ゲーセンファンタジー・俺がプロゲーマーになる迄の記録 作:マキシマムとと
それこそが 【タイキング・キング】として生を受けたその存在にとっての至上命題であった。
己の創造主たる神の権能を用い、眷属たる【タイキング・シリーズ】を神域より呼び寄せ新たなる大陸を侵略した。
タイキング・シリーズは質量と耐久力の怪物。
『跳ね回る』攻撃により木々を砕き、それに紛れる敵性生体兵器の攻撃を遮る。
多重次元召喚により敵の逃げ場を無くし、あらゆる困難を粉砕する、正に盾にして矛。
例え倒されても抜かりはない。
タイキング・シリーズはいわば神を形作る細胞。即ち存在の最小単位。故に敵に奪われるカルマは塵芥にも等しい少なさ。
その見返りの少なさ、それが敵性存在が扱う生体兵器からの攻撃意思を減少させることは既に神の存在その物が証明している。
敵性存在の『だいす』侵略拠点はあと5つ。
それを下せば彼は新たなるステージへ至る事が可能となる。そうなれば宿願の実現、神へと至るキセキが約束される……その、最終段階を目前としたある時空。
◇
「ーーー全滅だと?」
彼、タイキング・キングのもとに凶報が届く。
今宵こそは。
そう願い、すがる思いで送り出した精鋭のタイキング・ナイト(┃ウォーターランス《水鉄砲》の魔法を操る事の出来るタイキング・シリーズ中の最高戦力)が、まさか。
勝利を盲信して杯に注いだ酒が、キングの怒りを受けて大きく揺れる。
「カァァァァァァツッ!!」
量産されるタイキングには無い太ましい手足。他のタイキングには無い、彼だけの自由と権能を象徴する大切な手足だ。
魚のボディーからにょきりと生えた、毛深くて筋肉質なオジサンの手と足が、怒りに震えて真っ赤に染まる。
「ヨシム=ラヒルぅぅうううううう!!」
地に叩きつけられた杯が、酒を撒きながら真っ二つに割れた。
「ギョギョ!?」
「ギョッ!」
「ギョンギョ!!」
タイキングアイランドを取り囲む静謐な湖。
その表面を波立たせ、怒りの波動に驚いたタイキングシリーズの魚群が跳ねる。
彼らには知性など無い。
昆虫と同等。
本能的なプログラムに則して動く使い捨て。
ーーーしかし、彼らにも心はあり、小さく弱くとも魂はあるのだ。
だからこそ震える。
主であるタイキング・キングの怒りに、そして天敵であるヨシム=ラヒルのオルボーンに。
事の始まりは基準時空での2ヶ月前。
キングはこの時空間の【陥落】に王手をかけていた。
基準統一時間での夜。
1日の終わりと始まりが重なり合う、その時間。
その瞬間の訪れにより、時空間長期観測がこの時空間の【陥落】を確定し、神への道が開かれる。
今日と同じく、いや。今日より遥かに無邪気に杯を空け、未来へと酔いしれていたあの日。
ヨシム=ラヒルと呼ばれるコアパーツによる現地【陥落】の妨害と言う悪夢が始まった。
kx地点大部分は既にキングの支配下にある。
敵が得意とする時間軸調整など許しはしない。
キングが好む数の暴力は個の奮闘など一顧だにもせず磨り潰す。あのSSや滅・トールを下した悪魔とは言えど所詮敵は生体兵器。
魂由来のエネルギーが枯渇すれば機能を停止し、敵拠点へと返送される。
「1でダメなら2、2でダメなら3の矢をつがえ永遠と攻撃し続ける、それこそが王に許された必勝でござりますれば…」
この地の【陥落】を成し遂げるべく遣わされた老蛇ビルダーの横内ジェームスが歯抜けの口をニヤリと歪め、キングもその言葉に目を細めた。
ーーーだが、しかし。
「喰っている、だと…?」
「まさか、そんな…馬鹿な事が」
敵のオルボーンは退かなかった。
痛烈な斬打により轢き殺したタイキングを、その核を捕食して活動時間を強引に引き伸ばし、kx地点へ居座り続けた。
魂糸で右腕に連結された中核外装が、野獣そのままに唸りを上げて貪り喰らう。
「キモチワル…や、いえいえ! まさかこのような奇っ怪なる悪鬼の所業で活動時間を引き伸ばすだなどと、流石にこの智将・諸葛亮ビルダーこと横内ですら予想せなんだのですが、しかしてアヤツは個人! コアパーツは紛れもなく生物でありまする。コアパーツは疲労する、魂は摩耗する! そう、例えオルボーンの活動限界を誤魔化した所で我らの勝利は小揺るぎも致しませぬ!!」
酒を! 勝利の美酒をお持ちせよ!
