。

 

 目的は1つ。

 【汚染個体】【偽獣】【発狂半神】【魔王】【双頭魔獣】

 

 様々な(称号)を持つ超特異Orthros・bone『K-アシガル-250』への到達と再起動。それさえ叶えられたなら…。

 

 

 狂化オルボーンを厳密封印した施設への潜入は【陣営】の頑迷とすら言える既定路線(コラボ)への執着により成功した。

 

 ミレンが生み出しヘレンが設定、そして現地のナツナ=ミナツを筆頭としたコボットの協力者達が調整して作り上げた虚神ーーーケルベロス・ビートーーーを用い、コラボを媒介として成立した多次元式潜入工作。

 

 当初こそ危ぶまれたその作戦も既に最終段階に至っていた。

 

 

 

 【陣営】は完璧だった。

 故に、反逆者の存在を想定せず。

 

 『発狂AI個体』と仮称した存在の、その末端が『彼女』の手に落ちた事も知らず、対策の一つもなく出し抜かれるーーー筈だった。

 

 

 

 【~♪】

 

 

 

 音が流れる。

 停滞する大気にさざ波を起こす軽快なリズム。

 

 それは歌だった。

 

 古いアニメのエンディングテーマ。

 秘密の魔法の恋の歌。

 

 【魔甲王(マジキング)グランビート】のending songが、広大なドーム状の大空間に響き渡る。

 

 客席不在の独演会。

 広く、頑強な多次元障壁による隔絶により、時間の概念からも解離された異空間。

 

 どこかぼんやりと薄暗い世界の、その中央に立つ機体。

 

 それこそが音源。

 

 

 

 呪文に願う。

 恋を、愛を、その成就を願い、大人の知らない魔法を歌う。

 

 叶えて欲しい。

 貴女が欲しい。

 無力な私を助けて欲しい。

 

 誰かを愛するこの気持ち。

 踏み出す恐怖を魔法で支え。

 未来を願って恋をする。

 

 心からこの歌を愛して(汚して)歌う、その女。

 

 

 

 駆るは深紅の特級フレーム『Breath of Amphisbaena』双頭蛇竜の名を背負う竜翼。

 茜色の、若干薄暗い赤の皮膜をマントのように大きく広げ、細身のフレームに重ねる装甲は赤子の血潮より鮮やかな猩々緋(しょうじょうひ)

 

 見るものが見れば一目でわかる。

 

 【パンツァーバハムート】

 

 ㈱ソガが開発した3Dシューティングゲーム、その主人公の相棒となるドラゴンを意識した外殻配列。

 首から始まり胸部から腰へと流れるライン。

 黒に近い暗褐色のインナー装甲が鮮やかな外殻の赤をより際立たせて魅せる独特の配列。それは配色を変更した程度でそのオリジナリティを失わない。

 

 本来白と蒼で描かれる筈の竜が、血を纏い人化した。

 

 そう思わせるだけのクオリティと『圧』とすら表現されるべき本物への憧憬が見てとれる。

 

 竜眼・竜角・竜牙。

 

 生物特有の生臭さを思わせる頭部外装。

 瞬膜を押し退け、その蛇眼が瞳孔を開いた。

 

 

 ◇

 

 

 【ギンッ! ギンッ! ギンッ!】

 

 ドームに2ヶ所しかない出入り口。

 その片方から、闇のカーテンを裂くようにして白い獣の虚神が現れ出でる。

 

 金属音は『ケルベロス』の手のひらから生まれ、彼女の歌を遮り空間を揺らした。

 歌の消失を追いかけるように。

 甘く弾ける恋のリズムがボリュームを下げ、止まる。

 

 『申し訳ない、邪魔をするつもりは無かったんだ。ただあまりにも美しい歌声と…その、俺の好きな歌だったから、つい』

 

 拍手。

 暴力的な金属音には、ただ純粋な喜びだけがあり。

 

 『ーーーあら、あらまぁ、ご存知で?』

 

 『もちろん。リアタイ世代だったし、何度も聞きました』

 

 『へぇ…羨ましいですわね』

 

 まだ遠い。

 互いが豆粒ほどに見える広大な距離を、あえて踏みしめながら指向性通信を用いて言葉を届ける。

 