早う早う! タイキング・ダンサーを侍らせよ!!
ぱふぱふの用意をーーー。
横内の翁が殊更陽気に声を張る。
その声の影にある不安を、キングは黙して酒とともに飲み干した………が。
◆
「何日だ」
「…は?」
「ヤツが現れてから、何日経ったと問うておるッ!」
「はッ!! こ、これ!」
横内の翁が情報管理を務める若手の蛇ビルダーへ活を飛ばす。
「ハイ! 現在、敵機出現から116時間と36分が経過しておりますッ!」
「ばッ、馬鹿者! もっと端的に!!」
「ハイ! 沢山ですッ!!」
「違うじゃろ!?」
漫才のようなやり取りに、湧き上がるのは怒りのみ。
キングには『笑う』余裕など既に無かった。
「もぉ良い!! 5日だ! 人類とは、コアパーツとは5日も休みなく働き続けられる生物なのか!?」
違うことは知っている。
何しろ敵性勢力の主力兵器だ。
その性能は熟知している。
その上で、叫ばずにはいられなかったのだ。
「お、恐らくは認識改編を用いておるのかと」
「知っておる…」
既に承知の知識。
魂の疲弊を顧みず『休んだ』と言う偽物の記憶を植え付けて強引に働かせる邪法。
「後は切れ端のような隙間時間を繋ぎ合わせて限定的に時間軸調整を行なっているらしき挙動が確認されておりまするが…」
「それも、知っておるわッ!!!」
木っ端のような時間をあわせた所で、1日の中の1時間を捻出するのがやっとの筈だ。
栄養の吸収や老廃物の排泄はコアキューブの機能で解決出来る。だが、魂の疲弊は1時間程度の休息で解消されるものでは無いだろう。
しかし、現実に悪魔は跳ねる。
木々の隙間を縫う様に飛び跳ねて、神から与えられし眷属の群れを葬り続ける。
「クソが、クソがぁぁぁぁぁ!!」
状況が変わったのはその、僅か4時間後。
「………帰った?」
悪魔は去った。
何の予兆もなく、夢か幻のようにあっさりとkx地点の守護を放棄して。
「ぜ、、、!!!」
焦りすぎて声が出ない。
キングは巨大な唇をベロリとこれまた大きな舌で舐め回し、大量の唾液を撒き散らしながら。
「全軍! 突撃ぃぃぃぃ!!」
叫ぶ。
その声にーーー反応は、無かった。
「ーーーはへ?」
「ギョ……ビビ…ギョン」
_(┐ ノ´ཀ`)
「ギガン…ギュギョ……!」
ヽ(*゜ω。)ノ
常日ごろタイキングアイランドの内や外で元気に跳ね回るタイキング・シリーズ。
その全ての個体が泡をふき、痺れたように痙攣していた。
「ギョハボボポポポポポポ…」
中には魚類でありながら溺れる者の姿すら。
「ど、どうなっておる!?」
「これは…! 毒ですじゃ!! て、敵の左腕と連結した蛇頭の特殊外装から注入されていた………遅効性の毒!! まさかタイキング・シリーズが同一神の細胞であると見抜いた上で、この瞬間に発症するように仕込んでいたと言うのくぁ!?」
「『くぁ!?』では無い!! えぇいタイキング・ナースは!?」
「駄目です! タイキング・シリーズ、全個体沈黙!!」
情報管理ビルダーが悲鳴のように叫び。
「全滅だと…!? クソがッ! 蛇ビルダーの衛生兵を寄越せ! あと一息で【陥落】なのだぞッ! フザケるなァァァァァ!!」
・
・
・
・
・
ーーーそして。
「何が、悪かったと言うのだ」
キング。
おぉ我らがタイのタイキング・キング。
目の下はくぼみ、唇は荒れ、自慢のうるおいボディーは浜辺に打ち上げられた2日目の鯛のように干からびている。
精鋭軍団タイキング・ナイツ・クリムゾンの全滅時から早一ヶ月。タイキング・キングは、その軍勢は見る影もなく追い込まれていた。
「愚考するに、あの日がよろしくなかったかと…」
横内の翁が目を伏せ、しょんぼりと縮んた上腕二頭筋を撫でながら言葉を紡ぐ。
彼らにもチャンスはあったのだ。
ヨシム=ラヒル襲来の7日目。
前日にタイキング・シリーズが受けた蛇の神経毒は蛇ビルダー衛生兵の健闘により7割方回復していた。
敵の姿はまだ無い。
ここで全軍への攻撃命令を発令していたのなら、勝利は間違いなくタイキング・キングの頭上に輝いた………が。
「アレは、仕方あるまい」
歯切れ悪くキングがこぼす。
あの日、キングにもたらされた速報。
大切なひと夏の思い出、その瞬間の幸福を否定されるなど、あってはならない…!
「愛しのミス・ロ=カロス姫の産卵じゃぞ!? 神に成ってしまえば二度と立ち会う事が許されない…一生に一度の究極の放精記念日!! ワシは決めておったのだ、もし彼女の産卵までにワシのキングとしての人格が残っておったのならば、何を差し置いてでも駆け付け、彼女の卵を真っ白いワシの精子で暖かく包み込むと………ッ!!」
「………種族違いですがな」
「馬鹿者ォォォ!! 受精の是非など問題ではない! 愛だ! ワシのマグマのような熱愛を、放精する事によってのみ、伝えられる情熱を!! 彼女に届ける事こそが至高なのだッ!!」
はぁ、はぁ…。
荒い息をつくキング。
彼に追従する者はなく。
ずいぶんと寂しくなったタイキングアイランドの玉座へ、戦場の爆音が届いた。
◇
キングが
kx地点へ新規参入した虎柄のオルボーン。
「『地雷座長』アヤツらのコアを活性化させる為だけに造られた使い捨ての人形ですな、魂の無い玩具に我々の
情報管理ビルダーからの報告が翁の平静を崩す。
「な、なに! どうという事はありませぬ!! タイキング・ソルジャーはタイキング・ソルジャーリーダーによって構成される百魚隊! 何故かヨシム=ラヒルにこそ通用せなんだが、100の中からリーダーの1匹を探し当てぬ限り敗走は有り得ませぬ!」
断言した矢先、観測映像を映し出す大画面モニターが爆炎に包まれた後、黒く染まる。
巻き戻し、スロー再生する事で発覚したのは。
「『地雷』広域殲滅型の…」
「確認取れました、タイキング・ソルジャー第tm5.583中隊、壊滅! 同時にtm5.584-5-6中隊の…タイキング・ソルジャー第tm1.394大隊が、全滅…!!」
人形相手の完全敗北。
それはkx地点攻防戦が激変する前触れに過ぎなかったのだ。
【レクイエム】
オルボーン整備区画の一角に用意された専用空間。
本来であれば敗北、もしくは大破したDD兵器の転送先となる場所で、彼らの業務が始まった。
「鎮魂作業は安全第一!! マトモに見えるのぁ外面だけだ! アホクソボケカスのヨシム=ラヒル一党のケツ拭き作業だぞォラァ!! レンとミレンの変態コンビが来るまでは何としてもこの場に押し止めろ!! 防護服は気休め以下! いつも言ってるが何度でも言うぞォ!!」
白い防護服に身を包んだ整備班一同。その背後に転送された『ケルベ』が、3つの口から涎を垂らす。
『DS』の冠を付けられた謎フレームと融合したオルボーンは、既に特級フレームと同等…いや、それ以上の『生物』へと変貌している。
「ケッタイ・サイフォン・服・ボウシ・ゴーグル・耳栓・マスク! 唱和! 指差し確認!!」
以前の、紙ように薄かった魂格防壁すら…無い。
マニュアルも無い。
ルールも無い。
何が正常なのかの判断すらつかない。
前陣営からすれば『偽獣』認定間違い無しのバケモノ相手に、助っ人無しで挑まなければならない。
ーーーケッタイ・サイフォン・服・ボウシ・ゴーグル・耳栓・マスク! バディヨシッ! 異常無し!!
それでも…!
復唱される声には誇りがあったッ!!
我々の整備が、あの地獄の日々の果に作り出されたコボットの戦機が! 単身でドジラを討ち取り、開拓される大地と仲間たちの生きる世界を守護したのだ…!!
この先の業務は間違いなく過去に類を見ない…奈落の底すら突き抜けるような最悪を更新するだろう。
それでも、心折れる者は一人とて居なかった。
精鋭。
正に彼らは今、あの伝説の現場ヌコにすら勝る勇士であった!!
「異常事態には!」
ーーー止める! 呼ぶ! 待つ!!
「そうだ! まずは足止め! 足止めしか出来ねぇ!! それでも緊急信号の危険度順に処理して行く! アタシは絶対にお前らを見捨てない!! あのクソッタレ姉妹が来る事を信じて耐えろ! お前らなら出来るッ!! 行ぃぃぃげぇオラァァァァァァァァァ!!」
薄汚れた作業着を着こなす大柄な体躯の巨乳美女。
ストレートの長い白髪をなびかせる褐色の肌。
英断の原始権限者『tbナツナ=ミナツ』の号令が一発!
ーーーWooooooooooo!!!
猛る戦士となった整備班一同は腹の底から声を出し、一丸となって魔獣の王へ挑んだ。