 『(わたくし)は叔父があの作品のファンでして、先方へ預けられる度に視聴させられておりましたの。物心ついた頃にはすっかり洗脳されておりましたわ』

 

 『それはまた…』

 

 キンーーーーーー……キンーーーーーー……。

 

 逆間接の足の先。

 人よりも滑らかに音を殺す間接駆動のその先で、獣脚の重く鋭い鉤爪が穏やかな歩調で地面を弾き、低速で鳴くメトロノームのように空間に満ちる。

 

 歩み寄る白狼。

 迎え撃つ紅蓮竜。

 

 空間は。

 広がる闇は。

 

 怯えたように沈黙を求める。

 

 『ーーー洗脳…だなんて、あえて失礼な表現をしましたけれども、私は叔父もグランビートも大好きですの』

 

 『あぁ、それはわかります』

 

 『ーーー何故?』

 

 『お話下さった声が、とても嬉しそうでしたから』

 

 あら? と、フォルニ・ヤララの心に小さな好奇の火が灯る。

 簒奪勢力のメインパイロットは眼中に無かった。

 しかし心地好い距離感と口調、穏やかな対話姿勢がどこか叔父の姿を思い起こさせたのだ。

 

 『どのロボが好きでした? スーパーグランビート?』

 

 『悪悪腕牙(アクアクワンガー)一択ですの!』

 

 『あ~、ビットくん』

 

 『猫耳系男子は当時の私には正に劇薬でしたわ』

 

 『スーパーになる前のクワンガーを選ぶ所も乙ですね』

 

 『水嫌いなビットくんが、沈んで行くクワンガーに手を差し伸べるシーンはもぅ…!!』

 

 『クワンガー!!!』

 

 唐突に男が叫び、機体を地面にしゃがみ込ませて右腕を下方へ伸ばしてみせた。

 

 『ーーーうわぁ! 嬉しいです!』

 

 情熱の伴う原作再現に、好奇のつぼみがほんのりと綻ぶ。感情を伝えるように、機竜が可憐な動作で両手を胸の前に合わせた。

 

 ーーー直後。

 

 B.O.A(双頭蛇竜)の背後から6本の光の帯が現れた。

 深紅のB.O.Aを中心に、花弁がそれを覆うような美しい曲線を伴って目標へと狙いを定める蒼白い死の光。

 

 彼がそれを視認し、無意識レベルでの回避を試みるよりも早く、ソレが空間の闇に途切れるようにして消え去る。

 

 『ーーーガッ!?』

 

 そのレーザー…。

 【パンツァーバハムート】を語る上で、切り離す事などあり得ない竜の権能と裁きの光。

 時空を超越する【絶対必中】の光槍が、虚空(距離)と言う世界の規約(ルール)を軽々と飛び越え、瞬く間もなく(瞬間転移して)ケルベロスに突き刺さった。

 

 【リリーーーーーーーィ!!】

 

 遅れて響く竜鳴。

 その音源は竜の尾。

 

 双頭蛇竜であるB.O.Aの外装は、頭部と尾頭での双頭仕様。

 竜翼に隠された竜尾が、牙を鳴らして勝利を歌う。

 

 『ーーーズーーーzaazazaーーーぜ?』

 

 『あら…? お腹に大穴が空いておりますでしょうに、元気な殿方ですわね?』

 

 光槍は6本。

 

 両手両足、そして頭部とコアパーツ。

 達磨(ダルマ)よりも悲惨な有り様で四肢と頭部を飛び散らせた、半生体兵器。

 その中でもっとも頑強にあつらえられた胸部外装の中央要所ーーーコアキューブーーーの外壁には、大人が潜り抜けられるサイズの穴が穿たれ、奥からは火花と共に赤色のオイルがドロドロと流れた。

 

 『な……ぜ?』

 

 『何故? なぜと私に問うておられるのですか?』

 

 嬉しそうに、応じる女。

 

 『【ブギードロップ】をご存知ですかしら?』

 

 小さな歩幅で、しゃなりしゃなりと行く竜姫。

 

 『2才の頃に出会った書物でして、私は作者様の感性にとてもとても感銘を受けましたの』

 

 まだ、敵は生きている。

 それが嬉しい、それが楽しい。

 

 『人間は醜い、どうしたって必ずいつか、私には耐え難き醜さを発露する』

 

 生きているのなら、愛しい天使の目の前で。

 

 ーーートン。

 

 とても機械の巨人が放つ音とは思えない。

 浮くように地を蹴り、空を泳ぐように飛翔してーーー消える。

 

 『だから、その前に殺して差し上げるのです。そうすれば、そう…素敵な貴方は私の中で永遠に美しく輝き続ける…!!』

 

 レーザーと同じ。

 時間も空間も、あらゆる法則を無視して現れ『結果』だけを押し付ける。

 虚空から出現したB.O.Aの、炎を纏うような竜の脚爪がケルベロスの胸部装甲を上から鷲掴みにし、コアキューブの外壁に穿たれた亀裂を容赦なく押し広げた。

 

 反射的に悶える胴体、その足掻きの一切を純粋な剛力で押し潰し、B.O.Aが自身のハッチを開いた。

 

 「レンさま…♡」

 

 コアドールは魂核にあわせて擬態済み。

 B.O.Aから現れた可憐で華奢な文学少女を思わせる彼女ーーーフォルニ・ヤララーーーが地上高14~5mもあるハッチから飛び降り、当然のようにコアキューブの外壁に着地した。

 

 「貴女のご主人様ですよ? さぁ、ねぇ、おい♡」

 

 自販機に八つ当たりするヤンキーのような気軽さで繰り出された蹴りの一撃。

 ただそれだけの悪意が外壁を凹ませ、壊滅的な破壊となる。

 金属が擦れて嘶き、悲鳴のように空を切り裂く。

 

【暴力】

 

 彼女の好きな言葉が、世界を喰らう。

 

 「引き摺り出されたいのかしら? こら♡ 早くしないと、私♡♡ 怒りますよ♡♡♡」

 

 厚手のセーターが局部を隠し、ギリギリでスカートの機能を成しているのだが、そんな些事に捕らわれるフォルニ・ヤララではない。

 

 発狂したように、発情したように。

 

 瞳を大きく狂わせて、脚を大きく振り上げて。

 

 

 

 ーーー彼女は、高らかに笑った。

 





 【魔甲王グランビート】

 主役ロボ。
 一角の甲虫王・グランビートが正式な名称。

 召喚された直後はサナギのように黄色い甲虫形態。
 主人公、甲地ホムラが乗り込む事で茶褐色に変色・変形し人形形態の巨大ロボになる。

 額の象徴石はビーズ。
 幼虫時代に、甲地ホムラから命を救われた際に譲り受けた絆の象徴であり、グランビートの魂核。

 基本色は茶褐色なのだが、必殺技を使用する際やホムラの感情が燃え上がる際には彼の意思を反映してか赤く燃え上がる緋色になる。
 (これは物販を意識してアニメ版から加えられたオリジナル要素なのだが、原作者にも好意的に受け入れられ漫画版に逆輸入されている)

 必殺技はエルディゲイザー(ERDE GAZER):グランビートが操る「地甲神の剣」。「ジーク・ガイ・プリーズ」の呪文で呼び出す。刀身に揺らめく炎のようなものは大地の魔甲力そのもの。
 
 掛け声は「一刀穿甲、エルディゲイザー」。
 エルディはドイツ語で地球の意味。






 『信じる心があれば魔法は使える』

 本気で、そう信じた少年がいた。

 周囲に誰も居ない事を何度も何度も確認して。
 そして彼は叫んだ。

 「ジーク・ガイ・フリーズ…ジーク・ガイ・フリーズ…出でよ、スーパーエルディカイザーァァァァァァァァ!!」

 心は本気。
 召喚動作も完璧。
 愛は無限に溢れていた。

 だか…。
 結果は、虚無。
 そして彼は理解した。

 「なるほど…つまり、この世界には魔法に反応する元素…言うなれば『魔素』が無いから、だからスーパーエルディカイザーが召喚されなかったと…そういうことか…くっ!」

 その日から彼は魔法をあきらめた。
 だが、過去は永遠に心の秘密の宝箱の中にある。
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